736食目 新しい一歩
◆◆◆ エルティナ ◆◆◆
それは、フォルテとメルシェの結婚式の準備を、フィリミシア城の私室にて進めていた時の事であった。
パイパイの重みから逃れるべく幼女フォームに変身し机に向かっていた俺は、空間の歪みを感知。咄嗟に椅子から飛び降り勇者的な構えを取る。そこにヤツが現れた。魔王チックな構えと共に。
「へろう、マイシスター、ぐっどあふた、ぬぅん!」
「おう、まいブラジャー、ぐっどあふんあふん」
慣れない英語は使わないようにってそれ一番言われてっから。
空間を貪り、我が兄貴が俺の私室に登場。部屋には俺とうずめ、ムセルしかいないので問題は無い。というか、エドワードがいても普通に跳んでくるので、誰かがいても気にしないもよう。
パンっ!
「ぎゃおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
「ああっ!? 兄貴の頭部が狙撃されたっ!」
問題発生、ムセルが兄貴を不審人物扱いして撃ち抜いてしまったのである。当の本人はやり遂げたぜ、と親指を立てて爽やかな表情を見せていた。
「あぁ、ビックリした。ギャグ回じゃなければ死んでいたぞ」
「おいバカやめろ、究極の死亡回避技をしれっと使うんじゃない」
この兄には自重というものが無い。ムセルが警戒する気持ちも分かる。ごく普通に額から銃弾をポンっと弾き出し、何事もなかったかのように振る舞う姿は、紛う事なきギャグキャラだ。
それでいいのか……我が兄よ。
「今日はおまえを愛でると同時に、お願いをしに来た」
「ほぅ、興味あります!」
兄貴は流れるような動作で俺を捕獲しベッドに腰掛け、その膝に俺を載せて頭をなでなでしてきた。この動き……更にできるようになったな。
「それで、お願いなんだが……宇宙船作ってくれね?」
「おいぃ、お願いが天元突破してんぞぉ」
「いやぁ、実はさぁ。神の欠片が宇宙にとんずらしちまったんだ」
「ふぁっ!?」
どういうことか、と兄貴を問い質すと、どうやらマイアスお祖母ちゃんと兄貴は派手に喧嘩したらしい。何をやってるんですかねえぇ?
「その神の欠片を奪取するために宇宙に行く必要があると。転移でいいんじゃね?」
「いや、無理、対策されてるし。ホイホイ転移して ※ ちょうじゅうりょくのなかにいる! ※ とかなったら、俺泣いちゃうし」
「あぁ、座標位置をずらされてるのか。お祖母ちゃんもやるなぁ」
「くやしいですっ!」
そうなると俺も迂闊に、転移して乗り込め~、は使用できない。作戦の一つが早くもおじゃんになってしまった。どうしてくれるのこれ?
「ふきゅん、となると、決戦は宇宙という事になるのか」
「まぁ、そうなるな。地上で暴れられるよりかはマシだろ」
そうなると色々と準備しなくてはならなくなる、とはいえ既にドクター・モモがやってくれているのだが。
彼は決戦が宇宙でおこなわれることを予想していたのか、既に宇宙用のGDを開発し終えており、現在は連日空間戦闘訓練に明け暮れるモモガーディアンズたちの姿を見る事ができる。
まぁ、月に転移してツクヨミ様から事情を聞いた時に、こうなるであろうと予想していたので、そこまで驚かなかったのだが。
「まぁ、宇宙船は既にあるんだけどな」
「マジで!?」
「まじで」
こんなこともあろうかと、という名台詞と共にドクター・モモがドヤ顔で見せてきた宇宙用戦艦の数々。どうやって資材と資金を用意した、と問い詰めると彼は下手くそな口笛で誤魔化そうと試みた。絶対にろくなことをしてないゾ。
「今回ばかりはドクター・モモも形振り構っていない様子だったし、結構な数の船がつくられてる。その内の一隻をこっそり渡すんだぜ」
「ほほぅ、裏取引というわけだな。見返りはなんだ?」
「マカロン一年分」
「むむむ、いいだろう。モーベンに作らせておく」
「やったぜ」
こうして、邪悪な取引は成立した。これから俺のティータイムは華やかなものとなろう。
それからちょっぴり時は流れ、季節は秋。本日、フォルテとメルシェの結婚式と相成った。
フォルテの時間がそれほど残っていないことは、俺がクラスの皆に伝えておいた。一様に無念の表情を浮かべたが、どうにもならないことを伝えると、皆は前向きに考えようという意見で一致、フォルテにメルシェと結婚するよう迫った。これにはフォルテもたじたじだったもよう。
元々、フォルテも覚悟を決めていたようで、メルシェとささやかな式を挙げる予定であったようだ。でも、そんなんじゃ甘いよ。
「んじゃ、ド派手な式を挙げて差し上げろ」
国家予算を使った空前絶後の式を計画したのである。エドワードが許してくれたからなんの問題もない。その代わり、俺がちょっとガンバッタ。オマタイタ~イ。
空前絶後の式、といっても実のところ普通の結婚式なんだがな。だが、式に招いたのはラングステン国民全てだ。国全体で二人を祝福しようというのである。
モモガーディアンズメンバーである二人は、その名が国に知れ渡っているので知らないという者は殆どいない。何よりも参加費が無料とあればホイホイ参加してきた。
ふっきゅんきゅんきゅん……バカめ、ただより高い物はないのだよ。この式に使用したお金は税金。即ち、すでに参加費は問答無用でいただいていたんだっ!
な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?
エドワードが、言わなきゃばれへんやろ、と言っていたのでたぶん大丈夫。それに、突発的なお祭りだ、と言い張ればなんやかんやで丸め込める。完璧だな。
二人の式は正しくお祭り騒ぎだ。豪華絢爛な料理が会場となるフィリミシア中央公園を埋め尽くす。人々の表情は笑顔。涼しくなって過ごしやすくなったこともあり、体調不良を訴える者は皆無だ。
これならヒーラー協会の皆もスタンばってもらう必要はなかったかも。今から飲み食いしてどうぞ。
「それでは、誓いの口付けを」
公園の噴水をバックに純白の男女は互いの唇を重ね合った。その姿をメルシェの両親が感無量の表情で見届ける。
二人の時間はあまりにも少ない。だが、それを許し彼らを見守る決断をした二人には畏敬の念を送らざるを得なかった。
歓声がひと際高く上げられる。二人の門出に誰しもが惜しみない祝福を送った。
どうやら、フォルテとメルシェの結婚式は無事に終わりそうである。
「ふきゅん、どうやら何事もなく終わりそうだな」
「そうだね。僕たちの時は忙しかったからね」
「あれは違った意味で空前絶後の式だったんだぜ」
俺とエドワードは自分たちの結婚式のグダグダっぷりを思い出し苦笑した。
だが、俺たちの安堵をクラッシュすべく事案発生。それはあろうことか仲間内の犯行であったのだ。
「……うぐっ、う、う……産まれる」
「ほあっ!? マジかよ! どなたか産婆さんいませんかっ!? 嫁が産気づいちまった!」
なんと、ララァが産気づいてしまったのだ。これには俺たちもにっこりである。
「おやおや、まぁまぁ、めでたい日に、めでたい事が重なるねぇ」
そして、集まる産婆さん百名。おおすぎぃ!
ララァは取り敢えず自宅に運ぶ流れとなった。がここで破水、ベビーの頭がチラっと見えてしまったので、ここで産んでしまえという流れとなる。
産婆さん百人による鉄壁の布陣での出産と相成った。どうなってるのこれ?
時間にして二十分くらいであろうか。元気な赤ちゃんの声がフィリミシア中央公園に響いた。超絶安産だったもよう。
「う、うおぉ……お、俺の子供か」
「ダナン、エンディングまで泣くんじゃない」
「ずっと泣けねぇじゃなぇか!」
生まれてきたダナンとララァの子は女の子。赤毛は父親譲り、背中の翼は母親譲りのもよう。なんにせよ、めでたいことだ。
「うわぁ、可愛いですねぇ」
メルシェが興味津々で生まれたての赤子を見つめていた。きっと、自分も近くに、と想いを馳せているのだろう。フォルテは赤ちゃんを眩しそうに見つめていた。
「眩しいな」
それは生きることの意味だった。フォルテとメルシェの二人は手を取り合い固く結び合う。これから彼らは新しい命を生み出し育む。それが短いとしても、記憶は鮮明に残るであろうから。




