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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
726/800

726食目 事故

「さぁ、こちらです」

「ふきゅん、ララァ、リルフちゃん、付いて行くぞぉ」

「あい~」


 ツクヨミに誘われ、薄暗い通路を通り抜けた先に辿り着いた場所は、無数の機器に埋め尽された空間であった。使い方が理解できないものに混じってパーソナルコンピューターなどの理解可能な機械も設置されている。


「ここが、ルナキャノンの管理システムです」

「ここが、そうなのか」


 機械に囲まれた空間であるが、その中央に一本の若木が据えられていた。その根には無数のコードが繋がっており、若木が脈動する度に周囲の機器が発光する。


「この若木がメイン動力なのか」

「そのとおりです。女神マイアスの魔導エンジンは老朽化して使い物にならなくなっていましたから、神桃の若木で代用しました」

「神桃の若木パネェな」


 そして、エルティナは自分のするべきことを把握した。要はこの若木に桃力を送り込めばいいのだ、と。その考えは正しく、ツクヨミにそのように指示されることになる。


「ほんじゃま、やるとしますか。ツクヨミ様、注意点は?」

「あまり急激に注がないでください。若木なので耐久力に難があります」

「ふきゅん、ゆっくりだな……ふゅっきゅしゅん!」

「……注いでいる最中に、くしゃみはしないでくださいね?」

「善処するんだぜ」


 少しばかり心配になってきたツクヨミであったが、既に賽は投げられている。あとはエルティナを信じるより他にないのだ。


 妊婦のララァは戦闘にこそ参加できないが、オペレーターとしての手腕は健在だ。使い慣れたタイプのパーソナルコンピューターの使用の許可を得て、状況を逐一モモガーディアンズに知らせる。


 リルフは本格的にやるべきことがないためツクヨミに捕獲され、現在は彼女の膝の上で大型スクリーンに映るモモガーディアンズたちの戦いを見守っている


「まま!」

「戦闘に突入したか」


 大型スクリーンには、赤黒い蛇たちによって作られた巨体で、無数の戦士たちを相手取る醜悪なアポロンの姿があった。その戦士たちの中に、ルリティティスを認めたリルフは思わず声を上げる。


 それと同時にエルティナも若木に桃力を注入し始めた。かつて、桃先生の若芽に桃力を注いだという記憶が蘇る。


「あの時、俺たちは非力な存在だった。でも、今は違うんだぜ」


 エルティナのかざす手から桃色の温かな輝きが溢れ出す。その輝きを浴びた若木は、ぶるりと身を震わせた。それは歓喜の震え。

 瑞々しい葉はより瑞々しく、その幹は逞しく鼓動し、根は若木の手足となる機器に濃厚な桃力を送り出す。

 ルナキャノンは地響きのような唸り声を上げ、咆哮を上げる瞬間を待ちわびた。






「二時の方向! 蛇の群れが飛んでくるぞ!」

「ベルゼブブ!」

「分かってるよ! 蠅王吐息ベルゼブ・ブレス!」


 ガイリンクードの左手から顕現した褐色の女は、出てくるや否や穢れた吐息を吐きだした。その吐息に触れた赤黒い蛇たちが瞬時に腐り果て、地上へとゆっくり落下してゆく。


「独特の浮遊感が慣れない!」

「慣れろ! じゃなきゃ、死ぬぞ!」


 リックのドリルランスが空を切る。そのタイミングを狙って赤黒い蛇たちが彼に殺到した。

 そんなリックを、ゴーレノイド・クラークがスラスターを駆使して抱きかかえ離脱。後詰の双子剣士が赤黒い蛇たちを切り裂いてゆく。


「桃力の供給で蛇どもはなんとかなるが……大き過ぎてアレはどうにもならないな」

「ひほっ! きもいですわ、お姉様」


 意外にもGDBPゴーレムドレスバックパックとの相性がいいのか、双子剣士はモモガーディアンズたちの中でも段違いの動きを見せている。

 中々捉える事ができない双子剣士に苛立ちを覚えたのか、アポロンは矢鱈滅多らに赤黒い蛇たちを撒き散らした。


「うわ、やめてくれよなぁ、そういうのは」

「同感だ、ロフト。アカネ、魔導銃は慣れたか?」

「慣れるわけないさね。頼りなさ過ぎて心配になるさね」


 そう言いつつもアカネの射撃は平均値を上回っていた。その上を行くのがロフト、スラックだ。特にスラックは百発百中の腕前を誇る。


「自分で動き回りながら撃つのは骨だな。プルルの凄まじさがよく分かる」

「あれはもう、脳みそが二つあるんだろ」

「三つじゃないさね? ケツに二つ」


 変態トリオは陣形を組み、死角を潰しながら赤黒い蛇たちを魔導銃で撃ち落してゆく。

 その横をツーハンドアクスを構えたガンズロックが跳び抜けてゆく。


「ちょっと、ガンズロック! 早いよ!」

「フォク! こいつにぁ、ブレーキが、あるのかよぉ!?」


 彼の言葉にギョッとするフォクベルトは慌てて黄金のGDのブースターを全開にしてガンズロックを追いかけた。


「ま、どうでもいいんだが……おるぅあっ!」


 そのままの勢いでアポロンのどてっぱらに突入するガンズロック。その様子にモモガーディアンズたちは目を疑った。


「ガ、ガンちゃんっ!」


 リンダが幼馴染の愚行に悲鳴を上げる。自作行為にも等しい特攻とも言えた。だが、アポロンの身体がくの字に折れ悲鳴ともつかない苦悶の声が彼から上がる。


 赤黒い蛇たちが密集して出来上がった身体。その背中からガンズロックが飛び出してきた。殆どダメージは受けていないようだ。


「ちっくしょう! しくじったぁ!」


 ぼろぼろとアポロンの赤黒い右腕が崩壊していった。それはガンズロックが内部にいるアポロンの肉体にダメージを与えた証拠。


 彼の個人スキル【突破】は、ありとあらゆるものを突破する。しかし、それは一日一回という制限が付くからこその強力なスキルであった。ガンズロックはそのスキルを行使し、赤黒い蛇たちを突破したのである。

 彼はその一瞬の間隙を縫って、アポロン本体に一撃を喰らわせたのだが、致命傷には至らなかったようだ。


「ガンズロック! 冷や冷やさせないでください!」

「おう、わりぃなぁ! 俺ぁ、口下手でよぉ! 説明する前に突っ込んじまったぁ!」


 フォクベルトは、ガンズロックを回収しその場を離れる。直後に赤黒い蛇たちの爆弾が放たれ爆発した。何もかもが蛇でできた爆弾だ。飛び散るのも蛇たちである。


「うひっ!? それは、しゃれにならないねぇ」

「プルル、蛇どもを一ヶ所に集められないか?」

「無限湧きする相手に、それは効率が悪いよ。集めている間に狙われたら一巻の終わりだし」


 プルルはライオットの提案に首を横に振る。彼の考えたことは、既にプルルも思い付いていたのだ。実際に実行に移したのだが、瞬く間に蛇は再誕し、鼬ごっことなり果てる。


「結局はデカいので纏めて仕留めないといけないってわけか」

「そういうことだよ。僕たちがやるべきことはアポロンの誘導だね」

「なら、カギを握るのはやっぱりヒュリティアか!」


 ライオットの視線の先には、GDBPを身に着けずに宇宙空間を飛び回る黒エルフの少女の姿があった。


「お……おぉ……あ、あ……あるて……みすぅ」

「……穢れし太陽。もう、あなたは沈むべき」


 黄金の弓を構え彼女は姿なき弦を引いた。すると、忽然と輝ける矢が出現し大いなる力と共に放たれる。それは、まるで光線のようだった。そして、正確無比にアポロンへと吸い込まれ、着弾と同時に大爆発を起こす。


「……まだまだっ!」


 連続で放たれる光線、それでもアポロンはヒュリティアを、その内に眠るアルテミスを求めて手を伸ばす。目と思わしき部分から、ぼろぼろと零れゆく赤黒い蛇たちは、ヒュリティアに涙に思わせた。


「……アルテミス! 約束は必ず果たす!」


 後退しつつ光の矢を放つヒュリティア。その彼女の背後から迫る赤黒い蛇。彼女が気付いた時には遅すぎた。回避はできない。

 それでも、ヒュリティアは危機感を抱かなかった。彼女の傍には、絶対なる捕食の王がいたからだ。


「はぁっ!」


 エドワード・ラ・ラングステンが始祖竜の剣を振るう。その剣圧は、うねりを上げて赤黒い蛇たちを貪り喰った。彼が手にするものは剣を模ってはいるが、全てを喰らう者と同質の存在であるのだ。


「大丈夫かい、ヒュリティア」

「……お陰様で」


 護衛をエドワードに一任し、ヒュリティアはとにかく攻撃に専念する。削れゆくアポロンの赤黒い身体。

 ルナキャノンで確実に葬り去るために、ヒュリティアは光の矢を放ち続ける。


「ララァ! 射線軸までどれくらいだ!?」

『……ダナン、あと三キロメートル。エネルギー充填まで九百秒よ……』

「これを十五分か!?」

『……大丈夫、ダナンたちなら、きっとできる……』

「ララァは、おだてるのが上手いな!」


 ダナンの両手に納まる魔導ピストルが火を噴く。銃身は焼き付き悲鳴を上げていた。


「(これは、持つのか? 思ったよりも疲弊が激しい)」


 ダナンが流す一滴の汗は、零れ落ちる命であろうか。彼の視界に飛び込んでくる光景は許容しきれないものであった。


「うおっ!? メルシェっ!」


 一瞬の油断、それは油断であって油断ではなかったのかもしれない。ダナンが視線を移した時、丁度そこにはGDモモチャージャーを身に纏い、空中戦をおこなっていたメルシェの姿があった。

 戦い慣れてきていた彼女であったが数が数だ。どうしようもない事故というものがある。


「きゃっ!?」


 赤黒い蛇の一匹が、メルシェのGDモモチャージャーの脚部スラスターに接触し、その機能を停止させた。その反動でバランスを崩したメルシェは地上に落下。運悪く、そこは赤黒い蛇たちの溜まり場となっていた。


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「メルシェェェェェェェェェェェェェっ!」


 フォルテが普段は見せないような鬼気迫る表情を見せた。手を伸ばすも、あまりに彼女から離れ過ぎている。


 貪り喰われる装甲、GDスーツ。時間稼ぎにもなりはしない。肉が食われ、骨が露出し、血液が噴き出す。激痛に悶え暴れるも余計に肉体を損傷させるだけだ。

 蛇は触れた部分が背中であっても対象を喰らう事ができる。その蛇の形は仮の物で全てが口、というのが全てを喰らう者なのだから。


「た、助けてっ! 死にたくないよ、フォル……」


 メルシェの助けを求める腕が唐突にボトリと落ちた。蛇に喰われたのだ。そして彼女は赤黒い蛇たちに飲み込まれ姿を消した。その姿に呆然とするモモガーディアンズたち。

 あまりに呆気ない仲間の最期に、彼らは完全に闘志を鎮火させてしまったのだった。

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