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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十六章 彼方より来たりし者
607/800

607食目 想像より斜め上の世界

 少し早い時間にモモガーディアンズ本部に着いたが、それでもかなりの人数が揃っていた。朝早いこともあり、皆はコーヒーや紅茶など思い思いの飲み物を片手に報告書を読んでいる。


「おはよう、みんな」


「おはよう、エルちゃん」


 真っ先に挨拶をしてきたのはリンダだ。彼女は激甘ミルクコーヒーを片手に報告書を呼んでいた。

 はっきりと言おう、リンダの手にしているコーヒーは液体ではない、固体であると。

 砂糖の方がコーヒーより多いってどういう事?


「あ、時雨ちゃんも、おはよう。昨日は眠れた?」


「うん、いっぱい泣いたらぐっすりと」


「うんうん、辛いことがあったら、それが一番だよね!」


 元々、時雨はリンダに好意的であったが、昨日の模擬戦でリンダに完膚なきまでに叩きのめされてからは、もっと好意的になった気がする。


 そんな彼女に、リンダが手加減無しで潰しに行った時は、流石にほんの僅かにビビった。


 咄嗟に危険だと判断した俺は、多重魔法障壁を時雨たちに付与。大事を免れた。もしも、俺の判断が遅れれば異世界転移煎餅の出来上がりであったはずだ。

 主役が煎餅とかってニュージャンル過ぎて誰もついて行けないぞ。

 

 この件に関しては俺がリンダをお説教しておいたので無事に解決している。まったくもう。


「それで、こんな朝早くからどうしたんだ?」


 こんな朝早くからいちゃついているのは、ダナンとララァのバカップルだ。爆ぜろ。


「ふきゅん、いやなに、ここに大神殿傍に転移できるプライベートテレポーターを設置しようと思ってな」


「そりゃなんでまた」


 俺は昨日考えた計画をみんなに打ち明けた。どうやら、みんなは納得してくれたようである。


「なるほどな。それなら桃師匠の負担も減るってもんだ」


「そして、俺たちのしごきも減る」


「最高さね! 早速今日からでもいいさね!」


 変態トリオの盛り上がりっぷりは最高潮だ。だが、きみらが来ることはない。

 それは桃師匠に、かた~く鍛錬をサボる口実を与えないように、と言われているからである。


 残念だったなぁ? ふっきゅんきゅんきゅん……。


「ま、ちゃっちゃと作っちまうか。ほほ~いっと」


「造り慣れ過ぎんだろ」


 僅か二秒でプライベートテレポーターを設置する。見栄えなど不要らっ!


「ええっ!? 自由にテレポートポイントを設置できるんですか!」


「マジかよ……GMレベルじゃねぇか」


 異世界転移組が驚くのも無理はない。彼らはこの世界の情報を殆ど知らないのだ。魔力さえあればテレポーター施設はいくらでも作れる。まぁ、俺のようにはいかないが。


「それでだ……ダナン、この世界の情報を誠司郎たちに教えてやってくれ」


「ん? まだ教えていなかったのか、エル」


 ダナンはパーソナルコンピューターに繋がるマウスを操作して、異世界カーンテヒルに関する情報を正面スクリーンに表示した。もちろん、機密となる情報は伏せる。


「……目を疑う情報ばかりね」


「あぁ、【エンドレスグラウンド】の設定も壮大だったけど、こっちはもうぶっ飛んでいるな」


「パソコンがある時点でね。でも、ファンタジー世界で雰囲気は中世ヨーロッパなんだから、その異常性が際立つんだよ」


 その異常性の頂点がラングステン英雄戦争であろう。あの戦いはドクター・モモがやり過ぎたからな。


 なりふり構わないGDゴーレムドレスの開発、極めつけはクラークとシングルナンバーズの身魂合体ソウルドッキングからの勇魂の騎士ソウルレイトス、とくれば時雨のみならず史俊も目が点になるのも無理はない。


「エルティナさんから話には聞いていたけど……映像を見るとこの世界の凄まじさが分かります。これじゃあ、僕らがこの時に転移してきてもお荷物になるだけだ」


 誠司郎は表示された映像とデータを見てそう自分達を評価した。


「だよなぁ……このGDっていうパワードスーツを身に纏った状態がマフティさんの本気状態だっていうんだからなぁ。それにしても……幼女でもエロいな、マフティさん」


「俺がどうしたって?」


「うおっ!? ビックリした」


 表示されたデータを見る事に夢中になっていた史俊は、後ろから来たマフティに気が付かなかったようだ。急に声を掛けられて驚いたのは、その邪な欲望ゆえかどうかは分からない。


「あ~、あの時の映像か。後でGDバウニーの調整しなきゃなぁ」


「ん? また、乳とケツが大きくなったのか?」


「あぁ、そうだよ。動き難くなるから勘弁してほしいぜ」


「激しく同意」


 どうやら、マフティはGDのサイズが合わなくなったらしい。ある程度は自動的に調整してくれるが、許容範囲を超えればメンテナンスによって本格的な調整をおこなわなくてはならないのだ。


 たぶん今度は、完全調整型のぴっちりスーツを渡されるだろう。うん、エロいな。


「で、この異様な姿のGDを着ているのがエルティナさん?」


「随分と小さかったのねぇ」


 モニターには、今は亡き俺の相棒、GDラスト・リベンジャーの勇士が映し出されていた。その姿を見てキュッと胸が締め付けられる。


「あぁ、十歳の頃の姿だな。そうかぁ……もう、そんなに経つんだったな」


 俺がもうGDを身に纏う事はないだろう。GDリベンジャーが最初で最後のGDであったのだから。


「エルティナさんも、GDを着て戦うんですか?」


「いや、俺はもうGDを身に纏う事はないな」


「でも、支援とはいえ、防御力と機動力が高まるのだから、着ない手はないと思うぜ?」


「うん、言い方が悪かったな。今の俺がGDを着てしまうと、GDが俺の魔力を受け止めきれなくて爆発四散するんだ」


 あんぐりと口を開けて呆れる異世界転移組。そんなに呆れる事はないじゃないか。


「それな。あの時の食いしん坊は勇ましい事、勇ましい事」


「おいぃ、マフティ。それじゃあ、今は勇ましくないってことじゃないか」


「そういうこった」


「ふきゅん」


 俺はマフティの容赦のない言葉に「ふきゅん」と鳴くより他はなかった。



 ◆◆◆ 誠司郎 ◆◆◆



 何もかもが僕らの想像する異世界とはかけ離れていた。確かに騒動と合致する部分はあるが、その大部分は予想の斜め上を行く。


「このGDって俺たちも着れるかな?」


「う~ん、どうだろうね? 装着者の魔力で動くらしいけど、僕らの持つ魔力がこのパワードスーツに適合するかどうか」


「もしも、適合するなら私のような【マジックユーザー】は大幅強化になるわね」


 どうやら、史俊と時雨はGDに興味津々の様子であった。そういう僕も実は興味がある。


 異世界カーンテヒルには不思議な魅力がある。剣や魔法で戦う人がいる、一方でGDのような近未来的な装備で戦う人もいるのだ。


 面白いもので、近未来的な装備をした方が圧倒的に有利な立場になるかというと、決してそうではない事がデータとして表示されていた。


「ふきゅん、要は戦い方次第だということだぁ」


 エルティナさんは捕捉として、ライオットさんを例に挙げて説明してくれた。


 彼は魔力が低くGDを起動させる条件を満たしていないそうだ。それゆえに彼は生身で戦うことを余儀なくされた。


「かといって、ライが弱いかといえばそうじゃない。下手なGDマスターなんぞ相手にすらならないほど強い」


「でも、遠距離から一方的に攻撃されたらどうするんですか?」


 僕の指摘にエルティナさんはマウスを操作して別の画像をモニターに表示させる。

 ライオットさんの手の平から輝ける獅子が飛び出している画像だ。


「〈獅子咆哮波〉。ライオットの必殺技の一つだ。GDと互角の性能を持つ魔導装甲兵を一撃で粉砕する輝ける獅子をぶっ放すことができるんだよ」


「うおぉ……漫画の世界じゃねぇか」


 史俊はこの事実に呆れた。僕も時雨も同様だ。


「あぁ、そうだ。だが、この世界は努力する者を決して見捨てない。空想は努力によって現実へと昇華される。諦めなかった者のみが、その栄光を掴み取ることができるのさ」


 エルティナさんの熱意が籠った説明に、何故か心が震えるのを感じた。それは彼女が実体験で得たものだったからだろう。


「努力が……実を結ぶ?」


「そうだ。諦めることさえしなければ、奇跡は必ず起こる」


 あまりに使い古された陳腐とさえいえる言葉も、何故か彼女が口にすれば現実として聞こえるのだから不思議だ。

 ひとえに、これがエルティナさんがモモガーディアンズの長として君臨するゆえんだろうと思う。

 彼女の言葉には力があるからだ。


「さて、今日は一度ミリタナス神聖国に戻るとすっか。あまり留守にはできないからな」


「ん、分かった。エドワード殿下には、そう伝えておくよ」


「あぁ、頼んだ、ダナン。あと、エドにはテレポーターの濫用は控えるように言っておいてくれ。夜這いしに来られたら堪らん」


「期待はするなよ」


 いろいろと酷いやり取りを終えた後に、僕らはエルティナさんに連れられてミリタナス神聖国へと転移した。

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