672食目 どうしてこうなった
実家の台所にて【フレイベクス肉のチーズ巻きトマトロースト】を制作していた俺の下に、ゴーレムギルドから一報が入った。
どうやら、俺のGDが完成したらしい。早速、ゴーレムギルドへと向かう。
ぽいっちょ、とフレイベクス肉のチーズ巻きトマトローストを〈フリースペース〉にしまい込み、ムセルと、うずめを引き連れて、ルンルン気分にて通い慣れたゴーレムギルドへと向かう。
世界は既に白く染まりあがり冬本番に差し掛かっている。今年もそろそろ終わりとなると感慨深い。
賑やかの大本だった誠司郎たちが、故郷である地球に帰って暫く経つ。過ぎ去った日々を懐かしみながら、ギュ、ギュ、と音を鳴らす雪に耳を傾ける。
誠司郎たちは、地球できちんと生活を送れているであろうか。気になるところだ。
こんど、トウヤにでも聞いてみることにしよう。
「おいぃ、俺のGDができたんだっ……ふぁっ!?」
ゴーレムギルドの工場へ入り、真っ先に飛び込んできた光景に俺は目を疑った。
そびえ立つ巨大な砲門、その雄々しさにほれぼれするが、GDに搭載するには大き過ぎる。その砲門は既に俺の数倍はあるのだから。
灰色のボディは、その巨大な砲門を容易く受け入れる寛容さがあった。即ち、砲門よりも巨大だという事になる。という、これは既に小さな山と同義だ。
「ちょっとまて、いったいなんだ、これはぁ?」
流石の俺も、これにはおったまげるしかなかった。GDの完成と聞いてやってきたら、不意だまからのハイスラとか聞いてない。
そこにあったのは……どこからどう見ても巨大戦艦であったからだ。
ゴーレムギルドの工場、こわれちゃ~う!
「おぉ、来よったか。こいつを見てくれ、どう思う?」
「すごく……大きいです」
それ以外に何も言えなかった。何故、ゼグラクトで船を作らせているのに、ここでも船を作ったのか、これが分からない。
何かのトラブルでも発生したのであろうか。それとも、また変態技術を盛り込むためのテストベースであろうか。やはり、それは知るよしもなかった。
「そんな事よりも、俺のGDはどこだ?」
「目の前にあるじゃろうが」
「……え?」
今度は耳を疑う。このクソデカい戦艦が、俺のGDだというのだ。
俺に知るGDはあくまで人型だったはずだ。だが、これは船だ。人型ですらない。
これを身に纏う、とはどういった状況になるのだろうか。理解が追いつかない。
「ふぇっふぇっふぇ、これぞ、GDの概念を木っ端微塵に砕いた最強のGD。その名もGS【吉備津】じゃ!」
「やっぱり船じゃないですかやだー」
やはり戦艦だった。コレジャナイ感が半端ではない。俺のGDラストリベンジャー帰ってきて。
というか、ゴーレムの概念が粉砕されてしまっている。これじゃあ、ただの戦艦だ。
「参考にした船は、皆大好き、戦艦大和じゃ。その三番艦的な設定で制作したぞい」
「それよりも艦名大丈夫なのか? 吉備津彦様の名前って」
「本人もノリノリじゃったわい」
「マジか」
そんな事よりも、このクソデカい船が工場内に納まっているという事実。
話に聞くと、圧縮システムなる物を使用しているので、本来はもっと大きいそうだ。
そう言えば戦艦大和を参考にしていると言っていたから、実際の大きさは……全長二百六十三メートル。あ、これあかんやつや。
「現在は十分の一に圧縮中じゃから、約二十六メートルと言ったところじゃのう」
「それでもデカすぎるんだぜ。あと、俺にどうすれと」
ここは陸だ、海にまで運べと言うのか。フリースペースに突っ込むったって限度というものがある。
「ふぇっふぇっふぇ、こいつは水陸両用じゃよ。空は飛べんがの」
「マジかよ……」
「取り敢えずは着てみい。話はそれからじゃ」
俺はドクター・モモに勧められるままにGS吉備津へと乗り込む。そして、艦橋と思われる位置へとやって来た。
なるほど、ここは見晴らしが良い。まさしく、艦橋というに相応しい場所である。
が見晴らしが良いだけで、ここには何もなかった。
「何もないんですがねぇ?」
「当然じゃて。まだGSを身に纏っていないんじゃから。ほれほれ、身に纏ってみい」
俺はGDスーツを身に纏いドクター・モモに言われるがままに、GS吉備津を身に纏う。
これは身に纏う、と言っていいのだろうか。艦橋の床から突如としてコードのようなものが飛び出して来て俺を絡め取り、全身を覆い尽くしてしまう。
視界が晴れると同時に、俺はそこが艦長席へと変化していることに気が付いた。
そして、様々な機器、その前にはチユーズたちがちゃっかり座っている。船上員を気取っているようで、全員がセーラー服を着用していた。
「ふきゅん、これはぁ……!」
「うむ、システムは正常に稼働しているようじゃの。早速、進水……この場合は進陸かの」
「分かったんだぜ。戦艦吉備津、発進!」
『せんかんきびつ』『はっしん』『よ~そろ~』
工場の巨大な扉が開き、けたたましいサイレンが鳴り響く。だが、それともう一つ、別のサイレンがフィリミシア城から鳴り響いていたではないか。
「何事なんだぜ」
「入電じゃ。フィリミシア北西部に、巨大生物兵器と思わしきものが、こちらに向かっておるとのこと。恐らくは女神マイアスが仕掛けてきたんじゃろうて」
「穏やかではないな」
「まったくじゃ。じゃが、GSを試す的ができたというものじゃて」
呑気に言うドクター・モモであるが、GS吉備津は今日が初進陸である。どんな不具合が起るか分からない。
だが、クラークたちシングルナンバーズは、エネルギー効率化試験によって、フィリミシアを離れて演習中であるため、ここは俺達がなんとかするしかない。
「一応はライオットたちにも連絡を入れておくか」
「それが良いじゃろう。万が一に備えてのう」
そう言っている間にも、戦艦吉備津は既にフィリミシアの町を出港していた。というか、俺自身は戦艦吉備津をまったく動かしている気がしない。
船自体は、ホバークラフトのように僅かに浮かんでいる状態だ。これだけの質量の船をどうやって浮かしているのであろうか。
たぶん、俺の魔力を使用しているのだとは思うが。現在進行形でもりもり魔力が失われているのだから。
「不思議そうな顔をしてるのう。全部AIがやってくれておるから心配はいらん」
「あぁ、やっぱりそうだったんだ。このチユーズたちは?」
「ただの飾りじゃ」
『かざり』『ちがう』『くるー』『だ』『しゃざいを』『ようきゅうする』
チユーズが持ち場を離れて、ドクター・モモに抗議をしている時点で飾りだ、とバレているんですが。それは。
まぁ、いてくれた方が雰囲気的にも盛り上がるので良しとする。
『かんちょう』『もくひょう』『ほそく』
「なんだ、ありゃあ?」
「ふぇっふぇっふぇ、奴さんも面倒なヤツを送ってきたもんじゃ」
それは、あまりにもデカ過ぎた。全高五十メートル級の紫色の肌を持つ巨人だ。しかも、やたら無暗にくっ付いている物が多い。
腕が十二対、足が六対、顔が五つもある。やたら無暗に付ければいいものではあるまいに。女神マイアスとやらは阿呆なのか。
『もくひょう』『こちらに』『きがつきました』
「ふきゅん、やるしかないか。ぶっつけ本番だが、本艦はこれより戦闘を開始する」
『うおぉぉぉ』『やってやるぜ~』『ぶっころしてやる~』
治癒の精霊たちが、やたらに物騒な言葉を口走っていた。血の気が多いのであろうか。
改めて異形の巨人を観察する。やはり違和感を感じ取った。
なんというか、肉が動いている、そんな感じだ。生物的なものを感じ取れない。
それはきっと、アレに魂が入っていないからだろう。では、何故動いているのだろうか。
「あいつは、いったいなんだ? 鬼でもないし、生物にも思えない。そもそも、魂が入っていないって、ありなのかぁ?」
「生物兵器の失敗作を、無理矢理結合させて作ったんじゃろうなぁ。制御は恐らくAIじゃろうて。じゃから遠慮はいらんじゃろ」
「そいつは、ありがたい。おう、デカくてぶっといもんをぶち込んで差し上げろ」
『しゅほう』『はっしゃ』『いそげっ』『もくひょう』『ほそく』
戦艦吉備津の主砲が、狙いを定めるために鈍い音を立てて起動する。
まるでチユーズが動かしているかのようだが、ヤツらはただの雰囲気作りのための船員であり、実際は全てAIがやってくれている。
一応は俺が船を操ることも可能、とのことだが下手に操るよりはAIに任せて、俺はエネルギータンクの役目を果たした方が良さげである。
あれ……これじゃあ、いもいもベースの時と変わってないぞ? あれれ~、あれれ~?
「ふっきゅん! 撃ち方始めっ!」
『うち~』『かた~』『はじめっ』
轟音と共に主砲から放たれる砲弾。それは、異形の巨人に見事命中。相手を怯ませた。
「よぉし、いいぞい。次弾装填急げい!」
『じだん』『そうてん』『いそげっ』
ここで異形の巨人が反撃をおこなってきた。手には石が握られており、そいつをこちらに投げ付けてきたのである。
石とは言うが、ヤツが握っているから小さく見えるものの、実際は巨大な岩だ。
直撃すれば大きな被害を被る事になろう。
「回避っ! 回避ぃぃぃぃぃぃっ!」
『おもかじ』『いっぱい』『げいげき』『いそげっ』
ごうん、ごうん、と轟音と砂煙とを立てる投石された大岩。辛うじて命中は避けられたが、次は命中しないという保証はない。
異形の巨人が第二波を放ってきた。AIは内一発が被弾コースと予測。俺とチユーズは慌てふためくハメになる。
「えらいこっちゃ! えらいこっちゃ!」
『だんまく』『うすいよ』『なにやってるの』
「ええい、落ち着かんか。一発や二発、耐えれるようにしておるわい」
つまりは一発か二発以上は耐えられないという事になる。ダメじゃないですかやだー。
しかし、直撃コースの大岩は途中で爆発四散。戦艦吉備津に命中する事はなかった。
目の前の出来事に呆けている、と正面スクリーンにプルルの顔が映ったではないか。
『大丈夫かい、食いしん坊!』
「ふきゅん! プルルか! 助かったよ、もうダメかと思った」
大岩を砕いたのはプルルの新型GDネオ・デュランダの腹部荷電粒子砲であった。
別名【ぽんぽんびーむ】の一撃は凄まじく、大岩を蒸発せしめても尚、健在であり、異形の巨人の腕の一つを破壊せしめた。
『ちょっと、ドクター・モモ! これ、威力があり過ぎるんじゃないかい!?』
「何を言うとるんじゃ、かなり抑えたんじゃぞ」
とんでもないことを言っている変態科学者に、俺は白目痙攣状態となる。
あれで威力を抑えているって……本来の威力じゃ、撃った本人も無事じゃ済まないだろ。
『食いしん坊! その船にライオットを乗せてあげて!』
「うん? いいぞって……あえぇぇぇぇぇっ!? 人が空を走ってるっ!?」
空を駆けるにゃんこ。ライオットは遂に人を辞めたようであった。
よくよく見ると足がオーラに包まれている。きっと、あのオーラが重力か何かに干渉して、空を走れるようにしているに違いなかった。
しかしまぁ、シュールである。
『ライ! こっちだ!』
『おう! ってまた、妙なもんにのってるなぁ? 船か、それ』
〈テレパス〉にてライオットを誘導、艦橋にまで上がってきてもらう。
プルルならまだしも、ライオットではサイズ的に異形の巨人とやり合うには無理があるだろう。
「おっす、エル」
「ふきゅん、ライ、いらっしゃいなんだぜ」
「しっかし、デケェな」
「あぁ、とんでもない大きさの巨人だぜ」
「いや、エルのおっぱい」
「そっちか」
開幕からのセクハラに、ライオットのナチュラルすけべの強大さを感じ取る。これは、プルルも大変そうだ。
そんなプルルは異形の巨人と交戦状態に入っている。当たり前のように空を飛ぶGDネオ・デュランダ。
背中から生えるウィングブースターがうねりを上げる。すると、ネオ・デュランダは慣性の法則を無視するような軌道を見せた。
「無茶苦茶な動きなんだぜ」
「ふむ、まだ少し不慣れのようじゃのう」
既に俺はプルルの動きに追い付いていなかった。何かが動いているように見えるが、気が付いた時には既に視界から消えている有様。もう彼女と戦っても勝てる気がしない。
「プルルのやつ、面白い動きをするなぁ。今度、GDを着た状態で模擬戦してみるか」
「あの変態軌道とやり合うつもりなのかぁ」
どうやら、ライオットにはネオ・デュランダの動きが見えているらしい。流石は格闘馬鹿である。
「さて、いつまでも観戦しているわけにはいかないんだぜ」
「もっともなことじゃて。じゃが、流石にサイズが違い過ぎるのう。試しに戦艦吉備津を原寸大に戻すぞい」
「え、ちょ、まてよっ」
ドクター・モモは人の話を聞かない。勝手に戦艦吉備津の圧縮率を戻してしまった。
途端に視界が高くなってゆく。戦艦吉備津のサイズが原寸大に戻った、という証明であろう。
そして、ゴリゴリ失われてゆく魔力。先ほどの比ではない。何を考えて、この大きさの戦艦を作ろうと思ったのか。
「ふぇっふぇっふぇ、気分はどうじゃ?」
「もっさりと魔力が消費されたようだが、特に問題はないんだぜ」
「流石じゃの。それでは、景気の良い一発を見舞ってやるのじゃ」
「おう、主砲発射用意!」
『しゅほう』『はっしゃ』『ようい』『いそげっ』
重々しい音、先ほどとは桁違いの力強さを感じさせる。四十六センチメートル主砲が真の力を発揮する時が来たのだ。
降り積もった雪を吹き飛ばしつつ、戦艦吉備津は異形の巨人へ必殺の砲撃を放つ準備を整えた。後は命令を下すのみ。
「プルル! GS吉備津の主砲を発射する! 退避してくれ!」
『え? うわっ!? その船、そんな大きさだったかい!?』
酷く驚いた様子のプルルが、慌てて戦艦吉備津の射線上から退避した。これで遠慮なく主砲を叩き込めるというものだ。
「よぉし! 目標、異形の巨人! 主砲発射!」
『しゅほう』『うち~』『かた~』『はじめっ』
信じられないほどの爆音、衝撃が連続して伝わってくる。こんな衝撃、砲塔の傍に人がいたら、身体がバラバラになってしまうレベルだぞ。
その直後、砲弾が異形の巨人の胸部に命中。一撃でその身体を粉砕せしめる。
弾け飛ぶ巨人の肉片、次々に着弾する砲弾。それらは巨人ならずとも、地形すら姿を変えさせていった。
ちょっと、威力があり過ぎなんじゃないですかねぇ?
「砲弾に形成炸裂弾は、やり過ぎだったようじゃの」
「これは酷い」
「うはぁ、この船かなりヤバいな」
『もくひょう』『ちんもく』『しゅういに』『てきえいなし』
戦艦吉備津の砲撃の後、動くものは確認できなかった。立ち昇る黒煙は戦いの名残。
真の姿となった戦艦吉備津の前には、いかなる者も立ち塞がることは敵わない。そう思わせるほどの火力を誇っていたのである。
『この船は危険過ぎるよ……ドクター・モモ』
「ふぇっふぇっふぇ、こいつは必要じゃから生まれたんじゃよ」
プルルが戦艦吉備津の甲板に着地した。彼女の身に纏うGDも最新技術を惜しみなく投入した最新兵器だが、GSの火力、サイズに喰われてしまい目立つことができなかった。
本来は華々しいデビューとなるはずだったのに……なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
こうして、俺のGSは完成を見た。その凄まじい威力に、女神マイアスは戦慄することになろう。
しかし、俺は敢えて言う。これ……GDじゃないですよねぇ?
そう、俺がほしかったのは、あくまでGDなのだ。どこがどうなってこうなった。
暮れ行く夕日は何も答えてくれない。その夕日に向かって、カラスが「あほ~」と鳴いて飛び去ってゆくのみであった。