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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第二章 身魂融合 命を受け継ぐ者
75/800

75食目 赤い誓い

 ハッスルボビーに隣接する巨大な建物。俺とライオット、そしてホビーゴーレムたちは、無駄に大興奮するプルルによって、そこに連れてこられた。

 耳を疑うことであるが、なんと、そこは丸々ホビーゴーレムのための施設であるらしい。


 いったい、どこから資金を調達したのやら。玩具に懸ける情熱がスパーキングし過ぎである。


「んふふ、凄いだろう? グランドゴーレムマスターズは、この建物の中で開催されるんだ」

「ふきゅん、何がなんだかよく分からんが、とにかく凄い、という事は理解したんだぜ」

「食う場所はあるのかっ!?」

「にゃ~ん!」


 安心と信頼の食い気を優先するライオットは華麗にスルーし、プルルの誘導で建物内に入る。当然のごとく自動ドアなのは、この建物にあの男が関わっているからだろう。

 チート転生者の邪悪な背をビジョンに捉えた俺は、怒りのフニフニダンスを披露。激しく体力を失い疲労した。


「何をやっているんだい?」

「愛と怒りと悲しみのダンスを踊ったんだぜ」

「あっ! ホットドッグが売ってるぞ! 奢ってくれ!」


 俺が疲労困憊だというのに、何をほざいていやがるんですかねぇ。このおバカにゃんこは。


 だが、その時、気配。圧倒的な視線。我らは、その視線を知っている。


「……美味しいホットドッグはいかが?」

「何故、そこにいるんですかねぇ?」

「……バイト」


 ホビーゴーレム専用の建物、その入り口付近には沢山の売店が並んでいた。その一店舗に黒エルフの親友ヒュリティアの姿を認める。

 そこは、恐ろしいことにホットドッグ専門店であった。売り物が割と危ない。


「ちゃんと、仕事ができているのかな? ホットドッグに歯型が付いてないかぁ?」

「……舐めただけならセーフ」

「アウトだバカ野郎」


 ここの店主は何故、ホットドッグジャンキーに店を任せているのやら。早く帰ってこないと店が死ぬぞ。


 取り敢えずはホットドッグを三つほど購入。二つはライオットとプルルに渡し、残る一つは半分にして、内ひとつをヒュリティアに進呈する。


「……愛してる、エル」

「愛が重いんだぜ」


 たちまちの内に上機嫌へと至ったヒュリティアと別れ、俺たちはプルルの誘導の下、奥へと進んでゆく。近代的な設備、その通路を抜けた先には広い空間が広がっていた。

 とにかく広い。例えるのであれば、そこは闘技場。コロシアムと言えばいいだろうか。


「ふきゅん、これはまた、えらく広いな」

「普通に武術大会が開ける広さだな」

「んふふ、広いだろう? グランドゴーレムマスターズは此処でおこなわれるのさ。観客席もすり鉢状になっていて三万人を収容可能なんだ。試合も中央の巨大スクリーンに映し出されるから迫力満点だよ」


 マシンガンのように話し始めたプルルに、そこはかとなく危機感を覚える。これ、絶対に長くなるやつだ。

 じゃけん、インターセプトしましょうね~。


「ところで、随分とリングが広いな」

「ん? あぁ、そこはチーム戦のリングだからね。シングル戦はハッスルボビーに設置されている大きさのリングになるよ」


 リングの大きさは、およそ三十メートル。その周囲には用途不明な魔導機が無数に設置されている。そして、リングを挟んで向かい合う形で三つの席、計六つの特別な席が設置されていた。おそらくは対戦するゴーレムマスター用の席であろう。


「ふきゅん、あそこでムセルたちが戦うんだな」

「本選に進めれば、凄い数の観客に見守られながら戦うことになるよ」


 プルルはリングに手を置いて、何やら思い出しているかのようであった。そして、彼女は唐突にホビーゴーレムの歴史を語り始めた。


「ホビーゴーレムの歴史が、どれほどあるか知っているかい?」

「ふきゅん? いや、わからん。ライは?」

「俺? 知っていると思っているのか?」

「ですよね~」


 こほん、と咳払いしたプルルは次の瞬間、マシンガンのごとく語り始めた。あまりに長く激しかったため、俺たちは無残にもハチの巣にされてしまう。

 クッソ長かったため、聞き終わった後に情報を整頓。要約するとこうなった。


 まず、ホビーゴーレムを作り出した者は【キョウダイ・シローウ】という戦闘用ゴーレムを専門に作り出していた人物。彼はやがてゴーレムを玩具にすることを思い付く。

 世の中が平和になれば兵器としてのゴーレムは必要なくなり衰退する、それならば、という考えから思い付いたらしい。

 しかし、これが大ヒット。たちまちの内に世界的なブームとなった。これが、今から二百五十年前の出来事。そして、今日にまで至る。この内容に、プルルは三十分も使用してくださりました。


 おう、貴重な時間が消滅したぞ。どうしてくれるの、これ。


「んふふ、それじゃホビーゴーレムの歴史は一旦、終了だよ。次はしっかり、ねっとり、と教えてあげるからね」

「「マジで震えてきやがった」」


 俺とライオットはどこから取り出したのか伊達メガネを装着し、エロ女教師然としたプルルに戦慄。肝をヒュンとさせる。確実に寿命が減ったが、俺に寿命は無いのでセーフだった。尚、ライオットはアウトだったもよう。


「さぁて、練習用のリングへ行こうか。こっちだよ」

「お、おう!」

「にゃ~ん」


 頭部から白い煙をもくもくと出して迷惑行為をおこなっていた、にゃんこな親子が再起動する。たぶん、こいつらは二十字以内の情報でないと理解できないのだろう。


 練習用のリングはこことは別の場所となるらしい。プルルの案内で辿り着いた場所は先ほどとは変わり普通の室内。それでも十分に広いと感じた。


 そこには十メートル程度の四角いリングが計六つほど設置されている。その上を縦横無尽に駆け巡るホビーゴーレムたちの姿も見受けられた。


「ここが練習場、兼予選会場になるよ。本選とは違ってリングは小さめだけど、ここで予選を勝ち抜かないと本線には出られない。ここでリングに慣れておこうじゃないか」

「ふきゅん、ここで予選か」


 俺はリングの感触を直に触れて確かめようとした。だが、リングは意外に高く、背の低い俺では手が届かない。なので、怒りと悲しみの蹴りをリングにかます。

 だが、彼の者は大いなる頑強さにより、逆に俺のあんよに大ダメージを負わせてきた。


「ヒールが無ければ即死だったんだぜ」

「何をやっているんだい」


 プルルに呆れられるも、俺は元気です。ふぁっきゅん。


「へへ、予選なんて俺たちなら余裕で突破だぜ! な、シシオウ!」

「にゃ~ん」


 どこから、その自信が湧き出てくるのであろうか。俺は心配しか湧き出てこない。主にこのおバカにゃんこーズのせいで。

 だが、ライオットの言葉にも一理ある。予選程度、軽く突破できないようではシアに及ばないであろう。やはり、四の五の言わずに勝ちまくるしかないのだ。


「大会期間前なら、誰でも使えるのがありがたいねぇ……っと、あそこが空いているから練習に使わせてもらおうか」


 今し方、練習を終えて帰り支度をしているチャイルドどもを押しのけて強引に場所を確保する。我が覇道を妨げることなど、何者にもできぬぅ。


「わっ、なんだ? このちっちゃいの」

「あはは、ぷにぷにしてるぞ」

「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!」


 しかし、ここでまさかの反撃っ! チャイルドどもの予想外の反撃によって、俺のぷにぷにほっぺは蹂躙っ! もみくちゃにされるっ!

 当時の俺は幼く、抵抗も無意味っ! 圧倒的無力に、むせるっ……!


「ふきゅん、割と酷い目にあったんだぜ」

「どう見ても、可愛がられただけじゃないか」


 チャイルドどもは、満足するまで俺をぷにった後に笑顔で去って行った。この貸しは高くつくぞぉ。予選で当たったら、ぼっこぼこにしてくれる。ムセルが。


 そんなわけで練習開始。練習用のリングも意外に広く感じる。本選はこの三倍になる広さのリングというのだから大変だ。

 接敵するタイミングや、時間も計算に入れなくてはならなくなるだろう。


「さて、各ホビーゴーレムの役割分担だけど……アタッカーは、ムセルに決まりだね。適任が他にいない、というのが最たる理由。イシヅカは遅いし、ツツオウは非力だからねぇ」

「ふきゅん、望むところだぁ。俺とムセルは逃げ隠れしないんだぜ」


 だが、懸念はある。ムセルがやられた場合、総崩れになる可能性が出てくるではないか。


「懸念は分かるよ。どのチームもアタッカーは二体構成で来る。でも、うちは敢えてムセルのみにして徹底的にサポートに回る。ツツオウの件もあるしねぇ」


 ちら~り、とプルルはツツオウを見やった。案の定、彼はリングの中央で丸くなっている。


「不確定要素が高過ぎるんだよねぇ、この子。潜在能力は高そうなんだけど」


 プルルは、ツツオウを指でつんつんする。暢気なにゃんこは、どっぷりと夢の中に浸っているのか微動だにもしない。まさに王者の貫禄。だが、無意味だ。


「ふきゅん、理解はした。でも、それだとイシヅカとツツオウが使い捨ての駒みたいでいやだなぁ、とも感じるんだぜ」

「んふふ、そうとも言えるねぇ。でも、これはチーム戦。一人の勝利はチームの勝利。だから、誰も捨て駒なんかじゃないさ。自分のやるべきことをやる。それだけなんだよ」


 プルルは我が子たちを見つめた。それに頷くことで肯定とするホビーゴーレムたち。尚、ツツオウは鼻提灯で応えた。いい加減に起きなさい。


「でも、シシオウも暴れさせてくれよな。やっぱり、獅子は戦ってなんぼなんだからよ!」


 そして、もう一人の問題児ライオット。こいつにできることは突撃のみ。ここは、臨機応変に対応するしかない。

 とはいえ、俺もどちらかと言えば脳筋思考の持ち主。俺は「ふきゅん」と鳴きながらプルルを見やった。彼女は苦笑しつつ頷く。


「うん、分かったよ。状況を見て作戦を変えてゆこう。指示は僕が出す」

「ふっきゅん! 流石、プルル様は賢いお方」

「お? プルルが参謀か? いいんじゃね? うち唯一の経験者だし」


 それぞれの役割が決まったところで練習が開始された。その内に模擬戦を申し込んできたチャイルドどもと模擬戦を行う。中々の手練れであったが、これに勝利。多くの課題を発見するに至る。そして、本日の俺たちの練習は終わりを告げた。






 練習場の端の方にはホビーゴーレムを修理調整するスペースが設けられている。そこで、俺たちはムセルたちの調整をおこなっていた。


「ムセルは射撃タイプだね」

「何か問題があるか?」

「いや、ないよ。食いしん坊の操縦も上手く噛みあっている。でも、接近戦も練習した方がいいよ」

「シア……か」

「うん、エースは接近戦を重視するんだ。射撃武器はどうしても距離が開くと威力が落ちるからね。チーム戦の基本は、最短でエースを撃破する、だよ」


 接近戦。俺とムセルならそれも可能だろう。あの時の感覚はいまだ鮮烈に残っている。

 だが、同時にそれは恐怖をも蘇らせる。ムセルを傷付けてしまった苦い思い出と共に、それは蘇るのだ。


「ムセルの赤い肩は、どういった理由なんだい?」


 それを見透かしたようにプルルが問うてきた。だから、俺は答えた。


「これは、誓いさ」


 そうだ、これは誓い。シアとエスザクに向けたメッセージ。そして、俺の萎えた心を真っ直ぐに立たせる着付け薬。


「ゴーレムマスターズは遊びだ。それは決して覆らない。だからこそ、俺は本気になれる」

「んふふ、そうだねぇ。遊びだからこそ、本気でやると面白いし悔しいんだ」


 俺はガチャガチャとオプションパーツをムセルに組み込んでゆく。だが、盛り過ぎてとんでもない姿になってしまった。銃器のハリネズミに未来はない。


「……ふきゅん、これは、ないな」

「だねぇ。動けないところを狙い撃ちにされてお終いだよ」


 プルルの発言に、猫耳をピコンと立てて反応するライオット少年。


「おう! 戦いは、とにかく動かねぇとな!」

「にゃ~ん!」


 それを君たちが言うか? ツツオウはリング中央で爆睡してたじゃねぇか、おるるぁん。


「とにかく、俺とムセルは勝たなきゃならない。そして、シアとエスザクと再戦する」


 証明したい、俺たちはこんな物ではないと。彼女たちに知らしめたい。俺たちの本気を。


「なら、勝たなきゃね。きっとシアも、エスザクも待っているよ」

「あぁ」


 これは、赤い誓い。絶対に再び相まみえるという誓い。それまでは、この赤い肩を外したりなどしない。


「待ってろよ、シア、エスザク」


 俺とムセルの闘志はむくむくと大きくなってゆく。それは、まるで入道雲のようであった。

2019年12月31日 修正。

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