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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十六章 彼方より来たりし者
636/800

636食目 今日の俺は紳士的ではない

 俺から飛び散るありとあらゆる物は【無】に【有】を与えるがごとく侵食してゆく。

 暗黒の空間は光と虹色に支配され崩壊の一途を辿った。


 しかし、俺たちも無事では済まない。この無茶苦茶な作戦によって多大な被害を被ってしまっていた。主に精神に。こわれるなぁ、ハート。


「よし! 管理データがショートしたぞ! ここから脱出できる!」


 トウヤがそう叫んだ。というか、その前に俺を止めてくれ。割ともう瀕死だ。


「トウヤ殿!」


「何か、ザイン」


「拙者が放電した方が良かったのではないでござろうか?」


「……」


 沈黙、だが、俺からの放電は止まらない。


「脱出だ!」


「「「おう!」」」


 ちくしょう! 本当にちくしょう! なんで、今頃気が付くんだよ!


 俺はザインに回転を止めてもらい、白目痙攣状態のまま、崩壊する暗黒空間を脱出した。

 すると、身体が瞬く間に崩壊してゆくではないか。


「データの身体が崩れてゆく……本体に戻るようだ」


 トウヤの言葉は、どこか遠くから聞こえているかのようだ。やがて、俺は意識を失った。

 と思った次の瞬間には意識がハッキリとしていた。俺は起き上がり周囲を見渡す。


「ふきゅん、ここは……」


「気が付いたか、聖女ホーリーレディ。ここは冒険者くそったれギルドの休憩室だ」


 ベッドの上で寝かされていた俺は、窓際に腰かけリンゴを頬張っていたガイリンクードから説明を受けた。

 なんでも、俺たちは獄炎の迷宮入り口付近で倒れているところを、彼とガッサームさん率いる野獣の牙の面々に救われたらしい。


 ところが、いつまで経っても目を覚まさない俺達を不審に思い、遂にはモモガーディアンズ本部へと連絡を入れたそうである。


 つまり、今カサレイムには元祖モモガーディアンズが勢ぞろいしている状態だ。


「どのくらい寝ていた?」


「丸一日、といったところだな」


「そうか、ヤツが迂闊なヤツで助かったな」


 つまり、丸一日、ブラッドは俺たちを仕留めることができた、にもかかわらず放置していたことになる。もしくは、何らかの事情で、それができなかったかだ。


「なんにしても、カラクリが分かったからには容赦はしない」


「そうだな。だが、油断はするなよ、エルティナ」


 元の十五歳の姿に戻っていることを確認した俺は、同じく目覚めたルドルフさん、ザイン、ブランナを伴って再び獄炎の迷宮へと赴く。そして、獄炎の迷宮の入り口で待機した。

 モモガーディアンズの面々も少し遅れて合流。誠司郎たちは少し遅れるらしい。


 キュウトのヤツがいまだにショックから立ち直れていないようなので、彼女の介抱をおこなっているとのこと。

 気持ちは分からんでもないが、早く立ち直ってどうぞ。


 尚、ゲロリアン塗れは暗黒空間のみであったため、現実の肉体は綺麗なままであった。よかった、よかった。


「二の轍は踏まんぞ」


 白い卵の有効射程範囲は獄炎の迷宮入り口まで、という脅威の射程範囲だ。アレに辿り着くには攻撃を防ぐか、射程範囲外からのアプローチが必要である。


「エルティナ、どうするつもりだ?」


「どうするも、こうするもない。桃仙術!〈桃結界陣〉!」


 俺は桃仙術〈桃結界陣〉を獄炎の迷宮入り口全域に張り巡らせた。入り口のみならず、その周辺一キロメートルをカバーする。


「獄炎の迷宮自体を封印するつもりか?」


「まさか。あの卵野郎に、俺を舐めたらどうなるか教えてやろうかと思ってな」


 俺は再びハイエルフに覚醒し、全てを喰らう者を呼び出す。選択した枝は火。


「来たれ! 全てを喰らう者、火の枝!」


 俺の右手の紋章から巨大な炎の右腕が出現する。

 それは全てを喰らう者・火の枝であり、また火の殉ずる者チゲでもあった。


「チゲ! 行くぞ!」


『……!』


 うなりを上げて突き刺さる炎の腕は、大地を溶かしながら地下奥深くへと突き進む。

 神気を注ぎ込む限り、チゲの腕は伸び続けるのだ。


 ……がんばれば、月にまで届くかもしれない。今度やってみるか。


『い、いもぉ』


 しかし、いもいも坊やから苦情の声。どうしたというのだ。


 え? 友達が【焼き芋虫・ピリ辛味】になるから止めてくれって? なんてこったい。


「ま、まさか! あの卵を直接ここへ引っ張り上げるつもりか!?」


「ふっきゅんきゅんきゅんきゅん!」


 トウヤの言うとおりである。チゲで直接つかんで地上まで持ってくるのだ。いちいち、対抗策を講じて赴いてやる必要などない。


 獄炎の迷宮に入り口なんてなかった。いいね?


「よぉし、捕まえた。もがいても逃げられんぞぉ」


 自分でもびっくりするくらいの底冷えする声だ。自分でも気が付かないくらい、相当に怒りを感じていたのだろう。少し乱暴に引き上げているのもそのためだ。

 地上に卵が近付いてくるたびにヤツの悲鳴が聞こえる。ブラッドの声だ。


「そぉら! 釣れたぞ!」


 砕ける大地から現れたのは、チゲの右手に掴まれた巨大な卵だ。それは地上に出た際に〈桃結界陣〉でコーティングされ攻撃手段を封じられる。結界を張ったのは、全てこのためだ。

 卵なだけに、手も足も出まい。


「がぁぁぁぁぁぁぁっ! な、何故だ! 何故、おまえらが!?」


 ブラッドの声は予想どおり、卵の中から聞こえてきた。炎の巨人ウッホホはやはり幻覚だったのだろう。


「でけぇ!」


 ライオットが驚愕の声を上げた。そして、続けざまに叫ぶ。


「エル! オムレツ作ってくれ!」


「ライ、残念ながら、中身は入っていないらしい」


「な、なんだと……!?」


 ライオットはがくりと膝を突き拳で地面を叩き始めた。

 なんということだ、この卵のせいで、新たなる犠牲者が出てしまったのだ。

 

 これでもう許せなくなったぞ、おいぃ! 中身のない卵はただの殻だ! 破壊してやる!


「詰めを誤ったようだなぁ? そんなんじゃ、甘いよ?」


「さぁ、その卵の能力を吐いてもらおうか?」


 俺とトウヤに問い詰められたブラッドは、それでも余裕を崩すことはなかった。


 だが、無意味だ。


「へっ、この卵の中にいる限り、俺は無敵さ。砕けるものなら砕いてみろ」


 よろしい。では、お望み通り砕いて差し上げようではないか。


 俺はチゲの右手に力を籠める。すると、たちまちの内に卵の殻にひびが入ってゆく。


 なんだこりゃ、脆過ぎる。こんなんじゃ、勝負になんないよ~?


「ひぃぃぃぃぃぃっ!? は、話が違う! 絶対に砕けないって言っていたのに!」


 ブラッドは慌てて卵の能力を発動し始めた。当然ながら、それは結界によって阻まれ効果を発揮しない。


「なんで!? どうして!?」


「しょせんは借り物の能力だってことだろ。さっさとゲロりやがれ」


「だ、誰がおまえなんぞに!」


 ビキビキビキ……メキメキメキ!


 更に卵の亀裂は深くなり、その亀裂の数も増えてゆく。

 もう少し強く握ったら、めきょ、っといってしまいそうだ。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


「分かっていないようだな。これは要求でも要請でもない……命令だ」


 ヤツは果たして今の俺の姿を、表情を見ているのであろうか。

 見ているのであれば、これが最後のチャンスである、と判断してもらいたいものだ。


「わ、分かった! 分かったから止めろ!」


「あぁ? や・め・ろ・だぁ?」


 更に力を籠める。卵は既にその原型を失い始めていた。俺はこれ以上ないほど、邪悪な笑みを浮かべる。

 尚、参考画像はアランの邪悪顔だ。おらおら、ちびれ。


「や、止めてください! お願いします! おねがい……ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 遂にブラッドの心は折れたようだ。

 伊達にユウユウとバルドルのお仕置きを間近で見届けてきたわけではないぞ。これくらいは俺でもできる。

 何度ちびってきたと思ってんだイイカゲンニシロ。


「クスクス……お見事」


「うんうん、ゾクゾクしちゃったよ! エルちゃん」


 そして、この【いばらきーず】である。彼女らは、この一連の行為に大満足の様子だ。


 俺は乱暴に卵を放り投げた。その衝撃で卵は砕け、中からブラッドと思わしき白衣を身に付けた貧相な男が飛び出してきた。


「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉっ! 玉子じぇねぇ!」


 ライオットが怒りのあまり、超野獣人になってしまった。誰か抑え込んでどうぞ。


「あ、あわわわわわわわ……」


 酷く憔悴したブラッドは、巨大な炎の右腕を構える俺を見て後ずさりする。

 それは腰砕けでおこなっており、極めて惨めな姿であった。ぷ~くすくす。


「さぁ、白状しろ。今日の俺は紳士的じゃないぞ」


「エルティナさん、せめて淑女と言いましょうよ」


 メルシェの鋭いツッコミに俺は「ふきゅん」と鳴くしかなかった。

 今、最高にクールに決めているところなんだから、鋭いツコミはNG。


 これじゃあ、悪役ヒールになれないよ~?


「まず、その卵はなんだ? エンドレスグラウンドのプレイヤーたちと関係あるのか?」


「こ、これは……プレイヤーのデータが入ったハードディスクのような物だ」


「それだけじゃないだろう」


 トウヤのドスの効いた声、怖いです。思わず、じょばっ、とやっちまいそうだ。


「うぅ……これは精神をデータ化する装置でもある。実際におまえらも体験しただろう?」


 なるほど、つまりはそう言うことなのだろう。誠司郎たち、エンドレスグラウンドのプレイヤーたちは精神が肉体を持ち、自分の意思で活動している特殊な存在だということになる。


 つまり、自分の肉体がある世界に戻れば、精神の肉体は崩壊し元の肉体へと戻るのであろう。


「それだけでは五十点ですねぇ、ブラッド博士」


「うっ!? ス、スウェカー博士!」


 獄炎の迷宮入り口の上に立つ子供がいた。その口からは老人のような、しわがれた声が発せられている。そして、癇に障る嫌らしい力も感じた。


「おまえが、ドクター・スウェカーか?」


「さよう、わしがドクター・スウェカーじゃ」


 ドクター・スウェカーと名乗った子供は右腕をブラッドへ差し出した。ブラッドはそれが救いの手だと判断したのだろう。慌てて立ちあがり、ドクター・スウェカーに駆け寄ろうとした。

 だが、次の瞬間、ブラッドはその身を炎に蹂躙されていたのである。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ! な、何故! 何故だぁ!?」


「わしはお喋り者が嫌いでね」


 俺は目を見開いた。ドクター・スウェカーの右腕から伸びる炎の腕は俺と同じではないか。それがブラッドを掴み握り潰してしまったのである。


「さて、エルティナ君……といったかね?」


 俺はヤツに対し身構えた。体中の毛が逆立つ感覚に襲われる。こいつは、並の鬼ではない、と警告しているかのようだ。


「そう、身構えるでない。授業の続きをしてやろうというのだ」


「なんだと?」


「知りたいのではないのかね? その卵と、エンドレスグラウンドのプレイヤーたちの関係を」


「……」


「かっかっか、沈黙は肯定と捉えよう」


 ドクター・スウェカーは、その右腕を見せびらかすかのようにひらひらと動かした後に消してしまった。しかし、炎の腕が消えた後には、元の腕が存在していなかったのではないか。


「ふぅむ、これは改良が必要じゃの。僥倖、僥倖。よいデータが取れたわい」


 満足げに頷いたドクター・スウェカーはいよいよもって、奇妙な卵の能力を語り始めた。

 それは、俺たちを驚愕させるに十分な情報であった。

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