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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
703/800

703食目 お散歩ビースト軍団~こわれる穏やかな午後~

 フィリミシアの穏やかな午後。俺はお忍びで城下町に繰り出す。お忍びという事から、俺はビーストモードで、ちょこまかとお散歩中である。

 エドワードと結婚して王妃になったことで、気軽に出歩くことができなくなったのはデメリットであるが、それもまた止む無し。


「ふきゅ~ん!」


 しかし、今の俺は珍獣だ、王妃ではない。したがってセーフ。


「ふっきゅんきゅんきゅん……この珍獣を阻む事などできぬぅ」


 というわけで、露店街で買い食いを堪能する。黄金の毛玉と化した俺であるが、決して食い逃げはしない。きちんとお代は支払う。

 手が使えない分、不便ではあるが、その代わりに長い耳が発達し過ぎて手のように動かせる。超便利。


 滑らかな生クリームと、ねっとりとした食感のバナナを包んだバナナクレープを堪能した俺は、顔に付いたクリームを野良ビーストにペロペロされつつ、次なる獲物を求めて店を物色する。


「美味しい、お好み焼きぁいかがっすかぁ!」


 あぁ、次はお好み焼き屋だ。珍獣は度胸、なんでも試してみるのさ。というわけで、餅チーズお好み焼きをチョイス。


 餅がお好み焼き専用ソースの味を引き立てまくり、蕩けたチーズがまろやかさを演出する。時折、顔を覗かせるブッチョラビのバラ肉のジュワっとした脂の美味いこと美味いこと。しかも、キャベツも標準装備。胃もたれ対策はバッチリだ。

 おっふぅ、こいつはヘヴィだよ、女子供にはお勧めできないね。


「うんまぁい。しかも、お腹に超溜まる」


 常人ならばな。しかし、俺は全てを喰らう者。満腹になどならぬぅ。


 やはり、野良ビーストたちのペロペロ攻撃を受けつつ、次なる獲物を探す。すると、一組のカップルを発見。ブルトンとグリシーヌのオークカップルだ。


「ふきゅん、これは後を付けざるを得ない」


 現在の俺は金色の毛玉、しかも野良ビーストたちに紛れ込んでいる。発見される確率は0.2%といったところであろう。激レアもんじゃぞ。


 ちょこまかと後を付ける、と二人はとある建物の中に消えていった。


「な、なにぃ……! あの建物はっ!?」


 珍獣は見た! ラブホへと消える若き二人! 謎の血痕! 二人に何が!? 獣たちが残す証拠に刑事たちはっ!? フィリミシアラブホテル電撃既成事実事件っ!


「……って、よくよく見たら、お花屋さんじゃないですかやだ~」

「おんっ」

「み~」


 恥ずかしくなった俺は一切を忘れ、野良ビーストたちとお散歩へと戻る。すると途中でヒーラー協会のビーストたちと合流し、我が物顔でフィリミシアを練り歩くことになった。


 このビースト軍団を止めれるものなら止めてみろぉ。


「ふきゅん? あの肉々しい姿は、ウルジェか」


 前方に巨女ウルジェを発見。どうやら、ショーウィンドに展示されている何かを見ているもよう。なんだろうかと、わんこによじ登って確認してみる。そして噴き出した。


 それはいわゆる【大人の玩具】であった。スイッチを入れると【暴れる】マーラ様といえばお分かりいただけるであろうか。

 というか、そんな物を堂々と展示するんじゃねぇよ。ばかちんが。


「う~ふ~ふ~。これをクラークさんの股間に装備すれば、いけますね~」


 ヤヴァイ、眼がマジだ。ウルジェはレズビアンだと聞いていたが、実は両方いける口であったらしい。そんな彼女に、ゴーレノイド・クラークは狙われているというわけだ。

 ある意味で、種族を越えた愛、といえないこともない。その狂気の顔がなければ。


「……そっとしておこう」


 俺は勇気ある選択をし、その場を後にした。触らぬ神になんとやらだ。






 再び散歩を再開。ジェフト商店の近くを横切る。


「あん、あん! いい! もっとちょうだい!」

「ふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 少し開いた窓からララァと思われる嬌声と、ダナンのものと思われる雄叫びが漏れ出ていた。

 獣状態である俺にはバッチリはっきり聞こえてしまっている。いや、獣状態でなくても聞こえるのだが。


「こわれるなぁ、穏やかな午後」


 穏やかな午後が台無しである。日が高い内から何やってんだ、あの二人は。


 気を取り直してお散歩再開。お日様の日差しが心地よい。時折、身体をプルプルさせてリラックス。俺がやると、それが軍団に伝染して一斉にぷるぷる祭りが開催される。


 プルプル繋がりなのか、そこにデイル夫婦が通りかかった。プルルには、俺の偽装は通用しない通用しにくい。だから、容易に発見されてしまうだろうな。


「おや、食いしん坊。お城を抜け出したらダメじゃないか」

「ふきゅん、俺はただの野良エルティナだ。エルティナ王妃じゃないよ」

「自分で正体をバラすスタイルかい」


 プルルに捕獲された俺は、彼女に散々モフられた後に御用となった。悔しいですっ。


「それじゃあ、フィリミシア城まで行こうか、ライオット」

「おう、買い物も終わったし、少し時間も空いてるからな」


 そんなわけで、二人と一匹はフィリミシア城へと向かう。途中で同じくフィリミシア城へと向かう聖女ゼアナと鉢合わせた。


「こんにちは、エルティナ王妃様」

「ふっきゅんきゅんきゅん……こんにちは。今の俺は一般的なビーストなんだぜ」

「まぁ、それならば、もふり放題ですねっ!」

「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん! ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!」


 哀れ、俺はマッスル聖女に、もみくちゃにされてしまった。腹筋がバッキバキに割れているゼアナにもふられたら、たちまちの内に身体が変形してしまうだろうがっ。


 なんとか拷問に耐えた俺は、白目痙攣状態を維持しつつ、フィリミシア城の門を潜る。


「あら、お帰りなさい。随分と早かったわね」

「ふきゅん、もっとゆっくりしたかったんだぜ」


 出迎えてくれたのは、たまたまそこを通りかかったマイアス・リファインだ。名前が長いので、そろそろ短縮して呼ぼう、という計画が持ち上がっており、今日の夜の会議でそれが決定する。

 恐らくは、際どい名前が大量に飛び出してくるであろうことが予想された。


「今日の会議の覚悟はできたか? 俺はできてる」

「なんで、今日の会議で覚悟をしないといけないんですか。私の愛称を決めるだけですよね?」


 マイアス・リファインはちょっぴり困り顔をする。やはり、元女神だけあって、この世のものとは思えないほどの別嬪さんだ。しかし、数時間後、この顔は白目痙攣状態へと速やかに移行することだろう。


 今のモモガーディアンズは、まさに混沌の申し子。カオス教団がスカウトしに来てもおかしくはない。

というか、昨日、兄貴が普通にスカウトしに来ていた。帰ってください。


「大丈夫、あの子たちが付けてくれる愛称ですよ」

「そのフレーズに危機感を感じざるを得ない」


 大丈夫〇〇〇〇の攻略本だよ、並にガバりそうだ。絶対にとんでもない落とし穴があるぞ。

 背中に冷たい物を感じながら、俺はビーストモードを解除。人型へと移行する。その際は必ず女豹のポーズを炸裂させるのだ。がお~。


「まぁ、セクシー」

「ふきゅん、それほどでもない」


 マイアス・リファインのお褒めのお言葉に、謙虚に対応する俺はラングステン王国の王妃だ。


 今にして考えたら、俺みたいなのが王妃って、どうなんだろうか? うん、考えるだけ無駄だな! 頭の隅にぽいっちょしておこう。


「さて、それじゃあ、今日の会議の準備でもするかな」

「おや、何か用意する物でもあったかい? 殆どの物は会議室にあったと思うけど」

「プルル、うちの連中が【愛称】なんて玩具を放っておくとでも? 放って置いたら、とんでもない愛称が延々と出続けるんだぜ」

「……あ~」


 プルルは少し考えて納得した様子だった。対してライオットは、ボヘッとしながら頭の上のツツオウとじゃれ合っていた。

 そこに今話題のルドルフさんが通りかかる。ピンク色の鎧だけでもセクシーに感じてしまうのは写真集の影響であろう。

 というか、今は普通に男の状態なんだが……こっちもエロいな。


「あぁ、探しましたよ、エルティナ。エドワード陛下に禁断症状が」

「まただよ。最近、酷くなってきたな、エドのヤツ」

「新婚ほやほやなのですから、そこは勘弁してあげてください。というか、エルティナは淡泊過ぎやしませんか?」

「エドは、まだ仕事中だろ? そこの分別はしっかりしてもらわないと」


 そう、仕事は仕事、いちゃいちゃタイムとは仕分けしなくてはいけない。癖になってしまうとエドワードのためにもならないのだ。

 何よりも彼の仕事は、多くの国民の明日を担うもの。それを疎かにするなどあってはならない。


「とはいえ、三時の小休憩のくらいは許してやるか」

「エルティナはしっかり者ですね。エドワード陛下が求めるわけです」


 ルドルフさんはそう言うと、感慨深く俺を見つめてきた。


「何か用かな?」

「ふふ、いえ、大きくなられましたな、と」


 彼の表情はあくまで優しかった。


 言われてみればルドルフさんとは、十年以上もの付き合いなんだよなぁ。そりゃあ、大きくもなるというものだ。

 というか、ルドルフさんが変わらな過ぎる件について。不老なのか?


「エルは、そういうところは厳しいよな」

「おや、ライオットも厳しくしてほしいのかい?」

「えっ!? いや、プルルはそのままでいてくれっ!」


 意地の悪い顔で、プルルは夫を弄り始める。流石は新婚、ちょっとした話題でいちゃつくプロフェッショナルだ。


「んじゃ、クッキーでも焼くとするか」

「あ、僕も手伝うよ」

「じゃあ、俺は味見役で」

「おいばかやめろ、クッキーが絶滅するっ」


 そんなわけで、俺たちはクッキー作りのために厨房へと向かうのであった。


 尚、聖女ゼアナとマイアス・リファインはデルケット爺さんの下へ、ルドルフさんはエドワードに報告をしに行った。ルドルフさんは報告後にこちらに来るとのことだ。


 さてさて、どんなクッキーを焼こうかな。

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