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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十六章 彼方より来たりし者
655/800

655食目 中央部到達

 僕らは薄暗い通路を突き進む。異形の怪物メグランザをなぎ倒しながら、向かうはドクター・スウェカーがいる、と思われる工場中央部だ。


 メグランザという化け物は幾ら粉々に砕いても、その破片から完全に再生することが分かった。

 したがって必要最低限の攻撃に留め、体力の温存を図る。


 確かに、桃吉郎さんの全てを喰らう者でメグランザの全てを食べ尽してしまえば再生はしない。しかし、それでは時間が掛かってしまう事が判明したのだ。


「くそっ、影では十分に力を発揮できんか」


 桃吉郎さんは赤黒い大蛇を八匹従えメグランザの頭部を狙う。

 幸いにして再生速度はそこまで早くなく、頭部を潰して視覚を奪うことによって無力化する作戦に出た。


「坊! 再生した連中が追ってきた!」

「ええい! 面倒な!」


 ベルンゼさんの言うとおり、背後から大量のメグランザが迫ってきているのが確認できた。

 あんなのに大挙して襲い掛かられたら堪ったものではない。


「うへぇ、マジかよ」

「冗談じゃないわね」


 僕も史俊と時雨と同意見だ。あんなのに蹂躙されてはひとたまりもないだろう。

 なんとかして、進行を阻止できないものだろうか。


「天井を崩しちゃう?」

「誠司郎、それじゃあ、俺達も帰れなくなっちまう」

「いや、それはいい案だ。帰り道なら俺がなんとかする」


 桃吉郎さんは僕の考えなしの提案を受け入れ、赤黒い大蛇を天井へ伸ばして破壊。瓦礫で通路を塞ぎメグランザの追撃を防いだ。


「これでよい」

「無茶苦茶だな」

「無茶は承知の上だろう?」

「そうなんすけどねぇ」


 史俊は理解はしているようだけど納得はしていない様子だ。

 でも、僕らはもう引き下がれない場所まで来ているのも確かであって、桃吉郎さんに反論するのも今更であった。


 時雨などは、このやり取りなど意に介さず、黙々とメグランザを攻撃魔法で黒焦げにしている。

 炭化すると再生に時間が掛かるらしい、とのことだ。


 どうやら、時雨は倒したメグランザの再生時間を計測していたらしい。


「マジックユーザーの仕事だからね。これくらいできないと後列職は務まらないわ」


 そんな彼女は、前衛でガンガン攻撃魔法を行使している。

 後列職とはいったい……?


「これ一匹持ち帰っていい? 再生するなんて最高じゃないですか。はぁはぁ」

「ぴぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

「家では飼えません。捨ててらっしゃい」


 危険な眼差しをしたバルドルさんが、頭部だけになったメグランザを持ち帰ることを桃吉郎さんに提案した。

 理由はもちろん、延々といたぶり続けることができる、との思惑からだろう。

 これに桃吉郎さんは白目痙攣状態で却下する。


「ちぇ~」

「ぴぃ!」


 メグランザは許された、とでも言わんばかりに頭部から触手を生やし、そそくさと退散していった。

 化け物を恐怖させる化け物が味方にいたのである。


「ユウユウさんを思い出しちまうな」

「やめてくれ、茨木のヤツとバルドルが【お友達】になったら大惨事になる」


 桃吉郎さんは両手で顔を覆い尽くし、可能性の未来に恐怖していた。

 実際問題、僕もその未来はとても怖い。ユウユウさんって極自然に敏感な部分にボディタッチしてくるから。しかもテクニシャン。 


 困る、すっごい困る。


「御子様! 中央部の入り口らしき門が!」

「あなた!」


 暴風のデミシュリスさんが奥さんジュリアナさんの声に反応して飛び退く。

 先ほどまでいた場所には一人の人間が立っていた。鋼鉄で作られているであろう床が陥没している。とても人間の持つ力ではない。でも……。


「エンドレスグラウンドのプレイヤー!?」


 彼は冒険者だった。見た感じ、それなりの装備を身に付けているけど、その装備では、とてもここまでは到達できない極々普通の装備だ。


「しんにゅうしゃはっけん、はいじょ、かいし……」

「ひっでぇ片言だな、おい」


 片言で話す彼の目には光が無かった。まるで操られているかのようだ。意志がまったく感じられない。


 史俊のツッコみと共に冒険者が動いた。狙いはガッツァさんだ。

 彼は岩でできた斧で、襲いかかってきた冒険者の拳を受け止める。


「うぬっ!?」


 受け止めたはいいが、ガッツァさんはそのまま吹き飛ばされ、背中から床に叩き付けられた。

 それでも、すぐさま立ち上がれるのは、並みはずれたタフネスを誇るドワーフ族だからか。


「こいつ、強いぞ!」


 ベルンゼさんがトライデントを構えて冒険者に突撃する。まさか、仕留めるつもりなのだろうか。そんな事をしてしまえば、彼は鬼と化してしまう。


「ベルンゼさん!」

「分かってる! 暫く眠ってもらうだけだ!」


 そう言うとベルンゼさんは手の平より水を撒き散らし、辺り一面に水溜りを作り出した。すると彼はその水溜りの飛び込んでしまったではないか。


「え? き、消えた!?」

「あいつの得意技〈水渡り〉だ」


 桃吉郎さんは言う、べルンゼさんは水がある場所ならどこにでも瞬時に移動可能な能力の持ち主なのだそうだ。有効範囲は五キロメートル。

 つまり、先ほど撒き散らした水は不意打ちを狙うための布石というわけだ。


「ならっ!」


 僕はガルム666を構えて冒険者に発砲。簡単に冒険者は避けてしまう。

 でも、それでいい。僕の狙いは彼を移動させることにあったのだから。


「上手いじゃねぇか。そらよっ!」


 水溜りから飛び出してきたべルンゼさんは、トライデントの柄の部分で冒険者の延髄を殴りつけた。呆気なく昏倒する冒険者。

 強敵ではあった、がカオス教団八司祭は、それをさらに上回る。


 ん? 八司祭? ひとり足りないような……。


「ん、ウィルザームか? どうした……何、天界への門が開いているだと?」

「桃吉郎様?」

「ウィルザームのヤツが天界の門が開いていると報告してきた」


 あぁ、そうだ! あのお爺ちゃんがいなかったんだ! 全然気が付かなかった。


 他の面子のキャラが濃すぎて気が付かなかったよ。


「どうしたんだ、桃吉郎さん」

「いや、別行動を取っていたウィルザームから連絡があってな。普段は固く閉ざされている天界への門が開いているとの報告があった」

「……嫌な予感しかしないぜ」


 桃吉郎さんと史俊のやり取りのすぐ後に、中央部から爆音が聞こえてきた。


「なんの音!? 誠司郎っ!」

「時雨、何かが爆発した音だ! 戦闘が始まっている!?」

「ちぃ、行くぞ、おまえらっ!」


 僕らは中央部へとなだれ込んだ。そこには血を流して倒れる、多くのエンドレスグラウンドのプレイヤーたち。

 そして、血に塗れ一体の巨大ロボットと対峙しているドクター・スウェカーの姿があった。


「……魔導騎兵だ。ASK‐87‐E・ジャッジメント」


 桃吉郎さんはごくりと唾を飲み込んだ。血よりも赤い色をした戦闘兵器の瞳が青く輝く。


『おまえたちの力は強過ぎる……この世界には不要だ』


 女性の声だ。それは鈴が鳴るようね清涼な声。でも、心底身体が凍るような冷たさを孕んでいた。

 素直に怖いと感じる。


「……かっかっか! 女神マイアス自らが乗り込んでくるとはのう! いやぁ、依代の方か? まぁ、どっちでもいいわい! いずれにせよ、わしの研究材料となるがいい!」

「ドクター・スウェカー!」

「んん? これはこれは! 役者が揃ったようじゃのう! 僥倖、僥倖!」


 桃吉郎さんの叫びに、ドクター・スウェカーと魔導騎兵ジャッジメントを操る女神マイアスが反応した。


 狂気の笑みを浮かべるドクター・スウェカーに対し、真紅の巨人は至って平静だ。


『世界は変化など求めてはいない……何故、おまえたちは現れる。何故、おまえたちは変化を望む。私は不確定要素を排除する』

「かっかっか! 変化を求めぬ生物がいるとするなら、それはゴミというものよ!」

「マイアス、それはおまえの幻想だ! 世界は常に変化し続けている!」


 ドクター・スウェカー、そして桃吉郎さんの言葉を聞いた真紅の巨人は厳かに申し付けた。


『……消えろ、女神マイアスに盾突く者よ』


 魔導騎兵ジャッジメントが、右手に持つ超巨大ライフルを発砲した。戦いの火蓋は切られたのだ。

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