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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
730/800

730食目 ただいま

「ブルトンの言うとおり、神々が数多の戦士を率いて地球を出立した」


 トウヤの言葉でブルトンの言葉に真実味が帯びる。元々、誰もブルトンの言葉を疑ってはいない。彼は誠実で嘘を吐くような男ではないことを、誰よりもモモガーディアンズたちは知っていたからだ。


「桃アカデミーは、彼らを止めたが聞き入れられなかった。止む無く桃大佐が現存する桃太郎たちを招集して超機動要塞ヴァルハラに乗り込んでいる」

「ふきゅん? 桃太郎たち?」

「そうだ、桃太郎は一子相伝じゃないからな。存命している桃太郎もいる。それを各世界から招集したんだ」

「ほぅ……それじゃあ、桃エンジェルっぽいヤツもいるのか?」

「……いるな。かなり扱い難いお方ではあるが」

「わぁお」


 トウヤの返事にエルティナの目が嫌な感じに輝いた。絶対に何かを企んでいる。

 どうせろくでもないことだろう、と読んだトウヤは珍獣の邪悪な企みを頭の片隅に追いやり話を続けた。


「彼らは戦力的に期待できるが、あくまで天空神側の戦力として見てほしい。下手をすれば敵対することになる可能性もあるからな」

「うげっ、マジかよ」


 トウヤの警告にダナンが露骨に嫌な顔を示した。それもそのはずで、超機動要塞ヴァルハラに乗り込んでいる者は桃使いの中でも頂点に位置する桃太郎【たち】なのだ。

 エルティナほどの凶悪さはない、と分かっていても相当な手練れであることは間違いない。

 彼らが難癖を付けて襲い掛かって来たりでもすれば苦戦は免れないだろう。


「まぁ、桃大佐が付いているなら安心じゃね?」

「おまえは楽観視し過ぎだ。大佐とて万能ではないのだぞ」


 トウヤは楽観的なエルティナを窘める。今回ばかりは桃アカデミーも立場的に悪かった。


 桃アカデミーは神々が認めてこその存在であり、鬼を討伐してこその価値がある。

 しかし、今回は天空神ゼウスが腰を上げての出陣であり、桃アカデミーはそれに追従する形となっていた。このことにより完全に主導権を天空神ゼウスに奪われてしまっているのだ。


 そういった事情を説明されたエルティナは露骨に面倒臭そうな表情をした。


「クッソ面倒臭い事になってるなぁ。もう、こっちはこっちでやった方がいいんじゃね?」


 エルティナの提案に血気盛んなモモガーディアンズたちは一様に賛同する。しかし、トウヤはこれを否定した。


「それは最後の手段だ。利用できるものは利用しておけ」

「ふきゅん、トウヤは手堅すぎるんだぜ」

「バカ者、今回の戦いはわけが違うんだ。事実上の最終決戦。滅ぶか滅ぼすか、食うか食われるかなんだぞ」


 トウヤの話を理解した者は納得を示す。おバカたちは不服そうに頬を膨らませた。


「まったく……うちの連中は平常運転過ぎて困る」

「それがモモガーディアンズなんだから仕方がない」


 呆れるトウヤは、これ以上は何も言っても無駄であることを悟り、あとは流れに任せて様子を窺う事にした。一応はモモガーディアンズたちも歴戦の戦士であることから、迂闊な行動はしまい、と信用しての事である。


 話も一段落し、ツクヨミからゆっくりと休んでゆけ、と言い渡されたモモガーディアンズたちは彼女から施しを受ける。

 通された空間には、山のようなご馳走が列を成し彼らを歓迎した。狂喜乱舞したのは勿論、珍獣とおバカにゃんこである。


「ふきゅん! ご馳走だっ!」

「うひょう! こりゃあ、たまんねぇぜっ!」


 食欲の権化たちは我先にとご馳走へ突撃、腹を満たさんとする。その様子に身内は頭を抱えてため息を吐いた。といっても、それはライオットの妻プルルだけであるのだが。

 エドワードはというと、がつがつとご馳走を口に運ぶ珍獣をにこにこと見守っていた。


「エドワード陛下、食いしん坊には何も言わないんですか?」

「うん、エルは普段、作る側で、あまりこういったことはないからね。好きにさせてあげたい」


 妻思いの夫であるが、周りからすれば迷惑である。珍獣の胃袋に限界は無く、あればあるだけ腹に収めることが可能だ。つまり、放っておけば、ご馳走の全てがエルティナとライオットの腹の中に消える。


「うおぉぉぉぉぉっ! 無くなる前に口に入れろっ!」

「食べ過ぎだ、おまえらっ! 自重しろっ!」


 ここに新たなる戦いの火蓋が切って落とされた。乱れ飛ぶ豚の角煮、空を切り裂く太刀魚の刺身。宙を彩るはフルーツポンチか。

 蕎麦が重力を無視して空間を泳ぎ、鶏のから揚げが群れを成して飛んでゆく。


 その光景はまさに混沌。あってはならない光景がそこにはあった。


 先の戦いにて全力を尽くしたモモガーディアンズたちの食欲は絶大であり、山のように用意された料理が次々と彼らの腹の中へと姿を消してゆく。

 キャンプ地にて夕食を食べたにもかかわらず、食事に手を付けない者は皆無であった。


「これはこれは、いい食べっぷりよの」

「……皆、相変わらずね」


 ヒュリティアは少し離れた位置にてツクヨミと食事を摂っていた。勿論、食べているのはホットドッグである。


「うおぉぉぉぉぉっ! エル、それは俺がいただく!」

「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!」


 ミートスパゲティが龍のごとく宙を泳ぐ光景はなんの冗談か。冗談ではないのは、その宙を泳ぐスパゲティを空中で食べる二匹の獣たちだ。この珍現象の原因は、この二匹で間違いなかった。


「まてまて! なんで、寿司が空中で回転してるんだ!?」

「マフティ、これが本当の回転寿司ってか?」

「ダナン、洒落を言ってる場合か!」

「なんだっていい! 寿司を食べる好機でござる! うおぉぉぉぉぉっ!」


 混沌を極める食事風景に、ツクヨミは苦笑しながらも清酒を口にした。眺めている分には、十分過ぎるほど酒の肴になったようだ。






 やがて、持て成しは無事に終了。山のようにあったご馳走たちは、その全てがモモガーディアンズたちの腹の中へと納まった。

 満足し終えた彼らは、腹を擦りながら至福のひと時を満喫。そこに、ひらひらと飛んできたものとは虹色の翅を持つ月光蝶たちだ。


 白い空間はたちまちの内に虹色に彩られ、幻想さを一気に増した。人を恐れぬ彼らは戦士たちの頭や肩で翅休めをしたりと自由な姿を見せる。

 だが、モモガーディアンズたちは気が付かなかった。月光蝶たちの一部が解けるように戦士たちの体の中へと消えてゆくのを。それを見届けたのは、ツクヨミとヒュリティアのみ。


「(上手く適応できたようですね)」


 子供たちが各々の使命を果たし終えたことを認めたツクヨミは立ち上がり、モモガーディアンズたちを地上へと送り帰すことを伝えた。


「さて、名残惜しいですが、あなた方もやるべきことがありましょう。私の力で、あなた方を元いた場所へと送り帰します」


 ツクヨミが細腕を天に掲げると、モモガーディアンズたちの身体がほのかに輝きだす。


「ヒュリティア、これでお別れですね」

「……ツクヨミ様」

「お行きなさい。そして、未来を勝ち取るのです」


 ヒュリティアはツクヨミの言葉に小さく頷いた。その様子に満足したツクヨミは戦士たちを地上へと送り帰す。


「頼みましたよ、モモガーディアンズ」


 薄れゆく意識、白く染まる光景。その中で、彼らは確かにツクヨミの頬笑みを見たのであった。






「くぉくぉは?」


 意識を取り戻すと、そこはフィリミシア東海岸。エルティナたちがキャンプをしていた場所であった。キャンプファイヤーの炎は既に消えており、その残骸を晒している。

 水平線より日が昇ってきた。否応なしに太陽神を思い起こさせる。しかし、彼はもうこの世には存在しない。


 代わりの太陽神の負担が増えているんだろうな、と大きな欠伸をして背筋を伸ばすエルティナに、遂になる存在が声を掛ける。


「……戻ってきたのね。カーンテヒルに」

「あぁ、俺たちの故郷だ。おかえり、ヒーちゃん」

「……ただいま」


 輝く朝日に包まれたヒュリティアは笑顔を見せ、ようやく涙を流した。

 あの日より、故郷を離れて幾数年。黒エルフの少女はようやく、故郷の土を踏みしめることを許されたのだ。

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