738食目 集結する戦士たち
宇宙戦艦ルレイズいもいもベースが向かったのは月だ。そこに、全ての宇宙戦艦つくしが集結していた。彼らモモガーディアンズは、月のルナキャノンを機軸にして戦いをおこなおうというのだ。
「お待たせしたんだぜ」
「待っていました。いよいよ、この時がやってまいりましたね」
新たに建造した月の神殿にて、エルティナたちを待っていたのは、月の神ツクヨミの他にも彼女の姉、弟だ。それだけではない、数多くの日本の神々の姿もあった。
そして、エルティナに馴染みのある黄金の大蛇の姿もそこにある。
「ケツァルコアトル様」
「不思議な気分だ。こうして、融合しない状態で直に会うのは」
彼ら日本神話の神々を運んできたのは、もう一柱の太陽神ケツァルコアトルであった。遥か彼方に位置する地球からの長旅に、その巨大な背を貸してきたのだ。
彼が所々に傷を負っているのは、今まで女神マイアスが差し向けてきた魔導騎兵と激戦を繰り広げてきた証。全ては要となるルナキャノンを護らんがため。
「よくルナキャノンを護ってくれたんだぜ。感謝の言葉もない」
「言葉は不要だ。我と汝はそう言う間柄であろう」
エルティナはケツァルコアトルの言葉に頷き、惜しみない感謝の気持ちを彼に送った。
そこに鎧で身を固めた益荒男が口を開く。英雄にして荒神である素戔嗚尊だ。
「エルティナよ、杯を交わし出会えた喜びを分かち合いたいところであるが、そうもゆくまい。既にかの女神は天空神の軍団と対峙しておる」
「分かっているんだぜ、スサノオ様」
全身に怪我を負っている彼もまた、ケツァルコアトルともに魔導騎兵と戦っていた。黄金の大蛇に跨り草薙剣を振るう彼の姿は、新たなる伝説となったであろう。
そんな神々を代表し前に進み出るのは、彼らの姉にして日本神話の神々の長、天照大神だ。
「エルティナ、ここに至れば我々もただの一戦力に過ぎません。私たちの力、あなたたちに託しましょう」
「アマテラス様、その力、ありがたく頂戴するんだぜ。そして、絶対に勝利を掴むと約束する。絶対にだ」
対面を済ませた一同は、早々に会議を催し軽い確認をおこなう。神殿の会議室にて音頭を取るのは、ツクヨミ神だ。
「韋駄天率いる偵察部隊の報告によると、女神マイアスは、この月と同規模の宇宙要塞にて、あなた方を待ち構えているようです。主力は魔導騎兵、その数、二千八百万」
「に、二千八百万っ!?」
ツクヨミの報告に集結した戦士たちは己の耳を疑った。ただでさえ強力な魔導騎兵が、およそ三千万近く配備されているというのだ。
「今更ガタガタ言うんじゃねぇよぉ。最終戦争だろぉが、向こうも出し惜しみなんぞするかよ」
神々ですら狼狽える報告にガンズロックはテーブルを強く叩き一喝、何事にも動じぬ姿勢を誇示した。
「そうです、問題は兵力ではありません。戦い方です」
間髪入れずにフォクベルトが眼鏡の位置を修正しながら要点を告げる。彼らの度胸に神々は感嘆することになった。
「考えるまでもない。特攻をかけて女神マイアスを退治するんだぜ」
エルティナの無茶苦茶な提案こそが、実のところ本作戦の全てであった。
魔導騎兵を全て倒しても意味などない。配下の鬼を退治したところで勝利とは言えない。全ては女神マイアスを倒してこそだ。彼女こそが、全ての因果の始まりにして終わりなのだから、
「天空神率いる軍団の主軸は、オリュンポスの神々と北欧神話の神々、それと桃太郎たちです」
「神々は力を失って久しい。本当の主軸は桃太郎たちですね」
ツクヨミはエドワードの指摘に頷いた。続けてライオットが疑問を投げかける。
「問題はエル以外の桃太郎がどれだけ強いかだ。下手をすれば敵対することになるんだろ?」
「そのとおりです。彼らは百戦錬磨の戦士たち、今も現役で鬼と戦い続けている。その戦闘能力はエルティナをも上回るでしょう」
ツクヨミの答えに戦士たちは息を飲んだ。彼女の言うとおり、エルティナは【最高】の桃太郎であって【最強】ではないのだ。
桃太郎の矜持をかなぐり捨てて【全てを喰らう者】として戦いを挑むのであれば別なものとなろうが、エルティナはそれを良しとはしない。
「他にも北欧神話の主神オーディンは英霊となった戦士たちを引き連れています。超機動要塞ヴァルハラは元々そのための装置ですから」
「死人も戦わせるのか……えげつねぇな」
オーディンのやり方に反吐が出る思いを抱いたのはアルフォンスだ。そんな彼と同じ思いを抱くのは、彼の教え子たちである。
「神々にとって人間とは道具に過ぎません。神と人とでは認識が違うのです」
「ふん、その辺はどうでもいいわ。数の方はどうなのかしら?」
どうでもいい、と言う割にはあからさまに不服そうな表情のユウユウが、天空神の戦力数を訊ねてきた。ツクヨミはそれに答える。
「およそ……五十億です」
「……は?」
その場に居合わせた戦士たちは、いよいよ己の耳が壊れたかと思い至る。それほどまでに馬鹿げた数字が飛び出してきたからだ。
「何せ死人ですからね。数だけは揃える事ができます」
「質の方はまちまち、という認識でいいのかな?」
「えぇ、いずれも桃太郎を上回る事はないかと」
リンダの疑問にツクヨミは答えた。彼女の言うとおり、オーディンはそのつもりで英霊たちをヴァルハラに招いていた。だが、そのままでは戦力にならないことは彼も承知している。何か策は講じていることであろう。
「エルティナ、あなたたちに伝えておくことがあります。誠司郎たちが、向こうの戦力として組み込まれています」
「なんだって?」
「天空神は誠司郎の力に目を付けたようです。彼女の可能性の力に」
エルティナは今回の戦いが、ひと際複雑になったことを認識した。誠司郎はモモガーディアンズとして共に戦った戦友であり友人でもある。そんな彼女らを放っておくことなどできない。
エルティナは「むむむ」と腕を組んで考える振りをした。実際は脳のキャパシティが既にオーバーし初期化が開始されているのだ。容量が少な過ぎである。
「で、でも、天空神側が敵と決まったわけじゃないんだろう?」
桃使いプルルが慌てて、天空神が敵対していないのでは、と意見を投げ掛ける。これにツクヨミは頷いた。
「現状では敵対の意志をこちらに表示しておりません。彼は我々を手駒の一つとして認識しているのかもしれませんね」
「それって、僕たちが天空神の部下だってこと?」
「そんな上等なものではないでしょう。死ぬまで戦い続ける下僕、程度の認識かと」
プルルはツクヨミの返答に、神への不信感を募らせた。ツクヨミは事実を語っているが、同時にわざと神に対する不信感を煽っている。
「(これでいい。人とは神に縋るもの、したがって神の甘言が一番危うい)」
彼女が危惧しているのは、モモガーディアンズの内部崩壊であった。彼らが窮地に追い込まれた時、天空神側の神々は行動に移すであろう。
それこそが、彼らの計画であるオペレーションLRの表の顔なのだから。
「(新しい姿と力を得て、大破壊を乗り越える……可能だと思っているのですか)」
ツクヨミはこの考えに否定的であった。そもそもが力を失った神々が、自身を上回る力を持つ者たちを取り込めるわけがない。
だが、彼らは力を取り戻すことに執着し、ツクヨミの言葉に耳を傾けることは終ぞなかった。
「ふきゅん、まぁ、神様だからな。だったら、こっちもそのつもりで神様を利用してやろうぜ。なんせ五十億だ、管理が大変だって、それ一番言われてっから」
ここでエルティナが暗黒微笑を浮かべた。モモガーディアンズたちは、嫌な予感が阿波踊りをしながら接近してくることを感じ取る。
「ツクヨミ様、ゼウスのじっちゃまと連絡は取れる?」
「え……えぇ、可能ですが」
「んじゃ、よろすこ」
ツクヨミは嫌な予感を感じつつも、会議室に据えてあった正面スクリーンを起動し、天空神とのコンタクトを取った。
暫くしてスクリーンに威厳のある壮年の男性が姿を見せる。その姿に戦士たちは思わず畏怖を覚えた。
力を解放した真の神、天空神ゼウスの姿がそこにあったからだ。




