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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十八章 地球
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685食目 彼の地より~愛と勇気と努力を込めて~9

 事は誠司郎達が渋谷の町に着いた時に起った。ビルに設置されている巨大スクリーンに緊急速報が流されたのである。何事かと顔を見合わす人々。スクリーンには信じられないものが映し出されていた。

 そこは海だ。その海で何かが移動している。その何かが問題であった。


「か、怪獣?」

「特撮映画の告知かよ」

「くっだらねぇ」


 人々はそれが特撮映画の告知だと判断したのだろう。次々にスクリーンに興味を失い始めていた。しかし、直後のアナウンサーの言葉に驚愕することになる。推定全長五百メートルの化け物が渋谷方面を目指して進行中である、というのだ。


 規格外の化け物の接近に、何かの冗談か、と嘯く者もいるがこれは事実であった。その証拠と言わんばかりに戦闘機が渋谷上空を通過してゆく。

 速報が何かの間違いであっても、戦闘機が上空を通り過ぎるのはただ事ではない。それをようやく認識した人々はパニックに陥った。政府もこのような事になるのは承知の上であろう。それほどまでに事態は切迫していたのだ。


 巨大生物が出現したのは、誠司郎達が渋谷に到着してから間もなくであった。それまでは姿形すらなかった巨大生物が突如として出現したのである。

 出現位置は伊豆諸島付近。政府の予測では五時間後には東京に上陸するであろうことが判明されていた。

 事に当たり政府は自衛隊の戦力を投入、米国の駐屯部隊にも協力要請を打診。この前代未聞の事態に政府は形振りを構う余裕がなかったのである。


 しかし、第一次攻撃は失敗に終わる。全ての攻撃が無効化され、一方的に攻撃を受けて自衛隊の戦力は全滅してしまったのだ。

 少し遅れて米軍のイージス艦が到着し、攻撃を開始。しかし、結果は自衛隊と同じであった。だが、米軍駐留部隊隊長マキシム・ミュラー大佐の機転により、部隊は壊滅を免れるも一時帰投を余儀なくされた。


 この事態に、日中のトップは電話会談により非常事態であることを確認し合う。日本は全戦力を東京に集結。徹底抗戦の構えを見せた。しかし、日米の駐屯部隊の戦力は掻き集めても微々たるものであった。

 それは、あくまでも人間相手の自衛のための戦力であるからだ。このような超巨大怪獣を想定しているわけがない。


 第一次攻撃の散々たる結果をスクリーンで確認した誠司郎、マイクは、怪獣が鬼であることを理解した。

 自衛隊や米軍が、いくら攻撃しようとも無駄であろうことを把握した上で、誠司郎は、まず成すべきことを考える。それは、愛する者達を避難させることだ。


「お父さんと、お母さんを、避難させなくちゃ!」

「落ち着きな。あれが日本に到着したら、どこへ逃げても無駄さ」

「で、でもっ!」

「あれは鬼だ。だったら、桃使いの領分さ」


 マイクは急ぎドクター・モモに連絡を入れた。どうやら桃アカデミー本部でも状況を把握していたようで、急ぎ桃使いを急行させているとのことだ。


『到着には三時間掛かる』

「それじゃあ、遅いZE。防衛に二時間しか使えないってどういうことだ」

『仕方なかろう。大規模作戦の……』


 そこまで言って、ドクター・モモは迂闊な行動であったことを悟った。


『やられたわい、全ては計算づくじゃったか!』

「ワッツ? どういうことだ」

『大規模作戦に桃使いの殆どを招集する。この情報を最大限に利用しての進攻じゃて』

「そんな機密情報をどこから仕入れるんだYO。情報管理は完璧なんだろ?」

『ここの情報が無くとも、あっちなら薄々感付けるじゃろうが』

「あっちって……異世界カーンテヒルか!?」

『さようじゃ。あやつめ、やはり残しておったか』


 その時、街頭スクリーンに巨大怪獣の頭部に何者かが立っている姿が映し出された。白衣を身に纏う初老の男だ。


『ドクター・スウェカー……!』

「ヤツがドクター・スウェカー?」

「そ、そんな!? 確かにあの人は僕たちが……!」


 姿こそ違えども、その嫌らしい笑みを、誠司郎が忘れるわけがなかった。彼女は彼がドクター・スウェカーであることを確信する。そして同時に、彼が中里香里に関与しているであろうこともだ。


「香里は彼に操られて……?」

「どうだろうな。俺っちは、その線は薄いと考えている」

『いずれにしても、あの、うるとらざうるす、のうえの、じじぃを、やっつけねぇと!』


 ティナの訴えに、マイクと誠司郎は、それもそうだ、と気付かされる。急ぎ、戦力を掻き集めるために連絡を掛けることにした。誠司郎は史俊、時雨を。マイクは古い知人に。


『史俊、時雨!』

『誠司郎かっ!? どこにいる! ニュースを見たかっ!』

『誠司郎、無事!?』

『うん、僕らは大丈夫! それよりも、ドクター・スウェカーが生きていたんだ!』

『あぁ、バッチリ見ちまった!』


 久しぶりに聞く親友二人の声に安堵する誠司郎であったが、それに浸っている時間はあまりにも少ない。誠司郎は二人に応援要請を出した。それはすぐさま容認されることになる。

 彼らとしても、生まれ育った町が破壊されてしまう事は容認できないのだから。


『どこに集まればいい?』

『今、渋谷。えっと……』

『ハチ公前でいいじゃない。そこで落ち合いましょう』

『うん、わかったよ、時雨』


 落ち合う場所を決めた三人は連絡を終えた。同じくしてマイクの連絡も終了する。


「んで、どうだった?」

「はい、友達が応援に駆け付けてくれます。ハチ公前で落ち合う予定です」

「OK、こっちも手配は済んだ。どこまでやれるか分からねぇが、やれるだけやってみるとするか!」

「はいっ!」

『ならば、ゆくぞっ!』


 ティナは誠司郎の胸の谷間にすっぽり収まり興奮を露わにした。どこから取り出したのか、ほら貝を吹き鳴らし出陣の合図としている。そんな子珍獣に苦笑しつつも、二人は合流場所に急いだ。






 程なくして、誠司郎は、史俊、時雨に合流する。そして、意外な人物たちと誠司郎は再会することになった。


「誠司郎!」

「誠ちゃん!」

「お父さん、お母さん!?」


 彼女の両親、宮岸誠十郎、美波である。彼ら以外にも史俊、時雨の両親もいた。


「応援ついでに連れ出してきた」

「いきなり、拘留所に殴り込みをかける、と倅から聞いた時には驚いたが……こんな事態じゃなぁ」


 史俊によく似た男性は彼の父親だ。史俊の大柄な体と気風の良さは彼譲りであろう。

 この親子は誠司郎からの連絡を受けた後に、宮岸夫妻が囚われていた拘留所を襲撃して二人を連れ出している。緊急事態に手薄となっていたことを狙ったのだ。


「がっはっは! これで犯罪者だ! きみえ、今日から俺は無職だぞ!」

「威張って言うんじゃないよ。それよりも、これからどうするんだい?」


 史俊の母も気風の良い女性であった。夫が犯罪を犯した事よりも、これからの事に想いを馳せている。むしろ、夫の罪などどうでもいい、と思わせた。


「信じられない事が起っていますねぇ。娘から話を聞かされた時は、遂に頭がおかしくなったか、と悲観しましたが」

「パパ、それは酷いわ」


 時雨の両親は二人揃って大学で教鞭を取っている。そんな彼らは、娘の体験に疑問を持っていたが、ここに至り、信じ難い存在が実際に迫ってきていることを顧みて、その考えを改めることになった。


「まさか、こうして礼二、正樹と再会することになろうとは」

「誠十郎、きみは、いつも波瀾万丈だな。付き合わされる身にもなってくれ」

「がっはっは! んで、その娘が誠司郎か? 随分と色っぽくなったなぁ?」


 呑気に再会を喜ぶ夫たちに呆れる妻たち。夫の余裕はどこから来ているのか、と深いため息を吐く。そんな彼らに声を掛けるのはマイクだ。


「折角の再開に水を差すんだが、お客さんのようだZE」

「あなたはどちらですか?」


 時雨の父親、礼二はマイクに問うた。マイクはマジックカードをかざし答えた。


「桃使い、マイクさ」


 一瞬の閃光を放ち、そこに現れるのはメタリックボディの機械仕掛けの警官だ。同時に下級の鬼達が出現。待ち人を待っている人々を襲い始めた。


「な、なんだぁ、ありゃあ!?」

「親父、あれが鬼だ!」


 史俊は持参した鉄パイプを父、正樹に手渡した。それを手にした正樹はにたりと笑みを作る。


「なんでもいいから、ぶちのめせばいいんだな?」

「そういうこった!」


 二人の鉄パイプが桃色の輝きに包まれる。マイクの〈桃光付武〉だ。

 鬼を滅する力を得た二人は猛然と異形の存在に殴り掛かる。史俊はともかく、彼の父親、正樹も相当な強者であった。


 しかし、数が数だ。次第に二人は大量の鬼に包囲され追い詰められてゆく。ロボマイクは武器を持たない誠司郎たちを護るため積極的に動けない。


「私も何か武器があれば……!」


 誠十郎が悔しさに打ちひしがれた時、声が聞こえた。


「武器がほしいのか?」

「え?」

「ならば、くれてやろう」


 ガシャリと音を立てて、誠十郎の足下に見事な一振りが転がった。それを慌てて手に取る。鞘から抜く、とまるで濡れているかのような妖艶な刃が姿を現した。


「それは桃使いの装備装備じゃねぇかYO! まったく、仕事が早いぜ【音無し】さんYO!」

「……元はここの担当だ。当然だろう?」


 誠十郎は誰もいない目の前から男の声が聞こえ、思わず身構えてしまった。


「いい反応速度だ。エルティナも見習ってほしいところだな」


 何もない空間から姿を現す黒装束の男。その男は、桃色の髪に桃色の瞳、とおおよそ日本人とは思えない特徴を持っていた。そして彼は、父親同様に驚く誠司郎に、手にしていた袋を渡す。その中身は全て武器であった。


「こうして顔を見合わすのは初めてだな、誠司郎」

「まさか……トウヤさん!?」

「あぁ、こんな出会いになってしまって残念だがな」


 エルティナ専属の桃先輩、【音無し】のトウヤは僅かに微笑んだ後、元の仏頂面へと戻った。そして、史俊たちに加勢するために姿を消す。


「えっ!?」


 その、あまりの速度に誠司郎は驚愕した。桃先輩とは戦闘に耐えるだけの能力を失った者が就く役職ではなかったのか、と。

 確かに、それは正しい。かつてのパートナー、木花桃吉郎を失った直後の彼は【戦闘に耐えれる精神】を持っていなかったのだから。


 だが、今は違う。苦難を共に乗り越えた新たなるパートナー、エルティナのお陰で、彼は強靭な心を取り戻すことができたのだ。今の彼は、かつての彼を超える。心とはそれほどまでに肉体と密接な関係にあるのだ。


「うおっ!? なんだぁ!?」

「なんか、黒い線みたいなのが飛んでやがる!」


 だが、音はしない。黒い線のみが史俊たちの視界に一瞬だけ映る。瞬間、ボトリと鬼の首が地面に転がるのだ。


「おいおい、もうあいつだけで、いいんじゃねぇのかYO」


 これにはロボマイクも苦笑いであった。鬼に恐怖を与える暇すらなく葬り去る、【音無し】は健在であったのだ。


「見とれている場合ではない。我らも加勢するぞ」

「うん、僕だってやれるんだ」


 誠司郎は袋の中から拳銃を発見し手に取った。だが、やはり魔導銃ではなく、少しばかり改造されている【デザートイーグル】であった。


「せ、誠ちゃん!?」

「お母さんは離れていて!」


 勇ましく銃を構える娘に美波は困惑した。そんな彼女を置いてけぼりにして誠司郎は発砲する。放たれた弾丸は、寸分違わぬ軌道で鬼の頭部に命中。それを桃力が籠る弾丸にて爆ぜさせる。


「まずは一つ!」


 続けて二体、三体と仕留めてゆく姿は、既に歴戦の雄の貫禄を備えていた。その衝撃的な娘の姿に声を失う美波は、夫である誠十郎の暴れっぷりに正気を取り戻した。


「一つ、二つ、三つ!」

「わっ、お父さん、凄い」

「お父さん、がんばっちゃうぞ~!」

「あぁ……誠司郎も、あの人の血が流れていたのね」


 顔を手を抑えて呆れる美波。一方その頃、時雨の母、卯月も白目痙攣でもって、娘の勇姿を見つめていた。


「うんうん、これこれ! 我、放つは雷の雨! 踊れ踊れ!〈ライトニングダンス〉!」


 時雨が手にして物は、ドクター・モモが試作開発をおこなった魔力増幅装置付きの杖だ。

 今までの鬱憤を晴らさん、とでもいうように一切の自重を捨て去った時雨は周囲一帯に雷の帯を降らせ、それらを躍らせるかのように地を這わせる。鬼の一体が感電すれば、それを介して、雷は次の獲物に狙いを定めて襲い掛かった。


 そんな娘の表情は筆舌し難いほどの凶暴さだ。これでは、どっちが鬼であるか分からない。そんな娘を目の当たりにして、卯月は思考停止状態に陥り倒れた。

 その妻を抱きとめた礼二は、手にしたハンドガンを連射して、鬼の接近を食い止めている。


「あら、パパって、銃を扱えたのね」

「昔ちょっとな」


 一方で勇ましい妻もいる。史俊の母、みさえである。彼女は袋に入っていたメリケンサックを手に装着し、情け容赦なく鬼を撲殺していた。


「うひっ、お袋、それはあんまりじゃね?」

「おぉ、こわ」

「うっさいね! あんたらも、こうなりたいのかい!?」

「「すんませんした!」」


 みさえの一喝で戦闘中にもかかわらず、ケツプリ土下座を敢行する加藤親子。


「これでも一校の番張ってたんだよ! 死にたいヤツから掛かっておいで!」

「俺はどうして、みさえに惚れたんだっけかなぁ?」


 誠十郎達は世間一般と比べると数奇な人生を歩んでいた。誠司郎たちのような異世界転移こそ体験していないが、似たり寄ったりな騒動に幾度となく巻き込まれている。その経験がこうして役に立っている、というわけである。


「トウヤ、どうなってんの? この人たち」

「俺に聞くな、マイク」


 誠司郎たちの活躍もあって、下級の鬼たちは殲滅された。数にして六十体はいたであろう。この事態にトウヤは事の重大さを知る事になった。


「桃アカデミー本部はこの事態をむざむざ見過ごすというのか? それほどまでに大規模作戦を優先するとでも?」


 トウヤの呟きは、勝利を祝う戦士たちの声で掻き消されたのであった。

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