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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十六章 彼方より来たりし者
628/800

628食目 ガイリンクード、誠司郎の師となる

 次の日の朝の訓練から、ガイリンクードさんは魔導銃の扱い方を僕に指導してくれた。でも、それは凄まじいほどのスパルタ式であった。

 僕は漆黒の魔導銃をしっかりと握りしめ、普段は弓の練習に使う練習場に立つ。

 

「誠司郎、とにかく時間がない。だから俺はクレイジーになる。文句よわねは吐かせん、いいな?」

「は、はい!」


 そう言うと、彼はいきなり魔導銃を引き抜き、僕に向けて発砲したではないか。

 弾音は五つ、それらは寸分の狂いもなく僕の身体に命中した。それぞれ、頭部、両腕、両足にだ。


「ひゃあ!?」


 でも、撃たれたはずなのに痛みはない、なんとも不思議な感覚だけが残っている。


「痛みはないはずだ。今はな」


 彼は僕に何をしたのだろうか。それを考える間もなくそれはやってきた。


「んぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


「む、早いな。もう効果がでてきたか」


 な、なんだ!? このむず痒さは! いや、痒いというか、気持ち良いというか、なんといったらいいのだろうか? 表現できない感覚だ。


「おまえに撃ち込んだ弾丸バレットは【カースバレット】。そのネームのとおり呪いの弾丸バレットだ。今、おまえの中を尋常ではない痛みが……」


「んぎもぢいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!」


 これは大変だ。このままでは僕はいけない子になってしまう。こんな人目がある場所でそれはいやだ。


「……糞悪魔レヴィアタンめ、違う弾丸バレットを渡しやがったな」


 ガイリンクードさんぽりぽりと頬を掻いた。どうやら、呆れているらしい。そんな目で僕を見ないでほしい。そんな目で見られたら……イってしまう。


「まぁいい、聞け、誠司郎。その症状のろいを抑えるには、身体ボディを巡っている呪いを魔導銃ガンに移す必要がある」


「はぁはぁ……呪いを、魔導銃にですか……ああん!」


「悶えずに我慢しろ。正確には弾倉内の弾丸バレットにだ。まずは魔導銃ガンを持ってイメージしろ」


 容赦のない人だ。でも、彼の言うとおりにしなければこの状態は収まらないらしい。


 僕は漆黒の魔導銃を手に取り、身体の中を暴れ回る呪いを弾倉内の弾丸に流し込めるイメージを模索した。

 しかし、僕は初心者中の初心者だ。どんなイメージがいいのか分からない。


「イメージが難しければ魔導銃ガン息吹オーラを感じ取るんだ」


「ふ、ふぁい」


 そろそろ限界が近付いている。もう、足が生まれたての小鹿のようだ。


 魔導銃の息吹っていったって、この子から伝わってくるものは金属の冷たさと重さのみだ。僕はいろいろと切羽詰まって魔導銃のグリップを力強く握ってしまった。


 その時のことだ、確かに僕は魔導銃から流れ込んでくる何かを感じた。

 恐らくは、これこそが魔導銃の息吹なのだろう。


「ふぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ!」


 僕は体を駆け回る呪いを魔導銃の息吹に乗せる。それは僕を一周して魔導銃の中に還っていった、と同時に気が付く。僕の体の中の呪いが消えていることに。


「呪いが……消えた?」


「消えたのではなく、魔導銃ガン弾丸バレットに籠ったのさ」


 僕はガイリンクードさんの指摘を聞き、魔導銃の弾倉から六発の弾丸を抜いて確認した。

 通常の弾丸は金糸雀色の鈍い輝きを湛えているが、残る五つの弾丸はピンク色に染まっていたのである。


「やっぱり【発情弾エロス】か。まったく……」


 ガイリンクードさんはそう言うと、僕に自分が纏っていた黒いマントを被せてくれた。


身体ボディを洗ってこい。続きはそれからだ」


「え? うわわわっ!?」


 そう言われて、僕は自分が今どうなっているのか理解した。急いで、お風呂に入ってこよう。

 あそこは一見、銭湯のように見えるが実は温泉なので、常に湯が溜まっているのだ。


 僕は羞恥で顔を真っ赤にさせながら、急いでお風呂場を目指したのであった。






「もう、酷いですよ。ガイリンクードさん」


謝罪ソーリーだ」


 ちっとも済まなさそうな顔をしないガイリンクードさんに僕は怒りをぶつける。

 でも、それは結局は無駄である事が分かった。


「では、続きをおこなおう」


 彼はすぐさま次の訓練に移行したからだ。僕の痴態の事はどうでもいいらしい。


「う~」


「唸ってないでネクストだ」


 僕の渾身の不満アピールも無駄のようだ。ひょっとしたら彼は鈍感なのかもしれない。


「次は魔導銃ガン弾丸バレットについてだ」


「はい」


 魔導銃は基本的に実弾を発射しないのだという。発射するのは弾丸に込められた攻撃性の魔力だというのだ。

 

 このことから、基本的に弾丸は魔力が持つ限り無限に放てるということになる。

 では、実弾はただの飾りかというと、そうではないようだ。


「【ダブルバレット】、魔導銃ガン神髄とうたつてんはここにある」


 ダブルバレットとは実弾と魔法弾を同時に発射させる魔導銃の奥義とも言える攻撃方法らしい。

 昨日の大岩を砕いた弾丸も【ダブルバレット】による射撃だったそうだ。


 当然、この方法にはデメリットが生じる。

 弾丸を消費することはもちろんのこと、魔力弾は弾薬に籠めて発射するため、無くなった弾丸が収まっていた部分には魔力を籠めることができず、引き金を引いても不発に終わるそうだ。


 戦場においての不発は命取りにもなりかねないので、使用の際は十分に気を払う必要が生じるようである。


「ダブルバレットは自身のソウルそのものだと思え。魔力マジックはもちろん、自分のブラッドソウルまでをも弾丸バレットに込める覚悟つもりでおこなうんだ」


「魂……それで魔導銃に必要なものは魂だといったんですね」


肯定イグザクトリィだ。どうやら、誠司郎には魔導銃ガン素質かのうせいかあるようだ。短時間で【属性弾エレメントバレット】を制作できたしな」


「はは……あれはもう、偶然というかなんというか」


魔導銃ガン偶然ラッキーなんてないさ。あるのは必然。それを信じられねぇヤツから死んでゆく」


「魔導銃を信じろ……ですか?」


「あぁ、それは自分を信じる事にも繋がる」


 彼はぶつぶつと呟き指を鳴らした。すると、ふわふわと浮く白いお化けのような存在が出現した。

 よくよく見ると、お腹の部部にターゲットマークが描かれている。


「便利だろ? 練習レッスン用の動く的を生み出す特殊魔法を聖女ホーリーレディに作ってもらったのさ。後で誠司郎にも教えてやる」


 どうやら、エルティナさんがガイリンクードさんの練習用に作った魔法を唱えていたようだ。


 どおりで、的に愛嬌があると思ったら……でも、撃ちにくいなぁ。きゅうちゃん。


「見ておけ」


 ガイリンクードさんは魔導銃を引き抜き真上へ向かって構えた。すると、きゅうちゃんターゲットはふらふらと動き回り始めたではないか。

 これはなかなか当て難い機動だ。僕ではまず当てられないだろう。


 そんな事を考えていた時。発砲音が大気を切り裂く。彼はそのまま天に向かって一発の弾丸を放ったのである。

 それは【ダブルバレット】ではないような気がした。どういうわけか、そう思ったのだ。


「え? 誤射……違う!」


 空から無数の光の弾丸が降り注いできた。間違いなく発砲音はひとつ。それなのに降り注いできた弾丸は二十を超えている。


 光の弾丸は縦横無尽に軌道を変えながらきゅうちゃんターゲットに迫り、正確無比に貫いていった。


 あぁ、きゅうちゃんが大変なことにっ!


魔導銃ガンを信じきったガンナーだけに許されるスキル【バレットシャワー】だ」


 ガイリンクードさんが魔導銃をホルスターに戻す、ときゅうちゃんターゲットがふよふよとこちらにやってきた。

 驚いたことにその身体には傷一つ付いていない。代わりに、赤い点が付いていた。

 それらはお腹のターゲットマークのど真ん中に付いていたのである。


「まさか、あの無茶苦茶な軌道の弾丸全てがここに?」


 確認したが全てのきゅうちゃんターゲットの中心が赤く染まっている。


「ここまでやれとは言わん。まずはターゲットに当てれるようになれ」


「は、はい!」


 僕は早速、魔導銃をきゅうちゃんターゲットへと定める。僕の撃つという意志を感じ取った魔導銃が僕から魔力を吸い上げ弾丸に魔力を籠め始めた。


 なんだかくすぐったい。赤ちゃんにおっぱいを上げるお母さんみたいな気持ちになった。


 僕の魔導銃はリボルバータイプで、初心者が最初に手にするものだという。

 だからといって性能が低いか、といえばそうでもなく、最初から最後まで手に持ち続けるガンナーも少なくないそうだ。


「ハンマーは起こすなよ? 実弾なまりだまが飛び出すからな」


「はい! ……撃ちます!」


 僕は引き金を引く。すると、物凄い衝撃が伝わって僕は後ろに吹っ飛んでしまった。


「見事に外れたな」


「うう、凄い衝撃だ。ガイリンクードさんはこんな衝撃を押さえて発砲しているんですか?」


「あぁ、だが、それも徐々に納まってくるさ」


「前途多難です」


 僕はしょんぼりと項垂れて相棒となる漆黒の魔導銃を見つめる。彼はどうだ、と言わんばかりに黒い身体を輝かせていた。

 だから、この時は気が付かなかった。ガイリンクードさんの言った言葉の意味を、彼の視線の先にある物を。


「まったく、こいつは前途多難ヘヴィだぜ」


 こうして、僕とガイリンクードさんとの二人三脚は始まったのであった。

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