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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
718/800

718食目 侵略者は罠に陥る

「ふきゅん? 本当にデカい木なんてあんのかぁ?」

「あぁ……間違いねぇよ」


 俺には確認できないが、オフォールは鳥人だけあって視覚が優れている。彼は冗談で物事を言う人物ではないので信用してもいいだろう。存在自体が冗談と言うのは内緒な。


「よし、油断しながら慎重に進もうぜ」


「じゃあ、私は油断する係で」

「ちょっ、ダメだよ、アマンダ」

「それじゃあ、フォクベルトが慎重になる係で」

「まったく、仕方がないな、きみは」

「えへへ」


「はい、そこ。しれっと乳繰り合わない」


 そんなこんなで、盛大に油断しつつ慎重に進軍した結果。俺たちは巨大な木へとたどり着いた。大きさ的には、フィリミシアの桃先生の大樹の半ほど、といった感じであろうか。


「こんな水もない場所に樹?」

「ふきゅん、でも、しっかりと生きてるぞ」


 生きてはいるが死んではいない、と言った方がしっくりとくる命の波動を放っていた。つまりは瀕死。

 その時、俺はこの樹から微かな桃力を感じ取る。


 まさか、この樹は……。


 それを肯定するかのように、携えていた輝夜が悲しげに発光した。


 やはり、そうだったのだ。この大樹は俺に幾度となく力を貸してくれた恩人、そして輝夜の親に違いない。この樹の枝から、桃使いたちの相棒が生まれて来たのだ。


「食いしん坊、この樹って……ひょっとして?」

「あぁ、プルルの考えで間違いないだろうな。月の神桃の樹だ」


 実はプルルも神桃の枝を授かっていたりする。しかし、彼女の神桃の枝はあまりにも幼く、戦闘に耐えれるものではなかった。なんじゃそりゃあ!


 現在はアクセサリーよろしく、彼女の髪飾りとして存在を誇示している。特技は桃色の花を咲かせる事。鬼退治に役立つ方をがんばってどうぞ。


「おぉい! 向こうの方に建物が見えるぞ!」


 大樹の向こう側から、ぶんぶんと手を振るマフティたちの姿が窺える。どうやら、謎の建物を発見したようだ。


 俺たちは慌ただしく彼女の下へと駆け付け、件の建物を遠目で観察する。それは神殿のような建物であった。白を基調とした荘厳なものであり、いかにも神様が住んでいます、といった感じだ。


「ついでに要らんやつもいるなぁ」

「さっきの機械兵たちか?」

「おう。まぁ、問題ないとは思うが……一斉に突入というのも危険だな」


 とはいえ、部隊を二つに分けての突入もどうかと思う。だが、現状としては非戦闘員を抱えての戦闘の方が危険度は増すのは確かなことであり、やはり部隊を分けざるを得ないようだ。

 したがって、神殿内に突入する者を厳選する。


「神殿に特攻ぶっこみたい人、この指と~まれ!」

「「「「わぁい!」」」」


 神殿に突入する者はエドワード、ライオット、リンダにユウユウ、マフティ、ブルトン、ゴードン、ブランナ、そして俺となった。状況に応じてザインちゃんも参加させる。

 プルルは桃使いなので待機組に残ってもらう。鬼が出現した時に対応できる者が残っていないと拙いからな。

 その分、こちらは俺一人でがんばらなくてはならないが、この戦力ならお釣りが来るであろう。したがって、俺は楽をさせていただく。やったぜ。


「んじゃ、ルドルフさん、後は任せるんだぜ」

「お任せください。エルティナもお気を付けて。エドワード陛下もよろしくお願いします」

「勿論だよ。僕の愛する妻だからね」


 こうして、俺たちは部隊を二つに分け神殿へと特攻した。

 戦闘ロボとの戦闘なんぞカットだ、カット! ぜんぶ、闇の枝に「ふきゅおん」させてやったぜ。



 ◆◆◆ 語り部 ◆◆◆



 あ~、あ~、てす、てす、マイクのテストなう。え? 本番?


 こほん。


「な……マイアスから預かった魔導騎兵が壊滅だと!?」


 魔法の水鏡に映るのは、白エルフの少女に率いられ、月の神殿に侵入を果たしたモモガーディアンズメンバーたちだ。そして、かれらの戦闘能力に驚愕する青年の姿があった。

 天空神ゼウスの息子にして太陽神の座に君臨するアポロンだ。彼は黄金色の癖っ毛を掻き毟り、ギリギリと歯噛みした。

 自分が太刀打ちできないであろう魔導騎兵を、紙きれのように粉砕する者たちの存在を許せないのだ。


 自分は神である。にもかかわらず、下等生物たちに後れを取るなどあってはならない。アポロンはプライドの塊であった。そして、傲慢ですらあった。

 それは神として正しい姿だ。ただし、人を遥かに凌駕する力があれば、の話である。


 現在の彼は信仰を失い、かつては宇宙を照らしていたであろう力を失っている。だからこそ、彼は魔導騎兵を頼りにしたのだ。


「言ったとおりになったでしょう? 太陽神アポロン」

「うるさい! 黙れっ!」


 アポロンは四肢を鎖でつながれた女の頬を力一杯にひっぱたいた。女は辱めを受けていたのか身に付ける物は一切ない。身に着けてる物といえば鎖と汚物だ。

 黒髪に白い肌、切れ長の目に黒い瞳の美しい女性は全身に痣と切り傷を負っている。そのような惨たらしい状態の彼女に対して、アポロンは鞭を見せ付けて嫌らしい笑みを浮かべた。


「はぁ、はぁ、おまえがっ! 早く吐けばっ! 事はうまく運ぶんだっ!」


 アポロンは手にしていた鞭で女を滅多打ちにする。その度に女の白肌が赤く染まり、やがて鮮血を撒き散らすに至った。それでも、女は表情一つ変えない。


「無駄ですよ。この身体はしょせん仮初めの物。いくら痛めつけようと、辱めようとも、私は文字どおり痛くも痒くもないのですから」


 女はようやく表情を変える。それはアポロンに対しての嘲りだ。それを見たアポロンは一瞬にして頭の中が沸騰し、腰に差していた黄金の剣を引き抜き、女の胸を突き刺した。

 女は、ごぼりと血を吐きだし、白い乳房を真紅に染め上げる。それでも、彼女は嘲り笑うのをやめない。寧ろ、勝ち誇ってすらいた。


「ごぼ……ふふ、短気は損気ですよ? ほぅら、仮初めの肉体が朽ちてゆく」


 女の肉体がさらさらと崩れていった。エルティナたちが目撃したキャタピノンと同じ現状だ。それを見たアポロンは己の過ちを悟る。


「こ、この現象はっ!?」

「ふふふ……あなたごときに、私の可愛い子供たちをやらせるわけがないでしょう?」


 やがて、女は砂の山を作って気配を消した。神殿最奥の神の間には、太陽神アポロンただ一人となってしまったのだ。

 尚且つ、ここには出入り口が一つしかなく、神殿も直進通路しかない。即ち、彼は袋小路に閉じ込められた形となる。


「お、おのれぇ! ツクヨミっ! 島国の小者風情が、このアポロンを陥れようとはっ!」


 そんな、彼の耳に無数の靴音が聞こえてきた、それは破滅の足音だ。彼が敵わないであろう魔導騎兵を虫けらのように蹂躙する強者たちが押し寄せてきているのだ。

 更に彼らはキャタピノンが虫けらのように殺されたと思っている。説得、弁解は通用しないだろう。アポロンは選択を迫られた。


「この……私が……! いや、まて。条件はそろっている。神を辞めるのではない、その先へと進むのだ。そう、これは進化。更なる神化だ!」


 彼は懐に手をやり、そこからどろりとした桃色の液体が入った小瓶を取り出した。そのタイミングでモモガーディアンズが突入を果たす。


「おう! 御用だ、御用だ! 剣を捨てて掛かって来い!」


 珍獣はあくまで首謀者を許すつもりはない様子だ。そんな彼女を制してエドワードが前へ出る。

 金髪の美青年、太陽神アポロンをざっと観察し、事の首謀者が彼であると断定した。


 何故ならば、黄金の魔導騎兵から発せられていた魔力と、目の前の青年の魔力の波長が同一であることを認めたからだ。


「きみが、この件の首謀者だね」

「ほう、下等生物にしては利口なようだな」

「それはどうも。あなたは神か?」

「そうだ、私は太陽神アポロン! 太陽の輝きを遍く地上に与える偉大なる者だ!」


 アポロンの仰々しい自己紹介にエルティナたちは驚いた。神(笑)と。


「もしかして、神様とでもいえば、俺たちがビビるとでも思っているのか? そんなんじゃ甘いよ?」

「何?」

「ふっきゅんきゅんきゅん……俺たちゃなぁ、神だろうが何だろうが、悪党はぶっ飛ばすんだよ」

「神である、この私を……悪党だと? 勘違いも甚だしい。神こそが正義。私が白といえば、黒も白になるのだ! おまえ達下等生物は、それすらも理解できぬのか!?」


 ここで、ユウユウがクスクスと笑いを漏らした。どうやら、堪える事ができなくなったようだ。


「何がおかしい、女っ!」

「だって、ねぇ?」

「うん、あなたを理解したら、私たち終わってるもん」


 ユウユウに話を振られたリンダは、にたりと黒い笑みを浮かべた。その左頭部からはメリメリと音を立てて黄金の角が生え出てきたではないか。

 同様にユウユウの右頭部から黄金の角が生え出てきている。そして放たれるのは度し難い負の力。この力をまともに受ければ、ただでは済まない。


「ぐ……!?」


 アポロンは陰の力を、強固な自尊心で堪えた。神が下等生物に膝を折るなどあってはならない、そんな傲慢さが彼の意識を保たせた。


「ぶっちゃけ、どうでもいのよ。あなたが何者であろうと」

「でも、しっかりと落とし前はつけてもらうよ?」


 二人の少女が無造作に歩み寄る。対するアポロンは、懐にから取り出した小瓶を迫り来る二人に突き付ける。それを目の当たりにしたリンダとユウユウは、ピタリと歩みを止めた。


「ふふ、これがなんだか、理解したようだな?」


 二人は太陽神アポロンを忌々しく睨み付けた。


「桃力……!」

「そのとおりだ! 神が桃力を! 手にする時が来たのだ!」


 アポロンが手にしていた物は、月の神桃の樹から奪い取った大量の桃力であった。

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