661食目 都合の破壊
誠司郎が地球に帰って一週間。その間に俺達は、これからの戦いに備えるべく各々準備に着手し始めていた。
最も問題なのが、一週間も放置したらミレニア様が完膚なきまでにバブー化してしまっていたことだ。
折角、幼女まで成長したというのに、これではどうしようもない。よって、根本的な解決へと乗り出す。
俺はフィリミシア城にて王様や聖女ゼアナの見守る中、バブー状態になってしまったミレニア様を元に戻す試みをおこなう。
そろそろ、俺も己のために時間を使わなければ、色々と滞ってしまうからだ。
最早、時間も限られているので、本日中になんとかしてやる、という覚悟で複雑難解な魂の迷宮へと挑む。
「ぶっちゃけ、そろそろケリを付けてやるんだぜ」
「しかし、どうやって最奥へと?」
「聖女ゼアナ、俺は勘違いしていたんだ」
「え?」
そう、迷宮踏破は難しく考える必要がなかった。俺は迷宮という概念に、まさに囚われていたのである。
「邪魔な物は全て破壊だっ!」
「それって、一番やっちゃいけないやつですよねっ!?」
「ば、ばぶ~!?」
驚愕の表情を浮かべる二人であるが、今の俺に慈悲という言葉は存在しない。不退転の覚悟を持った俺は、桃使いながらにして鬼へと至る。
というか、もう迷宮はお腹いっぱいです、勘弁してくだしあ。
「それでは、ユクゾッ!」
「ちょっ! エルティナ様っ!?」
「ばびゅっ!?」
俺はミレニア様の魂が囚われている杖の中へと突入した。
眼前に広がる行く手を阻む壁。以前は常識に囚われて魔法が使えない壁は破壊できない、と思い込んでいた。
確かに、それらはやってはいけない行為。仮にミレニア様の魂が傷付いた場合は、どのような結果になるか分かったものではない。
だが、そんなの関係ねぇ。
それは、あくまで向こうの都合。それに付き合うくらいなら、こうして魂の迷宮に突入なんかしたりはしない。
俺は常識を捨てるぞぉぉぉぉぉっ! ミレニア様ぁぁぁぁっ!
「ふっきゅんきゅんきゅん……昨日までの俺と一緒だと思うなよ」
すっ……と俺は変身の構えを取る。
ゆっくりと右腕を前方にて回し、ジャキーン! と構えを取って力ある言葉を放った。
「変……珍!」
そして、みょいんと前方へ跳ぶ。
俺の体全体から眩い輝きが放たれ、俺は【仮面幼女エルティナライダー】へと至る。
このバッタヒーローのお面は、この間のお祭りで購入した。
製作者のフウタは相変わらず、こういう物を作るのが好きなようで、デザインもバッタ怪人を模していた。イカスぜ。
「珍獣ぅぅぅぅぅぅぅ、きっく!」
俺の蹴りで迷宮の壁が粉々に粉砕された。粉々というよりは、消滅した、が正しい。
全て喰らう者七匹を発動した俺は、全ての部分で対象を喰らう事が可能だ。それは即ち、動く危険物である。
死ぬぜ~、俺に触れたヤツは、皆、死んじまうぜ~!
最早、魂の迷宮は虫の息も同然だ。俺はただ真っ直ぐ突き進むのみ。
迷宮がルール違反をしている俺に、制裁を加えよう、と壁から剣だの槍だのを突き出してくるが、そもそもが壁を食っている時点で通用するはずもない。
身体に触れた瞬間に、むしゃぁ、と食われて消滅してしまう。
「ふっきゅんきゅんきゅん……にょっか~、に改造された俺は無敵なのだぁ」
難点としては、幼女なので移動速度が遅いこと、そしてお面を被っているので視界が狭い事が挙げられる。
だが、お面は外すわけにはいかぬぅ! これがあるから、俺は仮面幼女エルティナライダー、としていられるのだっ!
仮面の無いライダーは、ただの化け物なのであるっ!
「ちょあぁぁぁぁぁぁっ! ほっ、ほっ、ほわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
最強! 無敵! 大進撃っ! 俺を止めれる者は存在しねぇ!
俺を散々苦しめた迷宮もこの有様。一直線に穴をあけられた迷宮は、おに~さんゆるしてっ、と許しを乞うた。
だが断る。俺は、おに~さん、ではなく、仮面幼女エルティナライダー、なのだ。
「ライダ~……ひっぷ!」
俺の渾身のケツ撃が炸裂し、遂に迷宮の最奥に到達。
そこには輝くミレニア様の魂が触手に絡まれ、いや~ん、な姿を晒していた。あんたも好きねぇ。
かつての自分も、あの状態で囚われていたので他人ごとではない。速やかに触手の排除を試みる。
だが、この仮面幼女エルティナライダーでは過剰攻撃力過ぎて、ミレニア様の魂を傷付けてしまうだろう。
そこで、俺はもう一つの【変珍】をおこなう。爆発的な神気を凝縮させて解き放つ。
瞬間、幼女は消え失せ、一匹の白銀の獣が爆誕した。ただ単に毛並みが白銀色になった、お饅頭型の獣である。
だが、その能力は桁違いだ。見せてやろう、神の息吹を。
「ふきゅん!」
俺は触手に対して背を向ける。そして、角度を調整。
「発射角度よし! 砲雷撃戦、初めっ!」
ぷぃ、ぷぃ、ぷぴっ。ぷぃぃぃぃぃぃぃぃぃん……。
触手は滅びた。
見たか、我が砲撃の威力を。こいつを浴びたが最期、鼻があろうとなかろうと待つのは滅びだけだ。
「さて、ミレニア様の魂を……ふきゅんっ!?」
なんという事でしょうか、ミレニア様の魂が黄色く染まってしまっているではありませんか。
……洗っとけば、ばれへんか。ささっと、やっておこう。ごしごし。
こうして、俺はやっつけ作業的に、ミレニア様の魂を救出したのだった。
そして、元の姿に戻ったミレニア様はというと。
「綺麗だろ? これ、死んでるんだぜ」
「生きてますからっ! 気を失っているだけですから!」
「エルティナ。そなたは、どういう方法でミレニアを元に戻したんじゃ?」
白目痙攣状態で大人の姿に戻っていた。それはもう、ビクンビクンしている。
「嫌な事件だったんだぜ」
そう言って、俺はお茶を濁すことにする。
なんでもかんでも、真実を明るみに出すのは良い事ではないのだ。きっと、これが最善だと思います、はい。
暫く放心状態だったミレニア様だったが、なんとか立ち直り暫くぶりに職務に復帰することになった。
ボウドスさんもようやく肩の荷が下りたことであろう。これでミリタナス神聖国を任せる事ができるようになったので、俺は次なる行動へ移る。
忙しいがゆっくりしている暇はないのだ。
俺は大神殿の屋上にて、たった一人、恐るべき存在に対峙していた。満天の星空の元、俺とヤツの闘気は極限へと至る。
見よ、この灼熱に発熱する球体たちを! こいつは、その身に黒き衣を纏い、クリーム色の追加装甲を見せ付ける超難敵だ!
更には、その熱々とろとろの内部に醜悪な触手を忍ばせ、隙を突いて襲い掛かる、という策士でもある!
けしからん、じつにけしからんっ! そんなヤツはこうしてやるっ!
「はふっ! ほふっ! はふっ!」
くっ! 口内で火災発生! ただちに鎮火に掛かれっ!
「ぐび、ぐび、ぐび……ぷっはぁぁぁぁぁっ!」
ひゃあ、堪んねぇ! やっぱ、【たこ焼き】には、キンキンの【ビール】だな!
いやぁ、忙しい、忙しい。手を休める暇もない。
竹串で熱している、たこ焼きを、くるりと回し綺麗な球状にする。美しい形に仕上がる、と食べるのがもったいないくらいだ。
こいつばかりは、一人でこっそりと食べるのが俺流。お供は酒だけでいい。
たこ焼きといっても、具材はなんでもいい。たこ焼きは自由だ。
「お次は豚バラの角切りをサッと茹でた物を入れよう。枝豆もいいかも」
そして、俺は禁断の食材、納豆を投入。タレは醤油を選択。完成が楽しみである。
こうやって、いろいろな食材を試し、ビール、またはハイボールをやっつけながら、たこ焼きを楽しむのは前世でもおこなっていたようだ。
残念なことに、試した具材の結果の殆どを忘れてしまったか、記憶を兄貴が持って行ってしまったようで、俺は何一つ憶えていない。
だが、それがいい。こうして再度楽しむ事ができるのだから。
「ほふほふ……お、バラ肉はジューシーだな。でも一つ食えば満足かも。枝豆は玄人好みだな。納豆は……ねばりっしゅ! だな」
メモ帳に試した具材の特徴を書き込んでゆく。楽しい作業だ。
難点としては、一向に酔っぱらわない、という点だろう。お酒自体は楽しめるのだが何か違う。
「ふきゅん、お星さまが綺麗なんだぜ」
偶には、こういう夜があってもいいと思う。俺も一応、プライベートな時間は必要だ。
出来上がった、たこ焼きを一口で口の中に突っ込む。熱いが、ほふほふ、と口の中に空気を入れ込み口内を冷やす作業は楽しい。
飲み込んだら、ビールで冷却だ。これもまた楽しく、必ずセットでおこないたい。
「ぷっはぁ。今度はホルモンを入れてみっか。豚と牛をチョイスっと」
たこ焼きを転がす時は無心になる。ボヘッとする時間が楽しい。こんな時間がもっと増えればいいと思う。だからこそ、俺はがんばれるのだ。
「ふきゅん、兄貴とも、一緒に食事ができればな」
きっと、その時は訪れる事はない。俺達はそう言う定めなのだ。
カーンテヒルとカオス、どちらかしか選ばれない。それが決する時は確実に近付いていた。
「おっと、たこ焼きが悲鳴を上げている。急いでお救いしなければっ!」
俺のレスキュー作業は星空の下、材料が無くなるまで続いたのであった。
はふはふっ!