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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十六章 彼方より来たりし者
642/800

642食目 誠司郎たちの演説計画

 フィリミシア城モモガーディアンズ本部、そこは異様な緊張感に包まれていた。

 主だった主要メンバーを勢揃いさせての会議。果たして、いつ以来であっただろうか。


「集まったな? では会議を開始する。まずは手元の資料を読んでくれ」


 俺の促しに従い、メンバーたちは資料を読み一様に眉を顰めた。緊急事態であることを理解してくれたようだ。


「現在、エンドレスグラウンドのプレイヤーたちは危機的な状況に置かれている。にもかかわらず、その危険性を理解できていないというのが現状だ」

「今回集まったのは、その危険性を冒険者たちに伝えるためか?」


 野獣の牙ガッサームさんが、パンパンと手にした資料を叩きながら問うた。俺は答えた。


「そういうことになる」

「でも、僕らが伝えても彼らは信じるかどうか」


 エドワードの表情は難しさを暗に告げている。そんな事は百も承知だ。ゆえに俺は答えた。


「彼らに危険性を伝えるのは誠司郎たちに任せる。彼らはエンドレスグラウンドでも有名なプレイヤーたちだ。知名度も申し分ない」


 誠司郎たちは僅か三人で活動する、という異端児であった。

 ソロでもなく常に三人での活動であることから三羽烏、三バカ、単にトリオといえば彼らを示す言葉となっていたのである。


「じ、自信はありませんが……僕らでお役に立てることがあれば」

「あぁ、こんなことくらいしか役に立てないのが口惜しいけどな」

「でも、この事は絶対にみんなに伝えなくちゃ」


 俺の策にメンバーたちは頷いた。否定的な意見はないようで一安心である。


「となると、彼らの身辺を護衛する必要がありそうだな」


 王様が顎鬚を撫でながら表情を厳しくする。俺も彼と同意見であった。


「俺もそう思うんだぜ。ドクター・スウェカーにとって、今回の世界に向けての演説は大打撃になるはず。この情報が漏れていなければいいが」

「それは無理でしょう。この会話も彼に聞かれている、と想定しておこなうべきでしょうね」


 デュリーゼさんが優雅に紅茶を味わいながら、身もふたもない事をぶっちゃけた。


「むぅ……デュリンク殿がそういわれるのなら、そうなのでしょうな」


 ゴーレムギルドマスターのドゥカンさんがぶっとい腕を組み納得する。


「情報を伝えるってんなら、俺もこの事を記事にしようか?」


 そう申し出てくれたのはモモガーディアンズ専属記者ルラックさんだ。


「あぁ、お願いするよ。新聞の宣伝効果はバカにならない」

「任せておきな。こんなことくらいしか役に立てないからな」


 さて、誠司郎たちの護衛の件だが、適任者は限られてくる。

 鋭い洞察力、気配察知能力、何よりも戦闘力が求められよう。

 そして、万が一に備えて治癒魔法を行使できる者も一人は付けたい。


「護衛はガイ、クラーク、プルル、そしてプリエナに任せる」

「待った」


 そこに待ったの声が掛かった。声の主はフォクベルトだ。

 今日もビシッと身嗜みが整っていて眩しい。


「プリエナが護衛に就くとルバール傭兵団もついてくるんじゃないかい?」

「……あ」


 すっかり失念していた。プリエナにはルバール傭兵団という信者たちが、うじゃうじゃいたのである。

 当初は四十人だった軍団も今や百を超える勢いだという。


 恐るべし……女神プリエナ。


 ん? マイアス? 誰だったかなぁ?


 くしゅん。


 天から何者かのくしゃみの音が聞こえたような気がする。きっと気のせい。


「ま、まぁ、誤差だよ誤差。ついでに誠司郎たちも護ってもらおう」

「うん、わかったよぉ。ルバールさんには、そう伝えておくね」


 プリエナの笑顔はマジ女神。尊くて直視できない。


「さて、誠司郎たちの演説のタイミングだが……明後日にしようかと思う」


 そこまで言って俺はダナンに目配せをした。意図を汲み彼は宝具【魂の絆】を発動させる。これによって俺たちは魂が繋がった状態となる。


 これで全員が魂会話が可能となった。この状態であれば鬼は会話内容を聞き取ることはできないはず。


『繋がったな? では、演説は今日の午後三時におこなう』

『えぇっ!? 今午後二時だから……後一時間しかないじゃないですか!』

『大丈夫、ちゃんとカンペを用意するから』


 これで、今日いきなり演説する、とは向こうも思わないだろう。例え襲ってきたとしても、これだけの戦力が集結する中で目的を果たせるとは思えない。勝ったな。


『それは、フラグを立てる、というのじゃ。エルティナよ』

『ふきゅん、何故バレたんだぁ』

『魂の絆で繋がっているんだから思ったことは全部伝わるに決まってるだろ』


 ドクター・モモとダナンのツッコみに俺のハートはボドボドだ! 誰か助けてっ!


『そんな事よりもじゃ、誠司郎といったかね?』

『あ、はい』

『演説が終わったら、わしの下に来るように。おまえさんの身体を調べるでの』

『え? えぇ~!?』


 誠司郎は悲鳴を上げた。魂会話なので実際は何も語らずにプルプルと震えているのみである。


『いかがわしい事はせんよ。おまえさんのなかを、ちょいとばかり探るんじゃよ。死んで鬼に至るカラクリを……のう?』


 ニヤリとドクター・モモがほくそ笑む。

 この爺さんはメカから生物となんでもござれの狂科学者だ。

 それでも桃力を操れるのは性根が善なる者だからである。


 欲望に支配されない科学者とは、なんたる強靭な心を持つに至るのであろうか。

 ただ、ただ、敬服するのみである。


『警備の配置は王様に任せても?』

『うむ、任せておけ。城の兵も回そう』

『ありがとうなんだぜ』


 これでほぼ準備は万端だ。あとは誠司郎たちのためのカンペを用意するだけとなった。


『そうじゃ、エルティナよ。おまえさんに頼みたいことがあるんじゃ』

『ふきゅん? なんなんだぜ』


 それはドクター・スウェカーからハザマを奪取するという無茶な注文であった。


 しかし、ハザマ無しで地球にエンドレスグラウンドのプレイヤーを帰還させることは、現状では不可能である。奪取も止む無しと言えよう。


『それもそうだな。帰還手段がないと始まらないもんな』

『さようじゃ。わしもエンドレスグラウンドのプログラムを解析しておるがプロテクトが厳しくてのう。ならば直接、発展型を調べた方が早い』

『分かった、ハザマの奪取も優先事項としておくよ』

『頼むぞい』


 こうして、モモガーディアンズ本部の会議は終了となった。






 俺は早速、誠司郎たちの意見を取り入れながら、カンペをささっと制作する。

 制作に用いた時間は四十分。


 あれ? ささっ、という意味がゲシュタルト崩壊して……?


「も、もう時間が……」

「うはぁ、マジかよ」

「上手くできるかしら?」

「ぶ、ぶっつけ本番、いってみようか~」


 俺たちはバタバタと演説場所に指定したフィリミシア中央公園噴水広場へと急いだ。


 既に演説をおこなうための設備は整っていた。

 そこかしこに黒いサングラスを着用し、黒服を身に纏ったルバール傭兵が目を光らせている。胸元に光る魔導銃が鈍い輝きを放っていた。


 完全にシークレットサービスです。本当にありがとうございました。


「エルちゃん、配備は完了してるよぉ」

「ありがとう、プリエナ。誠司郎達も準備はいい……うわぁ」


 そこには尋常ではないほどカタカタと震える誠司郎たちがいた。

 ブレ過ぎて誰だか分からない。少しは落ち着いてどうぞ。


「ぼ、僕りゃでだvksこdfjsぢおhdヴぉdvk」


 頼むから人間の言葉で喋ってくれ。そこまで行くと理解不可避になる。


「てけ・り・り!」


 あぁ、ショゴスが反応してしまった。外宇宙語になっちゃってんよ~?


「あはは! せいじるるお、あざとぉす、しりあいかっか? あははは!」


 それ以上はいけない。SANチェック入るぞぉっ!?


 アルアにお粥を与えて黙らせる。彼女には効果覿面だ。これ以上話がややこしくなっては堪らないからな。


「あはは! おかゆっゆ! おかか! あははは!」


 顔面を白く染め上げるアルアにほっこりしつつ、誠司郎をなんとか落ち着かせるために、俺は奇策に打って出た。


 もにゅん。


 それは誠司郎のぱいぱいをマッサージすることであった。


 まさかの珍行動に誠司郎は固まってしまう。これで誰か判別できないキャラは卒業である。


「よし、止まったな」

「止ったな、じゃないですよ。なんでいきなり人のおっぱいを揉むんですか!?」

「いや、半端なく尋常じゃないキャラになっていたから」


 顔を赤らめて胸を隠す仕草を取る誠司郎は、どこから見ても恥じらう乙女である。


「残りも同じ方法で行くか」


 俺は時雨のパイパイに手を伸ばす。


 ピロリ! ミス! えるてぃな の こうげき は はずれてしまった!


 謎の効果音と共に、俺のもみもみハンドは空を切った。


「ま、まさか……」


 再び俺は時雨のパイパイを狙う。しかし、結果は同様であった。


「し、しまったぁ! 時雨には掴めるパイパイが存在しない!」


 なんということであろうか。時雨は誠司郎とは違い、ささやかな丘しかないため、掴むことができなかったのである。


 これでは正気に戻せない! 戻しにくい! ……乳首ならいけるか?


「誰がペタン子よ!?」

「ふきゅん、正気に戻ったんだぜ」

「ぶはははははははははははっ!」


 ついでに史俊の緊張も解れて一石二鳥だ。


「……あの、時雨さん?」

「なんですか?」

「これから演説なんですがねぇ?」

「史俊がいなくても成功するわよ。ねぇ? 誠司郎」

「ひっ!?」


 そこには血に塗れた時雨。大地に横たわる史俊っぽい何かがあった。


 壊れるなぁ、計画。


 あ、史俊にモザイク掛けとこ。


 多大な不安を醸し出しつつ、誠司郎たちの演説は開始されようとしていた。

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