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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
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751食目 覚醒するは陰と陽 ~二人のプルル~

 プルルは深い思考の底へと沈んでいた。熊童子が表に出ている以上、自分にできることはないのだ。


 GD・U・デュランダと超魔導騎兵オーガの最後の激突の際、意識は暗転。闇の中に彼女は漂う事になる。

 何も見えない、何も感じない、そんな恐怖の中、彼女は確かに輝ける獅子に手を引かれ、先の見えない道を進んでいた。


『なぁ、プルル。迷ったら真っ直ぐ進めばいいんだ』

『どうしてだい?』

『そうすりゃ、声を掛けてくれる者がいる』

『いるのかねぇ?』

『いるさ、ほら……』


 輝ける獅子に手を引かれた先には、愛する祖父の姿。プルルは思わず駆け出す。役目を終えた輝ける獅子は光の粒子となって消え去った。


『お祖父ちゃん!』

『プルル、よくお聞き。この先、何が起ろうとも、生き延びなさい』


 祖父の笑顔と共に、闇の世界は光に満ち溢れる。桃色の輝きだ。


「お祖父ちゃんっ!?」


 プルルは目を覚ます。そこには、金童子の枝に囚われた戦闘機と、彼女の祖父ドゥカン・デュランダの姿。


「孫たちは返してもらうっ! 金童子っ!」


 閃光、爆発、桃力の輝きによって金童子は崩壊してゆく。プルルも枝からの戒めから解き放たれ、金童子と距離を置くことになった。


「お祖父ちゃん、お祖父ちゃん! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 最愛の祖父の最期に彼女は絶叫した。その声に意識を失っていた熊童子が目を覚ます。


『っ! 僕としたことが……!』


 そして、ドゥカン・デュランダの壮絶な最期を目の当たりにして絶句した。


『祖父さんが……死んだ? そんな……』


 熊童子にとってもドゥカンは祖父と言えた。何故ならば、熊童子はプルルと心を共有しているからだ。


 人間の内に潜み、長い年月を過ごしてきた熊童子は、既に純粋な鬼とはいえなくなっていた。

 多くの喜び、怒り、哀しみ、楽しさ、を学んだ彼女は、いつしか鬼の矜持を捨て去りたいとすら思った。


 そして、覚醒したあの日から、熊童子はもう一人のプルルとして、こっそりと行動していた時期がある。その際に、ドゥカンと接触し正体を見破られていた。


「祖父さん、正体を知ったからには、どうするつもりだい?」

「何もせん。おまえさんも、わしの孫じゃからのう」

「えっ……?」

「何か、おかしい事を言ったかの?」

「あ……う、うぅ……」


 十分過ぎる答えに、熊童子は涙を流す。幾度も欲しいと願っていたものが手に入った瞬間であり、孤独の日々が報われた瞬間でもあったからだ。


 それ以降はプルルの内に潜み、彼女と同じ時を過ごしていった。辛いとは感じなかった。もう、彼女は一人ではなかったからだ。

 そして、もう一人の自分に覚られぬまま、終わりの時まで魂の底に沈んでいよう、と考えていた。


 しかし、状況がそれを許さなかった。金童子の鬼力の特性は尋常ならざるものだ、自分の鬼力の特性こそが、唯一無二の突破口。

 自分を認めてくれた者を守るため、熊童子は表に出ることを決めたのである。しかし、その彼は自分たちを護るために果てた。


『もう……戦う理由なんて……』


 その言葉がプルルの怒りに火を付ける。戦う理由が無い事など、決してありはしないのだ。

 プルルは魂の中の熊童子に、落雷のような声を落す。その声は彼女を貫いた。


『戦う理由!? あるじゃないか! 僕たちの目の前に!』

『目の前……』


 そこには、肉体が半壊した金童子がのたうち回る姿。苦悶に歪む表情は、地獄の極卒も裸足で逃げ出すような形相だ。


「おのれぇっ! たかが人間がっ! この、わしにぃぃぃぃぃぃっ!」


 熊童子の虚ろな瞳に輝きが戻る。久しく忘れていた怒りの感情が燃え盛った。


『あぁ、そうだ。すぐそこに【理由】があるじゃないか』

『行こう、もう一人の僕』

『あぁ、もう一人の僕』


 陰と陽が手を取り合った時、奇跡は起こる。彼女たちが身に纏うGD・ネオ・デュランダが変化し始めたのだ。

 それに慌てふためくのは、GD・ネオ・デュランダのサブコクピットにいる、ホビーゴーレムのイシヅカだ。


『マイ・ウー!? マイ・ウー!』


 サブコクピットのモニターには、様々な情報が送り込まれてくる。その全てに目を通すイシヅカは、有り得ない情報群に困惑した。

 しかし、それを含めて主人である、と判断し最後の最期まで、主人と共に在る事を誓う。そして、彼の者は現れた。


 桃色の鬼【GD・オーガ・デュランダ】。陰と陽とが一つになった最強のゴーレムドレスだ。

 悲しみの果てに現れし復讐の鬼が腰の刀を引き抜く。それは、赤黒い刀身をした哀の剣。


 復讐の刃をを振りかざし、彼女たちは金童子に突撃を開始する。


「「金童子ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」」

「ぐぅおぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 貴様はっ!?」


 プルルの哀の剣が、桃色と赤黒い色とが混じり合った奇妙な輝きを放ち始めた。それは陰と陽とが混在している証。その輝きに金童子は危機感を覚える。


「ゆ、歪みの影響……!? いや、しかし、古今東西、桃力と鬼力が共存するなど!」


 金童子の脳裏に白エルフの後姿が映る。しかし、彼の者は成るべくして成った者、目の前のいち桃使いがそこにまで至るはずが、と考えたところで、今はそれどころではないと悟る。

 残る枝をGD・オーガ・デュランダへと放った。崩壊する身体の再生が追いつかないままの戦闘は、金童子も望むところではない。早急に決着を付ける必要があった。


 プルルは哀しみを込めて剣を振り上げ、熊童子は怒りを込めて剣を振り下ろす。その勢いは陰と陽を回転させるには十分であった。

 螺旋の輝きは迫り来る枝を巻き込み崩壊させてゆく。その光景に金童子は絶望を覚えた。


「「小細工など通用しないっ! 金童子、おまえも輪廻へ還る時が来たんだ!」」


 プルルと熊童子の声が重なる。それは、想いが重なっている証。今、彼女たちはドゥカンの犠牲の下に一つになったのだ。


「み、認めぬ……この鬼の四天王・金童子が恐怖を覚えるなどとっ!」


 金童子は恐怖を上回る怒りを奮い立たせ、なりふり構わぬ攻撃を仕掛けてきた。肉体の再生に回していた鬼力を攻撃へと転化させたのだ。

 しかし、その攻撃が当たらない。枝を増やし攻撃するもことごとく回避、切り払われる。


「桃力特性【集】! 僕は散ってしまう集中力を掻き集める!」

「鬼力特性【貫】! 僕は集中力を貫かせる!」


 一人の肉体に二人の魂、それも桃使いと鬼の四天王だ。それは、既成概念を覆す能力を彼女に与えていた。互いを認めない、かつての彼女たちでは成し得なかった奇跡だ。

 その集中力と動きは、遂に残像までもを生み出し金童子を惑わした。


「残像だというのかっ! 化け物めっ!」


 ここに至り、金童子は己が抱く恐怖を認めた。しかし、それは諦めたということにはならない。幾多の残像を生じさせて迫る復讐の鬼に、起死回生の一手を潜ませる。


「(攻撃の際に必ず動きは止まる。人間よ、先ほどわしに見せた覚悟……わしも使わせてもらう!)」


 金童子は相討ち覚悟のカウンター攻撃を仕掛ける腹積もりであったのだ。勿論、これは勝算があっての事。

 彼の持ち味は、その再生能力だ。鬼の核さえ無事ならば、肉体が崩壊しようとも時間は掛かるが再生可能なのである。


「(この戦での復帰は無理なのが無念じゃて……ひっひっひ!)」


 迫るGD・オーガ・デュランダ、決着の時は迫った。最初に仕掛けたのはプルル。


「桃力【集】! 遠隔操作砲台を集める!」


 プルルは打ち捨てられていたGD・U・デュランダの遠隔操作を自分の下へ集め砲撃を開始、数発で遠隔操作砲台は大破するも、それで十分だった。


「鬼力【貫】! 全てを貫く!」


 放たれた砲撃は、ありとあらゆるものを貫いた。この力の前では金童子の鬼力の特性も無効化されてしまう。

 だが、そんな事は金童子本人がよく理解している。鬼の核を体内で自由自在に動かし直撃を回避した。


「ぬうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」


 攻めるプルル、熊童子。耐える金童子。そして、その瞬間がやってきた。


「「桃戦技……奥義! 桃光鬼滅斬!」」


 プルルと熊童子の哀の剣がひと際輝きを増し、眼前の金童子に振り下ろされる。その姿に金童子はほくそ笑んだ。


「それを……待っていたんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 巨大な体に食い込む哀の剣。しかし、それと同時に金童子の枝がプルルを捕らえた。


「今更っ! 桃力の輝きは、おまえの身体を浄化するっ!」

「鬼力は、お前の心を挫く! 金童子、お前の負けだっ!」

「ひっひっひ! この勝負はわしの勝ちじゃよ! 熊よ、忘れたか!? わしの能力を!」

「何……し、しまった!」


 熊童子は己の迂闊さを呪った。金童子が目の前でチラつかせるのは、彼の鬼の核。


「肉体が朽ちても、核さえ無事なら、わしは滅びんよ。さぁ、肉体が朽ちる前に、おまえらを絞め殺してくれる!」


 苦悶の声を上げるプルルと熊童子。枝に囚われ彼女たちは脱出不可能。GD・オーガ・デュランダの強硬な装甲もひしゃげ、悲鳴を上げる。


「ひっひっひ! 嘆け、苦しめ! その負の感情が、わしに力を与えてくれる!」


 金童子は勝利を確信した。しかし、その余裕こそが戦いに置いて致命的となる。ドゥカンを死に追いやった金童子を憎む者はプルル、熊童子にもいたのだ。


「マイ・ウー!」


 GD・オーガ・デュランダの背部ランドセルのハッチが開け放たれ、そこから小さな戦士が姿を現した。その手には桃色に輝く槍。ホビーゴーレムのイシヅカだ。


「なんじゃ、おまえは……!」

「マイ……ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥっ!」


 それは致命的な油断。イシヅカから放たれた小さな槍は、金童子の鬼の核へ突き刺さる。


「ぎ、ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 宇宙に響く金童子の絶叫。イシヅカ、起死回生の一撃であった。


「イ、イシヅカっ!?」

「やってくれるじゃないか。大手柄だよ」

「マイ・ウー」


 イシヅカは親指を立てて、再びサブコクピットへと姿を消す。GD・オーガ・デュランダは戒めを解かれ自由になった。しかし、ダメージは深刻だ。


「たぶん、あと一撃が限界だ」

「はっ、一撃ありゃあ、十分だろう?」

「んふふ、そうだね。いこう、相棒」

「あぁ、終わらせよう、相棒」


 久々に見せる笑顔は獰猛で、まるで獲物を仕留めようとする猟犬のようでもあった。

 彼女たちは、片方しか作動しないスラスターで突撃を開始。のたうち回る金童子に止めを刺すべく迫った。


「こ、この……金童子がっ! このようなところでっ!」

「「金童子ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」」

「ひぃっ!?」


 もう技もへったくれもない、プルルと熊童子は己の全ての力を哀の剣へ込めた。その瞬間、プルルの髪飾りとなっていた神桃の枝が覚醒する。


 枝はプルルの頭から独りでに外れ、機能を果たさなくなった背部ランドセルへと付着。メリメリと音を立てて、瞬く間に樹の翼へと変貌を果たしたではないか。


「これならっ!」


 そんな彼女に向かって、金童子は無数の枝を放つ。放った途端に崩壊する枝もあったが、それでも尚、膨大な数がプルルたちに襲い掛かった。


「見える……見えるよ」

「あぁ、無駄な足掻きだ」


 しかし、プルルはしなやかで優雅とも言える動きでこれらを回避。掠りすらさせなかった。

 最後の足掻きとして放った枝をことごとく回避され、いよいよ金童子の表情に絶望が宿る。


「「輪廻へ還れ! 金童子っ!」」

「がっ……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 プルルと熊童子は哀の剣を金童子の核に突き立てた。絶叫と共に金童子の肉体が完全崩壊を始める。敗北を悟った金童子の表情からは険しさが消えていった。そんな彼を見下ろす勝者プルルと熊童子。


 最後に金童子は彼女たちに告げる。それは、彼自身が何度も口にしたかった言葉。


「天晴……見事じゃ……!」


 その言葉を残し、鬼の四天王・金童子は輪廻へと還っていったのだった。

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