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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十七章 決戦への備え
663/800

663食目 楽しいお買い物 前編

 また暫しの時が流れた。十月初旬、そろそろフィリミシアも涼しさが増してきた。

 俺は相も変わらず、ミリタナス神聖国とラングステン王国を行ったり来たりだ。


 ミリタナス神聖国の復興作業も一段落し、もう俺がいようといまいと、どうとでもなる段階へと移行している。

 たま~に、大神殿に顔を出すと「わっしょいわしょい」と民が喜ぶ程度の存在へと落ち着いていた。


 そんな俺は気が付いてしまった。あれ、俺ってやることあんまりなくね? と。


 今までが忙し過ぎた俺は、一段落してしまったことによって、宙ぶらりん、となってしまったのだ。


 さてさて、これは困った。幼かったあのころとは違い、今の俺は目立ちに目立つ。

 妙なことをしようものなら、指を差されて、プギャー、されてしまう事は明白。ここは慎重に立ち回らなければなるまい。


 よし、閃いた。服を買いに行こう。流石に、この季節にミリタナスの聖女の服はどうかと思う。

 特殊能力で冷気に対する抵抗力が付与されてはいるが、視覚的に寒いので却下だ。


 久々にフィリミシアの商店街に足を運ぶ。いったい、いつ振りになるか分からない。

 その途中で子連れのミランダさんに鉢合わせた。相変わらず色々な部分がデカい。


「おや、エルティナかい? また大きくなったねぇ」

「ひさしぶり、ミランダさん。ゼファーも大きくなったな」

「うー!」


 アルフォンスのおっさんとミランダさんの一人息子、ゼファーも一人で歩けるようになっていた。まだよちよち歩きではあるが。

 顔はミランダさんに似ているようだ。美形に成長するといいな。


「こんなところで、どうしたんだい?」

「あぁ、服を買いに来たんだよ。流石に、この形じゃあ寒そうだろ?」


 瞬間、ミランダさんの目が、ぎゅいーん! と怪しく輝いた。いつ振りであろうか、背筋が凍り付く感覚は。

 俺はすっかり忘れていたのだ、幼き日の恐怖を、着せ替え人形の悲劇を。


「う~!?」


 どうやら、ゼファーは着せ替え人形の刑を執行されていたようだ。母親の輝く目を見て、恐怖を露わにしていた。



 強く生きろ……ゼファー。


「それなら、あたしが手伝ってあげるよ! いやぁ、成長したエルティナをどうやって着飾ってあげようかねぇ」


 嫌な予感が【ぷぃんぷぃん】してくる。ゼファーも、俺に対して哀れみの眼差しを送ってくるではないか。

 これは相当に酷い目に遭っている証拠。


「自由への逃走っ!」


 俺は明日を生きるために逃走を試みた。許せ、ゼファー。きみの犠牲は忘れない。


「あら、エルティナ様、どちらへ?」


 が……ダメっ! まさかのディフェンスっ! 逃げ道、塞がれるっ!


 そこには、いつの間にかティファ姉が道を塞ぐように立っていたではないか。もう片方には、なんと聖女ゼアナの姿が。


「前々から思っておりました。聖女エルティナ様は御召し物が過激すぎると」


 にっこり笑顔の下にはビルドアッポした肉体が衣服を通して窺えた。こんなの振り切れるわけないだろ、いいかげんにしろ。

 自慢じゃないが俺は全身が、ぷにぷにの、もちもちなんだぞ。マッソォ聖女に抵抗など不可能だ。ぱぅわーで制圧、待ったなしなのだから。


「さぁ、行きましょう。聖女エルティナ様」

「久しぶりね、エルティナ様と服を選ぶのも」

「今日は時間の許す限りお洒落させてあげるよ!」


 がしっ! がしっ!


「だれかたすけてっ!」

「うー!」


 俺とゼファーの救いの声は、蒼天の空に吸い込まれて消えた。


 さようなら、穏やかな時間。そしてこんにちは、地獄の門。






「うおぉぉ……悪夢の衣料店エレガントチルドレン……まだあったのか」

「う~」


 その店構えに思わず身構える。あの日の悪夢がよみがえり、俺は思わず「ふきゅん」と鳴いた。ゼファーも「う~」と唸り、露骨に警戒する様子を窺わせる。

 そして、問答無用で店内に連行される俺達。捕虜にも人権をください。


 店内は相も変わらず品揃えが豊富極まりなかった。どうやら店を改築したのか、以前よりも広く綺麗になっている。それ即ち、拷問のレパートリーが増えたことに他ならない。


「広くなったろう? 今までなかった服も沢山置いてあるんだよ」


 ミランダさんの表情が活き活きし過ぎて辛い。まるで処刑台に上がった死刑囚の気分になってきた。


 あぁっ! ゼファー君が白目痙攣状態にっ!? いったい、何をされてきたんだぁ!


「ゼファー君も、この【ドレス】、とても似合ったもんね~?」


 ティファ姉、止めて差し上げてっ! ゼファー君のHPはもう0よっ!?


「ははっ、それを着せられるのは小さい時までだからねぇ。ガンガン、着せていくよぉ」

「まぁ、それは良い考えです。ゼファー君も可愛らしい顔をしていることですし、きっと似合うことでしょう」

「う~!?」


 あぁっ! ゼファーが吐血したっ!? まだ、こんなに幼いというのに、男の尊厳を徹底的に破壊され尽くされていらしゃる! 勘弁してあげてっ!


 悲惨な状態のゼファーをなかったことにして、俺達は試着室へと向かう。

 この店は女尊男卑であるため、女性用の試着室がとてつもなく広い。巨大な一枚鏡を置いてある部屋に六つの更衣室がある。

 更衣室で着替えた後は、広い試着室で色々なポージングを取って、ゆっくりと自分の姿を確認できるのだ。


「さて……それじゃあ、エルティナの下着からだねぇ」

「うふふ、どんな下着がいいですかねぇ。今のエルティナ様なら、なんでも似合いますよね?」

「えぇ、とても良いスタイルで」


 ミランダさんはともかく、ティファ姉と聖女ゼアナの表情と手つきが危険だ。なんで、手をにぎにぎしているのか説明を求む。


「ま、まて! 話せば分かるっ!」


 しかし、獣と化した二人には話が通じなかった。あー!? という間に裸にされて、さまざまな下着を着けさせられてゆく。


「ま、待つんだぁ。この下着はエロ過ぎないか?」

「あら、大胆な下着は大人の特権ですよ?」

「まぁ、赤い下着も似合いますね。もう少し面積が少ない方がセクシーですかね?」

「あぁ、男は少ない方が喜ぶねぇ。旦那も燃え上がってたし」


 アルのおっさんぇ……。


 親指を立てて、にっこりするアルのおっさんの幻影に滅びの言葉を投げ掛ける。

 ゼファー、きみは、あのような大人になってはいけないよ。いいね。


「あぁ、でも、この白のランジェリーには敵いませんね」

「でも、肌が白いから黒の方がより映えないかい?」

「ピンクはどうですか? 可愛らしさが引き立ちますよぉ」


 本人そっちのけでワイワイと盛り上がる三人。


「ゼファーはどう思う?」

「うー!」


 彼が指差したのは……先ほどまで自分が履いていた、ヒーロー物のキャラクターがプリントされたトランクスであった。


 アレを俺に履けと? あ、いやいや、自分が履きたいのか。そうだよなぁ……。


 今のゼファーの姿は幼児用のブラとパンティーであった。この店は相変わらず、いったい何を目指しているんだ。理解に苦しむ。


 結局、彼女達が選んだ下着は甲乙つけがたし、という理由で全部購入。金なら有り余っているのでいくら買っても問題はない。

 何せよ、服は常時ミリタナスの聖女の服しか着てないし、私的買い物も今日が本当に久しぶりとなる。

 金を貰っても使わなければ溜まる一方だったので、今回の買い物は丁度良いというものだ。ガンガン使ってやるぜ。


 お次は服となるのだが……あぁ、まただよ。なんで、開幕からバニースーツなんだよ。

 確かにあの頃よりも似合う体形になったけどさ、違うだろ。バニースーツを日常的に着るヤツなんかいないぞ。ましてや、この姿で外を出歩くって真の勇者だろ。

 こんなの着るヤツだって……。


「ふむ。やはり似合うな。今度の写真集はこれで行こう」

「ルリ、流石にこれは勘弁してください」

「ぱぱ! かわいい!」


 なんと、女性用の試着室にいたのはトールフ一家であった。ルドルフさんは嫁さんのルリティティスさんによって、黒いバニースーツを着せられ恥ずかしそうにしている。

 もちろん、牝牛化しており、ムッチムチのボインボインだ。


 その隣には子兎が可愛らしく飛び跳ねていた。娘のリルフちゃんだ。父親ならぬ乳親と同じ格好で嬉しいのだろう。

 六歳児に何を着せているのだと小一時間説教したい。


「……」

「はっ!? エ、エルティナ! こ、これは違うんです!」


 俺の視線に気が付き、ルドルフさんは挙動不審となった。そんな彼、もとい彼女はそっとしておき、俺はルリティティスさんに近付く。


「下着写真集はどうかな?」


 俺はスッと購入した下着を彼女に見せる。彼女は暫し考えた後に言った。


「際どい下着のルドルフ……ふむ、新しい」

「何がですかっ!? エルティナもルリに妙なことを吹き込まないでくださいっ!」

「ぱっぱ! ユキも着た!」

「うさ耳だけで全裸じゃないですか!? やだ~!」


 少しばかり映像がヤヴァイ事になっている雪希が、うさ耳だけを付けて更衣室から飛び出してきた。

 人型になるとすらりととした体形になり、なるほど母親と瓜二つだ、と思わせるに十分な器量となる。

 もう少し歳を重なれば出るところも出て、母親と瓜二つになるだろう。


 それだけに、今のその姿は危険だ。ロリィ……は速やかに殲滅しなくてはならなくなる。


「ふきゅん、心強いいけに……げふんげふん。援軍を得たぞ!」

「うー!」

「今、生贄って……!?」


 俺は何も聞こえなかった。いいね?


 そして次なる刺客は【The・女教師】! ミニスカートのスーツをバリッと着こなし眼鏡も標準装備! 髪をアップにして決めポーズ!


「うん? 意外と表情が凛々しくなった気がするんだぜ」

「おや、意外に似合っているというか……様になってるねぇ」

「ル、ルドルフさんは……その、生徒をダメにしてしまいそうですね」

「ティファニーさん、みなまで言わないでください。これでは、胸が邪魔で机の教科書も見る事ができません」

「うー!」

「やー!」

「ひゃ~ん!」


 もう謎の女教師塗れと化していた。なんで子供用があるんだよ、ここは。

 俺もゼファー君もリルフちゃんも女教師。ルドルフさんに至っては、完全にAVに登場する女教師であった。

 雪希なんぞ【犬耳尻尾幼女教師】というわけのわからない存在と化している。


「ほう、このジャンル……来るな」

「だからっ! やりませんって!」


 ルリティティスさんはギラリと目を輝かせた。実は彼女、敏腕プロデューサーの素質を開花させており、ルドルフさんの写真集でもって一財産築き上げた実績を持っている。

 今尚も、彼女のプロデュースで有名になったアイドルが活躍中とかなんとか。


「まぁ、この服は買っておこう。戦いが終わったら、教師というのもいいかもしれん」

「エルティナは面倒見がいいからねぇ。天職かもしれないね」

「その前に教師になることを許してくれるかどうかだがな」

「あぁ、聖女ですものね。私もですが」


 恐怖の服選びは終わる事はない。これから、俺達は更なる地獄を垣間見ることになる。

 ルドルフさんの絶叫が響き渡り、ゼファー君の吐血が世界を赤く染める。


 果たして、俺達は生き延びる事ができるのであろうか? 後半に続く!

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