746食目 GT・MT
アカネ死亡の知らせは、エルティナたちを動揺させるには十分過ぎた。ここで、エルティナは選択を迫られる。アカネの死をメンバーたちに伝えるか否かを。
伝えれば明らかな動揺を誘発させることになろう、しかし、伝えなかった場合、いるはずと思って彼女を頼った者が命の危険に晒されることになりかねない。
「みんな、アカネとブルトンが戦死した」
結局、悩んだ末に、エルティナは事実をモモガーディアンズに伝える。声が震えているのは仕方がないことであろう。
『アカネがっ!? おい、冗談だろうっ!?』
『ブルトンが死ぬような玉かよぉっ! 冗談でも怒るぞ、エルぅ!』
すぐさま、ケイオックとガンズロックからの返答が返ってきた。しかし、努めて冷静に事実であることを告げると彼らは押し黙ってしまう。
「これ以上の戦死者は認められない。みんな、死ぬな」
『無茶を言いやがる……!』
モモガーディアンズたちの結束力が揺らごうとしていた。彼らは四十名揃ってこその強さだったのだ。それが一度に二名も失う形となり、精神的にも脆くなり始めている。
「(辛い決断だな、エルティナ)」
ダナンもまた、この状況に危機感を抱いている者の一人だ。エルティナの判断は的確で間違いがないものだ。ここは戦場、誰が、いつ死ぬかなど分かりはしない。
「第二陣、そろそろ帰艦の時間だ。補給修理に向かってくれ」
『ふざけるな! 仇がいるのにどうして戻れようかっ!』
咲爛が怒声と共に応答、彼女の怒りのほどはエルティナに痛いほど伝わる。しかし、エルティナは感情を抑え告げる。
「これは命令だぜ」
『断る』
「……頼む、友達が死ぬところを見たくない」
『っ! くちおしやぁ!』
エルティナの震える声に、怒りで我を忘れていることを感じ取った咲爛は、戦場で悲しみの咆哮を上げた。
誰よりもつらいのは、指揮官として、その場にとどまらなくてはならないエルティナなのだ。幾度もの戦場を経験してきた自分が、それを忘れていた事に情けなさが込み上げてくる。
「景虎! 引き上げじゃ!」
「はっ、咲爛様」
彼女たちは補給修理のため、第二陣を援護しつついもいもベースを目指した。そこで見た光景とは魔導騎兵メグランザと交戦中のライオットたちだ。
その中に、アカネの亡骸を抱きかかえるロフトと、呆然自失となった彼を護るスラックの姿があった。
「ロフト、しっかりしろ! 呆けてる場合かよ!」
「俺が……俺が悪いんだ。だから、アカネが……」
「誰も悪くねぇよ! あの時は、お前が行かなきゃ、いもいもベースがやられていた!」
被弾、スラックのGD・ラングスの肩装甲が吹き飛ぶ。ワイバーンのツヴァイも身体中に傷を負っていて限界は近い。
「この……うつけがっ!」
駆け付けた咲爛がロフトの左頬を思いっきり殴りつけた。
「戦場で呆ける阿呆がおるかっ!」
「サク……ラン」
「そんな為体では、アカネがあの世で憂いておるぞ! 立て、男なら立ち上がれ!」
そんな彼女に襲い掛かる魔導騎兵メグランザ。咲爛は被弾しつつも魔導騎兵メグランザを切り捨てた。彼女の十二単が戦場に舞い散る。ダメージは深刻だ。
そんな、身体を張って自分を護る彼らの行為は、ロフトの瞳に僅かながら光を取り戻させた。
「俺は……」
「ロフト! 今は立ち止まるわけにはいかねぇんだ! だからっ!」
スナイパーライフルを構え、魔導騎兵メグランザを狙撃していたスラックに、相手からの破壊光線の一撃が命中する。
咄嗟にスナイパーライフルを盾にして直撃を免れるも、スラックは攻撃手段を失った。やむを得ず、魔導光剣を引き抜いて接近戦を挑む構えとなる。
「ちくしょう、もっと接近戦を練習しておくべきだった」
「無茶をするでない。一度、帰艦して体勢を整えるのじゃ」
魔導騎兵メグランザは迎撃の結果、半数近くまで数を減らしていた。それでも、まだ二百体以上の存在が確認できる。
『ブリッジから通達! GT・MTを出撃させる!』
「なんだって? ダナン、ここでムセルを出すのか!? 早過ぎるだろっ!」
スラックがダナンからの報告に怪訝な表情を見せるも、やむを得ないという感情が大部分を占めた。
エルティナは、戦線を維持することが現状困難だと悟り、温存していた秘密兵器の投入を決意したのだ。それがGT・ムセル・テスタロッサだ。
これはGT・ムセルを大幅に改修したGTシリーズの完成形であり、パイロットはムセルとマフティのホムンクルス、テスタロッサとの二人となる。
メインパイロットにムセル、サブパイロットにテスタロッサだ。
「レディ」
「いこう、むせるちゃん」
カタパルトにGT・MTが姿を現す。今までの丸みを帯びたムセルの姿とは違い、騎士のような姿をしていた。
手にはロングライフル、左肩には超電磁砲とパイルバンカーが備わった複合兵装を装備している。
「ぎがんてっく・むせる・てちゅたろっちゃ、いっきまぁす」
『あんだってぇ!?』
尚、テスタロッサの囁くような声は、スピーカーを通してもエルティナたちに伝わらなかったもよう。
結局、ムセルの『レディ』で全ては事足りた。レディに全てを求め過ぎである。
宇宙空間に青い機体が姿を現した。その姿を確認した魔導騎兵メグランザは、ただならぬ気配を感じ取り、目標を青い機体へと定める。満身創痍の連中などいつでも仕留めれると判断したためだ。
「ぎ、ぎぃぃぃぃぃぃぃぃっ! ぎべっ!」
魔導騎兵メグランザは青い機体に威嚇する。しかし、威嚇と同時に魔導騎兵メグランザの頭部は爆ぜた。完全に彼らのアウトレンジからの攻撃。密集体勢を取り防御を固めながら彼らはGT・MTへと迫る。
しかし、それだと青い機体に追い付くことはできなかった。だが、留まると射程外からの攻撃が飛んでくる。結局は散開して取り囲む手段を取った。
彼らは一見、無秩序に動いているように見えるがそうではない。指揮官なる存在があったのだ。
「ぎぎぃぃぃぃぃ!」
メグランザ・リーダーは配下を指揮してGT・MTを誘導、罠に掛けんとする。その思惑は見事にハマり、GT・MTは包囲される形となった。
しかし、それは同時に、彼らもムセルたちの罠にはまったことを意味する。
「レディ」
「はいぶ・みさいるゆにっと、ぜんだんはっしゃあ」
GT・MTの追加ユニット、背部二百連装ミニミサイルが一斉に解き放たれた。その際の衝撃に耐えることは生身では不可能。
しかし、身体が小さなムセルとテスタロッサは、重力フィールド付きのコクピット内に居るため、度し難い衝撃に耐える事ができた。
残念ながら、この重力フィールドは未完成のため、バスケットボールサイズの範囲のみしか重力によるバリアを発生させる事ができない。
したがって、体の小さい彼らのための装置として採用したわけだ。
「な、なんだ、あの圧倒的な強さは!?」
スラックは驚愕した。二百体近くいた魔導騎兵メグランザは、その殆どを破壊され、残り僅かとなっていたのだ。
同時にエルティナが温存しておきたかった理由も悟る。こんな存在が発覚すれば、女神マイアスからの攻撃は更に苛烈になるだろうからだ。
「ぎぃ……ぎぎっ!」
メグランザ・リーダーは、この正体不明機をデータとして宇宙要塞ASUKAへ送る。そして自身は、機体の性能を調べるためにGT・MTへと突撃をおこなった。残る魔導騎兵メグランザもそれに倣う。
「レディ」
しかし、数が揃わない彼らはムセルにとって脅威足り得ない。人間には不可能な軌道を描き、次々と魔導騎兵メグランザを葬り去ってゆく。
ミニミサイルを撃ち尽くして切り離された背部ユニットの下には、遠隔操作型の砲台が六門装備されており、それはサブパイロットのテスタロッサが操作担当となっていた。
「いっけぇ」
縦横無尽に宇宙を掛ける青い騎士。それに従う六匹の破壊天使によって、いもいもベースに迫る脅威は瞬く間に駆逐された。
しかし、決して手放しで喜んではいられない。何故なら、相手に奥の手を見せてしまったのだから。
女神マイアスはほくそ笑む、どうもありがとう、と。戦いは混沌を極めてゆく一方であった。




