表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十八章 地球
691/800

691食目 彼の地より~愛と勇気と努力を込めて~15

 東京タワーのある港区では、史上空前の大混乱に陥っていた。正体不明の化け物どもに蹂躙される人間たち。だが逃げ惑う人々を掻き分け、鬼の軍団に立ち向かう者あり。白き衣をまといし老人だ。

 鍛え上げられた肉体は衰えを知らず、豊かな髭は貫禄をもたらしている。そんな彼が手にするのは、伝承にて語られる雷霆。そう、彼は神だ。


「ほほぅ。これは珍しい」

「小石に躓きたくないのは、こちらも同様なのでな」

「かっかっか、随分と大物が出てきおったわいな。えぇ? 天空神よ」


 ドクター・スウェカーと対峙するは天空神ゼウス。彼は、地球の危機、とあって、単身で東京に赴いていた。雷を司る彼にとって、遠く離れた地へ一瞬で辿り着くなど容易い話だ。


「随分と大きく出たものよ。わしらが小石であるなら、今のおまえは砂粒ではないか」

「貴様……愚弄するか」

「力を失いし今のおまえに、どうして臆する事ができようか? 神々の時代は、とうに過ぎていることを、そろそろ悟るがいい!」


 ドクター・スウェカーの陰の力が爆ぜる、今までのコピー体とは雲泥の差だ。彼こそが本体である、ドクター・スウェカーであろうか。


「力を失えども、我は神ぞ! 人々の悲鳴に何もせぬなどできぬ!」

「力を失い、おごりも失ったか! 人間など家畜同然、とおごっていない貴様に、脅威性は感じぬわっ!」

「ぬかせいっ!」


 天空神ゼウスの雷霆が唸りを上げて放たれる。下級の鬼は抗うことなく焼き尽くされていった。その雷霆を喰らう巨大な炎の腕。雷と炎が東京を炎の海へと変えてゆく。


「神とて変わる。人間は、私が思っているよりも愚かではない」

「その言葉……プロメテウスが聞いたら、どう思うじゃろうなぁ?」

「全てが達せられた時に必ず償うつもりだ。だから……邪魔をするな! 消えろ、イレギュラー!」


 天空神ゼウスの雷霆が大いなる輝きを放つ。その輝きの前にして、尚もドクター・スウェカーは平然と構えていた。それは、余裕だ。


「我が最大の一撃、受けよ!〈大雷霆ユピテル〉!」


 閃光、世界が白に染まる。そして轟音、建物が衝撃で倒壊してゆく。


「ぜぇぜぇ……!」


 天空神ゼウスの力が衰えたのは事実だ。彼に対する信仰が薄れているのも拍車を掛けている。それでも、彼は神の中の神であった。しかし……。


「衰え、とは悲しいものじゃなぁ? えぇ? 天空神ゼウスよ」

「ぐっ……!」


 それは、考え得る限り最悪の状態だった。歪みから顔を覗かせる七匹七種の大蛇。


「かっかっかっか! 素晴らしいじゃろ? 全てを喰らう者の力!」

「借り物の力で偉そうに!」

「借り物ではなくなる。エルティナ君を喰らえばのう」


 ドクター・スウェカーは、今までエルティナから出現してきた、全てを喰らう者を全てコピーしていたのだ。今まで炎の枝しか使ってこなかったのは、ただ単に通常のコピー体ではエネルギーが不足して使用不可能だったに過ぎない。

 数々の実験とデータ収集により、彼は全てを喰らう者のコピー七枝の同時制御に成功していた。それがどれほど恐ろしいことかは、最高神であるゼウスの攻撃が通じないことでも分かるであろう。


「消えるがいい、天空神ゼウス」


 黒き大蛇が大口を開けて天空神に迫る。対する天空神は大技の反動で動くことができなかった。最早これまで、と覚悟した時、彼は衝撃を感じる。


「危ないっ!」


 それをもたらした者と共に転がり、黒き大蛇の一撃を辛うじて回避することに成功した。


「そなた……! 人間だというのに死地に飛び込んできたのか!?」

「市民を護るのが警官の役目です! お爺さんは、早く逃げてください!」


 天空神ゼウスの危機を救ったのは若き警察官であった。そう、誠司郎が退治した鬼と最後まで戦っていた彼である。彼の勇気ある数秒が地球の歴史を変えた。


「邪魔立てしおってからに……死ぬ時間が伸びただけじゃぞ?」

「死なせはしない!」


 若き警察官は銃を構え、迫る大蛇に発砲する。当然、通用しない。それを目の当たりにした天空神ゼウスは人間の愛に、勇気に、努力に惜しみない敬意を払った。

 若き警察官の無意味な行動に業を煮やしたドクター・スウェカーは、彼から始末しようと黒い大蛇をけしかける。


「邪魔じゃ、死ねい!」


 その時、青白い閃光がドクター・スウェカーに迫る。ドクター・スウェカーは慌てて、その閃光に対処した。だが、全てを喰らう者一枝では対処しきれず、三枝も用いてしまう。途方もない力の奔流だ。ドクター・スウェカーは危機感を覚えた。


「なんとぉっ!?」


 単純な力は天空神ゼウスの方が上だろう。だが先ほどの一撃にはいやらしさがあった。閃光は初撃を防いだ後に弾け分散、その分散した閃光が尚もドクター・スウェカーに向かってきたのだ。

 咄嗟に残る枝で防御しなければ、手痛いダメージを被っていただろう。


「この力は……まさか!?」

「ドクター・スウェカー!」

 

 それは大いなる天使だった。その姿に思わず天空神ゼウスも見とれてしまう。


「宮岸……誠司郎っ! 生きておったのか!?」


 再び両者の力が激突した。そこに割り込んでくる者あり。誠司郎と対を成す、悪魔の姿をした中里香里だ。こちらがドクター・スウェカーの本命たる中里香里である。

 その陰の力も今までとは桁違いだ。彼女が動くだけで命が生きることを諦めようとする。まさに、その力、悪魔的。


「誠司郎、そろそろ終わりにしましょうか」

「香里っ!」


 少し遅れてプルルたちが戦場に到着する。空を飛べる誠司郎が先行した形だ。若き警察官が命を懸けて作り出した僅かな時間が、天空神ゼウスの窮地を救ったのである。


「お爺さん、ここは危険です! 離れましょう!」

「む、むぅ……頼む」


 ここにいては邪魔になるだけ、と判断した天空神ゼウスは、皆川夫妻に連れられて戦場から離脱する。続けて若き警察官も誠司郎に説得された。


「お巡りさん! ここは僕たちに!」

「き、きみは……そうか、その姿、その力……お願いします、天使様!」


 若き警察官は色々と勘違いしながらも戦場を後にする。これで心置きなく戦う事ができるようになった誠司郎は、今までの鬱憤を晴らすかのように力を放出した。


「おぉ! これほどまでとはのう! かっかっか! 良いデータが取れそうじゃわい!」

「その余裕が、いつまでも続くと思わない事だよ!」


 地球を巡る鬼と戦士たちの戦いは、いよいよ最終局面を迎えようとしていた。






 一方その頃、新人桃使いたちを宥めに向かったエルティナは、衝撃的な光景を目の当たりにする。彼女を目撃した新人たちが、一斉に五体投地を敢行したのである。


「ひぎぃ! 桃太郎様に顔見せなどできない! できにくい!」

「だから我々は土下座するでしょう!」

「許して、桃太郎さんっ!」


 あまりのも怯えすぎであった。流石のエルティナも鬼ではない。


「ふっきゅんきゅんきゅん、格の違いを知るとか、流石だな、と感心するがどこもおかしくはない。ほれほれ、桃力だぞぉ」

「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? めがぁ、めがぁ! あぁぁぁぁぁ……!」


 否。鬼であった。彼女見て、ビクンビクン、と痙攣する新人たちを前にし、ふんす、と大きな胸を張り、自分の自慢話を披露し始める。時間がない、というのに長々とだ。

 流石に、これにはトウヤも雷を落とす。


「大変に……申し訳ない」

「反省する暇があるなら、新人どもを纏めるぞ。ドクター・モモから、情報をもらっただろう」

「ふきゅん、ドクター・スウェカーも、しつこすぎるんだぜ」

「それには同感だ」


 珍獣たちは急いで戦艦吉備津の下へと向かう。しかし、戦艦吉備津は現在、離れた位置にて砲撃をおこなっていた。乗り込むには、ボートに乗って向かうか、泳いで渡るかをしなければならない。


「はい、ちょっと我慢だぞぉ」

「へ?」



 ばくん。



「飲み込むなよ?」

「ふきゅおん」



 ごきゅん。



「……今、飲み込んだだろ?」

「……ふきゅおん」

「ふきゅん」


 あろうことか、珍獣は闇の枝の口内に新人たちを詰めて運ぶことを選択したのである。ちょっとした事故はご愛敬だ。

 そして、戦艦吉備津の後部甲板で、えろろん、と吐きだされた新人桃使いたちは、一様に白目痙攣状態に陥る。戦闘続行は不可能であろう。いとあわれ。


「こりゃ、ひでぇや。衛生兵、衛生兵!」

「……ききき……新鮮な……生きた死体ね……」


 そんな彼らを、ダナンとララァが医務室へと運び込む。例によって、彼らも結婚を果たしている。爆ぜろ。

 尚、医務室にはプリエナが待機しており、負傷者の治療に専念していた。


「さて、このデカブツを退治しなくちゃな」

「それは、もう終わるだろう」


 トウヤの言うとおり、間もなくオーガキングはエドワードと、ライオットのコンビによって退治されることになった。


「どうだっ!」

「張り切り過ぎだよ、ライオット」


 やたらにライオットが張り切っていたが、活躍を見せたかった妻のプルルは既に町に到着していて、彼の活躍を見てはいない。

 そのことを知らされた彼は、がっくりとうなだれた。哀れである。


「そんな事よりも、戦艦吉備津に乗り込め~」

「「「わぁい!」」」


 徐々に崩壊してゆく超鬼竜。そこから退避する、モモガーディアンズメンバー。だが、戦いが終わっていない事を彼らは理解している。だからこそ向かうのだ。決戦の地、東京都港区へと。






 戦場から離れた場所に住まう者たちは、テレビ中継に唖然とした。そこは日常にあって日常ではない日本の姿があったからだ。日本の首都で、戦争と違わぬ戦いを繰り広げる異形の存在たちの姿に釘付けになる。


 片方は妖艶な姿をした黒い悪魔の少女だ。半裸姿にもかかわらず感じ取れるのは色香よりも禍々しさ。その顔の造形は美しいにもかかわらず醜悪に見えてしまう。

 もう片方は白い天使の少女だ。純白で統一された姿に黒髪が映える。美しく可憐であるが、その顔は戦う者の顔。だからこそ、美しい、と感じる前に激しさと勇ましさを感じ取る。


 一方で、七匹の大蛇と戦う戦士たちの姿も捉えられている。また、鬼と激しい戦闘を繰り広げる老いし戦士の姿もだ。そして、テレビは生々しい【死】も視聴者たちに届けた。


 脳漿を撒き散らして絶命する老いし戦士。相討ちになる形で絶命する戦士たちの姿に、日本国民、並びに海外の視聴者たちは戦慄を覚えた。


 中継レポーターも、これは作り物ではなく現実である、と連呼している。その中継カメラの一部が黒く染まる。これは飛び散った血痕だ。そして、カメラマンの悲鳴。中継レポーターの声がしなくなった。つまりはそういうことだ。


「日本で何が起こっているんだ?」


 その言葉は、この放送を見ている全ての者の気持ちを言い表していた。






「やべぇ、押し込まれてんぞ! 東京タワーが見えてきた!」

「焦るな! 全てを喰らう者に隙を見せたら、やられる!」

「そんな事を言われても……! いけっ!〈ライトニングウィスプ〉!」


 ガイリンクードは逸る史俊を抑えつつ、銃撃を繰り出し続けていた。時雨はそれを援護しつつ、遠隔操作可能な雷の球体を複数個射出する。

 空中にて細かく動く野球ボール大の雷の球体は迎撃が困難だ、と悟ったドクター・スウェカーは、咄嗟に魔法障壁を展開し直撃をを防いでしまう。


「ちっ、流石に本体は冷静クレバーだな」

「あの魔法障壁、硬過ぎよ!」


 だが、彼らがここまで奮闘してこられたのも、プルルのGDネオ・デュランダと、桃使いとして覚醒を果たした誠十郎の活躍あっての事だ。プルルも誠十郎の強さに目を見張るものがあった。


「(凄いや、覚醒したてで、ここまで戦えるだなんて)」


 魔導光剣で中級の鬼を仕留める。そこに新たな中級の鬼が割り込んできた。


「おどれぇい! 小娘がっ!」

「厄介だよ! 中級といっても、本場の中級はシャレにならない!」


 回避し損ない、GDの一部が破損する。しかし、空中で体勢を立て直し反撃、撃破に成功する。


「ぬぅんりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 誠十郎は鬼の階級を知らないがゆえに真っ向からの対峙をおこない、そのことごとくを切り伏せていった。中級、下級もお構いなしに全力でだ。

 誠司郎の憂いが無くなった今、彼は全てを刀に籠める事ができた。その凄まじさは、プルルを驚嘆せしめる。


「おい、誠十郎! 無理はすんな!? 俺たちは一人じゃねぇからよ!」

「そうですよ、あの時のように。私たちがいます」

「分かっているさ。だからこそ……全力で戦える!」


 誠十郎、礼二、正樹は共に鬼へと立ち向かう。誠十郎の桃力がまた増幅した。彼の桃力の特性、それは【友】。友情を力に変える、唯一無二の英雄の資質を備えた特性だ。


「なるほど、そういうことか。んふふ、頼らせてもらおうかな」


 プルルは肩の力を抜き鬼に対峙した。どうやら、そこまで心配する必要はなかった、と肩透かしを食らった気分にもなる。誠十郎は背中を任せるに値する者だ、と確信したのである。


 そして、父の資質は娘にも受け継がれていた。彼ら同様に、誠司郎の下に三人の力が集う。三人はいつも一緒だった。離れていても心は共にあり続けた。だからこそ、誠司郎は限界を遥かに超える事ができる。

 今も三人は離れて戦っているが、心はいつも共にあるのだ。


「香里っ! きみを……討つ!」

「誠司郎! 狂おしいほどに……愛してるっ!」


 ルシフェル444から放たれる黄金の魔弾。その弾丸には、彼女の想いが込められていた。それは殺意か、憎しみか。否、優しさだ。香里を解き放つ、その純然なる想いが込められた弾丸だ。だからこそ、香里は恐怖した。

 だが、それを上回る愛情が香里を突き動かす。理由なんてない、彼女は誠司郎を本気で愛しているのだから。


 彼女は気付いたのだ、誠司郎がどれほど自分を気に掛けてくれていたのか。だが気が付くには、あまりにも遅すぎた。もう戻れない場所に自分は立っている。ならば、と香里はこの戦いに全てを掛ける。想いも、命も、魂も。

 それはあまりに悲しく、儚く、美しい一瞬の閃光だった。天使と悪魔のワルツはやがて上空へと戦場を移す。激しく交差する両者に割って入れる者は存在しなかった。






 徐々に圧され始める史俊たち。そのすぐ後ろには護るべき東京の象徴。東京タワーの姿。

 ガイリンクードも、よくがんばっていはいるが、どうも状況は芳しくない。とここで、ガイリンクードが、ため息と共に銃撃を停止した。何事か、と史俊は驚く。


「ガ、ガイリンクードさん!?」

「やれやれ、埒が明かないな。もう諦めたぜ」

「えぇ!? ここまで来て! そんな!」

 

 ガイリンクードは魔導銃を腰のホルスターに収めてしまう。それを見たドクター・スウェカーと鬼たちは薄ら笑いを浮かべた。


「かっかっか! 諦めが肝心、というわけかね?」

「そういうことだ」


 ガイリンクードがそう言い放った瞬間、おぞましいほどの瘴気が彼の左腕から放たれ始めた。そのおぞましさに、史俊と時雨は吐き気を覚える。


「え……えぇ!?」

「ちょっ!? 何が起っているの! ガイリンクードさん!?」


 メリメリと変貌してゆくガイリンクードの左腕。それは彼の右腕も同様だ。彼の右腕には悪魔レヴィアタンが宿る。


「けけけ! ようやくやる気になったのかよ!? 遅いぜ、ダーリン!」

「ふん……周りに気を遣っていただけだ。だが、もう止めだ。むかつく野郎ごみが目の前にいる」


 やがて、ガイリンクードの両手は異形と化した。右腕は青い鱗に覆われ、左腕は昆虫の外骨格、それも細かく小さな毛が生えている嫌悪感が著しいものになっていた。


「さぁ、出てこい! 左腕レフトアーム悪魔デビル! ベルゼブブ!」


 ぼとぼと、と腐臭漂う肉が左腕から溢れ出て大きな塊となる。それはやがて、黒髪の女へと変貌した。

 褐色の肌に長い黒髪、この世のものとは思えぬ美貌を持つ女性だが、彼女からは度し難い腐臭が漂っている。


「くはは、この私を呼び出すとはな。もう、濡れ濡れになってしまうではないか。こんな雑魚など早く腐らせて子作りしようや」

「いいから仕事をしろ。色欲はアスモデウスの仕事だろうが」

「なんで、あいつだけが役得なんだよ。私もHしたい」

「割り込むんじゃねぇ。次は俺だぞ!」

「……早まったかもしれん」


 ガイリンクードは肉が無くなり、代わりに魔力が詰まっている左手を動かして、漆黒の帽子を目深に被った。ベルゼブブは強大な力を持つが、制御が困難な悪魔であったのだ。特に性欲と食い意地が汚い。


「ちっ、まぁいい。ご褒美はまた別だからなぁ? くはは、全てを腐らせ平らげてくれようぞ!」


 ベルゼブブが瘴気を撒き散らし始めた。その瘴気に触れたものは無機物であろうとも腐り、褐色の女に吸収されてゆく。その光景は敵味方関係なく恐怖させた。


「うおぉっ!? ヤバくないか、その力っ!」

「ひえっ! 瘴気が、こっちに来たっ!?」

「危ないから離れていろ。巻き添えを食っても知らんぞ」


 その瘴気の中を平然と進むガイリンクードは右手を掲げた。そこからいずる汚水は悪魔レヴィアタンを形成する。


「ひゃっはぁぁぁぁぁっ! 糞鬼どもっ! 力を取り戻した俺の力で、ミンチにしてやんよぉ!」

「くはは、でも、桃力はなんと言うか、こう……あそこがむずむずする」

「我慢しろ、悪魔あほう


 二柱の大悪魔の出現に、流石のドクター・スウェカーも危機感を覚えた。全てを喰らう者を七枝呼び出すことができるとはいえ、維持するには莫大なエネルギーを支払う必要がある。そして、ガイリンクードはそれを見抜いていた。だからこそ、このタイミングで勝負を掛けてきたのである。


「(あの小僧……見た目に反して考えておるわ)」


 しかし、ドクター・スウェカーはほくそ笑んだ。彼には策があったのである。

 何故、これほどまでに多くの下級の鬼を連れてきているのか。それに気が付くべきであった。ガイリンクードは少し遅れて、ドクター・スウェカーの意図に勘付く。


「ちっ、そういことか。レヴィアタン! ベルゼブブ! 鬼の数を減らせ!」

「あぁ? なんだよ、藪から棒に」

「あぁ、そういうことか。気が付くのが遅かったな」


 彼らの眼前にて行われている狂気の宴、それは鬼同士の共食いであった。ドクター・スウェカーは下級の鬼を戦力としてではなく、エネルギータンクとして利用するために引き連れていたのだ。


「かっかっか! ほれほれ、エネルギー満タンじゃて!」

「ふん……だがまぁ、時間は十分稼げたな」

「なんじゃと?」

「うちには、活躍バトルができないと駄々を捏ねるヤツが多くてな」

「あぁ~いるなぁ」

「そんなことよりも、Hしよう!」

「これで我慢しろ」


 ガイリンクードはベルゼブブを乱暴に抱き寄せて、彼女にディープキスをおこなった。


「んん~!? ん……」


 やがて、彼女は身体を痙攣させてだらしない表情へなった後、ガイリンクードの左腕へと戻っていった。取り敢えず満足したようである。


「ず、ずるい~! 俺も、俺もっ!」

「おまえは、まだダメだ」

「や~だ~! 俺もちゅ~、したい~!」


 ドクター・スウェカーは眼前で堂々と行われた痴態に唖然とした。何が起こっているか分からず、一瞬、思考が停止する。


「さて、そろそろ、俺は楽させてもらおうか? なぁ、女王クイーン?」

「ふっきゅんきゅんきゅん、ガイはよく分かってるな。桃先生を奢ってやろう」


 天より現れたのは、雷の龍に跨り、でんでん太鼓を打ち鳴らしている、プラチナの髪を持つハイエルフの幼女であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ