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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第二章 身魂融合 命を受け継ぐ者
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71食目 ツツオウ

 俺とムセルが次なる戦いに闘志を燃やしていた頃、ひと試合を挟んでライオットとツツオウの名が呼ばれた。

 ついに彼らのデビュー戦となったわけだ。矢鱈滅多らに気合を入れまくるライオットであるが、実際に戦うツツオウはどこ吹く風。盛大に大あくびを炸裂させて観客たちに笑われている始末。大丈夫か、おまえら。


 というか、もはや心配しか湧き出てこない。ライオットはツツオウはやればできる子、などと言っていたが、どこからどう見ても、ただのにゃんこです。本当にありがとうございました。


 レフリーのお姉さんに促されて、ライオットはツツオウを特設リングに上げる。

 そして、速攻で丸くなるツツオウ。その恐るべきブレの無さに、俺とプルルは白目へと移行。

 それは、恐るべき胆力なのか、それともこれから何をするのか全く理解していないのか。

 百二十パーセント後者だと思われるので、俺はそっと他人の振りを敢行。この判断は正しいだろう。俺は悪くぬぇ。


「シシオウ、起きろ! これから試合だぞ!」

「にゃ~ん?」


 血気盛んな主とあまりにマイペースなホビーゴーレムの姿に観客たちは温かな眼差しを投げかける。これからバトルをするような雰囲気ではないことはお判りいただけたであろうか。


 もう、試合はしなくてもいいんじゃないのかな?


 それでも、ライオットの必死の説得に応じ、ツツオウはやれやれと立ち上がった。

 そして、表情をきりっとするも、まったく凛々しくない点について。


「よし、凛々しいぞ!」

「にゃ~ん!」


 おめぇの目はどうなってんだぁ? 一度、俺が、がっつりと治療してやんぞ?


 そんなこんなで、軽い説明の後にバトルが執り行われる。相手のホビーゴーレムは既にリングインしており、お行儀よく待機していた。


 それに比べて、このにゃんにゃんズときたら……だめですね。


「それでは、ツツオウ? 対ファンタデュの試合を始めます」


 ざわ……ざわ……。


 いや、うん、分かります。シシオウじゃなくて、ツツオウって呼んだもんな。


 そして、一瞬のための後に会場は大爆笑に包まれた。観客たちは口々に言う、自分たちも同じ失敗をした、と。

 特に大人たちは自分の失敗談を誇らしげに子供に聞かせるのだから困ったものである。


 そして、自分のホビーゴーレムの名がシシオウではなくツツオウになっていた事実を知ったライオットは床に崩れ白目痙攣状態になっている。


「ふきゅん、まぁ、その、なんだ……生きろ」

「ちっくしょぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ハッスルボビーの中心で一生の不覚を叫ぶおバカにゃんこ。だが、無意味だ。


「くそっ、でも、こいつはあくまでシシオウだ! それは譲れない!」

「あぁ、うん。いいと思うよ」


 そして、このプルルの優しい微笑である。かえって大ダメージになってしまった、と思うのだが気のせいであろうか。


 あ、ダメだ。ライオットのヤツ、吐血しやがった。ヒールでもかましておくか。


「ちょっと! いつまで漫才をしているのよ! こっちはずっと待ってるのよ!」

「あっ、スティさん。もう少し待ってくださいね。


 と、ここで、あまりの流れの悪さに苛立ちを募らせていたライオットの対戦相手の少女がぷりぷりと怒り出す。当然といえば当然だ。


 彼女はきれいな銀髪をツインテールで纏めている気の強そうな少女だ。

 年の頃は十歳といったところであろうか。何やら軍服だかパイロットスーツだかわからないが、一般的な服装をしていないのが印象に残った。


 ひょっとして、コスプレであろうか。そして、その背後に、何故かオタク青年の勇者タカアキの姿がはっきりと見える。黒幕かな?


「では、改めましてツツオウ対ファンタデュの試合を始めます。ゴーレムファイト、レディ~ゴゥ!」


 ぐだぐだな流れのまま、ライオットとツツオウの初めての戦いが始まった。

 そして、ツツオウはさっそく主の命令を無視。困惑する主をほったらかしてリング上を駆け回る。戦う意思は全くないもよう。


 尚、ライオットのゴーグルはなんの役にもたっていない。そもそもがツツオウのゴーレムコアに不具合が発生しており、ゴーグルの命令を受け付けていないのだ。


「っだぁぁぁぁぁぁぁっ! 全然いうこと聞かねぇ!」

「やっぱ、あの時にゴーレムコアを壊しちまったからなんだろうなぁ」

「僕でもコアをいじるのは怖いよ。こうなったら、ゴーグルで命令するよりも声で訴えかけた方がいいと思うよ」


 というわけで、ライオットのみが超アナグロ操作となった。果たして、おバカにゃんこは、天然にゃんこを御することができるのであろうか。


「シシオウ! 攻撃だ!」

「にゃうん?」


 ダメみたいですね。


「ふざけないで! そっちが真面目にやらないのなら、もう終わらせてあげるんだから!」


 怒りん坊なスティは自分のホビーゴーレムをツツオウにけし掛けた。

 彼女のホビーゴーレムは外見的にカブトガニを彷彿とさせる。そして、それがふわりと宙に浮いた件について。


「ふきゅん!? 飛んだだとっ!」

「スティライーザの大型ホビーゴーレム、ファンタデュは固い装甲と耐久力、そして浮遊能力が特徴なんだよ。大きな大会で数度、優勝も果たしている実力者だね」

「なんか、俺たち、実力者ばかりにぶち当たってないか?」

「ランダムに対戦相手が選ばれるから仕方がないよ」


 俺は、公平ではあるが情け容赦のない抽選を心から呪って差し上げた。


 一方の試合はというと、ファンタデュなる大型ホビーゴーレムが色とりどりの光弾をこれでもか、とばら撒いている最中だ。

 しかし、それらが一発もツツオウに命中していないという点について。しかも、ツツオウは走り疲れたのか、その場に丸くなってまったりとしている始末。


「きぃぃぃぃぃぃっ! バカにしてっ!」

「シシオウ! 回避ばかりじゃなくて攻撃だ!」

「にゃふん」


 ライオットとツツオウのコントにスティちゃんが加わり、コントは危険な領域へと突入する。バトルとはいったい何だったのであろうか。


 だが、業を煮やしたスティちゃんが戦法を切り替える。ファンタデュの重装甲でツツオウにぶちかましを仕掛けてきたのだ。

 小柄で耐久力の欠片もなさそうなツツオウでは、ファンタデュの体当りを受ければ最悪再起不能になることが想定される。

 流石のライオットも、これには慌ててツツオウに回避するように命じた。


「にゃ~ん?」


 あ、ダメだ。こいつ、全然理解していねぇ。


 迫るファンタデュ、首をかしげるツツオウ。頭を抱えるライオット。見ている分には面白いが、身内のピンチにいつまでもニヤニヤしているわけにはいかない。


「ふきゅん、ツツオウ! なんとなく回避して差し上げろ!」

「にゃっ!」


 なんということでしょう、ツツオウは主であるライオットの言葉は理解できないものの、俺の言葉は理解を示したではないか。


 これは、いったいどういうことであろうか。珍獣は、珍獣の言葉を理解して……?


「あ~、名前だよ。ライオット、ちゃんと名前で命令してあげるんだ」

「さっきからしてるじゃねぇか」

「その子はシシオウじゃなくてツツオウなんだよ」

「うぐぐ……な、なら!」


 ライオットは試合中にもかかわらずツツオウに、おまえの名は【ツツオウ】だが【シシオウ】でもある事を熱く説明した。

 無論、そのやり取りにスティちゃんは激おこ、ファンタデュも困惑した。


「にゃうん」

「おぉ、分かってくれたか!」

「えぇ、あんたらがヴァカだって事が分かったわ!」


 恐ろしくグダグダになってきた。観客たちも、いまだかつてない謎のバトルにどう反応したものか悩んでいるもよう。たぶん、笑えばいいと思うよ。


「ぶっ飛ばしてあげる! そのふざけたホビーゴーレムをね!」

「シシオウ! 奴の上に飛び乗れっ!」

「にゃ~ん!」


 再度、ファンタデュがツツオウに対して体当りを仕掛けてきた。速さはそれほどでもないが、その質量差から当たればツツオウはひとたまりもないだろう。

 加えて宙を浮いているがためにファンタデュにはリングアウトも適用されない。攻撃手段が肉弾戦のみのツツオウはどう足掻いても勝機は見いだせないはずだ。


 しかし、ライオットは迫りくるカブトガニの背にツツオウを乗らせた。身が軽いツツオウは意図も容易くファンタデュの背に飛び乗ることに成功する。


「こ、このっ! 降りなさいよ!」

「にゃ~ん!」


 だが断る。ツツオウはそう言っているかのように、がっちりとファンタデュにしがみ付いて離さない。それが、スティちゃんを更に立腹させてゆく。


「こうなったら……ファンタデュで押し潰してやる!」


 え、マジかよ、とファンタデュが困惑したかのように思えた。きっと気のせいではないはずだ。


 怒りに我を忘れた彼女はファンタデュを回転させてリングに落下。背に張り付いたツツオウをリングで押し潰さんとした。

 無論、これが決まればツツオウは短い生涯を終えることになる。だが、ライオットはまだ指示を出さない。


「ふきゅん、ライ!?」

「まだ……まだだ……今っ! シシオウっ!」

「にゃっ!」


 ライオットの声に反応しツツオウがファンタデュの背から退避した。意外と力強い走りに驚く。

 やがて、ガシャンという鈍い音と共にスティちゃんの悲鳴が響いた。ファンタデュは、その重装甲がゆえに自爆によるダメージが大きく、そのまま戦闘不能へと陥ってしまったのである。

 あまりにも迂闊な行動であった、としか言いようがない。


「しょ、勝者ツツオウ!」


 まさかの勝利。ツツオウは仰向けになってピクピクと痙攣しているファンタデュの腹の上に乗り勝利を告げる咆哮を上げた。


「にゃ~ん!」


 その鳴き声に停止していた会場が再び動き出す。あえぇぇぇぇなんで、そんなばなな、俺たちは驚くことを強いられているんだ、などという叫び声が聞こえる。それも仕方がないというものであろう。

 こんなわけのわからないにゃんこが、優勝経験もあるホビーゴーレムに勝利してしまったのだから。


 でも、俺に言わせてみれば、だいたいゴーレムマスターが全面的に悪い。冷静さを欠き過ぎである。


 戦場で冷静さを失ったヤツは真っ先に死ぬって、それ一番言われてっから。


「うえ~ん! 私のファンタデュが~!」


 スティちゃんは哀れな姿になった自分のホビーゴーレムを抱きかかえて会場を後にした。


 うん、哀れとしか言いようがないな。


「よくやったな、シシオウ」

「にゃ~ん」


 どうやら俺たちは思い違いをしていたらしい、ツツオウは賢いにゃんこだったのだ。そして、おバカにゃんこはライオットだけだ、ということが判明した瞬間でもある。


「いやはや、まさか勝ってしまうだなんてねぇ。これだから、ゴーレムマスターズは面白いんだよ」


 予想外の勝利にプルルも興奮状態にあった。そして、返されたカードに刻まれたポイントを眺めるライオットには笑顔が。

 俺にもポイントが入っているが、ライオットのよりかは遥かに少ない。


「次を勝てばいいじゃないか。きっと、食いしん坊とムセルなら勝てるさ」

「ふきゅん、そうだな。慰めでも嬉しいんだぜ」


 プルルに元気付けられた俺はムセルと共に初勝利を誓う。そんな俺たちに調子づいたライオットが、これでもかとどや顔を炸裂させてきた。

 腹が立ったので目潰しを喰らわせてやることにする。これが空手の奥の手だ。


「めがぁぁぁぁぁ、めがぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ちょっ!? 流石にそれは酷いんじゃないのかい?」

「俺たちの傷心に塩を塗ったくるヤツが悪いのだぁ」


 俺の怒りのほどが理解できたライオットは大人しくなった。どうやら反省したもよう。


「おぉ痛てぇ。悪かったよ」

「しっかり反省するんだぞぉ。乙女じゃないけど乙女心を傷つけるとそうなる」

「頭痛が痛い、みたいな言葉だねぇ」


 と、ここでプルルも試合に参加登録していたのか名を呼ばれた。彼女は何度も試合経験があるがイシヅカにとっては初試合である。


 だが、試合はあまりにも呆気なく終了した。イシヅカに突撃してきたメカメカしい中級ホビーゴーレムを、プルルはカウンターの要領で平手打ちさせたのだ。

 そのイシヅカの一撃は、相手の突進攻撃もあって威力が倍増、一撃で相手を戦闘不能へと至らせた。


「ふぅ、腕の方は鈍って無いようだねぇ」

「ふきゅん、凄すぎるんじゃないのかな?」

「プルル、おまえ、目がいいな。何か武術でも習っていたのか?」

「んふふ、さぁね。女の子は秘密が多いのさ」


 ゴーグルを外しため息を吐いたプルルは年不相応な色気があった。将来はエロい娘になることであろう。


「ふふん、これなら大きな大会に出てもよさそうだねぇ」

「ふきゅん、大きな大会?」

「そう、世界一のホビーゴーレムとゴーレムマスターを決める大会さ。今から一週間後に予選大会が開催される」

「へぇ、面白そうだな」

「んふふ、これに出てみないかい?」


 プルルは俺に顔を近付けて妖艶にささやく。きっと、赤いシアもそこにいる、と。


「上等だるるぉ!? やってやんよぉ!」


 その名が、俺の闘志を強引に引き出した。あの雪辱を果たす機会を与えられる、というのだ。ここで、意気消沈するような繊細な精神など持ち合わせてなどいない。


「おっ? やる気十分じゃねぇか! よっしゃ、やるからには優勝以外認めねぇぜ!」

「あたぼうなんだぜ! がっつり、優勝して差し上げろ!」


 大会の名は【グランドゴーレムマスターズ】。通称【GGM】と呼称される。

 個人戦と三人一組のチーム戦があり、俺たちはチーム戦に参加することになる。


「ムセル、修理が終わったら特訓だ」


 俺の熱血宣言にムセルは右手を天に突きあげて応える。やるからには徹底的にだ。

 こうして、俺たちは打倒シアを掲げてGGMに挑戦することになったのだった。

2019年9月23日 修正。

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― 新着の感想 ―
[一言]  なんかダンボールの中で戦う小人を彷彿とさせる(・∀・)
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