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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第二章 身魂融合 命を受け継ぐ者
74/800

74食目 赤い肩

 露店街にやってきた俺は、浮いた金を用いて【長くて太くてやらしいフランクフルト】なる料理を購入。

 食べてみたが、なんてことはない、フランクフルトの中に濃厚なとろけるチーズが仕込まれた物であった。


「ふきゅん、普通に美味しいんだぜ」


 価格も抑えられており、小腹が空いた時に丁度いい、との評価を下す。しかし、このネーミングセンスはいかがなものか。明らかにナニかを狙っているとしか思えない。

 そして、店主は妙齢の美人さんである。溜まっているのかな?


 その後は何事もなくヒーラー協会に帰還。得体の知れない珍妙なる集団は解散という流れになった。無事に帰ってこれたのは、きっと桃先生の芽に祈祷したお陰であろう。


 ムセルたちホビーゴーレムチームは、来るべき日のためにトレーニングを重ねるもよう。

 玩具が体を鍛えるなど聞いたこともないが、データの蓄積と考えれば納得がゆく。というか、それは俺が一番やらなければならないのだが。


 野良ビーストたちも、それぞれ思い思いの場所へと散ってゆく。いつもの流れだ。彼らは自由なのである。


「さて、服に着替えるとするか」


 自室に戻り仕事服から普段着へと着替える。


 仕事着では息が詰まる、詰まりやすい! だから俺は普段着に着替えるだろうな。


 チョイスした服は薄緑のワンピースタイプの服だ。これはヤッシュパパンが買ってくれた中では比較的にマシな方であり、余計なフリフリが排除された精神衛生的に喜ばしい一着だ。

 それに、折角買ってくれたのだから着ないとヤッシュパパンが無駄に泣く。娘は辛いよ。


 ササっと身だしなみを整えたところで時間を確認。時刻は午前十時。ハッスルボビー開店のお時間と相成りました。


 じゃけん、ムセルの兵装を整えて差し上げろっ!


 エスザクなるホビーゴーレムに敗北したのは、明らかに兵装に劣っていたからだ。

 ムセルを操作して分かったことだが、彼は決してエスザクに劣らない性能を持っている、と確信している。


 だから、問題となるのは兵装と俺の操縦テクニックとなる。だが、短期間で操縦テクニックはどうにかなる物ではない。

 そこを穴埋めするのが、金に任せて武装を充実させる、という明らかに汚いやり口である。


 ふっきゅんきゅんきゅん……勝てばよかろうなのだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!


「相手は中距離から近距離の戦闘を好むと見た。なら、こちらは遠距離から中距離の戦闘を維持すれば勝機を見いだせるはず」


 それに今度はチーム戦だ。近距離戦はプルルに丸投げしてしまってもいいかもしれない。

 彼女の操縦テクニックは俺たちの中でも群を抜いているし、冷静に対処できる術を持ち得ている。


 ライオットとツツオウは……囮役になってくれれば御の字だろう。それ以上は期待しない、できない。


「ふきゅん、方針は固まった。あとは、どんな装備があるかだな」


 ハッスルボビーに向かうのだが、ムセルがいなくてはお話にならない。裏の空き地へと向かい、彼を回収する。






 裏の空き地は日中、野良ビーストたちの寄り合い場になっているらしく、様々な種の動物たちがまったりとくつろいでいた。その中心に存在しているのが桃先生の若芽である。


 神々し過ぎて俺の存在が消えてなくなりそうだ。


「というか、ブッチョラビもいるのか」

「ぶひっ」

「どこから来たんだ、おめぇ。というか、よく狩られずに町に入ってこれたな」


 妙にふてぶてしい豚兎様であるが、それを納得させる貫禄があるのがまた腹立たしい。


 桃先生の若芽の周りは、いもいも坊やたちが鉄壁の布陣でガードを行い、怪しいものに対して目を光らせている。何かしらの使命感に目覚めたもようだ。


 とはいえ、こんな何もない場所に不審者など来ようはずもない。来るといえば俺と野良ビーストくらいなものである。


「ふきゅん、ここは争いがないな。これも桃先生の人徳がなせる業か……」


 ここには捕食者と非捕食者が一堂に会していた。しかし、一切の凄惨な行為は行われていない。まさに、ここ、こそが聖域と呼べるのではないだろうか。


 したがって、ここを【桃の聖域】と呼ばざるを得ない。はい、決定。


 久々に脳内会議を行おうとしていた無数の俺たちは、席を設ける前に決議が決まってしまい、しょんぼりとした顔を見せた。今は不貞腐れて寝ている。


「お~い、ムセル、イシヅカ、ツツオウ。ハッスルボビーに買い物をしに行くぞ」


 俺の声に反応するムセルとイシヅカ。ツツオウは欠伸をもって返事とした。


 玩具店に行く、といっても遊びに行くわけではない。戦いに勝つための備えをしに行くのだ。遊びなのに遊びではないとはこれいかに。


 遊びの意味がゲシュタルト崩壊し掛けているけど俺は元気です。


「お、いたいた! エル、ハッスルボビーに行こうぜ!」

「おはよう、ライ。一緒に行くのは構わんが、金は用意したのか?」

「おう、見ろ」

「大銅貨五枚で、いったい何を買うつもりだぁ?」

「……買えないのか?」

「ふきゅん」


 これからハッスルボビーに向かおうとしていたタイミングでライオットが合流。彼はウキウキしながら小遣いを提示。

 その圧倒的な資金力の低さに、俺はただただ鳴くことしかできなかった。


 ダメみたいですね。


「やぁ、集まってるね。しかし、ここは凄いことになってるねぇ。なんだい、この動物たちの数は」

「おはよう、プルル。ここは野良ビーストたちの寄り合い場と化してしまったんだぜ」


 少し眠たそうなプルルも俺たちと合流。打合せしたわけでもないのにチームメンバーが揃った。息が合っている証拠と呼べなくもない。


 プルルの姿を認めたイシヅカが、のっしのっしと彼女の下にまで歩み寄る。やはり主が恋しいのであろうか。


「やぁ、イシヅカ。いい子にしていたかい?」


 がイシヅカ、プルルの靴下のガラが不揃いであることに激おこ。プンプンしながら身振り手振りで主をお説教し始めたではないか。


「うう、喋っていないけど、物凄くお説教されてる」

「ふっきゅんふっきゅん、いい加減な生活はできなくなりそうだな」


 圧倒的なおかん力に、ぎゃふんと言わされたプルルは、ほんのりと反省の色を見せる。だが、この反省の色の効果は、おそらく本日中で失効となるとみた。


 ちゃんと反省しろぉ。


「お~い! そろそろ行こうぜ!」

「にゃーん!」


 この圧倒的に和やか雰囲気を破壊する者がいた。軍資金も持ち合わせていないのに装備を整えんとするたわけ者。ライオット少年がツツオウを抱きかかえ、ハッスルしながら俺たちに催促を炸裂させてきたのである。


 まず、おまえは金を用意してこい。話はそれからだ。


「ま、ライが急かすから、そろそろ行くとするか」

「んふふ、そうだねぇ。僕もお説教から脱出だよ」


 プルルもイシヅカからのお説教から逃れられる好機と見て、そそくさとライオットの背後に回る。そんな彼女の姿にイシヅカはやれやれと肩を竦めてみせた。


 生まれて数日のホビーゴーレムよりもだらしない主とはいったい……。


「俺たちも行くとするか、ムセル」


 俺の申し出に従う姿勢を見せるムセル。我が子は素直で良い子のもよう。というか、ムセル以外が普通ではないような気がしてきたのは、気のせいではないだろう。


 ムセルよ、どうか君は、そのままの君で居てほしい。割と本気で。


「それじゃあ、いもいも坊やたち、留守番を頼んだ」


 俺の呼びかけに姿勢を正す芋虫たち。彼らが人の姿を持っていたなら軍服を着込んだ兵士の姿であっただろう。踵を揃え敬礼している光景が脳裏を過る。


 訓練し過ぎたか。あるいは桃先生のカリスマが彼らをそうさせてしまうのか。言えることはただ一つ。芋虫なのにかしこ過ぎる。


 そんな彼らの中から一匹の芋虫が、いもいも、と俺に急速接近。よじよじと俺を駆け上り左肩に納まった。どうやら、付いてくるもよう。


「ふきゅん、付いてくるのか? これから向かう先はある意味で戦場だぞぉ?」


 脅しをかけてみるも動こうとはしない。どうやら覚悟は完了しているようだ。ならば、これ以上は言うまい。


「それでは……ユクゾッ」


 俺は勢いだけでまったく早くない走法にて、先に行ってしまったライオットとプルルたちを追いかけたのであった。






 そして辿り着いたハッスルボビー。そこは異様な熱気に包まれていた。果たしてそれが意味するものとはいったい。


「これは、いったい何事なんだぜ?」

GGMグランドゴーレムマスターズが近いからねぇ。より良いパーツを求めてゴーレムマスターが殺到しているんだよ」

「マジか。これでは買い物ができない、できにくい! ライ、奴らを滅ぼすんだぁ」

「おっしゃ! 任せろ!」

「任せろじゃないよ!? ライオット! 食いしん坊も焚きつけないでおくれ!」


 あまりに客がいすぎて店内に入れなかったので、ライオットに強制排除を命じたところでプルルからのエキサイティングな制止が入った。


 割とこうしなければ店内に入れないのだが、さてどうしたものか。


「排除がダメなら突っ込むしかない。俺は覚悟ができている。おまえらは?」

「まぁ、なんとかなるだろ」

「僕は日を改めた方がいいと思うけどねぇ」

「では、突撃っ!」

「聞いてないし」


 プルルの苦情は華麗にスルーする。しかし、押し寄せる客のディフェンスは強固であり、当時の俺では突破が困難でありました。だから、こうするより他になかったのです。


「ふきゅん、邪魔」


 俺は火属性下級攻撃魔法〈ファイアーボール〉を発動。敵味方関係なく吹き飛ばして差し上げた。威力は極限にまで抑えているが音と衝撃はその分増している。


「よし、これで内部に突入できるぞ」

「よし、じゃないよ!? 排除しないって言ったじゃないかい!」

「排除はしていない、抹殺しただけだ。だからセーフ」

「屁理屈ぅぅぅぅぅぅっ!」


 ツッコミに全力を捧げるプルルをなだめて店内に侵入。ライオットは置いてきた。ヤツは今回の戦いには付いてこれなさそうだったからな。






 そんなわけで、現在、俺たちはホビーゴーレムのパーツ売り場にてパーツを吟味している。


 正直な話、何が何やら分からない。子供におもちゃを買って、とねだられたお父さんがわけもわからずおもちゃを買って帰り、コレジャナイと子供に失望されることが決定している、そんな状況の一歩手前、といったところであろうか。

 つまり、これはどうすればいいのだ、といった感じである。


 誰か助けてっ!


「ふきゅん、よくよく考えたら、どのパーツが良いのか、分からなかったんだぜ」

「まぁ、パーツも年に新型、改良型が百は出るからねぇ。製造停止の貴重パーツも合わせると軽く万の種類になるかな?」

「なにそれこわい」


 プルルはさっさとイシヅカ用のパーツを購入していた。どうやら最初から購入するパーツを決めていたらしい。


 イシヅカが与えられたのは巨大な槍だ。彼の身長を越えるほどに長い槍は取り回しこそ悪いものの、相手に与えるプレッシャーは相当なものになるだろう。なかなかに、いい選択をするものだ。


 その一方で情けない声を上げる者がいる。ライオットがそれに当たった。


「高くて、何も買えねぇ」

「にゃーん……」


 軍資金を持たぬ愚か者の末路。彼はただ指を咥えて魅力的なパーツを眺めるだけの置物と化していた。


 最初から分かっていたことであったが、実際にそんな状況の彼を目の当たりにすると切なくなる。


 だが、ツツオウの役目は囮。完膚なきまでに戦闘能力は期待していない。なので、ライオットが購入出来て、尚且つ見栄えがする物はこれしかない。


「ふきゅん、こんな物はどうだ?」

「ん? リボンか……シシオウにはどうだろか」

「可愛くていいじゃないか。僕は好きだよ」

「女はそれでいいだろうけどよ。シシオウは雄だぞ」

「おいぃ、ツツオウには【パオーン様】がないじゃないか」

「えっ? マジか?」

「ホビーゴーレムに性別を求めるのはナンセンスだよ。好きな方でいいじゃないか」

「そ、そうだそうだ。プルルが正しい」

「解せぬ……」


 といったやり取りの後、結局購入できる物がそれしかなかったため、ライオットは渋々ながらリボンを購入。


「にゃ~ん!」


 この赤いリボンを嫌がらずに身に着けたツツオウはお利口さんだ。しかも似合っている。少しばかり賢く見えるのは気のせいではないはずだ。


「さて、あとはムセルのパーツだが……いまいち分らん」

「戦闘方針は決めているのかい?」

「イシヅカがいるから、中距離と遠距離攻撃を担当するつもりだ」

「良いセンスだね。やっぱり、食いしん坊は目が良いよ」

「視力は悪くないぞぉ」

「そういう意味じゃないさ。着眼点、という意味だよ」

「褒められるのは、くすぐったいんだぜ」


 プルルは不慣れな俺に代わり、よさげなパーツを集めてきてくれた。それはこの世界には似つかわしくない武器ばかりだ。殆どファンタジーが息をしていない。


 マシンガン、六連ミサイルポッド、ガトリングガン、etc、etc……玩具とはいったい。


「うん、こんなものかな?」

「プルル、これはいったい?」

「武器さ。銃といって、弾丸を発射する機能を備える筒だね。発祥はドロバンス帝国の魔導銃だよ。あっちは魔力弾を飛ばすんだけどね。あと、これは噂なんだけど、実弾も飛ばすことに成功したって話だよ」

「へ、へ~、そ~なのか~」


 玩具の世界は幻想世界を殺しにかかっていた……? というか、ドロバンス帝国ヤヴァイな。


「後は、何か強そうだ、というインパクトが欲しいな……お?」


 俺は隅の方に追いやられていたパーツを発見する。それは単純に赤色をした肩パーツが四つほど入っている小さな袋であった。


「これ、なんかいいな」

「それかい? あまり人気がない商品だよ」

「ふきゅん、そうなのか?」

「うん、色がね、なんだか血の色で不気味だからって。でも、パーツの形自体は人気があるから、別の色で販売されてるよ。こっちは人気で品薄状態だね」

「……いや、これでいい」

「止はしないけど、どうしてだい?」

「俺は血をたくさん見てきているからな。抵抗はない」

「そっか」


 ただし、付ける箇所は左肩のみ。それに、パーツの効果は期待していない。これは、決意表明みたいなもの。再びシアとエスザクと戦うまで負けない、という覚悟だ。


 血のような赤い肩は常勝不敗、という伝説を築き上げてやる。俺とムセルで。


 購入したパーツを、その場で装着させてみる。中々様になったものだ。特に赤い肩が強者を思わせてグッドである。


「こうして見ると、相当に思い切った装備になったねぇ」

「足りないくらいだ。他にも予備に購入しておいた方がいいかな?」

「慎重……いや、臆病なくらいだね」

「褒め言葉として受け取っておくんだぜ」


 臆病を悪い方に捉えるヤツは早死にするって、それ一番言われてっから。勇気を知る者は臆病とは何かを一番理解しているヤツなのだ。


 臆病者は無謀とは何かを一番理解しており、自分の力を正確に把握できている賢者である。だからこそ、俺は勇気ある臆病者になりたい。


「シアとエスザクに勝つためなら苦労は厭わない。彼女たちも俺を待っている」

「俺たち、だろ?」

「そうだな、ライ。俺たち、だったな」

「んふふ、そうだよ。僕たちはチームなんだからね」


 目を閉じればシアの操縦技術、エスザクの驚異的な機体性能が蘇ってくる。だが、俺たちはそれを乗り越えて勝利をもぎ取らなくてはならない。それに、きっと最後は心が強い方が勝つだろう。そもそもが、操縦技術で勝てる気がしない。


 ならば、実戦で培った勝負根性で対抗するしかない。命を懸けて磨き上げた勇気で、シアとエスザクを討つ。


「グランドゴーレムマスターズの予選は二日後。あまり時間はないけど、僕らなら本線へと進めると確信しているよ」

「おう、俺とシシオウに任せて置け」


 あっはい、囮役をお願いいたします。


「ふきゅん、なんにせよ、残った時間を練習に費やすか」

「うん、そうだね。僕らは下手に応用技を覚えるよりかは基本を積み重ねよう」

「それがいい。武の道も結局は基本の積み重ねだしな」






 こうして、俺たちは予選開始までの時間を基本練習に費やすことにした。全てはGGM優勝を手にせんがため。

 まだ見ぬライバルたちに血を滾らせ、俺たちはホビーゴーレムたちと心を重ねてゆくのである。

2019年10月31日 修正。

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知ってるか?これ遊びなんだぜ、もうこんなんスローライフだろ
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