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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
702/800

702食目 午後三時は大惨事

 決戦まで、あと一年程度となった。それまでに、やるべきことは全部終えておかなければならない。生きて帰れる保証など、どこにもないのだから。


 そんな中ではあるが、青春を謳歌することも一つの選択である。見るがいい、このバカップルの巣窟を。あっちこっちでイチャイチャウッフンしてやがる。

 もちろん、既にゴールインしている者も他者の視線を顧みず、自分たちの世界にどっぷりだ。


「これがバカップルちからか」

「微笑ましい空間だね」

「エドは、あの空間を見て同じことが言えるのかぁ?」


 ただいま午後三時、フィリミシア城モモガーディアンズ本部のカフェスペース。そこでは陽の空間と陰の空間が明確に分かれていた。カップルが撒き散らす幸せオーラに満たされた空間が陽であり、それを妬む者が放つ嫉妬力で満たされた空間が陰の空間だ。


「おにぃ……」


 そして、その陰の空間でまったりと激甘コーヒーを堪能するバリバリクン。鬼を退治するモモガーディアンズ本部に鬼がいても、誰も気にしない辺り末期である。


「ぎぎぎ……憎い、カップルが憎い!」

「くそぅ、ロフトまで向こう側だとはっ! 許せんっ!」

「きゅ~ん、愛を取り戻せっ!」


 嫉妬連合の主なメンバーはオフォール、リック、キュウトだ。彼らはいちゃいちゃ組とは正反対の位置にて、嫉妬の炎で身を焦がしていた。その中間地点では恋愛に疎いメンバーと、カップル未満の面々がお茶を堪能している。


「なぁなぁ、女って必要な物が沢山あるんだろ? 教えてくれよ」

「ケイオックって女の子になっちゃったんだって?」

「あぁ、ほら」


 ケイオックは無造作にスカートをめくり股間を見せ付けた。確かにパオーン様は綺麗さっぱり消滅し、かわりに可愛らしい割れ目が顔を見せている。


「おいぃ、堂々と見せ付けるのはNG。ケイオックは恥じらいを持つべき」

「その言葉が、食いしん坊から出るとは思わなかった」

「俺は良いんだ、裸族だから。ケイオックはそうじゃないだろ?」

「ずるい、俺も裸族になるぞっ!」


 遂に素っ裸になるケイオック。しかし、フェアリーという種族からか、全裸が幻想的に見えてしまう。というか自然。


「ふむ、控えめな胸に程よい大きさの尻。いいスタイルだ」

「ひほっ、私たちのスタイルに似ていますわ。なんかもう、ペロペロしちゃいたい」

「ひえっ、お触りは厳禁で」

「ひほほ、現金で支払えばいいのね?」

「助けてっ!」


 ルーフェイの手の上に載り、自分のプロポーションをアピールしていたケイオックであったが、その傍には変態妹が座っており、即座に彼女の餌食にならんとしていた。


 おまえ、調子ぶっこいた結果だよ? 反省するべき、そうするべき。


「こら、ランフェイ。ケイオックは性別が変わってしまって不安なんだよ。もっと優しくてあげないと」

「ひほほ、なら優しく膜をぶちっとしてあげますわ」

「やめてっ、女の子で固定されちゃうっ!」


 ようやく危機感を覚えたのか、ケイオックは慌てて服を身に纏った。変態には近付くなって、それ一番言われてっから。


 服を身に纏った迂闊な妖精は、慌ててスラックの肩に飛び乗る。独り身のスラックは何故か嫉妬連合には所属せず、ロフトとアカネを静かに見守る立場を維持していた。

 理由は不明。問うても穏やかな頬笑みを返すだけに留まっている。なんというか、悟りを開いた、といった感じだ。


「スラック、助けてっ」

「好奇心は猫も殺すって教えただろ」


 どっしりと構えた姿は、その身体の大きさもあって山のようである。彼の変態行為がなければ、頼れる男、として女子に人気が出るであろう。実に勿体無い。


「ぷるぷる、しかし、皆さんは仲がよろしいですね」

「そうだな。だが、少々浮かれすぎている嫌いはある」


 シーマの頭の上でまったりとしているのはゲルロイドだ。シーマの方も最近は落ち着いている。恋に破れた事と大人になったことで精神が熟したのであろうか。

 ただし、彼女もまた変態に目覚めし者である。悲しいなぁ。


「ところで、メルシェたちは結婚しないのか?」


 俺は、ずびび、とアイスコーヒーをストローで吸いつつ、もじもじしているおケツ様に問うた。彼女は顔を真っ赤にさせながら答えた。


「け、けけけけけ、結婚っですきゃっ!?」

「どもりすぎだ。というか俺たちは既に準備して待ってるんですがねぇ?」

「じゅ、準備って!? で、でも、フォルテは……」

「ふきゅん」


 どうも、フォルテの方が乗り気でないようだ。彼は意外と心配性のようであり、結婚を決戦後にする腹構えのもようである。しかし、それでは、もし生きて帰れなかった場合、メルシェはどうすればいいというのだろうか。またはその逆もだ。


「後で後悔するよりかは、結婚してから後悔した方がいいんじゃないか?」

「メルシェは意地でも生き残らせますよ。ただ、俺は……」


 相も変わらず前髪が邪魔で表情が窺えない。だが、心なしか痩せた感じがする。いや、痩せたというか、なんと言えばいいのだろうか……そう、近い言葉で気配が【薄くなった】。


「なぁ、フォルテ」

「答えるつもりはないですよ」

「……ふきゅん」


 フォルテは意外と頑固者だ。彼がきっぱりとそう言ったなら、答えは返ってこないだろう。

 彼の持つ個人スキル……何度か目撃したことがあるが、アレは異常だった。トウヤも二度と使うな、と語気を強くして警告しているが、メルシェの危機の度に使用している。


 俺が思うに、彼の個人スキルは彼自身を削る【諸刃の刃】なのだろう。だとしたら、フォルテは決戦に置いて生きて帰るつもりすらないのかもしれない。


 メルシェの未来を護るために己の命を燃やし尽くす。それでいいのか、フォルテ?


「なぁなぁ、ゴードン。これやるよ」

「ん、なんだ、マフティ」

「ほら、おまえんちの本、ページ開かないのがあったろ?」

「ぬふぅ」


 やめて差し上げろ、ここでとどめを刺すとか悪魔だろ。流石、ボーパル兎は格が違った。


「ふきゅん? それルドルフさん写真集の三冊目か。よく手に入れれたな」

「行列に並んで買ったんだ。ラストの一冊だったんだぜ?」

「なんだろう、この複雑な気持ちは」


 頬を染めながらゴードンの顔色を窺う恋するマフティ。そんな彼女に対して頭を抱えるゴードン。

 マフティの事情を知っている俺としては、まったくもってニヤニヤせざるを得ない。元男としてはマフティを応援するところである。


 ただ、マフティは絶妙に男の部分がほんのりと顔を出している程度なので、それが原因で珍妙な行動に打って出ることが多々ある。

 よかれと思って行動した結果、ゴードンを困惑させる事など当たり前という有様。これには白目痙攣状態にならざるを得ない。


「中身見せてくれい……うおっ、開幕からドえらい姿だな、おい」

「どれどれ、ちょっ、これ凄いな」


 マフティと共に、ルドルフさん写真集の一ページめを拝見。そこには、にこやかに微笑む【スク水】姿の彼女の姿があった。


「ルドルフさんも相当慣れてきてるな。表情が自然だぁ」

「というかスゲェな、この着こなしとポージング。完璧にプロの仕事だ」


 俺たちの呟きを耳にした女子たちがわらわらと集まってきて、突如としてルドルフさん写真集の閲覧会と化す。

 尚、この写真集は既にプレミアが付いており、大金貨十枚もの値が付いている。日本円にして十万円。マジでヤヴァイ。


「ひえっ、攻め過ぎじゃないですか、このページ」

「セクシー過ぎて何も言えないわ」

「見えてる、見えてるっ!?」


 尚、ゴードンが所有するページが開かなくなったルドルフさん写真集は、現在では大金貨三十枚もの価値が付いている。やっちまったなぁ、ゴードン。


「これはもう、私たちも写真集を出すべきね」


 テーブルの上で手を組んでいたユウユウがギラリと目を輝かせた。この流れはヤヴァイやつだ、と認識した俺はすかさずカウンターを発動する。


「なら、言い出しっぺの法則でユウユウ閣下の写真集からな。頼んだぞ、実績のある茨ちゃん」

「ぐふぁっ!?」


 すぃ~っと〈フリースペース〉から、茨木童子の写真集【初版プレミア百五十万鬼円】を、チラッと見せ付ける。瞬間、ユウユウは吐血した。


「な、何故それをっ!?」

「ふっきゅんきゅんきゅん……何故だろうなぁ?」


 これはドクター・モモが持ってきてくれた、対茨木童子用の秘密兵器だ。内容はかなり際どい。

 素人丸出しの茨木童子が、危険極まりない姿で痴態を晒している、といったものである。


 もし俺が男であったなら、もうあれやこれをそれする内容であることは間違いない。


「ぐ、でもっ、今の私はユウユウ・カサラっ! その姿は最早過去のものっ! 今のパーフェクトな容姿の私に効果はないわっ!」

「御開帳~」

「ゆるしてっ!」


 茨ちゃんの最も恥ずかしいページを見せ付けた! 効果はバツギュンだ!


 ユウユウは恥ずかしさのあまり、再び吐血して倒れた。邪悪は滅びたのである。


「エルちゃん、何それ?」

「うん? 茨木童子の写真集だぞ、リンダ」

「へぇ、昔の私の……げふっ」


 そして、リンダもまた、悲しき宿命を持つ者。過去のトラウマ、そして、かつてのボインボインを目の当たりにして大ダメージを被り、あえなく力尽きてしまった。


 あぁ、もう滅茶苦茶だよ。


 こうして、三時の貴重な休憩時間は、ユウユウとリンダの吐血によって真っ赤に染まり、グダグダのまま終了した。まさに大惨事である。

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