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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第二章 身魂融合 命を受け継ぐ者
65/800

65食目 ホビーゴーレム購入

 店の奥はまさに熱気の渦というか、なんというか、もう「むせる」の言葉しか思いつかないほどに熱かった。

 ただただ、ひたすらに水属性攻撃魔法〈ウォータボール〉を無差別で炸裂させたい。なんでもいいから、この空間を冷やして差し上げろ。


「おいぃ、熱気がむんむんし過ぎて脱水症状に陥るぞ」

「そんな熱い格好をしているからだよ。なんで着ぐるみなんだい?」

「やんごとなき事情から、この格好が最善である、と計算されてしまいました」

「ふぅん」


「そんなことよりも、早くホビーゴーレム買おうぜ!」

「おいぃ、人混みの中で走るんじゃない」


 こういう場合も【ねこまっしぐら】という言葉を当てはめてもいいのであろうか。

 ライオットの目には、既にホビーゴーレムしか見えていないご様子である。


「それにしても、熱気の原因はホビーゴーレム同士の喧嘩とはな」

「バトルと言いなよ。これがホビーゴーレムの醍醐味なんだからさ」


 プルルに遠巻きに、センスねぇなこいつ、と言われた俺は、怒りのキュピキュピダンスを披露。戦場に場違いな音を撒き散らして恨みを買う事に成功する。

 だが、面の皮の厚い俺は、この恨みを見事にスルー。さり気なく罪をライオットに着せる。万事は全て上手く行った。


「それで、どれがホビーゴーレムだ?」

「うん? この棚、全部だよ」

「全部って……種類が豊富過ぎて、初心者お断り感、満載なんですが?」


 その棚には、おびただしいほどのホビーゴーレムの箱が置いてあったではないか。

 どれもこれもイラスト付きで、でかでかとゴーレムのタイプが書かれていた。中にはゾウリムシタイプという、わけの分からないタイプまである。誰が買うんだ。


「よし、ライオットはゾウリムシタイプだな」

「おいバカやめろ、誰が買うんだよ」

「え? 結構、可愛いよ?」

「「え?」」

「……え?」


 俺たちとプルルとの間に、決して理解できない壁が誕生した瞬間であった。


 何はともあれ、ホビーゴーレムを購入しなくては始まらない。このような時は、やはり経験者に選んでもらうのが一番である。そのためのプルルなのだ。


「うん、この初心者セットがいいね。ゴーレムコアと操縦用のヘッドギアのセットだよ」

「ふきゅん? ゴーレムコア?」

「そ、ゴーレムの心臓だね。詳しい事は購入して組み立てる時にでも話すよ」


 とここでライオットの姿が消えていることに気が付いた。落ち着きのないヤツだ、少しは、この俺を見習ってはどうだね。

 そんな事を脳内に思い浮かべながら、彼の姿を求めて視線を動かす、とやんちゃなボーイたちに混じって、間抜け面をしたおバカにゃんこの姿を確認。

 どうやら、ホビーゴーレム同士の戦いに熱中しているもよう。


「おぉい、ライ! ホビーゴーレムを買って帰るぞぉ!」

「ちょっと待ってくれ! 今良いところ! いいぞ、いけっ!」

「おやおや、ライオットは【ゴーレムマスターズ】にご執心だねぇ」


 プルルの瞳がギラリと輝いた。これ絶対に話が長くなるヤツだ。

 そんな危機感を感じるも、時すでに遅し。マシンガンのようなプルルのトークが、俺を蜂の巣にする。誰か助けてっ!


 もう録画再生スピードが四倍ほどもあるのではないだろうか、という勢いで喋りまくるピンクのモコモコは取り敢えず【ゴーレムマスターズ】で食っていけるほどに、充実した競技であることを熱く語った。そして、俺はその熱意に真っ黒焦げになってしまう。


 とら猫が黒猫になってしまったではないか、どうしてくれるのこれ。


 尚もトークを続行する彼女は明らかに【あっち側】に行ってしまっているので、必殺の斜め四十五度からのチョップを頭部に叩き込んでやる事にした。

 だが、俺の身長では彼女の頭には手が届かないことに気が付いて、深い悲しみを知る事になる。


 仕方がないので、プルルの乳首を摘まみ上げてやった。


「ふにゃあぁぁぁぁぁぁっ!? な、なにするんだい!」

「ふきゅん、やっと正気に戻ったかぁ?」

「もうちょっと、マシな方法は無かったのかい!?」

「俺に身長があれば、このような悲劇に見舞われることはなかったんだがな」


 プルルに悲鳴を上げさせて勝利を確信した俺は、速やかにガッツポーズを決める。成し遂げたぜ。


「あ! あぁ~、負けちゃった」


 そんなこんなしている間に、ライオットが応援していたホビーゴーレムが負けてしまったようだ。しなしなと萎れる耳と尻尾がさり気に可愛い。


「ふきゅん、終わったか?」

「あぁ、惜しかったなぁ……ゾウリムシ」

「戦っていたのって、ゾウリムシかよ」


 何気に人気があるのか、ゾウリムシタイプは品薄、という衝撃の事実を知る事になるのは、また別の話だ。


 色々とハプニングはあったものの、目的であるホビーゴーレムを購入するために、初心者セットを三つレジカウンターに運ぶ。もちろん運ぶのはライオットの仕事だ。


 レジにいたのは、スキンヘッドのやたらとデカい黒人のおっさんである。玩具屋を営んでいるボビーさんとは彼の事であろう。

 玩具屋の店主、と言うよりかはどこぞのキャンプでブートしている感がある。


「おや、初心者セットを三つもかい?」

「ふきゅん、初心者二人と、指導者用なんだぜ」

「なるほど、それでは初心者セット三つで、大金貨一枚と金貨一枚ね」

「ほぅ……セールなだけあって、安くなってるんだな」

「これを安いって言うのは豪商のお子さんか、貴族のお子さんくらいだよ」

「いや~、高い高い」


 慌てて言いつくろったが、後の祭りであることは言うまでもない。


 ボビーさんに暗黒微笑で見送られながら店を出る。目指すはヒーラー協会の裏の空き地だ。

 なんでも、ホビーゴーレムを制作するには、そういった環境の方が都合がいいらしい。






 そんなわけで、俺たちはヒーラー協会の裏の空き地に到着した。だが、俺はそこで衝撃の光景を目の当たりにしてしまった。


「ふきゅん!? 野良ビーストどもが一匹もいねぇ!」


 なんと、桃先生の若芽を守るように依頼していた獣どもが、ものの見事に一匹もいなかったのである。ふぁっきゅん。


 そして、その桃先生の若芽に最大の危機が迫る。黄緑色の悪魔ベビーが、いもいもと高速接近しているのを発見してしまったのだ。


「ふきゅん! このままでは、桃先生の若芽の危険が危ない、と感じてしまって、さぁ大変!」

「取り敢えずは、食いしん坊の言葉使いが大変だ、ってことが分かったよ」

「あれが、エルが言っていた桃先生の芽か。芋虫をやっつければいいんだな?」

「あ、ライ! ちょっと待て!」


 しかし、俺の制止の声を振り切ってライオットは行動に移り、あろうことか、いもいも坊やを蹴り飛ばしてしまったではないか。


「いも~」


 哀れ、いもいも坊やは悲しげな悲鳴を上げて宙を舞い、ぽてっと地面に落ちて数度跳ねてから停止。すぐさま起き上がってライオットに猛抗議を開始した。

 にょっきりと生やした赤い角が、その証拠となる。結構、頑丈だな、きみ。


「おいぃ、子供を蹴るとか、駄目だろ」

「だって、こいつが桃先生の芽を食べようとするからだろ?」

「生きるために食べることは罪じゃねぇ、自然が定めた摂理だ」

「エルは、時々難しい事を言うなぁ」


 俺は謝罪の意味を込めて、いもいも坊やに〈ヒール〉を施す。彼は痛みが消えたようで、赤い角を引っ込め、俺に対して感謝の踊りを披露した。


「しかし、桃先生の芽を食おうとしたことは大罪であるぅ! 罪深き者よ、くらえぃ、腕ひし十字ぃ!」

「「早速、言っている事と、やっている事が違うっ!?」」


 桃先生の若芽を脅かす者は何人たりとも許さない、ってそれ一番言われてっから。


 俺は、いもいも坊やに指を使って【腕ひし十字】を炸裂させる。腕の関節を容赦なく責める地獄の責め苦だ。しかし、効果はあまりないもよう。


 というか、腕はどこかな?


 そんなわけで、お腹を見せていた、いもいも坊やを茂みに帰して、ホビーゴーレム作りへと洒落込む。


「それじゃあ、ホビーゴーレムを作るとしようか。箱のふたを開けておくれ」

「待ってました!」

「ふきゅん、ライ、箱は破くなよ? ホビーゴーレムの家になるって書いてあるから」

「……先に言ってくれよ」


 哀れ、ガサツなライオットは、ホビーゴーレムの箱をビリビリに破ってしまった後であった。落ち着きがないなぁ、きみは。


「大丈夫さ、ホビーゴーレムの収容キットは別売りであるから」

「ほんとか!? よかった、今月の小遣いで買えるかな?」

「うん、一つ銀貨三枚からだよ」


 ライオットが懐から出した、緑色のがま口財布の中身は、小銅貨三枚、中銅貨一枚、銀貨一枚であった。それが、今月の彼の小遣いの全て。そして、今月はまだ、かなりの日数を残している。


「おまえ……確か小遣い、月に小金貨二枚貰ってる、って言ってたよな?」

「お、おう」

「何に使った、言え」

「買い食い」

「バカたれ、月初めから使い過ぎだろ」


 俺にお説教されたライオットは、哀れなほどに縮こまってしまった。この先不安なヤツである。

 余程にしっかりした嫁さんを貰わないと、大変なことになるのは目に見えていた。


「まぁ、取り敢えずはホビーゴーレムを作ってからさ。周辺アイテムを揃えるのはそれからでも遅くはないよ。手作りしたっていいんだからね」

「それだっ!」

「それだ、じゃねぇだろ。ぶきっちょ選手権の覇者ライオット君」


 そんわけで、俺たちのホビーゴーレム作りは開始されたのであった。

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