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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十七章 決戦への備え
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674食目 次代の勇者

 さて、諸君たちはヒカルという名に覚えがあるだろうか?


 彼の勇者タカアキと、マイアス教団司祭エレノアとの間に生まれし者である。


 癖っ気がある短い金髪に、灼熱の輝きを持つ赤い瞳。幼いながらに将来を約束された器量。

 エレノアさんの良い部分を全て受け継ぎ、タカアキの要素は天然パーマの部分のみ。

 天に全てを与えられし少女、ヒカル・ゴトウ。それが彼女だ。


 両親と生き別れた後、彼女はヒーラー協会にて預けられ、マイアス教団最高司祭デルケット爺さんと、ヒーラー協会のギルドマスター、スラストさんの手によって厳しくも暖かく育まれてきた。


「エルティナ様、私の拳で世界を救ってみせましょう。拳は世界を救うのです」


 その結果がこれだよ。


「ふきゅん、ヒカル。暴力では解決しないこともあるんだぞぉ」

「大丈夫です、愛は暴力ですから。そして、愛とは拳で語り合うものなのです」


 どういう教育をしたんだぁ!? ふたりともぉっ! 俺の理解が外宇宙に出張しちまったぞぉ!


 なんとも問題児な発言をするヒカルちゃんは、ただいま八歳。色々と周囲から影響を受けやすいお年頃だ。

 今の内に、このどえらい性格を修正しとかなくては、後々に困ったちゃん、になってしまうだろう。

 俺はヒカルちゃんを連れて、ただちにヒーラー協会のギルドマスタールームへとカチコミを掛ける。


 おるるぁん! 責任者でてこいやぁ!


「なんというか……すまん」

「すまんじゃないんだぜ。スラストさんともあろう者が、どうしてこうなった?」

「うむ、最初はこうではなかったのだが、中々筋が良くてな」

「運動不足解消のために、武術を教えてたと?」

「あぁ、ヒーラーとしての腕前も良いし順調だ、と思っていた」


 スラストさんは眉間を指で解しながら俺の質問に答えて行く。彼の答えは段々と不穏なものへと変わっていった。


「あれはヒカルが五歳の頃だったかな。デルケット最高司祭が、ヒカルを連れて聖女ゼアナに対面しに行った時の事だ」

「……え?」

「その時から、ヒカルが変わった気がする。なんというか、直情的になった」

「嫌な予感が、ぷぃんぷぃん、するんですが」

「聖女ゼアナ様は素晴らしいお方です。特に腹筋」


 バカ野郎、脳筋に染まってるじゃねぇか。何を吹き込まれたんだ、ヒカルちゃんは。

 そして、デルケット爺さんは、後でお説教だ。


「これは忌々しき事態なんだぜ。将来の勇者が脳筋であってはならにぃ」

「うむ、修正は試みているのだが、どうも成果が上がらなくてな」

「大丈夫です、私は正常です」


 そう言うヤツが一番正常じゃないんだよ。ふぁっきゅん。






「というわけで、第一回ヒカルちゃん修正会議をおこなうんだぜ」


 お集まりいただいた方々は、暇を持て余していたご婦人たちだ。

 最近、ぴちぴちの容姿を取り戻したミランダさん、危険な趣味に目覚めたルドルフさん夫妻、妖怪喰っちゃ寝マイアス・リファイン、うちのディアナママン。

 スペシャルゲストに、いばらきーず、のおふた方を交えての会議となる。


 会議場所は露店街の穴場。

 安くて美味い、と評判の、しゃぶしゃぶ専門店【しゃぶキメ】だ。

 名前はアレだが、まっとうなお店なので気にしないでやってほしい。


 時刻は午後六時半。今頃、我が家の男衆とアルのおっさんは、俺が教えてあげた居酒屋へべれけで舌鼓を打っている頃であろう。


「お集まりいただいたのは他でもない。ラングステン王国の次代の勇者が脳筋危機マッスルクライシスに陥っているんだぜ」

「「「「な、なんだって~!?」」」」


 このままでは、あまりに残念な娘になることが確定なので、どうにかしよう、という会議が始まった。これがヒカルちゃん、しいてはエレノアさんの胃を守る事に繋がろう。


 クツクツと煮立つしゃぶしゃぶ鍋。取り敢えずは、しゃぶしゃぶを食べて胃を落ち着かせよう。


 店が提供するお肉は多種多様だ。

 ブッチョラビ肉、鶏肉、牛肉、羊肉、竜肉まで置いてある。また、お肉以外も豊富だ。


 白菜やキノコ類、牡蠣やブリなどの魚介類なども網羅。締めのごはんや麺類、中にはしゃぶしゃぶ用の餅すら置いてある徹底ぶりだ。


「いただきま~す!」


 まずはブッチョラビの肩ロース肉からしゃぶる。しゃ~ぶ、しゃ~ぶ。


 チョイスするタレは、ニンニクが効いたしょうゆベースのタレに大根おろしを加えたものだ。

 大根おろしをお肉で包んで、お口へシューッ! 超エキサイティンッ! 大根おろしの冷たさで、お肉が適温になり、大変に喜ばしい。


 このサッパリ系のタレはバラ肉など、脂が多い部位の肉に最適だ。

 逆にモモ肉などサッパリしている部位には、ごまタレをチョイスしたい。


 さっぱりとしたお肉に、芳ばしく濃厚な味付けのタレは、まさにゴールデンコンビと言えよう。

 俺は更にモモ肉で、えのきだけを巻き巻きして、ごまタレに付けていただく。


 肉のモチモチ感と、えのきだけのシャキシャキ感が、口の中でハーモニーを奏でる。

 それを指揮するのが、ごまタレというわけだ。うんまぁい!


「うー!」

「ゼファー、お肉ばかり食べたらダメよ」


 ゼファー君は離乳食を卒業し、もりもりとお肉を食べている。どうやら、肉食系のようだ。


「こら、雪希。肉を生で食べないの」

「ひゃん、ひゃん!」

「いや、わんこ形体なら、いいんじゃないのかな?」

「リルフが真似をするんですよ」

「あぁ、そりゃダメだ。雪希、人形体になるんだぁ」


 俺が諭すと雪希は渋々ながら幼女と化した。この状態の彼女は食べ方が下手くそであり、何故か顔にしゃぶしゃぶした肉が何枚も張り付いている。


 新手の美容法かな?


 そんな、和気あいあいとする中で、とんでもない物をしゃぶしゃぶする猛者がいた。ユウユウ閣下である。

 彼女は何をトチ狂ったのか、分厚いサーロインステーキをしゃぶしゃぶ鍋にドボン。煮込み始めた。


「それじゃあ、しゃぶしゃぶじゃないんだぜ」

「クスクス、私がルールなのよ。これが新しいしゃぶしゃぶの形なの」

「はっ!? ルールの破壊! 新しい!」


 リンダはそろそろ病院に入院させた方が良いかもしれない。病院が逃げ出すかもしれないが。


「ディアナママンも食べてる?」

「えぇ、食べていますよ。羊肉が美味しいわ」


 お上品にしゃぶしゃぶする、ディアナママンは大変にお美しい。

 しゃぶしゃぶ、とはこうするのだ、を実践してくれている。おまえら見習うのだぁ。


 じゃばじゃばじゃば。


「おるるぁん! じゃばってるのは、どこのどいつだぁ!?」

「誰も! 私を! 止めることは! できないっ!」


 元駄女神マイアス・リファインがお下品極まりないしゃぶり方をしていたので、イエローカードを一枚突き付けた。イエローカード二枚で、闇の枝にしゃぶらせるから注意していただきたい。


「すいあせんでした」

「以後、気を付けろぉ」


 こうして、和気あいあいと胃と心を落ち着かせてから本題に移る。

 マイアス・リファインも問題児だが、ヒカルちゃんの現状は、これを上回る可能性があるのだ。放っては置けない。

 まずは皆に分かり易いように、ヒカルちゃんの問題点を提示することにした。


「まず、ヒカルちゃんの問題点を上げるんだぜ」


 バイオレンス=ラブ。

 性格が男性寄り。

 口より先に手が出る。

 しゃれっ気皆無。

 無駄に身体能力と魔力が高い。

 筋肉が正義。

 いまだ無敗。


「これは中々、調教のし甲斐があるわねぇ?」

「ボンデージ、合わせなくちゃ」

「ユウユウ閣下とリンダは自重の方向で。ヒカルちゃんに、新たなる属性を付与するのは拙いんだぜ」

「あら残念。良い声で鳴いてくれると思ったのに」

「ね~?」


 早速、ユウユウ閣下とリンダが問題発言をぶっぱした。二人を呼んだのは間違いであっただろうか。俺はどうにかしていたに違いない。うごごごご……。


「まずは手が先に出るのを、なんとかすることから始めた方が良いんじゃないかい?」

「う~!」

「ミランダさんの言うとおりなんだぜ。では、それをどうすればいいか考えよう」


 いまだにお肉を要求するゼファー君は、なかなかの大食漢だ。ミランダさんも大変そうである。

 しかし、まぁ、料理上手のお母さんを持って、ゼファー君は幸せ者だ。よかったな。


「はい」

「ふきゅん、リンダ」

「両腕を破壊する」

「ばかやろう」


 ダメだこいつら……早くなんとかしないと。


「はい」

「ふきゅん、ルドルフさん」

「彼女の身体能力を封印するところから始めたらどうでしょうか?」

「ほぅ……続けて」

「はい、ヒカルちゃんを普通の女の子にしてから、色々と教えて行くのです」


 これはナイスなアイディアだ。脳筋を修正する上でも先んじて行うべきであろう。


「問題は……どうやって彼女の能力を封印するかですが」

「それに関しては俺がやるんだぜ」

「あら、どうやって?」


 ユウユウ閣下が腕を組んでパイパイを持ち上げニヤリと笑う、という挑発的な態度を見せた。じゃけん、披露して差し上げましょうね~。


「ふきゅん、鬼力特性【奪】!」


 俺の手から赤黒い蛇がこんにちは、ユウユウの胸へ突き刺さり、彼女から輝く球体を、ぬぽん、と引っこ抜いた。


「ふっきゅんきゅんきゅん……これでユウユウ閣下は、ただのユウユウ・カサラだぁ」

「そ、その鬼力は……まさか!?」

「そのとおりだぁ、これはかつての強敵ともの能力。俺はヤツから鬼力を受け継いでいる」


 それは俺の力の源。光在れば影在り、陰と陽……この二つは、共にあってこそ真なる力を発揮する。俺は宿敵との戦いで、それを獲得していたのである。


「ほれほれぇ、抵抗して見せろぉ」

「やぁん、ユウユウ、壊れちゃう」


 復讐の時は来た! その豊満なパイパイを蹂躙してくれる!


「エルちゃん! 私も混ぜてっ!」

「ふっきゅんきゅんきゅん! 覚悟するのだぁ!」

「ら、らめぇ!」

「ルドルフ! 光画機っ!」

「了解です!」


 どしんっ!


 店が揺れたかのような振動。それは地震であったであろうか。否、それは否っ!

 ひび割れたテーブルがそれを物語るっ! あとで弁償しなきゃ……。


「エルティナ?」

「あっはい」


 ディアナママンの一喝によって事態は収拾。ユウユウ閣下に能力を返還する。


「……もうちょっとだったのに」


 ユウユウ閣下は、とても残念そうな顔をしていた。どうやら、期待していたもよう。彼女はSでもMでもいける貪欲なお方だったのだ。


 マジで震えてきやがった。


 ヒカルちゃんの能力を抑える事ができる、と判明したお陰で議題は次なるものへと移行する。


「男性寄りの性格を女性寄りにする。そうすれば同時に、しゃれっ気や、喧嘩早さも改善させれる、と思うんだぜ」


 俺の提案に皆は概ね賛成であった。それにはまず、お洒落に目覚めさせる必要がある、とのことで、地獄のエレガントチルドレン巡りが企画された。慈悲は無い。


「あとは愛とは何かを教える必要があるな」

「はい」

「マイアス・リファイン、どうぞ」

「ずばり、少女コミックを読ませまくればいいのです」

「いやいや、この世界にそんな本はないだろ」

「あら、あるわよ?」

「え?」


 まさかの返事はディアナママンからだった。なんでも、我がエティル家は千五百冊にも及ぶ少女漫画や恋愛小説を保有しているとのこと。


「うふふ、ヒカルちゃんにたぁっぷり、読み聞かせて、あ・げ・る」

「うおぉ……震えてきやがった」


 こうして、第一次ヒカルちゃん更生計画は発動した。

 果たして、ヒカルちゃんは生き残る事ができるのであろうか?


 見とけよ、見とけよ~?


 というわけで、しゃぶしゃぶ祭りは本格的に開始されたのであった。まずは、ユウユウ閣下のステーキをサルベージするところから始めなくては。というか、もうカッチカチやぞ。

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