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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十七章 決戦への備え
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661食目 都合の破壊

 誠司郎が地球に帰って一週間。その間に俺達は、これからの戦いに備えるべく各々準備に着手し始めていた。


 最も問題なのが、一週間も放置したらミレニア様が完膚なきまでにバブー化してしまっていたことだ。

 折角、幼女まで成長したというのに、これではどうしようもない。よって、根本的な解決へと乗り出す。


 俺はフィリミシア城にて王様や聖女ゼアナの見守る中、バブー状態になってしまったミレニア様を元に戻す試みをおこなう。

 そろそろ、俺も己のために時間を使わなければ、色々と滞ってしまうからだ。


 最早、時間も限られているので、本日中になんとかしてやる、という覚悟で複雑難解な魂の迷宮へと挑む。


「ぶっちゃけ、そろそろケリを付けてやるんだぜ」

「しかし、どうやって最奥へと?」

「聖女ゼアナ、俺は勘違いしていたんだ」

「え?」


 そう、迷宮踏破は難しく考える必要がなかった。俺は迷宮という概念に、まさに囚われていたのである。


「邪魔な物は全て破壊だっ!」

「それって、一番やっちゃいけないやつですよねっ!?」

「ば、ばぶ~!?」


 驚愕の表情を浮かべる二人であるが、今の俺に慈悲という言葉は存在しない。不退転の覚悟を持った俺は、桃使いながらにして鬼へと至る。


 というか、もう迷宮はお腹いっぱいです、勘弁してくだしあ。


「それでは、ユクゾッ!」

「ちょっ! エルティナ様っ!?」

「ばびゅっ!?」


 俺はミレニア様の魂が囚われている杖の中へと突入した。

 眼前に広がる行く手を阻む壁。以前は常識に囚われて魔法が使えない壁は破壊できない、と思い込んでいた。

 確かに、それらはやってはいけない行為。仮にミレニア様の魂が傷付いた場合は、どのような結果になるか分かったものではない。


 だが、そんなの関係ねぇ。


 それは、あくまで向こうの都合。それに付き合うくらいなら、こうして魂の迷宮に突入なんかしたりはしない。


 俺は常識を捨てるぞぉぉぉぉぉっ! ミレニア様ぁぁぁぁっ!


「ふっきゅんきゅんきゅん……昨日までの俺と一緒だと思うなよ」


 すっ……と俺は変身の構えを取る。

 ゆっくりと右腕を前方にて回し、ジャキーン! と構えを取って力ある言葉を放った。


「変……珍!」


 そして、みょいんと前方へ跳ぶ。


 俺の体全体から眩い輝きが放たれ、俺は【仮面幼女エルティナライダー】へと至る。


 このバッタヒーローのお面は、この間のお祭りで購入した。

 製作者のフウタは相変わらず、こういう物を作るのが好きなようで、デザインもバッタ怪人を模していた。イカスぜ。


「珍獣ぅぅぅぅぅぅぅ、きっく!」


 俺の蹴りで迷宮の壁が粉々に粉砕された。粉々というよりは、消滅した、が正しい。


 全て喰らう者七匹を発動した俺は、全ての部分で対象を喰らう事が可能だ。それは即ち、動く危険物である。


 死ぬぜ~、俺に触れたヤツは、皆、死んじまうぜ~!


 最早、魂の迷宮は虫の息も同然だ。俺はただ真っ直ぐ突き進むのみ。

 迷宮がルール違反をしている俺に、制裁を加えよう、と壁から剣だの槍だのを突き出してくるが、そもそもが壁を食っている時点で通用するはずもない。

 身体に触れた瞬間に、むしゃぁ、と食われて消滅してしまう。


「ふっきゅんきゅんきゅん……にょっか~、に改造された俺は無敵なのだぁ」


 難点としては、幼女なので移動速度が遅いこと、そしてお面を被っているので視界が狭い事が挙げられる。


 だが、お面は外すわけにはいかぬぅ! これがあるから、俺は仮面幼女エルティナライダー、としていられるのだっ!

 仮面の無いライダーは、ただの化け物なのであるっ!


「ちょあぁぁぁぁぁぁっ! ほっ、ほっ、ほわぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 最強! 無敵! 大進撃っ! 俺を止めれる者は存在しねぇ!


 俺を散々苦しめた迷宮もこの有様。一直線に穴をあけられた迷宮は、おに~さんゆるしてっ、と許しを乞うた。


 だが断る。俺は、おに~さん、ではなく、仮面幼女エルティナライダー、なのだ。


「ライダ~……ひっぷ!」


 俺の渾身のケツ撃が炸裂し、遂に迷宮の最奥に到達。

 そこには輝くミレニア様の魂が触手に絡まれ、いや~ん、な姿を晒していた。あんたも好きねぇ。


 かつての自分も、あの状態で囚われていたので他人ごとではない。速やかに触手の排除を試みる。

 だが、この仮面幼女エルティナライダーでは過剰攻撃力過ぎて、ミレニア様の魂を傷付けてしまうだろう。


 そこで、俺はもう一つの【変珍】をおこなう。爆発的な神気を凝縮させて解き放つ。

 瞬間、幼女は消え失せ、一匹の白銀の獣が爆誕した。ただ単に毛並みが白銀色になった、お饅頭型の獣である。

 だが、その能力は桁違いだ。見せてやろう、神の息吹を。


「ふきゅん!」


 俺は触手に対して背を向ける。そして、角度を調整。


「発射角度よし! 砲雷撃戦、初めっ!」


 ぷぃ、ぷぃ、ぷぴっ。ぷぃぃぃぃぃぃぃぃぃん……。




 触手は滅びた。




 見たか、我が砲撃の威力を。こいつを浴びたが最期、鼻があろうとなかろうと待つのは滅びだけだ。


「さて、ミレニア様の魂を……ふきゅんっ!?」


 なんという事でしょうか、ミレニア様の魂が黄色く染まってしまっているではありませんか。


 ……洗っとけば、ばれへんか。ささっと、やっておこう。ごしごし。


 こうして、俺はやっつけ作業的に、ミレニア様の魂を救出したのだった。






 そして、元の姿に戻ったミレニア様はというと。


「綺麗だろ? これ、死んでるんだぜ」

「生きてますからっ! 気を失っているだけですから!」

「エルティナ。そなたは、どういう方法でミレニアを元に戻したんじゃ?」


 白目痙攣状態で大人の姿に戻っていた。それはもう、ビクンビクンしている。


「嫌な事件だったんだぜ」


 そう言って、俺はお茶を濁すことにする。

 なんでもかんでも、真実を明るみに出すのは良い事ではないのだ。きっと、これが最善だと思います、はい。






 暫く放心状態だったミレニア様だったが、なんとか立ち直り暫くぶりに職務に復帰することになった。

 ボウドスさんもようやく肩の荷が下りたことであろう。これでミリタナス神聖国を任せる事ができるようになったので、俺は次なる行動へ移る。

 忙しいがゆっくりしている暇はないのだ。


 俺は大神殿の屋上にて、たった一人、恐るべき存在に対峙していた。満天の星空の元、俺とヤツの闘気は極限へと至る。


 見よ、この灼熱に発熱する球体たちを! こいつは、その身に黒き衣を纏い、クリーム色の追加装甲を見せ付ける超難敵だ!

 更には、その熱々とろとろの内部に醜悪な触手を忍ばせ、隙を突いて襲い掛かる、という策士でもある! 


 けしからん、じつにけしからんっ! そんなヤツはこうしてやるっ!


「はふっ! ほふっ! はふっ!」


 くっ! 口内で火災発生! ただちに鎮火に掛かれっ!


「ぐび、ぐび、ぐび……ぷっはぁぁぁぁぁっ!」


 ひゃあ、堪んねぇ! やっぱ、【たこ焼き】には、キンキンの【ビール】だな!


 いやぁ、忙しい、忙しい。手を休める暇もない。

 竹串で熱している、たこ焼きを、くるりと回し綺麗な球状にする。美しい形に仕上がる、と食べるのがもったいないくらいだ。

 こいつばかりは、一人でこっそりと食べるのが俺流。お供は酒だけでいい。


 たこ焼きといっても、具材はなんでもいい。たこ焼きは自由だ。


「お次は豚バラの角切りをサッと茹でた物を入れよう。枝豆もいいかも」


 そして、俺は禁断の食材、納豆を投入。タレは醤油を選択。完成が楽しみである。


 こうやって、いろいろな食材を試し、ビール、またはハイボールをやっつけながら、たこ焼きを楽しむのは前世でもおこなっていたようだ。

 残念なことに、試した具材の結果の殆どを忘れてしまったか、記憶を兄貴が持って行ってしまったようで、俺は何一つ憶えていない。


 だが、それがいい。こうして再度楽しむ事ができるのだから。


「ほふほふ……お、バラ肉はジューシーだな。でも一つ食えば満足かも。枝豆は玄人好みだな。納豆は……ねばりっしゅ! だな」


 メモ帳に試した具材の特徴を書き込んでゆく。楽しい作業だ。

 難点としては、一向に酔っぱらわない、という点だろう。お酒自体は楽しめるのだが何か違う。


「ふきゅん、お星さまが綺麗なんだぜ」


 偶には、こういう夜があってもいいと思う。俺も一応、プライベートな時間は必要だ。

 出来上がった、たこ焼きを一口で口の中に突っ込む。熱いが、ほふほふ、と口の中に空気を入れ込み口内を冷やす作業は楽しい。

 飲み込んだら、ビールで冷却だ。これもまた楽しく、必ずセットでおこないたい。


「ぷっはぁ。今度はホルモンを入れてみっか。豚と牛をチョイスっと」


 たこ焼きを転がす時は無心になる。ボヘッとする時間が楽しい。こんな時間がもっと増えればいいと思う。だからこそ、俺はがんばれるのだ。


「ふきゅん、兄貴とも、一緒に食事ができればな」


 きっと、その時は訪れる事はない。俺達はそう言う定めなのだ。

 カーンテヒルとカオス、どちらかしか選ばれない。それが決する時は確実に近付いていた。


「おっと、たこ焼きが悲鳴を上げている。急いでお救いしなければっ!」


 俺のレスキュー作業は星空の下、材料が無くなるまで続いたのであった。


 はふはふっ!

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