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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
745/800

745食目 宇宙に消える命

「第一陣、各機、帰艦!」

「ダナン、負傷者は!?」

「アカネとスラックが重傷! それ以外は軽傷だ!」

「プルルといばらきーずは!?」

「……今だ交戦中!」


 ダナンとララァの報告に、エルティナは「ふきゅん」と鳴いた。予想どおりではあったが、鬼の四天王との戦いにもなれば、補給のための帰還すら難しいことに彼女は歯噛みする。

 戦力的に厳しい現状、プルルといばらきーずの帰艦タイミングで今後の戦況は大きく変わるのだ。


「チユーズ! アカネとスラックを!」

『もう』『やってる』『しんぱい』『するな』


 次々といもいもベースに情報が入り込む。良いことも悪いことも。悪い事といえば、護衛を務めてくれている宇宙戦艦つくしの損耗率が、いよいよ五十パーセントを上回ったことであろう。

 大多数の兵が艦を放棄し、GDにて戦闘を継続している。


「ここからは迎撃もローテーションだぞぉ。分ってんか?」

「分かってる、管理は任せろ」


 ダナンは逐一、モモガーディアンズたちに状況を知らせていた。応答がある者、無い者もいるが、生存はGDから発せられる信号で判別できた。その信号が一つ途絶える。


「あ!? どうした、返答しろ! シーマ! おい、シーマ!」


 シーマ・ダ・フェイのGDの信号が途絶えたのだ。同時に、ブルトンの信号も途絶える。


「シ、シーマ機ロスト! 同時にブルトン機ロスト!」

「なんだと!? 宇宙でやられたら……!」


 生存は絶望的、その言葉をなんとか飲み込んだエルティナは、戦場に残るメンバーたちから情報を引き出す。


 曰く、シーマは戦闘中に見えなくなった。曰く、彼女は被弾していた。ブルトンに対してはマフティたちから超機動要塞ヴァルハラ方面へと飛んでいった、との証言を得ている。

 そして、エルティナは宇宙要塞ASUKAへと向かう天空神の力を感知。その中にブルトンの力を感じ取る。


「(やられちまったのか……ブルトン!)」


 無念を感じ取るエルティナであったが、これは彼らの問題。己が口を挟めるものではなかった。しかし、悔しいものは悔しい。だから、戦いが終わったら、天空神のケツに唐辛子を突っ込んでやろうと画策する。止めて差し上げろ。


「(ブルトンの事はグリシーヌに告げるべきか……しかし)」


 エルティナは迷った。ブルトンの場合、ゼウスに吸収されたとしても、まだ希望はあるのだ。

 光と影は表裏一体、一つになったのなら、また分ければいいだけの事。


 しかし、シーマは違う。いくら不死身の変態とはいえ、生身で宇宙に放り出されてはひとたまりもないはずだ。


「で、でもよ。シーマならひょっこり帰ってくるんじゃないのか?」

「ふきゅん、ここは宇宙だぞ? そんなことが……」


 そんな彼ら沈痛な面持ちをぶっ壊す勢いで、彼女はそこにいた。なんと、いもいもベースの外部カメラに向かって泳いでいるシーマの姿があったのだ。


「すげぇ……宇宙空間を全裸で泳いでやがる」

「ふきゅん、あいつは本当に人間なのかぁ?」


 恐らくは変態という名の変態であろう。シーマは帰艦途中のリックに拾われて無事にいもいもベースへと戻る事ができた。


「リック、貴様っ! いくらなんでもドリルを尻穴に突き刺すのは無いだろ!?」

「いや、咄嗟なものだったから」

「締まりが無くなったらどうするんだ! ただでさえ、ぶっとい物を入れられて……」


 尻にドリルランスを突き入れられたシーマは流石に激怒、ケツから槍を生やした変態の完成である。尻尾のようにも見えないこともない。


 実のところ、破壊光線が飛び交う中、シーマは全裸で宇宙空間を泳いでいたのだ。そして、帰艦途中のリックが彼女を発見、回収しようとしたが敵魔導騎兵が邪魔をしたため、回避行動を取りながらシーマに接近したところ、見事にケツ穴にシューッ! 超エキサイティングっ! となったため、そのままいもいもベースへと帰還した、というわけである。


『おいぃ! シーマ! 変態かっ!』

「変態ではない! 元上級貴族だ!」

『いや、そうじゃねぇだろ!? エルティナ! シーマ、体に異常は!?』

「尻穴がガバガバになりそうだ。おぉ、そうだ、ダナンはララァの尻を責めたのか?」

『コメントに困るだろうが!』


 恐ろしく平常運転のシーマにブリッジクルーは困惑した。だが【シーマだし】、という魔法の言葉によって混乱は収拾したのであった。これは酷い。


「補給修理、急いでくれ!」

『いいから』『やすんでろ』『しっかり』『しごと』『してやる』


 チユーズを急かすのはロフトだ。彼はこの戦いが始まってから、妙に落ち着きが無くなっていた。だいたい、アカネが被弾して右腕を失った辺りから、それは顕著になっている。


「どうしたさね、ロフト。ロフトらしくないさね」

「俺らしく? 俺はいつもどおり……」

「あぁ、おまえらしくねぇぞ。俺たちは粘り強さが持ち味だろう」


 右腕を再生し終えたアカネと、疲れた表情のスラックに指摘されたロフトは、露骨に困惑の表情を見せた。自身は冷静であると認識していたからだ。

 その僅かなズレは今後、どういう方向に向かっていくのであろうか。だが、この時、彼は素直になればよかったのだ。怖い、と。


「大丈夫だ、大丈夫……俺は冷静だ」

「そうさね? まぁ、ロフトがそう言うなら信じるさね」

「あぁ、頼むぜ、リーダー」


 この時、ロフトはいかにして二人を生き残らせるかのみを考えていた。それが悲劇を生み出すことになるとは思わずに。


「おい! 補給急いでくれっ!」

『くいすぎ』『くいもの』『なくなる』


 ライオットの下には補給と称した大量の食糧がチユーズたちによって運ばれていた。彼は生身で戦闘をこなうため、必要なのは修理ではなく補給だけであった。

 ぶっちゃけるとGDで戦闘をおこなう者たちよりも燃費が悪い。しかし、その戦闘能力は群を抜いているため、モモガーディアンズたちには必要不可欠であった。


『……敵新型魔導騎兵接近! 数、五百!』


 ララァの知らせにより、敵新型魔導騎兵が迎撃をすり抜けて、いもいもベースへと迫っていることを告げる。しかし、第一陣は補給修理中であり、出られる者がいなかった。


「がふがふ……! おれふぁいふっ! んがごっご!?」


 ライオット、痛恨の喉つまらせ。顔を青くして飲み物を求める。


『あれ』『ここにあった』『みず』『どうした』


 慌てふためくチユーズ。実は大量にあった水は胃の一番でライオットが飲み干してしまったのである。仕方なく、彼女らはライオットの体の中に入り込み、のどに詰まっている食べ物を押し出すことにした。しかし、これが、中々出ない。


『誰か出れないのかっ!』


 ダナンの叫び声に焦燥感を募らせる。その時、損傷が軽微だったロフトのGDが仕上がった。


「俺が行くっ!」

「ロフト! 一人じゃ無茶さね!」

「誰かが、やらないといけないだろうがっ!」

「ロ、ロフト……」


 凄い剣幕の彼に、アカネは思わず後退りしてしまう。そんな彼女に後ろめたさを感じつつも、彼はワイバーンのトライに跨り、カタパルトに進む。


「ロフト・ラック、GD・ラングス、トライ、出るぜっ!」


 かくして、トリオでこそ十分に力を発揮できる竜騎士は独り宇宙を羽ばたく。そんな彼に襲い掛かる新型と称される魔導騎兵。

 その正体は聖獣メグランザに魔導騎兵の装甲を無理矢理取り付けた生物兵器である。堅牢な装甲と柔軟な運動性を兼ね備えた化け物だ。


「こいつはっ!?」


 ロフトは魔導ライフルを発射する。しかし、完全に捉えたと思った一撃は易々と回避されてしまう。恐るべきはその運動性だ。それが五百体も迫ってきてる。とてもロフト一人では対抗できるものではなかった。


 トライのがんばりによって、なんとか魔導騎兵メグランザの熾烈な攻撃を回避していたロフトであったが、運悪くトライは破壊光線を翼に被弾、コントロールを失う。


「ち、ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 悪足掻きの一撃で魔導騎兵メグランザを一体仕留めるも、既に体勢は乱れに乱れ、命は風前の灯火。ロフトは覚悟を決めた。


「少しは……時間を稼げたよな?」


 迫る魔導騎兵メグランザ、その手には魔導光剣の輝き。それが、ロフトの心臓に目掛けて突き入れられる。


「ロフトっ!」


 その間に割って入った者がいた。アカネ・グランドロンである。ロフトは何が起こったか理解できなかった。魔導騎兵メグランザは駆け付けたライオットの一撃によって撃破され爆発四散する。

 アカネを追ってワイバーンのアインが飛んできた。どうやら、彼女はGDラングスのスラスターを全開にして、単騎で突撃をおこなったもよう。


「ア、アカネ! 無茶をしやがって!」


 ロフトはぐったりとした彼女の身体を抱きかかえた。脳震盪でも起こしたのであろう。


「アカ……ネ……?」


 返事はない。


 しかし、彼は見てしまった。アカネの胸に、ぽっかりと開いている穴を。そこから漏れ出す赤い球状の液体を。穴が開いている部分は……心臓がある個所だ。


「アカネェェェェェェェェェェェェっ!」


 ロフトは自身の迂闊な判断で、掛け替えのない者を失った。別れの言葉すら、許されぬままに。

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