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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十六章 彼方より来たりし者
600/800

600食目 彼方より来たりし者

 ミリタナス神聖国の短い春も終わる、という五月初旬。ヒマワリの花がやる気を見せる、とある暑い日に、彼らは唐突もなく現れた。


「おおっ、これが新しい大陸の町か」


「へぇ、ご機嫌じゃないか。新しい出会いが俺たちを待っているってか?」


「今回のアップグレードも当たりねぇ。流石、いい仕事をするわ」


 光に包まれ現れた彼らは、なんとも奇抜な格好をしていた。明らかにデザインがこの世界から逸脱している。


 最早、ファンタジー世界ってなんだっけ? と言われてもおかしくはないこの世界にあって、彼らの姿は正しくファンタジックな姿であった。


 無駄に尖らせている鎧は明らかにデザイン重視だ。非常に動きにくそうである。

 残念ながら、そんな物は新米冒険者でも着やしない。


 女性に至ってはブラにふんどしって……あ、俺もそんなに変わらなかった。ふきゅん。


「お、おおっ!? やったぜ、エルフ発見! しかも、どえらい美人!」


「うおぉぉっ! やってくれるぜ、【エンドレスグラウンド】!」


 民に施しを与えていた俺に件の人物たちが気付いたようだ。非常に興奮しているように見える。

 そんな彼らは、鎧の重みがまったく感じられない動きで駆け寄ってきた。


「おいおい、【VRGバーチャルリアリティーゲーム】もここまできたか! 本当に生きてるみたいだな!」


「さ、触ってもいいかな?【NPCノンプレイヤーキャラ】だし、いいよね?」


 へなちょこ少年の、そ~っ、と伸ばしてきた手をピシャリと叩き、俺はセクハラ行為を阻止する。何を考えているんだ、こいつは。


「おいぃ……いいわけないだろ、バカたれ」


 トチ狂った会話をする戦士風の少年たちにぴしゃりと釘を差す。変な現れ方をするヤツは言動もおかしい。

 面倒なのでウイグるんるん監獄へぶち込んでしまおうか。と考えていたが、俺は二人の会話に聞き覚えのある単語をいくつか聞いてハッとなる。


「え、えぇっ!? NPCが受け答えしたぞ!?」


「つ、遂にここまできたかぁ……。【アクロニクステック社】も上場するらしいし、更なる期待が持てそうだな」


「ねぇねぇ、そんな事よりも、早くクエストを受けて冒険に出ましょうよ」


 渋る二人の腕を引っ張り女冒険者と思われる女性はどこぞやに去っていった。いったい、何が起こっているんだろうか。


 って、あぁっ、しまった。呆気にとられて呼び止めるのを忘れていた。


 嫌な予感しかしない俺はサンフォに〈テレパス〉で連絡を入れ、珍妙な姿の三人の監視を命じた。

 俺の推測からして、あの三人は【ネットゲームのプレイヤー】に間違いあるまい。俺のように異世界転生があるのだから【異世界転移】があってもおかしくはないのだ。

 今頃、思い出しても時すでに遅し、であるが。


 だからといって、このクソ忙しい時期に来やがらないでいただきたいものだ。

 三人の会話内容からして出身は地球であろうか。ならば、トウヤに連絡を入れて事態を解決してもらうのが得策であろう。


 俺は取り敢えず民への施しを終わらせるべく、思考を頭の隅へと追いやった。






 その日の夜のことだ。大神殿での仕事を終えた俺は、私室で今日出会った三人組の事をトウヤに報告していた。


『なるほど……まだ正式には発表されていないが、こちらでも行方不明者が頻発しているとの報告があった』


『ふきゅん、偶然にしてはでき過ぎているな』


『そうだな。こちらでも調べてみる、何か分かったら連絡しよう』


『頼んだぜ、トウヤ』


 魂会話ソウルリンク・トークを終えた俺は「ふぃ」とため息を吐いて白いソファーに沈んだ。もう俺の尻の形に変形したであろうソファーは優しく俺を包み込む。

 一日の大半はここで過ごすのだから椅子くらいは、とボウドスさんがくれた物である。使い心地は最高だ。


「あの三人、騒ぎを起こしていなければいいが……」


 そう呟いた矢先のことだ。ドアがノックされて起きているかどうか聞かれてきた。


「起きてるよ、ボウドスさん。こんな時間に何か用かい?」


「おぉ、起きておられましたか。早急にお耳に入れたい情報がございまして」


 ドア越しに語る彼を部屋に招き入れる。彼自ら赴くとはどのような情報であろうか。嫌な予感は、彼の表情からもひしひしと伝わってくる。


「先ほど、騎士たちによって、民家に押し入った奇抜な姿をした三人の男女が逮捕されました。罪は窃盗です」


「わぁお」


 嫌な予感とはまさにそれ。ゲーム感覚で民家に押し入ったのであろう。あのバカたれども。


「で、そいつらは今どこに?」


「取り敢えずは騎士団の留置所に入れてございます」


「ふむ、明日の朝、面会に行くとするよ」


 ここでボウドスさんが表情を険しくする。俺が彼らと面会することを好ましく思っていないようだ。


「お言葉ですが、エルティナ様。彼らは薬を投与されている可能性があります。言動は支離滅裂な上に理解不能。エルティナ様のお心が届くようにはとても……」


「ふきゅん、ボウドスさん。最初から可能性を潰してはいけないんだぜ」


 俺の返事に彼はハッとした表情になり、その後に申し訳なさげな表情へと変化した。


「も、申し訳ございませぬ。人を諭す立場にあろう者が、人の可能性を信じられぬとは……これでは大神官失格でございまする」


「そこまで思い詰める事はないさ。確かに、あれは異常だからな」


「と申しますと、エルティナ様はあの三人に?」


「あぁ、今日の昼頃だったかな」


「左様でございましたか。ならば、私がいう事は何もございますまい」


「ありがとう、ボウドスさん」


 彼は伝えるべきことを伝えた後に俺の私室を後にした。

 ひとりソファーに身体を沈める俺は厄介なことになったと思いつつ、疲れもあったため、いつの間にか眠りの世界へとホップ、ステップ、ジャンプすることになったのである。






 次の日の朝、身支度を終えた俺は騎士団の留置所へと赴く。付き添いにはルドルフさんが付いてくれた。というか、彼はここで寝泊まりしているで、わざわざボウドスさんを付き添いにする必要は生じない。

 朝くらいは彼もゆっくりしてほしい、というのが本音であるが。


 昼からのボウドスさんは地獄の宴ぞ。早くなんとかしないと彼が倒れてしまう。マジで。


 牢に近付くにつれて男女の悲鳴が聞こえてきた。こんな朝早くからご苦労なことだ。


「くあぁぁぁぁぁっ! なんで【ログアウト】できねぇんだよ!?」


「学校に遅れちゃうよ! ど、どうしよう!」


「ちょっと、落ち着きなさいよ貴方たち! 私だって叫びたいのを我慢しているんだから!」


 もう叫んでいるんですがそれは。そうツッコミを入れたくなるのを我慢しつつ、俺は牢の前に立った。


「ぐんも~にん、えぶりわんわん」


「「「へっ?」」」


 鳩が豆鉄砲を食ったような表情で三人は俺を見やった。無論、俺は三人に対して容赦のない暗黒微笑を炸裂させている。


「ふっきゅんきゅんきゅん……調子ぶっこいた結果がそれだよ。おまいらは反省すべき、そうすべき」


「ど、どうなってんだよ?【ログアウト】もできないし【NPC】も喋りまくるし」


【NPC】とはノンプレイヤーキャラの略称だ。ゲーム内に出てくる決まった台詞しか喋らない貧弱一般市民がそれに当たる。


「期待していた【VRG】でこんな目に遭うなんて聞いてないよ!」


【VRG】とは……あれだ、【バリバリるんるんゲーム】の略だ。たぶん合っていると思います!


『合っているわけがなかろう。バーチャルリアリティーゲームの略だ。仮想現実空間で楽しむゲームのことだな』


 俺が地球で生きていた時には、こんな言葉はなかったから仕方がないじゃないか。


『ふきゅん、そんな気はしていた。おはよう、トウヤ』


『おはよう、エルティナ』


 華麗なトウヤのツッコミは魂会話にて行われた。身魂融合しない場合は主にこれが彼との会話手段となる。

 尚、桃力の負担はかけてきた側になるので長い時間の利用は控えよう。


『彼らが件の三人か……確かに行方不明者リストに上がっていた者たちのようだ』


『つまり、この三人は地球からカーンテヒルにやってきたってことか』


 にわかには信じ難い事が目の前で起きていることに、俺はブレインがパンパンになりそうな気分であった。ちょっとでも刺激を与えればボンっといきそうである。


「ルドルフさん、彼らの尋問は済んでいるの?」


「いえ、極度の興奮状態であったので落ち着くまでは、と牢に入ってもらいました」


「なるほど。あ~、ちみたち」


 俺たちの会話を呆然として聞いていた異世界転移組は、俺に話を振られて再び慌てだす。


「な、なんだよ?」


「あ、あんたはひょっとして【GM】か!? そ、そうなんだろ!?」


【GM】、白い悪魔の量産型とよば……『ツッコまんぞ』……さーせん。


【GM】とはオンラインゲーム内で活動するゲーム管理者のことだ。正式名称はゲームマスター、それゆえにMGである。

 ゲーム内であればあらゆる権限を持っているので神のような存在として君臨し、不正に目を光らせる立場にある。要は凄い能力を持った警察官みたいなものだ。


「落ち着きたまえ」


「「落ち着いた、凄く落ち着いた」」


「貴女って、さっきから【ネットスラング】使いまくってるけど、やっぱりこちら側ってことでいいのかしら?」


 情緒不安定な少年たちに対して少女は幾分冷静であった。よって、会話対象を彼女に定め話を進める。


「ふきゅん、【元】だがな」


「元? それって、どういうことかしら?」


「詳しくはこんな場所じゃなくて別の場所でしようか。ルドルフさん、彼らを出してやって」


「了解です」


 こうして、面倒ごとを抱えるハメになった俺は、彼らが更なる面倒を起こさないための情報を与えるために騎士団の応接間へと彼らを通すことにした。


 さてさて、彼らが物分かりの良い連中であることを願うばかりだ。

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