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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
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706食目 マイリフ地獄門

 はい、引き続き私です。今日もトレーニング。真夏の太陽が容赦なくて焦げちゃいそうです。

 トレーニングは順調そのもの。これに加えて、今ではフィリミシア郊外の野外訓練場にて本格的な戦闘訓練も追加しています。もう置き物だなんて言わせないんですからね。


「見事な死体だと感心するがどこもおかしくはない」

「ひでぶぅ」


 はい、勝てる気がしません。エルティナが言うように、私は無様な遺体でございます。

 そもそも、なんで私の対戦相手がことごとくトップクラスの戦闘能力を持つ者たちばかりなんですか? これは虐めですか? 虐めですね分かります。


「ふきゅん、やはりプルル相手では、何もできないまま終わるな」

「これでも、かなり手加減してるんだけどねぇ」


 そもそもが、ラングステン学園に入学した時から戦闘を繰り返していた彼ら。そのキャリアは実に十年以上、しかも大きな戦いを幾度も乗り越えてきている猛者の中の猛者だ。


「か、勝てるわけがない。もうおしまいだぁ……」


 どこぞの野菜王子のように、ヘタれるのは仕方のないことだと思います。私は悪くぬぇ。


「んじゃ、死に直面することで何かに目覚める、に期待してモルティーナにやってもらおうか」

「おあ~、いいんすか? 死んじゃっても知らないっすよ?」


 どういうことでしょうか? モルティーナはどちらかというと非戦闘員側です。彼女と戦っても死ぬイメージはありません。

 それとも、それほどまでに私が弱いという事でしょうか? 極めて遺憾です。


「不思議そうな顔をしてるなぁ。ま、戦えばすぐに分かるだろ」


 そんなわけで、モルティーナとの一騎打ちです。彼女は動きが緩慢なので、私の方が先手を取る事が可能でしょう。ここいらでコンバットマイリフができることを証明しちゃいましょうか。


「んじゃ、始め」


 エルティナの開始の合図と共に、一斉にモモガーディアンズメンバーが、その場から離れてゆきます。なんだか嫌な予感がしますね。でも、今は目の前の相手に集中しましょうか。


「おあ~、いくっすよぉ」


 とてとて、とモルティーナが女の子走りで接近。物凄く遅いです。私は獲物であるマジックロッドを構え迎撃の体勢に入りました。


 このマジックロッドは攻撃魔法の威力を三割増しにする優れものです。私との相性も抜群。それでも一勝もしたことがないんですがね。

 でも、ここで一勝をいただいて、勢いに乗りますよっ!


「ここで、攻撃魔法を……って、えぇっ!?」


 なんと、そこには土下座をするモルティーナの姿がっ。ひょっとして、私との実力差に気が付いちゃったかな? うふふ。



 とぷん。



「えっ?」


 モルティーナの土下座、それはほんの僅かな時間でした。次の瞬間、彼女は地面の中に潜り込んでしまったのです。それも、水の中に入り込むような感じで、するりと姿を消してしまいました。


「おいぃぃぃぃっ!【来る】ぞぉっ!」


 遠くからエルティナの警告。また上からでしょうか?


「ぎゅいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 衝撃、巻き上げられる身体。上下が逆になる視界。あぁ、やっぱり上からじゃないですか。やだ~。


 私の視界に映るのは体長二十五メートルもの超巨大土竜の姿。これが……モルティーナの正体。化け物じゃないですかしぬ~。


「ぐえっ!?」


 潰れたヒキガエルのように地面に激突。それでも生きてる私は偉い。すぐさま立ち上がり、逃走を開始。まともになんてやってられない。


「無理無理無理っ! 何かに目覚める前に死んじゃうっ!」

「ぎゅいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 大地を揺らしながらこちらに突進してくる超巨大土竜。そういえば、ラングステン英雄戦争でチラリと目撃した記憶が、今更ながら蘇ってきました。レポートと同時進行、厳しかったなぁ……。


「いやぁぁぁぁぁぁっ!? 走馬燈っ!?」


 全速力で逃走を試みるも差はどんどん縮まってゆきます。私、だいぴんちっ!


 こんなのに魔法を放ったところで、蚊ほども効きはしませんでしょう。それに立ち止まったら死にます。えぇ、轢き殺されてしまうでしょうとも。質量の暴力です。


 その超巨大土竜が跳躍した件について。私の真上を取られました。お終いです。



 ズウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンっ!



「あぁ、私、死んだっ。先立つ不孝を許してね」

「まだ死んでないですわよ、マイリフ様」


 腰を抜かした私の頭上には、巨大土竜と化したモルティーナのもこもこのお腹が間近にありました。そして、跳んできた彼女を片手で支える少女は、私の影から上半身だけを出しています。ちょっとホラー。


 彼女の名はブランナ。エルティナの下僕を名乗る吸血鬼です。


「モルティーナ、太った?」

「ぎゅいっ!?」


 しゅるしゅる、と巨大土竜は縮んでゆき、やがて人型へと戻ります。そして、顔を真っ赤にさせて怒るモルティーナの姿が。

 女の子のお腹を掴んで太ったと指摘するのはあまりにも残酷でしょう。吸血鬼は残酷。流石、吸血鬼は残酷。大切なことなので、二回言いました。


「太ってないっすよっ! ほら、ここが成長したんすよっ!」

「胸以外も増量してるでしょう?」

「ぎくっ」


 ブランナに鋭い指摘をされたモルティーナは、そそくさと地中に逃げ込みました。取り敢えずは助かったことに安堵します。

 まさか、一番危険度が少ないと思っていたモルティーナが、ここまで危険だったとは思いませんでした。どうりで、ラングステン英雄戦争の圧倒的な戦力差をひっくり返すことができたわけです。

 もう鬼が可哀想になってきました。


「地中だと追いかける事もできないですわ。相変わらず反則的な個人スキルですわね」

「個人スキルですか?」

「えぇ、モルティーナの個人スキルは【泳】。あらゆる場所を泳ぐことができますわ。それこそ空中ですら」


 なるほど、その個人スキルを利用し、巨大土竜状態で地中を泳ぎながらヒットアンドアウェイを繰り返していたのでしょう。どうりで姿をあまり見かけなかったわけです。


「相手を地中に引きずり込む戦法……ですか?」

「よく分かりましたね? 引きずり込まれたら最後、身動きが取れないまま窒息死ですわ」

「ふ、震えてきましたっ」


 とんでもないダークホースがいたものです。そして、それを知っていて戦わせるエルティナに、ぷりぷりと怒りがこみ上げてきました。


「まぁまぁ、こうなる事を予想して、マイリフ様の影に私を潜り込ませたわけですので」

「それでも酷いですっ」


 というわけで、エルティナに抗議の末、食後にパフェを付けることを取り付けました。やったね。


「ふきゅん、モルティーナでも眠っている力に目覚めなかったか」

「目覚める前に死にます」


 流石に、この方法では無理だ、と悟ったエルティナは次の手を打ってきました。


「仕方がない、物理的に無理なら精神的にやってみよう」

「もっと嫌な予感がしてきました」


 というわけで、次はルドルフさんと、みっちり魔族戦争時のお話を聞かされました。

 えぇ、それはそれは凄惨なお話でしたとも。鬱だ死のう、だなんて生温いです。


「おごごごごごごご……」

「エルティナ、これ以上はマイリフ様が壊れてしまいます」

「むむむ、意外と耐性が無いな。仕方がない、俺が変わろう」


 というわけでエルティナにバトンタッチ。少しはましになるでしょうか。


「んじゃ、真・身魂融合時の心の痛みを味わってもらおう」

「……えっ?」

「大丈夫、俺もそれで覚醒していったから。絶対に目覚めるぞぉ」

「誰か助けてっ!」


 冗談ではありません、真・身魂融合は別名【廃人製造機】です。絶大な力を得るか、壊れるかの二択。しかも、成功率が一割にも満たないという悪魔の儀式。

 更にその際の心の痛みだけを体験させるなど鬼畜の所業だ。発狂待ったなしである。


「ほらほら、大丈夫、珍獣の真・身魂融合だよ!」

「一番駄目なヤツじゃないですかやだ~!」

「おいぃ、まぁて~。脳に痛みを、苦しみをダウンロードさせろぉ」

「おにっ! 鬼が追いかけてくるっ!」

「桃使いなんですわ、これが」


 こうして、本日二度目のランニングが開始されました。その距離、42.195キロメートル。


 はい、フルマラソンでした。げふぅ。

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