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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
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704食目 マイアス・リファインの愛称

 というわけで、厨房なう。用意する物はクッキーの材料、そして甘みを抑えたジャム。

 なんとも簡単な紹介であるが、作るクッキーも簡単な物だ。焼いたクッキーの上にジャムをちょこんと載せて完成である。


「食いしん坊にしてはシンプルだね」

「シンプルイズベスト、という名言を知らないのかぁ?」


 三時とはいえ、エドワードの仕事はまだまだ残っているはず。手軽に食べれて腹持ちするおやつが丁度良いのだ。そして、紅茶に合うと喜ばしい。

 最近のエドワードは俺が淹れた紅茶以外は認めぬぅ、といって憚らない。まぁ、紅茶の淹れ方はレイエンさん仕込みであるので自信を持っている。


 そうそう、レイエンさんだ。やはり体の方がもうダメみたいであるらしい。彼を介護するペペローナさんが言っていた。俺も彼女と同意見である。

 一週間前に顔を見せに行ったが、骨と皮だけの彼の姿を見るのは苦痛を伴う。いくら俺が森羅万象の力を使えるとはいえ、それを俺の満足を満たすために使ってはならない。

 もどかしくはあるが、それは俺自身が決めたことだ。そして、レイエンさんもそれを望んではいなかった。


 彼曰く、自分だけが特別であってはならない、と。彼は自分の死を、既に受け入れていた。

 それは自然なことであり、誰しもに訪れる次の生のための通過儀礼である、と語った。


 レイエンさんは、身体は痩せ細っても、その心は決して痩せ細る事はなかったのだ。


「どうしたんだい? 淹れた紅茶を見つめて」

「ふきゅん? いや、なに、なんでもないさ」


 しんみりしてしまった俺は、気を取り直してクッキー制作に取り掛かる。

 とはいえ、クッキーなど割と簡単だ。売り物にするわけではないので、ちょっとくらいヘチョイ形の物ができたとしても気にしない気にしない。適当な大きさに整えてオーブンにぽいっちょだ。


「やってますね。エドワード陛下は、そろそろ休憩に入るようですよ」

「ふきゅん、分かったんだぜ、ルドルフさん」


 オーブンに生地を投入したところでルドルフさんが厨房にやって来た。

 てにする調理器具を見るところ、作る物はホットケーキのもよう。その鮮やかなお手並みは俺も思わず見とれてしまうほどである。


「おや? ミルクが切れてますね?」

「ん? はて、買い置いてなかったのかな? 俺の〈フリースペース〉の中は……ありゃ、こっちもないんだぜ」

「僕の方にもないねぇ」


「どうしたんだ?」

「いや、厨房のミルクが……犯人はおまえかっ」


 そこには口の周りを白く染め上げた、おバカにゃんこの姿が。なんで、こいつはいつもこうなんだぁ。


「……仕方ありません、ミルクは自前の物を使います」


 流石に見事だと感心するがどこもおかしくはない。

 彼は彼女となってパイパイからピューとミルクを生産。新鮮な牛乳が爆誕した。


 いいのか、それ?


「うっはぁ、凄い量の母乳だね」

「暫く搾ってなかったので、少し痛かったです。ものぐさはいけませんね」


 流石、自分の娘を自前の母乳で育てたお父さんは格が違った!

 何を言っているか分からなくなるが、事実なのでどうしようもない。現実は空想よりも奇々怪々である。


「ふきゅん、クッキーが焼き上がったんだぜ」

「こっちもホットケーキ完成です」


 俺たちは焼き上がったクッキーに甘みを抑えたジャムを載せてゆく。

 対してルドルフさんは焼き上がったホットケーキの上に、ホイップクリームをたっぷりと載せて完成となった。 


「これが、ルドルフさんのおっぱいクリームか……胸が熱くなるな」

「味見してもいいか?」

「おいばかやめろ、ライが味見とかシャレにならんでしょ」


 そんなわけで、ハングリーにゃんこは嫁に任せ、俺たちは完成したおやつを持って、そそくさと退散したのであった。

 これが一番いいと思います!


 トレイにクッキーと紅茶を載せてエドワードの執務室へと向かう。ハイヒールはやはり慣れないから、サンダルを履きたいところである。

 でも、王妃は見た目が重要だから我慢しなくてはならない。王妃は辛いよ、およよ……。


「これは、これは、エルティナ王妃様。エドワード陛下にですか?」

「うん、すまないけどドアを開けてくれないかな」

「畏まりました。陛下、エルティナ王妃様がお参りです」


 と衛兵が声を掛けると部屋の中から、がたっ、という音が聞こえ、けたたましくドアが開かれた。


「きたっ! エル来たっ! これで癒されるっ!」

「おいぃ……衛兵君が哀れな姿になっているぞぉ」


 哀れ、衛兵君は開け放たれたドアにふっ飛ばされ、ケツプリ土下座状態で廊下に転がっていた。


「いやな……事件だったね」

「現実逃避はいけない」


 取り敢えず衛兵君を〈ヒール〉で癒した後に、ようやく部屋の中に入る。部屋の中は書類の山で埋め尽くされていた。これで三分の一であるというのだから、どれだけヤヴァイかは想像できるであろうか。

 残りの三分の二は、モンティスト財務大臣と、ホウディック防衛大臣が血反吐を吐きながら受け持っている。ウォルガングお祖父ちゃんも働いてどうぞ。


「これは酷い」

「うん、これでも半分以上は終わったんだよ?」


 国王になってからは、エドワードは紙との戦いであった。国王が優雅な生活を送れるなど幻想ぞ。

 実際はこういった認可や確認で忙殺されて、まともに自分の時間を持てやしないのだ。国に捧げる生贄、それが国王なのだ。


「これじゃあ、会議に間に合わないな……俺も手伝うんだぜ」

「助かるよ、エル。休憩が終わったら確認作業を任せるね」

「了解なんだぜ」


 もしも、のために習っておいてよかった簿記。スキルは身を助けるって、それ一番言われてっから。

 というわけで、俺は簡単な書類からバリバリ片付けてゆく。エドワードはその逆だ。俺が判断しかねる書類から片付けてゆく。二人が判断に難儀するものは他と分別、最後に知恵を出し合って解決させる。


 暫くは、カリカリとペンの音だけが部屋のBGMであった。しかし、集中力が切れ出してくると作業効率は上がらないというもの。

 そこで、ドクター・モモに作っていただいた音楽再生機に、トウヤから転送してもらった音楽データ入りのUSBをぷすっと差し込み音楽を再生。中身は知らない。


「音楽を聞いて荒んだ心を癒すんだぜ」

「うん、それは名案だね」


 音楽が再生された。しかし、それは荒んだ心を癒すには程遠いものであった。


「〇神〇生の戦闘音楽じゃねぇかっ!?」

「なんだか、テンションが上がってきたよ」


 トウヤのヤツ、なんでまたこんな片寄った曲ばかり入れてんだぁ!?

 やっべ、ⅡのボスBGMじゃねぇか! うっひょう! テンション上がってきた! 脳汁が漏れ出す!


 こうして、トウヤのお陰もあってか、超エキサイティング状態で書類の山は姿を消してゆく。そして、仕事が終わった頃には精も魂も尽きた夫婦が転がっていたとさ。






 フィリミシア城中央会議室。そこにはマイアス・リファインとモモガーディアンズの面々が集合していた。


「それでは、本日の議題は、マイアス・リファインの愛称を決めようぜ、となるんだぜ」


 ホワイトボードに議題を書き、早速マイアス・リファインの愛称を募る。事前にモモガーディアンズには白紙を配っておいたので、それに愛称を書き渡してもらう方法を採用した。

 その愛称をホワイトボードに書き込み、自分がいいと思った愛称に投票。投票数が一番多かったものをマイアス・リファインの愛称とする。


「ふきゅん、どんな愛称が飛び出して来るのか、楽しみなんだぜ」


 というわけで、紙を回収。紙に書かれた愛称をホワイトボードに書き始める。そして、開幕から白目痙攣状態へと移行した。


 ※ デビル・マイアス ※


「誰だぁぁぁぁっ!? 女神をデビルにしたやつはっ!?」

「あぁ、俺だ」


 やはり、というかなんというか、ガイリンクードさんでございました。元とは言えデビルは無いだろう、デビルは。

 これにはマイアス・リファインも苦笑いである。


 気を取り直して二つ目。


 ※ 乳神マイアス ※


「ロフト、くるるぁっ!?」

「何故ばれたっ!?」


 ばれないわけがないだろう。寧ろ、ばれないと思っていたことが驚きだよ。

 マイアス・リファインもおっぱいが大きい。分類的には美乳にカテゴリーされるであろう。だが、そんな愛称を授けられたら堪ったものではないはずだ。


 嫌な予感をしつつも、次なる愛称をホワイトボードに書き込む。


 ※ スケベ合体エロ女神マイアス・地獄乙女編 ※


「これはもう頭痛が痛いってレベルじゃねぇぞ」


 もういい、いちいちツッコんでいたら尺……もとい時間が足りん。ガンガン書き込んでいくしかない。

 というわけで、心を無にして手を動かす。


 ※ ヒップゴッデス ※

 ※ たれ目 ※

 ※ 妖怪くっちゃね ※

 ※ ビューティフルくびれ ※

 ※ ZZマイアス ※

 ※ マイリフ ※

 ※ しりほくろ ※

 ※ パフェ三杯 ※

 ※ 白髪 ※

 ※ いあいあはぁすたぁ ※

 ※ ぷにぷにぽんぽん ※

 ※ むっちりだいこん ※

 ※ マイアス重装型 ※

 ※ スアイマ ※

 ※ 半裸 ※


「教えてくれ、マイアス・リファイン。俺は後、いくつ愛称をホワイトボードに書けばいい? エドは答えてくれない」

「ぶわっ」


 そろそろ俺も精神的にきつい。まともな愛称が出てこない事は予想していたが、ここまで来るとマイアス・リファインに恨みでもあるのではないのかと錯覚してしまう。

 マイアス・リファインも、あまりに酷い愛称ばかりであったため、顔を手で覆って現実逃避を始めてしまうほどだ。これは酷い。


「これほど苦痛を伴う作業は久しぶりなんだぜ」

「なかなかにセンスが溢れる愛称が揃ったものだね」

「あぁ、眼が腐るな」


 その中から、比較的にまともな物を俺の独断でピックアップする。

 流石に、※ おおっと! ※、は採用できない。心臓に悪いから。というか、誰だこれを書いたヤツは。


「んじゃ、この中から選んでくれ」


 ※ 白女神 ※

 ※ マイちゃん ※

 ※ マイリフ ※

 ※ ぷにアス ※

 ※ ゴッドマイアス ※

 ※ デビルマイアス ※


「デビルが入ってるじゃないですかやだ~!?」

「気にするなっ」


 語呂がいいから、ついつい入れてしまったのは内緒だ。というか、俺的にはマイでいいんじゃないかと思うのだが、それはマイアス・リファインの大切な名前なので愛称にはできない、ときっぱり本人から断言されてしまい不採用となっている。


 再び白紙を配り、いいと思った愛称を書き込んでもらい回収。ホワイトボードに投票数を書き込む。投票数は四十。ヒュリティアの代わりにルドルフさんが投票に加わる。

 さてさて、どうなることやら。


「それじゃあ、開票するんだぜ」


 ※ 白女神 ※     5

 ※ マイちゃん ※   8

 ※ マイリフ ※    9

 ※ ぷにアス ※    6

 ※ ゴッドマイアス ※ 4

 ※ デビルマイアス ※ 8


「デビル、あぶなぁぁぁぁぁぁいっ!?」

「殺意たけぇな。まさかの僅差だったんだぜ」

「そして、ゴッドが一番投票数が低いというね」


 こうして、マイアス・リファインの愛称は【マイリフ】という無難なものとなった。


 考案したのはフォクベルト。マイアスのマイと、リファインのリフを組み合わせただけだという。

 しかし、彼の単純な発想はマイアス・リファインをデビルマイアスの危機から救ったのであった。


 うん、相変わらず酷い会議だったよ。ふきゅん。


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