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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十七章 決戦への備え
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670食目 新型

 ふっきゅん、と起きると外は一面銀世界であった。昨日から寒いなぁ、とは思っていたが案の定である。

 窓にへばり付く、わんぱくウィンターボーイ、もしくはガールたち。外の世界は最早我々のものだ、と言わんばかりにドヤ顔している。


 腹が立ったので、練乳を掛けて食ってやった。美味しかったです。


「フィリミシアは、雪が積もるんだったぜ」


 ミリタナス神聖国は一年中暖かいので、当然ながら雪は降らない。

 その分、雪掻きという重労働がないのだが。やはり風情に欠けるきらいがある。


 俺としては、やはり雪があった方が良い。実家の自室から、いまだに下りてくる白い妖精たちを眺めて目を細める。


 これは、鍋がはかどるんだぜ、と。


 まずは身支度を整える。机の上にあるベルを鳴らす、とエティル家のメイドさんたちが、シュタタタタッ、とやって来て、俺の身支度を手伝ってくれるのだ。

 手伝う、というか、気が付いた時には全て完了していた。


 何を言っているか分からないと思うが、これは決して夢でも幻でもない。紛う事なき現実。その驚異のお世話術に、俺は戦慄することとなる。


 一応は伯爵令嬢な俺は……ん? 今は侯爵だっけ? ヤッシュパパン。ま、ええわ。


 実家にいる間は、専属のメイドさんが付いてくれているのだ。といっても、リオット兄と兼任となるが。


 そもそも、俺は四六時中、ふらふらとあちらこちらを放浪している。よって、お世話してくれるのは家の中だけでいい、と伝えてあった。


 尚、メイドさんたちは、俺のアダルトモードがお気に召しているもよう。いじり甲斐がある、とかなんとか。

 そんな無駄におめかしされた俺は、家族と朝食を摂るべくダイニングへと向かう。


 家族たちは既に席に就いており、残すは俺だけとなっていた。少し起きるのが遅かっただろうか。


「おはようなんだぜ」

「おはよう、エルティナ。さぁ、食事を始めよう」


 ヤッシュパパンの笑顔が今日も眩しい。

 運ばれてくる料理はエティル家定番、スクランブルエッグ、ボイルウィンナー、サラダに牛乳、そしてトーストだ。


 エティル家というか、一般家庭の朝の献立となんら大差ない。地位が上がろうとなんだろうと、我が家は相変わらずマイペースであった。


 食事が終わり、リビングにて談笑。うずめはお気に入りの棚にてまったりとし、ホビーゴーレムのムセルはテーブルにて待機状態となる。いつもの光景だ。


 紅茶を堪能しつつ、リオット兄がフィリミシア城の近況を話してくれた。

 ここ最近は、食事が終わると同時に、ディアナママンを除く全員が出かけていたので、こうして、家族とじっくりと話す機会がなかった事に気が付く。

 今日は雪が降っていて出歩くのが億劫だ。今日くらいは、家族と語らい合うとしよう。


 そんな俺は、しっかりとディアナママンに捕獲されている。

 やはり、ハイエルフモードがお気に入りのもよう。膝の上に俺を乗せて、頭をなでなでしてくれていた。


 まず、王様だ。彼は何を思ったのか、今まで以上に鍛錬を積み始めたとのこと。

 あのお爺ちゃんは、決戦に参戦するつもりなのだろう。エドワードに近々、王位を継承させる、との噂も出ている。


 あまり無茶はしてほしくはないのだが、本人には並々ならぬ想いがあるようで、制止の声も聞く耳もたないようだ


 次期国王の噂が出ているエドワードだが、こちらはいつもどおりだった。

 日夜、規則通りに活動し、国民の模範となるような生活を送っているという。


 時折、城を抜け出して俺に突撃してくることを除けば、の話であるが。

 流石に夜這いを仕掛けられた時は、ほんの僅か、ちょっぴり驚いた。大事には至らなかったが。


 GD隊隊長のハマーさんは、念願の子供を授かった。シアとの間に生まれた子は女の子。

 名前をオトリーと名付けた赤子は、シアに良く似ているそうだ。

 金髪碧眼、褐色肌、将来美人確定の彼女の未来を守るためにも、俺達は決戦に勝利しなくてはならない。


 聖女ゼアナ、彼女の育ての親であり、マイアス教団副司祭マーツァル・カウ・ツツアムは最高司祭デルケット・ウン・ズクセヌと和解。共に真のマイアス教団を作り上げてゆくことを決意した。


 その真のマイアス教団のシンボル、として祭り上げられたのは、マイアス・リファインだ。


 マイアス教団の幹部たちには、既に女神マイアスの野望を伝えてある。

 したがって、彼らの目指すところと対極に位置する女神マイアスの意志は到底受け入れることはできない、として離反を決意したのである。


 とはいえ、長年マイアス教団としてやってきて、いきなり女神マイアスは邪神だったので信仰するの辞めます、とは公表できない。そんな困った彼らの前に、やふぅ、と現れたのがマイアスご本人様だ。

 正確にはマイアス教団の理想思念の大本となった、お人好しな方のマイアスである。


 彼女を偶像に祭り上げて「我々はマイアス教団である、不正はなかった」と辛くも難題をクリアしたのであった。


 そんな、マイアス・リファインはラングステン王国の手厚い保護下にある。

 その女神様はというと、現在はフィリミシア城で喰っちゃ寝の日々だ。


 デブるぞ、おめぇ……。


 あの山賊もどきのおっさんは、早々にゼグラクトへと帰ったらしい。

 なんでも、彼は船大工であるらしく、うちが発注した無茶な船を制作しているのだとか。


 時折、経過報告書を持ってマイアス・リファインに顔を見せに行っている。その際は預かった手紙も手渡しているそうな。だが、内容を聞くのは野暮ってものだ。


 グロリア将軍は、いまだ独身の身であった。彼女を慕う者は多いが、彼女は求婚の全てを拒んでいる。彼女の心の傷は深まる一方であるが、俺達にどうこうできる問題ではない。

 グロリア将軍が自身を変えようとしない限り、彼女はそのままであるのだ。


 でも、そんなの関係ねぇ。近々、練りに練った【恐怖のお見合い作戦】を決行してくれるわぁ。これで、グロリア将軍も明るくハッピーになること間違いなし。


 最初のお見合いで決めてくれる。ふっきゅんきゅんきゅん……!


「ふきゅん、雪がやんだんだぜ」

「おや、本当だ。丁度良い、私はフィリミシア城へと赴くよ。少し、仕事を片付けておきたいのでな」


 丁度、話が一区切りしたところで、雪が降りやんでいることに気が付いた。

 ヤッシュパパンは、これ幸いにとフィリミシア城へと向かう。俺も途中までヤッシュパパンに同行することにした。俺が向かう先はゴーレムギルドである。


 ディアナママンの膝の上から、みょいん、と飛び降りアダルト化する。ヤッシュパパンの歩行速度に合わせるためだ。

 原理はよく分からないが、衣服も大きくなったり小さくなったりして便利な機能だ。


「ああん、私のエルティナがっ」

「夜には帰ってくるんだぜ」


 ディアナママンが情けない声をあげた。最近は俺にべったりなのである。

 ミリタナス神聖国再興という使命があったにせよ、長いこと離れて暮らしていた反動であろう。

 だから、この家族で暮らせる僅かな時間を、彼女の好きなようにさせている。

 

 とはいえ、ずっとべったりもできないわけで。

 

「うずめ、ムセル、出かけるぞぉ」

「ちゅん」


 テーブルの上に待機していたムセルが俺の手に乗り、リビングの背景と化していた雀のうずめが、俺の頭部に、ブッピガン! して出発の準備は整った。

 もこもこのコートと帽子を被り、親子で家を出る。父親との何気ない会話、久しく二人で出歩いていなかったことに気が付かされた。


「エルティナも、大きくなったものだ。一時期は、ずっとあのままの大きさかと……」

「俺も危機感を抱いていた時期があったんだぜ……」


 暫しの親子との会話。しかし、それは俺が先にゴーレムギルドに到着してしまったことによって終了となる。

 名残惜しく別れる俺達。とはいえ、今生の別れでもないので、割とあっさりとした別れだ。


 名残惜しい、とはいったい……うごごごごご。


 ゴーレムギルドの工場へと向かう。相も変わらずくそ寒い。そこは、鉄と油と炎のにおいが充満していた。


 お目当ての物の前へと移動。そこには、むせ返るような巨大ロボットたちが整列している。

 その中にムセルに酷似した機体があった。俺がゴーレムギルドを訪れた理由はこいつだ。


「GTムセルか……むせるな」

「……」


 長高四メートルの鉄の巨人は、どこからどう見ても最低野郎のあれだ。潔すぎて清々しくすら感じる。


 まぁ、惑星が違うから多少はね? ん、著作権? なんのことだか分からないなぁ、ここはカーンテヒル星だし。ふっきゅんきゅんきゅん……。


「おぉ、来よったか。早速、データを取らせてもらうぞい」

「ふきゅん、そのつもりで来たんだぜ、ドクター・モモ」


 俺はムセルをGTムセルへ搭乗させて、その場を離れる。やがて、巨大な鉄の巨人は産声を上げて動き出す。こうして実際に動く姿を見ると、感動もひとしおである。


 ムセルの向かう先は屋外実験場だ。その入り口で、フォウロさんとザッキーさんが手を振っている。

 どうやら、データ収集は彼らが担当するようだ。心なしかウキウキしているように見えるのは、気のせいではないだろう。


 あとで俺も見に行こう。きっと、むせ返るような動きを披露してくれるに違いない。


「そう言えば、ドクター・モモ。俺の推論ってどうだった?」

「うん? おぉ、そうじゃったな。だいたい推測どおりじゃったわい。どおりで、魔力暴走が起るわけじゃ」


 俺は実のところ、GDの装着を諦めたわけではなかった。だが、それには魔力の暴走による不具合をどうにかしなくてはならない。


 あれから五年。俺はコツコツと暴走の原因を究明し続けてきた。その報告書をドクター・モモに提出して考察してもらったのだ。


「おまえさんの、方向性の無い出鱈目な魔力が原因じゃ。なんじゃ、一定方向に動かない魔力って。馬鹿か」

「ひでぇ」

「まぁ、原因さえ究明できれば、どうとでもなるわい」

「流石は天才科学者なんだぜ」


 というわけで、俺は再びGDの制作を依頼することになった。と言っても、制御をサポートしてくれるムセルはGTムセルに搭乗することになるので、通常のGDとは違う形のGDを制作することになる。


 即ち、GD制御用AIの開発に着手するのだ。元々は開発プランに上がっていた物であり、そのテストベースに俺のGDを制作する形だ。


「ハイエルフになった方が良いか?」

「うんにゃ、そのままでええわい。そっちの方が多くのデータを取れるからのう」


 こうして、新型GDの開発は開始された。今から完成が楽しみである。

 そんな俺は、期待に胸を膨らませながら、GTムセルの勇姿を眺めに向かうのであった。

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