671食目 大きくなったものだ
新型GDの制作は順調であった。制御AIをドクター・モモが制作し、GDの方はフォウロさんとザッキーさんとで制作。
俺はムセルを送り迎いしつつ、新型GDの完成をウキウキしながら見守る。
新型GDは、今まで見たこともないような構造だ。果たして、どのようなGDに仕上がるのだろうか。
「ふきゅん、正直、旧式ストーブはありがたい」
ゴーレムギルドの工場内に点々と置いてある、旧式の魔力式ストーブの上で餅を焼く。比較的新しいストーブはストーブの上で餅を焼く事ができないのだ。
ぷくっ、と餅が膨らんできた。そろそろ食べ頃だ。ここは醤油といきたいが、敢えて俺は、餅にハチミツを掛けてスイーツとする。
時刻は午後三時だから仕方がないね。
あまぁい、香りに誘われて、腹ペコ作業員たちが、ゾンビのように群がってきた。
だが問題ない。餅はたんまりと用意してある。食え食え~。
「おや、いい匂いだねぇ」
「ふきゅん、プルル。修行上がりか? おつかれさん」
「うん、今日はGDの調整があるから、早めに上がらせてもらったんだよ」
「お、新型のデュランダか?」
「そ、生まれ変わった、GDデュランダさ」
プルルは嬉しそうに微笑んで、ハチミツ餅にフォークを突き刺して口に運んだ。
餅は食べ易いように、ザインちゃんに頼んで、一口サイズにチェストー、してもらってある。食べ易いと好評だ。
「うん、甘いねぇ。疲れた体に沁みるよ」
「そうか、そうか。もっとお食べ」
「そうさせてもらおうかな。最近は食べても食べても桃力に取られちゃって、満腹にならないんだ」
「その割りには、乳とケツが増量しているように見えるんですがねぇ」
「食いしん坊に言われたくないよ」
「ふきゅん」
とまぁ、お互いに増量していることが発覚したわけだ。女の身の悩みどころである。
GDは、この増加分を押さえて固定し、動き易くなれる利点がある。捨て置く理由はない。
「ユウユウは僕らよりもあるのに、平気な顔をして無茶な行動をしているよね」
「あいつは鬼力の特性でパイパイを軽くしているからな。リンダは……ないです」
「リンダに、それを言ったら怒るよ?」
「知ってる」
とはいえ、俺の理想の体型はリンダである。隣の芝生は青く見えるなぁ。
しかし、あの機能美溢れる肉体がお気に召さないとは……ぺたん娘は希少価値だって、それ一番言われてっから。
「おぉ、来ておったか。待っておったぞい」
「ただいま、お祖父ちゃん」
ドゥカンさんが表に出ているという事は、ドクター・モモは桃アカデミーのラボでAIを開発しているという事だろう。
彼はハチミツ餅を口に運び、顔をほころばせる。作業員たちにもハチミツ餅は好評であった。であるなら、少しレモン汁を垂らして蜂蜜レモン餅を加えてやろう。疲れた体に喜ばしいぞぉ。
「はむはむ」
「おいぃ……プルル。出来上がった傍から食うなし」
なんということだ、やはり夫婦は似るものだった……?
蜂蜜レモン餅は、瞬く間に絶滅危惧種に認定されてしまった。訴訟も辞さない。
「ふっきゅん! ふっきゅん!」
したがって、俺は蜂蜜レモン餅を絶滅の危機から救うべく、せっせと焼きまくる。
が……ダメっ! 蜂蜜レモン餅っ! 絶滅っ! 圧倒的、絶望っ!!
「もっと焼いておくれよ」
「まさかの催促に、俺は白目痙攣状態にならざるを得ない」
プルルは桃使い、となった事によって激烈に食欲が増していた。同時に、食べる量も増加。下手をすれば、ライオット並みに食べることが可能だ。
デュランダ家のエンゲル係数、こわれちゃ~う!
しかし、これも桃力を増大させる一環なので、食べ過ぎ注意というわけもいかない。
そんなことをして、俺も食べ過ぎたらいかんぜよ、とか言われたら悶絶死してしまう。それだけは、断固として回避しなければならない。
「プルルのGDスーツも替えないといかんのう。胸と尻がパツンパツンじゃ」
「うう、確か最近替えたばっかりだったよね?」
「成長期じゃし、仕方なかろう」
ドゥカンさんが言うように、プルルのGDスーツの乳とケツの部分は、今にも限界を迎えそうであった。
一応はドクター・モモの自信作なので、千切れないとは思うが、プルルは桃使いとしては規格外の新人だ。まさかのハプニングが起らないとは限らない。
特にライオットが絡むと、事故の確率は急激に上昇することだろう。ヤツはマスター・オブ・ラッキースケベ、なのだから。
絶対に乳とケツの部分が破れるに決まっている。光画機を用意しておかなければ。
「ちょっ……食いしん坊、その嫌らしい顔はなんだい」
「いや、プルルのえっちな姿を写真に収めておこうかと」
「恥ずかしいよ。そんなの撮ってどうするんだい」
「ライにいう事聞かせるときに、エサとして使用する」
「~~~~~~~~~~~~っ!?」
プルルは顔を手で押さえこんで蹲った。効果はバツギュンだ!
「んで、どこまで進展してんだぁ?」
「うう、手を繋いで居酒屋に行ったよ」
「ほう……驚きが有頂天になるが、どこもおかしい所はない」
というか、ライオットもまんざらではないようだ。プルルが積極的にアピールしている成果が現れつつあるのだろう。
ライオットと俺は一時期、惹かれあっているという噂があったようだが、実のところ本人達にはそのような感情は無い。
あるのは、それを超越した何かだ。運命、絆、友情、そういった漢くさい何かで、俺達は繋がっている。
「ふきゅん、それならライ以外に、プルルの柔肌を見せるわけにはいかないな」
「な、ななな、何を言っているんだい、食いしん坊!?」
「あぁ、もう、プルルは乙女っしゅなんだぜ」
というわけで、プルルはGDスーツから変更することと相成った。ついでに俺のGDスーツも寸法を合わせる。そろそろ試作型が完成する予定だからだ。
場所を移動。GDスーツを専門に制作する部署へと向かう。そこは、特殊素材の宝庫であった。
見る者が見れば宝の山と映ろう。ウルジェ辺りは狂喜乱舞すること請け合いだ。
「いらっしゃい、ドクター・モモから話は窺っておりますよ」
「よろしくなんだぜ」
ここの従業員は、全員が女性だ。よって、全裸になっても問題はない。
すぽぽ~ん、と速やかにクロスアウトする。俺に躊躇という言葉はないのだ。
「漲る力っ! 俺は今、猛烈に全裸してるっ!」
「少しは恥じらおうよ、食いしん坊」
プルルは、もじもじしながら衣服を脱ぎ、すくすくと育っているパイパイを手で隠していた。
愚かな……かえって隠そうとするから、恥じらいを感じるのだ。堂々としていれば、恥ずかしくもなんにもない。
ビーストたちを見てみろ。全裸でも、実に堂々としているではないか。彼らこそ、真の裸族だ。
「そ、それにしても……食いしん坊の身体はどうなっているんだい? 殆ど贅肉がついてないじゃないか。激しい運動でもしているのかい?」
「贅肉なら目の前にデカいのがあるじゃないか」
「これは、贅肉じゃないよ」
ふむ、と俺は鏡に映る自分の裸を観察した。こうやって、自分の裸をまじまじと眺める事などないだろう。
以前の俺なら「うほっ」となるであろう見事な肉体、と自画自賛する。だが、無意味だ。
自分のパイパイを揉んでも感動など一切ない。尻を触る時だって痒いから掻く程度。やはり、触って楽しいのは他者のパイパイとおケツだ。
アカネもそれを理解しているからこそ、いまだに変態行為を止めないのだ。
まぁ、ヤツはそろそろ、自分が女であることを認識するべきなのだが。
最近は、アカネも女らしく育っていて、ロフトとスラックが視線をどこにやったらいいか困惑している。
幼馴染とはいえ、しょせんは男と女。分かってはいても、本能には抗えないという事なのだろう。
だが、ヤツらは変態だ。俺は真実を伝えたかった。
「プルルだって、贅肉がないじゃないか。うおっ、腹筋が薄っすら割れてんぞ」
「僕の悩みの種はお尻だよ」
「重心が安定していいじゃないか」
「ライオットが模擬戦の時に掴んで、いつも負けるんだよ」
「あぁ、掴み易そうだもんなぁ」
というか、背後に回られるプルルが悪い。どうやら、ライオットも着実に成長を遂げている様子だ。心身ともに、そしてスケベ的にも。
「うぐぐ、食いしん坊のウェスト……細い! 以前はもっと、こう……ボリュームがなかったかい?」
「そうだったか? 俺はプルル腹筋がほしいんだぜ。これじゃあ、ボキリと折れちまう」
互いに無いものを求める。やれ足が長いだの、むっちりし過ぎているだの、と言い出せば切りがなかった。
思えばお互いに大きくなったものだ。いろいろと。
「……え? 食いしん坊、下の毛は?」
「この珍獣、いまだかつて、己のアンダーヘアーを見た事はない」
というわけで、プルルの下の毛をむしって移植を試みる。
やはりというか、当然というか、激しい抵抗に見舞われた。
「こ、これは流石にあげれないよっ!」
「そこをなんとか! このままでは、すーすーし過ぎて凍死せざるを得ないっ!」
ぎゃー、ぎゃー、ふっきゅん、わしゃわしゃ……。
「何をやっているんですか? GDスーツの用意ができましたので、サイズを測りますよ?」
GDスーツの用意ができたという事でサイズを測る。残念ながら、毛の奪取は失敗に終わった。
「はい、動かないでくださいね」
「く、くすぐったいよ」
計測の結果、プルルは上から89・55・100となった。ケツのサイズが、遂に三桁の大台に乗ったプルルは顔を青くする。
「はわわ……ぼ、僕のお尻って」
「だ、大丈夫だ、メルシェはまだ遥か上だから」
どおりで、ライオットが掴み易いわけだ。 試しに俺も掴んでみたが、かなりヤバかった。
尻肉が指に吸い付く。これはただ事ではない。もう、これでもかと、揉みまくってやった。
「ちょっ!? やめてっ! これ以上、大きくなったらシャレにならない!」
「打倒、メルシェ! いける、いける!」
「いかないでっ!」
「はいはい、じゃれないで。エルティナさんを測りますよ」
「ふきゅん、優しくしてね?」
問答無用でメジャーを巻かれた。ひんやりした感触に、思わずびょくっとする。
「あ、乳首が起った」
「おいぃ……寒いと、ところ構わず起っちまうんだぜ。プルルだってそうじゃないか」
「まぁね」
俺はと言うと、上から97・54・98と計測された。
あれ? これは俺も割と本気でヤヴァイぞ。ウェストの養分が他に吸い上げられている。
このままでは、俺のケツも三桁待ったなしではないか。
「このエルティナ、生まれて初めてダイエットをしようと思った。主に尻」
「なんだい、この反則級のスタイルは」
プルルが反撃とばかりに乳やら尻を揉んでくる。
ま、まさかっ! 刺激を与えることによって成長を促し、労せずに自分を超えさせる策だというのかっ!? プルル……恐ろしい娘っ!
「くすぐったいんだぜ。反撃だっ!」
「きゃっ」
「はい、そこ。じゃれ合わない」
従業員のお姉さんに怒られてしまった。ちなみに彼女のスタイルは標準的サイズ。極めて羨ましい。
「ものほしそうな顔をしない。私からしてみれば、貴女たちのスタイルは羨ましい限りなのよ?」
「持ってみると嬉しくないよ」
「まったくなんだぜ」
「ほんとにもう……はい、出来上がったわよ。着てみてちょうだい」
会話しながらでも、GDスーツを仕上げるお姉さん素敵。
プルルは以前同様に赤紫色のGDスーツだ。対して俺は激烈なピンク色。どうして、こうなった。
「うん、食いしん坊の姿。エドワード殿下に見せたら、いけないやつだね」
「俺もそう思う。飾りがないから、殆ど真っ裸だぞ」
「乳首がGDスーツを押し上げてるねぇ。僕のよりも柔らかいのかな?」
「えぇ、耐久力こそ変わらないけど、柔軟性は格段に上よ。その分、体のラインがはっきりしちゃうけど」
従業員の話によれば、このGDスーツは特別製であり、俺の出鱈目な魔力に方向性を持たせるために、飾りや意匠などは徹底的に廃した物だという。
どおりで、魔力が大人しいわけだ。いつもなら、興奮して「ひゃっは~」と漏れ出して来るというのに、それが一切なかった。
「おぉ、魔力が安定しているんだぜ」
「そうなのかい?」
「あぁ、安定していなかったら、このGDスーツは既に木っ端微塵になっている」
これなら、俺がGDを身に纏っても大丈夫そうだ。
大きな期待と少しばかりの不安を胸に、俺はGDスーツ制作室を後にした。
そして、工場内の野郎共を前屈みにさせてしまう。俺の身に纏うGDスーツが、危険なシルエットであったのを失念していたのだ。
これは、うっかり。でも、全裸じゃないからセーフってことで。
「その姿は人前で見せちゃダメだよ!」
「でも、全裸じゃ……ぬわ~」
やはり堂々としていた俺は、プルルによって速やかに回収されたのであった。ふきゅん。