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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十八章 地球
694/800

694食目 彼の地より~愛と勇気と努力を込めて~18

「手が足りないなら、増やせばいいだけだよ」


 ビルの屋上にひらりと舞い降りた者は、黄金の鎧を纏いし眼鏡戦士フォクベルト、とその妻狼獣人のアマンダである。

 夫フォクベルトの重武装に対して、妻アマンダはまさかのコックコート。戦場に赴くにはあり得ない装備である。


「そうそう、早くこんな連中を片付けて、エルティナさんの結婚式の続きをしないと」


 アマンダの手にするキッチンナイフが意図も容易く鬼の腕を両断する。まるで、ケーキを切り分けるかのように。


「な、なんじゃあっ!?」


 鬼の反撃の一撃は、お玉の底でいなした。鬼の放つエネルギー弾は、すりおろし器の一振りで一瞬にしてすり下ろされ無効化される。それをボウルで受け止めた。


「ふ、ふざけるなぁっ!」

「あらやだ、真面目よ?」


 すり下ろしたエネルギー弾が入ったボウルを泡立て器で丁寧にかき混ぜる。それに加えるのは生クリームだ。

 鬼たちはアマンダの行動に困惑した。だが、彼らはここで戸惑うべきではなかったのだ。


「はぁい、【エネルギークリーム弾】の完成よ。さぁ、召し上がれ」


 アマンダの抱えるボウルから白く発光する生クリームのような何かが何倍にも膨れ上がり、鬼たちに襲い掛かってきた。そのあまりの異様さに反応が送れ、彼らは生クリームに飲み込まれてしまう。


「なんだぁ!? 痛いっ! 甘いっ!? ごががががががががっ!?」


 そして爆発。べとべとの生クリームが傷口に沁み込み、更なる激痛が襲いかかる。鬼たちは転げ回って悶絶した。


「いい仕事をするね」

「んふっ、良いお嫁さんを貰ったでしょ?」

「あぁ、僕は幸せ者だよ」


 妻がダメージを与え、夫であるフォクベルトは手にした光の剣で戦鬼たちの手足を切り飛ばしてゆく。だが、とどめは刺さない。


「死ななければ鬼穴には戻れないだろ?」

「お、おのれい!」


 芋虫のように床に這いつくばる戦鬼たちは、悔しさでもんどりうった。フォクベルトの光の剣は、鬼たちの傷の自動再生を阻害する効果を持っており、上手く事が運ぶ形となった。


「うふふ、相変わらず、わけの分からない技ね」

「エルちゃんなら、食べに行っちゃうね」

「エルティナさんと相性が悪いのよね。私の技」

「あ~、あの嬢ちゃんはなぁ……おっと、チャンスだ。Fire!」


 彼女たちの呑気な会話の最中、ロボマイクの放ったロケットランチャーの一撃によって鬼穴は無事に破壊された。


「これでよしっと。ほれほれ、今度は掃討戦だZE?」

「だそうだよ? それじゃあ、さようならだ」


「おのれい、おのれいっ!」


 フォクベルトは穏やかな笑みを湛えたまま、芋虫と化した戦鬼たちに止めを与えてゆく。

 その光景は彼を【鬼】と見間違えさせた。そんなフォクベルトに、ユウユウとリンダはうっとりと、アマンダは何故か赤面し、マイクは戦慄した。


「(うっはぁ、容赦ないな。アレには迂闊な事は言わない方が良さげだZE)」


 マイクはそう心に刻み地上を観察した。地上では溢れ出た戦鬼たちで混戦状態と化している。しかし、同時にモモガーディアンズメンバーが到着したことにより、戦力は十分過ぎると言ってもいい。問題は空中戦をおこなっている誠司郎だ。


「誠司郎が押されてやがる。俺っちは、そっちに向かうZE!」

「えぇ、任せるわ。ちゃっちゃと鬼を片付けましょうか」

「そうだね。豪華な料理も食べそこなちゃったし、早く食べに帰ろうか」


 ロボマイクは誠司郎の救援に、いばらきーずは鬼の掃討戦に加わった。そしてフォクベルトたちはイチャイチャしつつ、ビル内に潜む鬼の駆逐を開始した。






「獅子咆哮波!」


 輝ける獅子が鬼たちを蹂躙する。戦闘状態へと至ったライオットを止める事ができる者は皆無であった。彼もまた、鬼の階級など理解せず、目の前の敵を全力で叩き潰す性格をしていたのだ。


戦覇無尽棍せんはむじんこん!」


 ライオット手に温かな輝きが収束され輝く棒が姿を現した。それは一見、ただの棒に見える。


「はぁっ!」


 獅子が鬼に対して輝ける棒を振るった。鬼は頭に向けられて振り下ろされた棒を腕でガードする。その輝ける棒は、その身をへし折られた。しかしその時、鬼は後頭部に衝撃を受ける。


「が……!?」


 それは致命的な一撃であった。わけが分からぬまま、その身を桃色の粒子へと変え輪廻の輪へと旅立ってゆく。


「残念だったな、戦覇無尽棍は多関節棍なんだ。普通に受け止めても折れ曲がって襲い掛かるぞ」


 バチンと音を立てて、元の棒状に戻る戦覇無尽棍。それをぶんぶんと振り回すライオットは次なる鬼に狙いを定める。それを意図した鬼は身構えた。


「(あの棍の長さからして、攻撃は届かねぇ。あんガキゃあ、必ず踏み込んでくるはずだ)」


 ライオットの体格の二倍はあるか、という鬼は獅子の少年の踏み込みに備えた。しかし、その踏み込みは来なかったのだ。確かに踏み込みはした、しかし、それは推測した位置からかなり離れた場所。それゆえに鬼は虚を突かれた。


「な……!? がぶふぅっ!」


 輝く棍が伸びた。その勢いのまま鬼を貫き、退治せしめる。


「最初に言ったろ? 無尽だって。どこまでも伸びるんだよ、戦覇無尽棍は」


 ライオットは伸びた戦覇無尽棍を元の長さに戻し、それを二つに折った。すると形状が変化する。それはいわゆるトンファーと呼ばれる棍棒だ。


「さぁ、飛ばしてくぜ! オラオラ、掛かって来い!」

「こんガキゃあ! 言わせておけばっ!」


 戦鬼たちが大挙してライオットを押し潰さんと飛び掛かってきた。彼はその光景に口角を釣り上げる。輝ける棍棒を構える獅子の乱舞が披露され始めた。






「……相変わらずだな」


 オーク族のブルトン・ガイウスはそんなライオットに苦笑しつつ、鬼の頭部を掴み潰した。彼のGDル・ブルは更に大型化し全高六メートルにも達している。総重量も三倍近くに達していた。その威容から仲間内では【動く要塞】と揶揄されている。

 だが、実際問題、そのとおりなのだ。強大にして堅牢、いかなる攻撃も受け止め防ぐ守護者なのである。


「ケケケ、それを言うなら俺たちもだろ?」

「言えてるな」


 ゴブリンのゴードンと、兎獣人のマフティも新型GDを受領し、鬼たちを翻弄している。

 ゴードンは単純にGDが彼の能力に追い付かなくなったため、マフティは尻のサイズが合わなくなったためだ。


 そんな、メカメカしい彼らに混ざるのが、完全にメカなGTムセルである。GTムセルは全高四メートルのムセルと思えばいいだろう。それがヘビィマシンガンを放ちながら道路をローラーダッシュで激走する。


 いくら戦鬼とはいえ、このような化け物相手に生身で対抗するのは自殺行為である。たちまちの内に挽肉にされて、次々に退治という名の虐殺に遭ってしまった。


 これをテレビ中継で目撃してしまった米国軍は日本政府に抗議の電話を掛ける。いつの間に、あのような兵器を作り出したのだと。

 話が見えてこない日本政府はただただ、調査中である、と返すより他になかった。

 そして、国民、特にアニメオタクと呼ばれる層は、GTムセルを目の当たりにし大歓喜した。


「うおぉぉぉぉっ! 遂に我が国は〇Tを作ったぞっ!」

「これで我が国も安泰だっ!」


 彼らは【動く棺桶】っぽい何かに、これ以上ない賛辞を送った。そんな彼らは「では乗るか?」と聞かれれば「あ、結構でございます」と断言するであろう。


「うわぁ、こりゃミンチよりもひでぇや」

「ムセルぅ! 俺たちの分も、残しておいてくれやぁ!」


 リザードマンのリックと、ドワーフのガンズロックも鬼を退治しつつ、GTムセルの活躍に目を見張る。最早、あいつだけでいいんじゃないのかな状態だ。


「GTムセルがいてくれて助かるな。ソウルレイトスに身魂合体せずに済むし」

「その分~、ファストスが~、働かないんですけどね~」

『(はたらきたくないでござる)』


 ゴーレノイド・クラークが鬼を両断し、巨躯の少女ウルジェが鬼を棘付鉄球で押し潰す。そして、やる気が無さそうにゴーレム・ファストスが鬼を切り刻んだ。

 彼らの隙は双子の美少女剣士がカバーした。ただし、片方は変態であるが。


「ランフェイ、どさくさに紛れて私の尻を撫でるな」

「ひほほっ、それでは次から揉みますわ」

「どうしてこうなったのだろう……」


 そして、しれっと戦闘に混ざる巨大タコ。白き少女はご満悦、アヘ顔少女はその痴態を全世界に晒した。これは酷い。

 倒壊し掛けのビルを触手で持ち上げ鬼に向かって投げつける。恐るべき質量爆弾は鬼ことごとく押し潰した。やがて、どこからともなく半魚人が到来し、戦場は更なる混沌化を辿る。


「まてまて! なんで俺っちを捕まえるんだっ!? ぎゃ~!? そこはらめぇ!」

「たこ~」

「あはは! くっくるぅ! あははは!」


 ロボマイク、誠司郎の救援に駆け付ける事叶わず。ここで無念のリタイヤ。男の痴態など見たくもないので視点を変えることにする。






 変態と言えば三人の変態トリオだ。彼らは、それぞれの相棒に跨り大空を舞っていた。そう、彼らは念願の竜騎士になる事ができたのである。


「見えてきたぞ」

「派手にやってるな」

「これから毎日、鬼を燃やすさね」


 物騒な発言をするネズミ獣人のアカネを窘めたロフトは、二人に突撃陣形を指示。前方の大型イーターボールに攻撃を仕掛ける。

 レッド・ピクシーはよく善戦したが、エンジントラブルに泣いた。それでも撃墜されずに救援が来るまで持ちこたえたのは驚異的であろう。


「待たせたな!」


 ロフトの投擲したジャベリンがイーターボールに突き刺さる。異形の球体は悲鳴を上げた。続けてスラックのスナイパーライフルが火を噴く。


「本当に、こいつは使いやすいなぁ。ムセルが勧めるだけの事はある」


 ガシャリと排莢し次弾を装填するスラックの横を、アカネのアインが通り抜けていった。


「さぁさぁ! とどめをくれてやるさねっ!」


 アカネは手にした大型の槍を片手で掲げて大型イーターボールに突進する。イーターボールもただやられているわけではない。反撃の怪光線をアカネに向けて放った。


「おおっと、うちのエースはやらせないぜ」


 しかし、この行動を読んでいたロフトは、放たれた怪光線に割って入り、アカネへの直撃を防いだ。彼の相棒、トライをも包み込む防御結界だ。彼が持つ札は、役目を終えた、とばかりに燃え尽き灰になって空に散る。

 これはキュウトが制作したものであり、魔力が低い者でもキュウト同様の結界を発生する事ができる代物だ。ただし、一回こっきりの使い捨てである。


「タイミングバッチリさね!」

「当然だろ? いったい何年の付き合いだと思ってるんだ?」

「え? つ、付き合い始めたのは先月から……」

「そっちじゃねぇよ!」

「はぅん!」

「おぉ、熱い熱い」


 ふざけ合いながらもしっかりとイーターボールにとどめを刺し、レッド・ピクシーを救った彼らは一路、港区を目指す。そこに鬼がいる限り、彼らに休む暇などないのだ。


『……おれも、まだまだ、だな』


 レッド・ピクシーは己の不甲斐なさを嘆きつつ、戦艦吉備津へと帰艦した。






 一瞬の油断が命取りになる。綱渡りの連続のような命のやり取りに、誠司郎に精神力は擦り切れていった。


「香里っ!」

「……」


 誠司郎は変異した香里に話しかけるも、返事は返ってこない。虚ろな眼差し、光の無い眼が誠司郎を追うのみだ。

 香里の動きは、まるで精密機械のように正確無比で、肉体の負荷など気にも留めない動きを常時行っている。痛みを感じないのであろうか、表情一つ変える事はなかった。


 対する誠司郎はそういうわけにもいかない。身体に掛かる負荷を抑えつつ、最小限の動きで攻撃を回避し、体力の温存に勤めた。

 香里の動きに目が慣れていない今、下手に攻撃をおこなって消耗するのは自殺行為に他ならない。時には耐えることも必要なことを、彼女はよく理解していた。


「(段々、動きが読めてきた。でも……問題は攻撃が通用するかどうか)」


 誠司郎は香里が常に魔法障壁を展開していることに勘付いていた。そして、それは恐ろしく強力なものであることも。全力の一撃が通用しなかった場合、殺されるのを待つのみとなる。


「(怖い……でも、逃げちゃダメだ! ルシちゃんを信じるんだ!)」


 誠司郎はありったけの魔力を魔導銃ルシフェル444に流し込む。主の意志を魔力を介して受け取った彼の者は唸りを上げる。己の成すべきことを達成せんがために、弾丸に強い意志を込めた。


 一瞬、香里の動きが止まった。誠司郎は予知する、ここが勝負の決め所だ、と。彼女の読み通り、黒い悪魔は一直線に向かってきた。狙いは誠司郎の首だ。

 ゴウン、と銃声。それは到底、銃が放つ音ではない。黄金の閃光が黒い悪魔に迫る。狙いは眉間。迫る両者。寸前に香里の姿がぶれた。


「っ!? 残像っ!? 意志を感じる残像だなんてっ!」


 肉薄する香里。喉元に突き付けられる禍々しい爪は魂を刈り取る死神の鎌だ。


「(やられるっ!?)」


 極限の集中力はありとあらゆる現象を遅く感じさせた。しかし、それは己が早くなっているわけではない。意識だけが早くなっているのだ。だから、肉体は誠司郎の意志に付いてきてはくれない。自分の首が刎ねられる瞬間が遅く感じられるだけなのだ。

 だが、その時は訪れる事はなかった。跳ね上がる香里の腕、骨が折れるような音、そして黄金の盾が日の光を浴びて輝く。


「やらせねぇよ! 香里!」

「誠司郎っ! ごめん、遅くなったわ!」


「史俊っ! 時雨っ!」


 誠司郎の危機に駆け付けたのは、大いなる盾、そして絆の魔法使い。ここに三人が揃った。忌々し気に三人を見つめる香里。その彼女の前で再び奇跡は起こる。


 誠司郎の黄金の髪飾り、史俊の黄金の武具、時雨の黄金のロッドが大いなる輝きを放ち始めたのだ。


「この輝きは……史俊、時雨っ!」

「おう、やるとするか」

「えぇ、もうこんなことは終わらせましょう」


 史俊、時雨が黄金の光の粒子に解れ、誠司郎を包み込んだ。閃光を放ち現れるは黄金の武具を纏いし戦乙女。

 三人の心と魂が一つになり、真の力を発揮できるようになった勇ましき天使に、黒い悪魔は恐れおののいた。その輝きに目が眩み、放たれる優しさに恐怖する。

 そう、誠司郎が放つものは、怒りでも、憎しみでも、敵意ですらない。それは優しさ、誰かを救いたい、という純然なる優しさだ。


「香里っ! 今、救ってあげる! その暗い底無し沼からっ!」


 誠司郎はルシフェル444を天に掲げた。ルシフェル444が閃光を放ち砕け散る。

 果たして血迷ったのか、否、これは再誕のための儀式だ。誠司郎は師より教わった。魔導銃の極意を。銃を信じきった者だけが進化レボリューションするのだと。


 誠司郎の天使の輪がひと回り大きくなり荘厳さを増す。そして、背中から二対の翼が新たに生えてきた。合計六枚の大いなる翼だ。桃力に混ざるのは神気であろうか。


 離れた位置にて戦いを見守っていた天空神は、新たなる大天使の誕生に目を見開いた。


「新たなる神話が生まれようとしておるのか? 前回は、このような事はなかった……!」


 何度も同じような誕生と滅亡を体験してきた彼は、この大きな変化に心を奮わせた。今回は、やはり何かが違う。間違いなく違う結果になるだろう。確かな手応えに、彼はニヤリと笑みを浮かべた。


「ようこそ、誠司郎。我らの領域へ」


 サンダルの人も彼女の進化を称えたという。何か苦情を言ってきたが気にしない。


「行くよ、皆っ!」


 腰の黄金の剣を引き抜き、黄金の盾を構えて香里に突撃する。その速度はまるで放たれた弾丸だ。

 香里は、黒い悪魔は抵抗を試みた。手の平から破壊の光弾をいくつも打ち出したのだ。乱れ飛ぶ赤黒い光弾。その一発一発が誠司郎に死を運ぶ。


『やらせないわ!〈ホーリーストーム〉!』


 誠司郎の内に宿る時雨が、強力な防御魔法を展開した。聖なる風は誠司郎を包み込むように発生し、赤黒い光弾をことごとく弾き飛ばす。

 ならばと黒い悪魔は黒手を放ってきた。その数は膨大であり、空が黒く染まるほど。黒い悪魔の奥の手〈黒千手くろせんじゅ〉だ。


『迷うな、誠司郎! 俺たちが付いている!』

『うん!』


 ありとあらゆるものを曲げる中にあって、史俊の想いは曲げること叶わず。無数の黒手は役目を果たすことなく砕け散ってゆく。大いなる黄金のふみとしの前に黒手は成す術を持たなかった。

 誠司郎は彼の勇気に守られつつ、真っ直ぐに香里の下へと飛ぶ。


 迫る大天使の姿に、黒い悪魔はいよいよもって抗う方法を失った。残されるは己が肉体のみ。考えるまでもない、と爪に陰の力を注ぎ込み、相討ちも辞さずと突撃を開始した。


「ルシちゃん!」

『……!』


 誠司郎が咆えた。背の六枚の翼が白く輝く。それは神気だ。その神気に反応して黄金の剣が激しく輝き始める。あまりの眩しさに黒い悪魔は思わず目を覆い隠した。

 この最後のチャンスを見逃すなどあり得ない。誠司郎は全ての優しさを剣に籠める。


「日はまた昇る! 全ての魂に希望をっ! やあぁぁぁぁぁぁっ!」


 それは希望の光であった。それは始まりの輝きでもあった。輝ける剣は黒い悪魔の胸へ深々と突き刺さり、彼女を大いなる光で包み込む。


 全ての魂に希望を与え、輪廻みらいに送り出す技、【明けの明星】。誠司郎、史俊、時雨、ルシフェル444の心が一つになって初めて繰り出せる神技である。


 崩壊してゆく黒い悪魔。留まることのない滅びがそこにあった。否、これは救済だ。


「……誠司郎」

「香里っ!」


 崩壊する黒い悪魔から声が発せられた。香里だ。彼女は黒い悪魔の支配下から脱する事ができたのである。しかし、それも僅かな時間。


「ごめんね……私……」

「香里、きみは悪くない。悪くないんだ」


 その言葉は慰めの言葉だ。香里は誰よりもそれを理解した。誠司郎が黄金の剣を引き抜き、崩れゆく香里から離れる。崩壊は止まらない、寧ろ加速してゆく一方だ。言葉を交わすには時間が無さ過ぎる。だから、香里は最期に言った。


「……ありがとう」


 光の粒子に身を解し、中里香里は今度こそ消滅した。彼女の正体はドクター・スウェカーに作られた疑似人格だ。魂などありもせず、虚ろな代用品が入っていただけである。

 しかし、それでも彼女は自分は中里香里であらんとした。その強固な意志は、願いは、虚ろな魂に実を与えた。中里香里であって、中里香里でない香里は、誠司郎の手によって輪廻の輪に送りだされた。

 それは即ち、彼女には来世が待っているということだ。誠司郎の優しさが、彼女に未来を与えたのである。


「さようなら、香里……きみの事、絶対に忘れないよ」


 その時、勝鬨の声が上がった。モモガーディアンズメンバーたちの声だ。全ての鬼は退治され、東京タワーも守り切った。地球の危機は未然に防がれたのである。


『やったな、誠司郎』

『はぁ、ほんとに疲れたわ』

『ありがとう、史俊、時雨。それに……ルシちゃんもね』


 誠司郎の六枚の翼がほんのりと輝いて誠司郎に応えた。誠司郎は愛する者の下へと向かう。その姿が全世界に向けて放送されていたことを、彼女たちはまだ知らない。

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