表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第二章 身魂融合 命を受け継ぐ者
66/800

66食目 ホビーゴーレム誕生

「箱の中にヘッドギアとゴーレムコア、そしてペンが入っているのを確認できたかい?」

「ふきゅん、これしか入っていないのか?」

「そうだよ。初心者セットは、ホビーゴーレムの醍醐味を知ってもらうためのセット内容だからね」

「でも、どうやってこれだけでホビーゴーレムを作るんだよ?」

「んふふ、ライオット、慌てないの。材料はここに沢山、あるじゃないか」


 プルルは腕をいっぱいに広げて、くるくると回り始めた。笑顔が眩しい。だが、はしゃぎ過ぎて、桃先生の芽を潰すんじゃないぞ。


「ここに沢山って……見た感じ、土やら木っ端やらばかりだけど?」

「そのとおり、ホビーゴーレムは元々、廃材から作られていたんだ。それがいつしか、軽くて頑丈な素材に取って代わられた。今、主流となっている【プラスチック】という素材は軽くて頑丈で加工し易い、という特長があってね。ほんと、これを開発した人物は天才だよ」


 プルルの説明で、真っ先にチート転生者フウタのドヤ顔が浮かんできた。絶対に彼が一枚噛んでいることは間違いがないだろう。異世界の生活水準が壊れるぅ。


「あと、プラスチックには、魔力を溜め易い、という特長があるから、魔力を糧に活動するホビーゴーレムにとっても都合がいいんだ」

「それじゃあ、最初からプラスチックで作ればいいんじゃないのか?」


 俺の質問に、プルルは「ノンノン」と指を振る。イラッとしたので、彼女の乳首を摘まんで差し上げた。

 その結果、俺の頭部には、美しいたんこぶが出来上がったのであった。悔いはない。


「もう、おっぱいの先っちょはダメだよ!」

「成長を促そうと」

「しなくていいの! あぁもう、なんだったっけ?」

「ふきゅん、最初からプラスチックだな」

「そう、それだよ。プラスチックは魔力を溜め易い反面、魔力による変形ができないんだ」


「おいおい、そうすると、形作るのは手作業になるのか?」

「そうだよ、ライオット。後は溶かして型枠に流し込むとか……かねぇ。それでも、その後に組み立てる必要が出てくるよ。工作道具や接着剤を使っての作業になるから、余程に手慣れていないと完成までに、かなりの時間を費やすことになるね」

「うっへぇ、俺じゃあ無理だ」


 プルルの説明にライオットは辟易した表情を見せた。俺もそこまでの技量は、とてもではないが持っていない。料理なら問題なくできるのだが。


「そんな人のために完成品も販売しているね。でも、自分で作ったホビーゴーレムほどには感情移入できないかな」

「まぁ、そうだろうな。苦労した分、ホビーゴーレムにも愛着が湧くってもんだぁ」


 俺たちが納得を見せたところで、本格的にホビーゴーレムを作る作業に移る。


「それじゃあ、箱の中の宝石を手に取っておくれ。絶対に潰したらダメだよ?」

「ふきゅん、そんなバカが……」


 振り向けば、バカがいた。ゴーレムコアが見事に変形しているさまに、俺たちは速やかに白目痙攣状態へと移行。

 放たれる必殺のツッコミは、おバカにゃんこを見事KOするに至る。


「プルル、直りそう?」

「う~ん、取り敢えずは機能自体に問題は無いけど……作ってみないことには不具合が判明しないね」

「ライオット、おまえはバカだろ」

「申し開きもできやしねぇ」


 なかなかに激しいトラブルがあったものの、ホビーゴーレム作りは再開。手の平にゴーレムコアを載せて魔力を注入することが、ホビーゴーレム作りの第一歩となるらしい。


「魔力を注入する際に、どんなホビーゴーレムになってほしいかイメージするんだ。そして、そのイメージを魔力に載せてゴーレムコアに注ぎ込む」

「ふきゅん、イメージかぁ」

「難しいな、イメージはともかく魔力の方が……」

「そっちかい。そういえば、ライオットは魔法の成績が悪かったねぇ」


 何から何までホビーゴーレムとの相性が悪いライオットであったが、彼なりの努力を続けた結果、ほんのりと変形したゴーレムコアが発光し出した。


「うんうん、その調子。注いだ魔力は裏を返せば愛情だよ。注げば注ぐほどに自分だけの特別なホビーゴーレムが誕生するんだ」

「ふきゅん、それは良い事を聞いてしまった感。よろしい、ならば全力だ」


 俺はすぅと大きく息を吸い、全力でゴーレムコアに魔力を流し込んだ。


「ま、待った! 食いしん坊、魔力を急に注ぎ過ぎだよ! というか、何その魔力量!?」

「ふきゅん? お、おわ~!? ゴーレムコアが七色に輝き出したっ!」


 なんということでしょう、俺の手の平にあるゴーレムコアが七色に輝き出し、得体の知れない力を撒き散らし始めたではありませんか。誰か助けてっ!


「落ち着くんだ! ゆっくりと、魔力を流して!」

「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん! ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!」


 パニックになった俺は取り敢えず鳴きながら、次々と撃墜される哀れな動く棺桶を想像してしまった。

 はっきり言って、イメージしようとしていたのは白い悪魔の方であって、情け容赦なく爆散する緑色の一つ目小僧の方ではない。


 そして、ふわりと浮かび上がる俺のゴーレムコア。ライオットとプルルのゴーレムコアも同様に宙に浮かび上がり、周囲から砂やら木っ端やらを集め出したではないか。

 これが、プルルの言っていた、材料はここに沢山ある、という言葉の回答であった。


「うん、ライオットのは心配だったけど、きちんと材料を集め出しているね」

「よかった……俺のだけ、ホビーゴーレムが完成しなかったら、悲しみのあまり晩飯を十杯お代わりするところだった」

「ライのかーちゃんが倒れるから、全力で勘弁して差し上げろ」

「親父は、いつも十杯喰うぞ?」

「鬼だな」


 最初に材料を集め形が出来上がったのは、プルルのゴーレムコアであった。流石に経験者はイメージの固め方が上手なのか、すんなりと完成を見せている。


「ふむ、まぁまぁだねぇ。もうちょっと、大きくてもよかったかな?」

「十分、デカいだろ。そいつ」


 プルルが作り上げたのは重量感たっぷりの大型ホビーゴーレムであった。力士のような外観であるが、愛嬌のある顔をしていて親しみが持てる。

 身体を構成している物は石材。分類的には【ストーンゴーレム】と言ったところであろうか。見た目どおり非常に重く、俺程度の腕力では持ち上げることが困難だ。


 そんな、ミニストーンゴーレムを軽々と持ち上げるプルルは、筋肉モリモリの変態だった?


「四キログラム……五キログラムかな? ヘビー級だねぇ」

「ふきゅん、階級もあるのか?」

「あるよ。階級別のタイトルマッチもあるからね。ちなみに人気のあるホビーゴーレム同士の試合になると、ワンマッチ大金貨百枚もの賞金が付く場合もあるんだ」

「パネェ」


 そのために、階級別にホビーゴーレムを複数体持つ者も珍しくはないようだ。


「プルルも、その口なのか?」

「いや、僕は二年前だったかな……ホビーゴーレムを亡くしてしまってね。それからは、ゴーレムの勉強をしてたんだ。もちろん、ホビーゴーレムの最新情報は欠かさずチェックしてたけどね」

「そっか、悪い事を聞いちゃったな」

「構わないさ、いつかは向き合う日が来るものだからね」


 そんなセンチメンタルな会話をしていると、先にライオットのホビーゴーレムが完成を見せた。尚、俺のゴーレムコアは、いまだにのんびりと材料を吟味しているもよう。


「これが……俺のホビーゴーレムか!」


 出来上がったホビーゴーレムは、獣型のホビーゴーレムであり、タイプは猫型だ。

 身体を構成する物は土と思われ、【アースゴーレム】に属するのだろう。その特徴なのだが、とにかく小さい。注がれた魔力の量が少なかったこともあるのだろうが、俺が持ってもほとんど重さを感じないほどに小さいのだ。


 そして、その外観から俺が感じた事を口走る。間違いはないはずだ。


「見事な【にゃんこ】だと感心するが、どこもおかしくはない」

「うん、完璧な猫だねぇ。初心者が動物型を作り出すのは難しいんだよ」

「ちが~う! こいつは猫じゃない! 獅子だ!」


 衝撃の事実が発覚した。圧倒的な子猫が、実は獅子であることが判明したのである。

 これは、下手をすれば詐欺罪に当たるのでは、とプルルと協議。結果、ライオットは有罪となった。


「なんで俺が悪いんだ!?」

「こいつが、獅子なわけないだろ、いい加減にしろ!」

「そもそも、獅子の要素がまったくないじゃないか」

「ここに、鬣があるだろ!」

「ただの模様じゃないか」

「にゃ~ん!」

「「「猫だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」


 なんということでしょう、ホビーゴーレム自らが「吾輩は猫である」と告白したではありませんか。


「まぁ……なんだ、元気出せ」

「ね、猫も、大きくなったら獅子になるんだい」


 ライオットは尚も自分のホビーゴーレムは獅子であると主張。面倒になってきたので獅子という事にしておく。

 当のにゃんこホビーゴーレムは、欠伸をしながら漬物石の上で昼寝をしだす始末。ライオット以上にフリーダムなにゃんこが爆誕したもよう。


 そんなこんなで、俺のホビーゴーレムもようやく完成したらしい。そいつを見て、俺はこれ以上ないほどにむせた。そして、苦いコーヒーが飲みたくなってきた。


「くっそ、むせる」

「こ、これはまた……」

「うおっ、随分と個性的なホビーゴーレムになったな、エル」


 それは、あまりにも動く棺桶であった。ただし、緑色の一つ目小僧ではない。それよりも遥かに脆く、作りまくられた量産機の方だ。

 全体的に丸っこいフォルムに三つのカメラアイ、無骨さが目立つ漢の戦闘マシン。それが、俺の下にやってきたホビーゴーレムであった。


「何をどうやったら、こんなデザインになるんだい?」

「ふきゅん、イメージした姿じゃないんだぜ」

「だとしたら……注いだ魔力が暴走したのかもね」

「漢の匂いしかしねぇ……」


 汗と油と硝煙の匂いがプンプンしやがる彼は、身体が鉄で構成されていた。時間がかかっていたのは砂鉄を集めていたからであろう。

 分類的には【アイアンゴーレム】になるのだろうが、予想どおり装甲は薄く、指で突いてみるとペコペコと音がした。悲しいなぁ、動く棺桶。


「アイアンゴーレムかい。通常のゴーレムでも制作に難儀する代物だよ。しかも五本指……って、えらく軽いねぇ!?」

「装甲がペラペラなんだぜ」

「あぁ、本当だ。これはこれで珍しい。神懸かり的な薄さだよ」


 褒められているのか、貶されているのか分からない評価に、俺はただただ「ふきゅん」と鳴くより他になかった。


 何はともあれ、全員のホビーゴーレムが完成したことになる。したがって、ここからは仕上げの作業となった。


「それじゃあ、ここからは仕上げだよ。箱に入っていたペンを手に取っておくれ」

「これだな?」

「そう、ライオットの手にしたペンは、ホビーゴーレムにとって重要なものなんだ」

「これが?」

「うん、このペンでホビーゴーレムに名前を与えてあげるのさ」


 プルルは、ホビーゴーレムにはまず仮初めの魂が宿る、との旨を説明する。そして、その魂を固定させるのが【名前】になるそうだ。

 いつまでも命名しないで放っておくと、ホビーゴーレムから仮初めの魂が抜けだして、折角作ったホビーゴーレムは砂に還ってしまうらしい。その際にゴーレムコアもダメになってしまうのだという。


「仮初め魂は名前に執着する性質があるから、それを利用しているわけだね。注意する点は、一度しか名前を書き込めないということ。名前を修正したい場合は書いた部分を指で擦ればいいよ」

「ふきゅん、書き終えたらどうするんだ?」

「書き終えたら、ペンの反対側の部分をホビーゴーレムに押し当てて【命名】といえば完了になるよ」

「うっし、分かった! もう名前は考えてあるんだ。へっへっへ、格好いい名前をやるぞ」


 ライオットは意気揚々とにゃんこ型ホビーゴーレムに名前を記入し始める。

 猛烈に嫌な予感がしてきた。何故ならば、彼は字が下手な上に誤字脱字の天才でもあるからだ。


「へへっ、できたっ……と! おまえの名は【シシオウ】だ! 命名!」


 ちっがぁぁぁぁぁぁぁぁう! それでは、シシオウではなく【ツツオウ】だ!


 しかし、無情にも儀式は終了。にゃんこ型ホビーゴーレム【ツツオウ】は、ここに爆誕してしまった。あぁ、もう、滅茶苦茶だよ。


「ふむ……僕は、イ、シ、ヅ、カ、っと。命名だよ」


 プルルは愛嬌のある石の巨人に【イシヅカ】という名を与えた。どこかの食いしん坊な芸能人かな?


「ふきゅん……おまえは、ムセルだ。命名するんだぜ」


 もう、これ以外の名前が浮かんでこない。それほどまでに、俺の頭の中は【むせる】という単語で埋め尽くされていた。これは酷い。


「ふぅん、こうして見ると、なかなかどうして、面白い子たちが誕生したじゃないか」

「面白過ぎて逆に鳴けない、ふきゅん」

「もう鳴いてるじゃねぇか」


 名前を与えられたホビーゴーレムは性格に従って、さまざまな行動や表情を見せるようになってくるらしく、イシヅカ、ムセルは真面目なタイプで、命令があるまでは直立不動で待機していた。

 逆にツツオウは自由な性格なのか、空き地に迷い込んできた蝶を追いかけて走り回っている。それを追いかけてライオットも走り回っていた。

 くれぐれも桃先生の芽を踏むんじゃねぇぞぉ。


 尚、ホビーゴーレムたちの大きさであるが、イシヅカが約四十五センチメートル。ムセルが十五センチメートルで、これが標準サイズらしい。

 ツツオウは十センチメートルにも満たない。非常に小さい個体として誕生したようだ。


「あとは特殊魔法の〈ステート〉でレア度とか細かい情報を見れるけど、これは後で確認しておいておくれ。続けてヘッドギアを装着して、実際にホビーゴーレムを操縦する方法を教えるよ」

「ふきゅん、そういえば、ホビーゴーレムを自分で動かせる、って言ってたな」

「おっ、ようやく本番か!」


 こうして、俺たちはホビーゴーレムの動かし方をプルルから学ぶことになる。俺としては蛇足になるのだが、折角なので教わる事にしたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]あっ、死んだなあいつ
[一言] こいつの肩は赤く塗らねぇのかい?
[一言]  きっと爆散する運命が…(・∀・)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ