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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第二章 身魂融合 命を受け継ぐ者
69/800

69食目 ゴーレムマスターズ登録

 喫茶店の名は【ぽやぽや】といった。フィリミシアの中では一番古いとされる喫茶店だ。


 操業開始は約百五十年前というのだから、かなりの老舗と言えよう。現在の店主はメリッサと言うお婆さんで、五代目店主に当たるという。

 店内は明るい雰囲気で統一されており、それは壁紙、飾りつけの小物などにも窺えた。


「へぇ、可愛らしい雰囲気のお店だねぇ」

「ふきゅん、そうだろう?」


 純粋な女の子であるプルルが、店内の雰囲気に真っ先に反応した。そして、ハングリーにゃんこは店内に漂う美味しそうな匂いに真っ先に反応する。


「いい匂いだ。これは期待できるぜ」

「流石はライだ。一切のブレを見せないんだぜ」


 そんな、ワイワイと騒ぐ俺たちに声を掛ける者がいた。店主のメリッサお婆ちゃんである。


「おやおや、可愛らしいお客様だこと」

「こんにちは、メリッサお婆ちゃん」

「はい、こんにちは。今日は可愛い猫ちゃんなのね」

「ふきゅん、色々とやんごとなき事情があるんだぜ」

「まぁまぁ、それなら仕方がないわね。こちらの席が空いているわ」


 メリッサお婆ちゃんに席まで誘導された俺たちは早速メニュー表を開いた。そこに書き込まれた異次元の料理名。それは形容しがたい料理名が紛れ込む、という混沌の世界であった。


「おい、エル。この【アトミックコンペイトウ】って?」

「やめておけ、悪夢にうなされるぞ」

「お、おう」


 私は帰ってきた、とシャウトしたくなるような料理であるが、なんてことはない。ただのばかデカいコンペイトウである。

 食べ方はと言うと、薄い飴でコーティングされたバカでかいコンペイトウを金槌で叩き割ると、中から小さなコンペイトウが飛び出してくるので、それを食べる。

 つまり、これは見栄えが楽しいだけであり、味は至って美味しいコンペイトウなだけである。インパクトはあるが、腹は膨れないのでライオットにはお勧めできない。


「食いしん坊、この【デンジャラス親子丼】は?」

「あぁ、それはくそデカい親子丼なんだが、異次元の辛さの味付けがされている。初心者お断りなんだぜ」

「……普通の親子丼でよさそうだね」


 といった感じで、中々に危険度が高い料理が、これでもかと忍ばされている。興味本位で注文をすると死ぬことになるので要注意だ。


 だが、これらは殆どが裏メニューであり、まともな料理の方が多い。そして、料理の種類も多種多様である。


 サンドイッチ、ハニートースト、といった軽食から、かつ丼、うな重、ラーメン、というヘビーな料理も完備。無論、スイーツも用意されている。


 中でも夕方限定の【晩酌セット】は仕事帰りのお父さん方に大人気だ。メリッサお婆ちゃんお手製の漬物、煮物、に一品が付き、お酒が二杯付く。

 お値段、なんと小金貨一枚。なんともリーズナブルであり、お袋の味に飢えた野郎共が足繁く通い詰めるのだ。俺も、お酒が解禁したら通いたい。


「メニューを選ぶのが楽しくもあり、苦しくもある。どれか一つだけを選ぶだなんて、酷だとは思わんかね?」

「全部頼めばいいじゃねぇか」

「食えねぇだろ、ふぁっきゅん」

「俺は食える」

「バケツ十杯分の【デッドリーパスタ】、バケツ五杯分の【エクスキューショナーあんみつ】も混じっているが……食えるんだな?」

「うぐっ、パスタは行けるが、甘いあんみつは苦しい」


 流石のライオットも、異次元料理の前に屈した。というか、何故こんなヤケクソな料理をメニュー表に載せているのか……これが分からない。


 問題の味はというと、俺が味付けの手本と仰ぐほどに絶妙。あの手この手で食べることを飽きさせない創意工夫は、俺の知的欲求をグイグイと刺激する。


「う~ん、僕はやっぱり親子丼かな」

「俺は、ビーフステーキ、一キログラム」

「待て、ライ。おまえ、小遣い残ってるのか?」

「え? エルの奢りだろ?」

「おいぃ、どこからどうなって、そうなったんだぁ?」


 邪悪なるハングリーにゃんこは、ここぞとばかりにお願いのポージングを炸裂させてきた。そのような情けない親の姿に、子のツツオウは欠伸でもって応える。


「どうしようもないヤツだぁ。身体で払ってもらうから覚悟するんだな」

「やったぜ」

「意味が分かっているんですかねぇ?」

「まぁまぁ、いいじゃないか。ビーフステーキ、一キログラムの値段は……げっ」


 プルルはメニュー表のビーフステーキ一キログラムの値段を見て硬直。静かにはしゃぐライオットに哀れみの眼差しを送った。お値段は金貨一枚にも及ぶ。


 勿論、ライオットは全力で酷使してやるつもりだ。ヒーラーの雑用は大変だって、それ一番言われてっから。


「俺は【エキサイティングホットケーキ】だな」

「うわっ、名前が仰々しいけど大丈夫かい?」

「大丈夫さ、絶対に食べきれるから」

「食いしん坊が、そこまで言うとはねぇ」


 というわけで、メリッサお婆ちゃんに注文を頼む。これで、出来上がるまでの時間をホビーゴーレムの話題で費やすことが可能だ。


「さて、それじゃあ料理が来るまで、ゴーレムマスターズの説明しようか」


 怪しく瞳を輝かせる少女はグイグイと身を乗り出した。やる気は理解するが、そこまで露骨にやる気を強調してはいけない。いいね?


「ゴーレムマスターズは個人戦とチーム戦があるんだ。そして、勝敗はどちらかのホビーゴーレムをKOするか、リングアウトにするかで決定される」

「シンプルでいいじゃねぇか」

「そう、シンプルだよ、ライオット。だからこそ、高度な駆け引きが必要になる場面があるんだ」

「ふきゅん、ルールがシンプルなだけに、駆け引きが難しくなるんだな?」

「んふふ、それこそがゴーレムマスターズさ。そして、ゴーレムマスターとホビーゴーレムとの絆の見せ所でもある」


 腕を組み、「ふんす、ふんす」と鼻息も荒くドヤ顔をするプルルは、論より証拠とハッスルボビーの特設リングで、実際にバトルをすることを提案した。


「実際に一戦おこなってみた方が早いね。勝っても負けても、得る物は大きいと思うよ」

「まぁ、そうだろうな。俺も考えるよりかは感じ取った方が早い」

「ふきゅん、そうなるな。それで、団体戦というのは?」


 まずは実戦を一度行うという方針で固まった。そして、興味があった団体戦に付いて問う。プルルは嫌な顔一つせずに答えてくれた。


「あぁ、団体戦は三対三でおこなわれるチーム戦さ。個人戦とはまた違った戦い方が要求されて、こちらも人気が高い」

「へぇ、俺たちは、どっちをやるんだ?」

「個人戦もいいけど、折角三人いるんだ。団体戦で頂点を目指そうじゃないか」

「ふっきゅんきゅんきゅん……天辺を獲っちまうかぁ」

「そりゃあ、いい。シシオウ、やるぞ!」

「にゃうん?」


 ライオットの熱が籠った問いかけに、ツツオウは平熱な鳴き声で応えた。


 流石はフリーダムにゃんこだ、ビクともしないぜっ!


「はい、お待ちどうさま」


 メリッサお婆ちゃんが料理を運んできてくれた。話に夢中でどれだけの時間が過ぎていたのか分からない。きっと、三人分の料理が出来上がるくらいには過ぎていたのだろう。


「うほっ! すっげぇ!」

「いやいや、本当に食べれるのかい、ライオット」

「これくらい余裕だぜ!」


 じゅっ、じゅっ、とおいしそうな音を奏でる牛さんのステーキの焼き加減はレア。上に掛かるソースは醤油ベースであり、ニンニクの豊かな香りが食欲を刺激する。そして、ちゃっかりライス大盛りを頼んでいるライオットは後で泣かす。


「う~ん、素晴らしいね、この親子丼の半熟具合」

「ふきゅん、確かに。固まっている部分と半熟の部分の具合が最高だぁ」


 プルルの注文した親子丼の状態は最高であった。当然ながら、鶏もも肉もふんわりジューシーであり、噛み締める度にプルルは花が咲いたかのような笑顔を覗かせる。


 そして、俺のホットケーキが運ばれてくると、プルルとライオットは目を点にさせる羽目になる。それは、この威容を目撃すれば当然と言えよう。


「ちょっ!? なんだい、それはっ!」

「生クリームの山じゃねぇか!? ホットケーキはどこだよ!?」

「生クリームの下だぞ」


 そう、このエキサイティングな生クリームの下に、ホットケーキはちんまりと存在している。これは、生クリームが主食のホットケーキなのである。


「生クリームが甘すぎないから、俺でもペロリなんだぜ」

「どれどれ」

「おいばかやめろ、しかも素手で生クリームを略奪するなし」


 被害は甚大、どさくさに紛れてプルルも犯行に及んだため、俺のエキサイティングな生クリームは【エキサ】にまで減少、哀れな姿を晒す羽目になる。ふぁっきゅん。


「なんという事をしやがるのでしょうか、絶望した」

「「ごちそうさまでした」」


 腹立たしいほどの笑顔を見せる二人には、もれなくメガトンパンチを見舞う。


 しかし、効果はいまいちだったもよう。くやちぃ!


「いや、しっかし、本当に美味いな」

「うんうん、親子丼だけも通う価値があるよ」


 どうやら二人もこの店の虜になったもよう。俺も紹介した甲斐があったというものだ。


「ぷはっ! おかわり!」


 そして、このお代わり宣言である。ライオットに自重という言葉は存在しないのであろうか。


「バカ野郎、食うのが早過ぎるし、人の奢りでお代わりとか反則でしょう?」

「だって、美味かったんだもん」

「えぇい、ハングリーにゃんこめ。これでも喰らえ」


 鬱陶しいライオットの口に生クリームをぶち込む。俺が食う分が減少するが、夕飯を食べることを考えると、ある程度調整した方がよさそうだ。


 全て食べても問題はないが、本日のヒーラー協会食堂の夕食はヘヴィなものであることを知っている。したがって、これは決して喰い切れないということではない。戦略級の一手であるのだ。


 すなわち、俺は真実を伝えたかったのである、げふぅ。


「「「ごちそうさまでした」」」

「はい、おそまつさま」


 俺たちは、美味しい料理を作ってくれたメリッサお婆ちゃんに感謝し、会計を済ませて店を後にする。

 お昼を回ったにもかかわらず、太陽は独りでハッスルしっぱなしだ。いったい何が、彼をあそこまで駆り立てるのであろうか。俺たちには理解できない。






 喫茶ぽやぽやからハッスルボビーまでは目と鼻の先であった。したがって、次の目的地までは時間が掛からない。


「ふきゅん、長く険しい道だったんだぜ」

「あぁ、俺たちの戦いはこれからだ」

「全然、険しくない上に、戦ってすらいないじゃないか」


 プルルのありがたいツッコミに感謝しつつ、クッソ暑いのでさっさと店内へと避難する。


 ハッスルボビーは相も変わらず冷房がガンガン効いていた。寒さの余りプツプツと鳥肌が立つ有様だ。

 しかし、これも奥にあるホビーゴーレム専門コーナーへと辿り着くまで。そこからは、また別の熱が俺たちの身を焦がした。


 特設リングの上で激しい攻防を繰り広げる二体のホビーゴーレム。それを、操縦するゴーレムマスター。そんな彼らを応援する子供たち。

 その熱は冷房が効いているであろう店内の温度を、明らかに十度ほど上昇させていた。


「ふきゅん、また、クッソ熱い戦いをしてやがるなぁ」

「おぉ、またゾウリムシだ」

「というか……勝ったねぇ。かなりのやり手だよ、あの子」


 またしてもゾウリムシ型のホビーゴーレムが戦っていたらしい。しかも勝利をもぎ取っている。どう見ても戦いに向かない姿ではあるが、これがどうして、強いようだ。


「それじゃあ、まずは登録から済ませてしまおうか」

「登録? そんな事をしないといけないのか?」

「そうだよ。登録しないと試合に出れないし、色々な特典を受けられないんだ」

「ふきゅん、特典なんてものがあるのか」

「うん、一試合する度にポイントが貰えるんだ。そのポイントで様々な特典と交換できる」


 登録には各玩具屋にある情報機器を操作しておこなうらしい。ボックス型の筐体がそれだ。


 まずは画面に手を当てるらしい。表示された円の中に手の平を当てる。すると、一瞬画面が光り、今度はネームエントリーとなった。


「ゴーレムマスターのネームはなんでもいいよ。本気でゴーレムマスターズをやってゆく連中は、本名で登録しているけどね」

「ふきゅん、それじゃあ、エルティナ、っと」

「俺も本名でいいや」

「僕は既に登録してあるから、これは省略だね」


 続いて画面の指示に従い、ホビーゴーレムを台の上に載せる。すると画面にムセルのデータが表示された。そして、エルティナのホビーゴーレムとして登録するかどうか、マルバツで問うてきたので、マルを選択する。

 すると、橋台から一枚のカードが吐き出されてきた。プラスチック製のカードだ。


「それが、ゴーレムマスターを示すカードさ。無くさないようにしなよ? 紛失してしまったら、折角集めたポイントがパーになってしまうからね」

「分かったんだぜ」

「へへ、これで対戦ができるんだな?」


 ライオットは早くも戦いに向けて戦意を高めていた。ツツオウは相も変わらず平熱であり、主の頭の上で欠伸を炸裂させている。


「やる気があって結構だね。そこに小さな箱があるだろう?」

「おう、これか?」

「うん、そこにさっき作ったゴーレムマスターカードを差し込んでおくれ」

「わかった」

「ふきゅん、俺も、もう一台の方で登録しておくか」


 俺とライオットはカード差し込み口、と書かれた場所にカードを差し込んだ。すると、カードはするりと飲み込まれ、黒かった画面に光が灯る。

 画面にはバトルエントリーの有無を問う表示。当然、俺とライオットはエントリーを選択。今度は使用ホビーゴーレムの選択となった。


 俺たちは現在、それぞれ一体ずつしかホビーゴーレムを所有していないので、俺はムセル、ライオットはツツオウを選択することになる。

 こうして、最後に確認画面が表示され、完了ボタンを押せば、後は戦いを待つのみになるらしい。


「うん、後はリングサイドの待機場所で順番を待つだけだよ。公式のバトルじゃないから、得られるポイントは少ないけど、コツコツと貯めてゆこうか」

「ポイントは割とどうでもいいんだがな」

「にゃ~ん」

「ポイントは大切だろ」


 尚、普通に扱っていたこの登録台、全部タッチパネルである。その背景に、とある男の姿がチラホラと垣間見えた。


「不思議だろ? それは、フウタ・エルタニア・ユウギ男爵が発明したらしいんだ」

「知ってた」

「おや、知っていたのかい」


 こんなことができるのは、彼以外にいないだろ、いい加減にしろ。


 ファンタジー世界の破壊者にして便利屋のフウタは自重というものを覚えるべきである。

 しかし、超便利という点で許して差し上げよう。俺の心は海のごとく広いからな。


「後は名前を呼ばれるのを待つばかりさ」

「おぉ、その時が待ち遠しいな」

「今の内にゴーグルを装着して、動作の確認をしておくのをお勧めするよ」

「ふきゅん、それもそうだな。初心者なんだから、試合中に慌ててしまうかもしれない」


 こうして、後は呼ばれるのを待つばかりとなった。果たして、俺たちは初陣を飾る事ができるのであろうか。




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[気になる点] 誤変換:筐体 登録には各玩具屋にある情報機器を操作しておこなうらしい。ボックス型の橋台がそれだ。
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