7食目 継承
現在……俺は、えっちらおっちらと、白骨死体を輸送中である。
昨日の幽霊ねーちゃんから、お願いされた依頼だ。
彼女は幽霊なので、物に触れずに、すり抜けてしまうらしい。
幽霊も不便なものだな。
「ひーこら、ひーこら……ばひん、ばひん」
これが、結構疲れる! 所々に遺体があるから、村中を駆け回るはめになる。
結局……三日間掛けて、全ての遺体を、村の中央に集め終えた。
いや~苦労した! 俺偉い! よく頑張った!!
依頼が完遂した頃には、もう日が暮れていた。
いやはや、今日も沢山働いたなぁ……(充実)
「ふい~……桃先生! いらっしゃ~い」
俺は手から桃を創りだす。
待たせたな……と、言わんばかりの、美味しそうな桃が、光と共に創り出された。
間髪入れず桃を食べる。 しゃく、もきゅもきゅ……ごくん!
「仕事の後は、これに限るぜ……」
腰に手を当て、まるでおっさんのような台詞を吐く俺。
……実際、中身おっさんだし問題ないな?
「あらあら……なんだか、中年のおじさんみたいなセリフですよ?」
……と、俺の頭に手を添え、話しかけてくるエルティナさん。
ひんやりとした感じが、頭から伝わってくる。
幽霊だからしょうがないよな?
「たぶん、これで……全部だと思う」
エルティナさんは、少し寂しそうに、ありがとうと笑った。
まあ、仲間の遺体をずっと見てたわけだし、仕方ないことだろう。
実際に、エルティナさんも、死んでいて幽霊なわけだしな。
「……あとは、お墓を作って埋葬するだけですね」
俺はエルティナさんの顔を見て頷いた。
「さぁ……それでは、クエストを達成したから、ご褒美あげないといけませんね」
エルティナさんは、俺の頭に置いてある手に、不思議な力を集めだす。
うおぉぉぉっ!? だ、大丈夫かっ!?
まさか……「かかったな!? 阿呆がっ! クロスサンダースプラッシュ!」
どぎゃぁぁぁぁん!!
残念! 君の冒険は終わってしまった! ……な、展開はないよな? な?
「……これから、私の魔法と知識を、貴女に継承させます」
「へ?」
三日前のことだが、大雑把に自分の説明を済ませてある。
とある森から来たこと。魔法が使えないこと。記憶がないこと……にしといた。
もちろん名前もないこともだ。全裸なのは……俺が裸族だということにしといた。
毎晩、会って話をしたり、聞いたりしていたので、名前がないと不便と
いうことで『名無しの権兵衛』から名前を取って
俺は自分のことを『ナナシ』と名乗っていた。
「ナナシちゃん……大丈夫です。痛くありませんよ?
……実際に、これを使うのは、初めてですが」
……大丈夫か?
「最初で……最後の魔法です。絶対に成功させます!」
やがて、俺の頭の周りを、光の螺旋が取り囲み
光る帯の先端が、頭にスッと……入り込んできた。
ふおおお!? なんじゃこりゃぁ!?
今まで知らなかった、この世界の魔法知識が。言葉が。この世界のことが。
色々入ってきた。
そして……エルティナさんの、今まで歩んできた記憶。
今に至る、経緯……おぉう、超ハード。
そして……彼女の秘めた思いも……俺は継承した。
「……これで、継承は終わりました」
継承を終えた、エルティナさんは……静かに涙を流していた。
「ごめんなさい……ナナシちゃん。
この魔法には、知識以外にも、記憶も継承させてしまいます。
不愉快な記憶もあったでしょう?」
ああ、不愉快だった。
あの腐れ外道共は、見つけたら制裁を加えておく。
がんばるのは、桃先生だがな!(他力本願)
「問題ない、大丈夫だよ……エルティナさん」
俺は……はっきりと、この世界の言葉で返事をした。
これで、会話も大丈夫になったぞ! やったね! 俺!
「良かった、無事に魔法も成功したみたいで……」
ほぅ……と胸をなで下ろすエルティナさん。
そして彼女は俺に告げる。
「では……そろそろ私は、この世から立ち去ろうと思います」
「もう……いっちゃうのか?」
悲しげに頷くエルティナさん。
でも、その瞳には、もう迷いがないように見えた。
「私をここに、縛り付けていたものは、全部ナナシちゃんが
解決してくれましたからね……」
「本当に?」
エルティナさんは頷き、話を続ける。
「ええ……私は既に死んだ身です。
本来なら、五年も経てば……悪霊になっていても、おかしくはないのですから」
次第に、エルティナさんの姿が、見えなくなってくる。
成仏しようとしてるのだろうか?
短い間だったが……お世話もしたし、されもした。
ちょっと名残惜しいが、これ以上は酷というものだろう。
あんな……悲惨な体験したのだから。
あれは、酷いものだった。俺も何か、対策ねっとこ。
……あ、思い出した! 一つ継承してないものがあった。
もう、消えかけているエルティナさんに、俺は話しかけた。
「エルティナさん! 俺……名前が無いって言ったよな?
エルティナさんの名前……俺が継承しても……いいかな?」
そう名前だ。
俺には名前が無い。
自分で付けるのは嫌だし、センスもない。
そこで……この世を去る、彼女の名を受け継ごう……と、いうのだ。
俺は、じっ……と、エルティナさんを見つめた。
「ありがとう……あなたは今日から、エルティナ・ランフォーリ・エティルです」
涙を流し、嬉しそうに笑いながら、初代エルティナは消えていった。
たった……三日間の短い付き合い。
でも、それは……俺にとって、凄く大切な三日間だった。
空を見上げれば、満天の星々。
俺は願った。
初代エルティナの、安らかな眠りを……
◆◆◆
我輩はエルフである。
名前はエルティナ・ランフォーリ・エティル。
とある女性の名前と、知識と魔法……そして、思いを受け継いだ二代目である。