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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十五章 成人
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591食目 絶対不可侵領域の罠

「さ、さて、俺もお刺身を頂くとしよう。景虎はもう放置という方向で」


「うむ、そうじゃの」


 サケニクルフカゲトラは思考の外へポイっちょし、折角のお刺身を堪能することにする。お刺身は鮮度が命だ。食べるなら、早い方がいいに決まっている。

 ただし、味を追求するなら時間を置いた方がいい。その場合はコリコリとした食感は無くなるのだが。


 俺は半透明が美しいイカの刺身をいただくことにした。付けるのは醤油ではなく塩だ。個人的にこちらの方がイカの身の甘さを引き立ててくれる気がする。


 ううむ、コリコリした食感が堪らない。身も十分甘いが、それを塩が更に引きたててワンランク上へと押し上げてくれるではないか。

 流石は桃師匠の【天空御塩】だ。神級食材の名は伊達ではない。


 次は少量のワサビをマグロで巻いた後に、醤油に付けてお口へIN。こうすることでワサビの味を堪能することができるのだ。


 お、来た来た。このツンとするワサビの香りと風味が堪らないのだ。無論、マグロの味を引き立てるのも忘れていないのがワサビの憎いところだ。おいちぃ!


「ふむ、喜んでもらえて何よりじゃ。さて、わらわも飲むことにするかえ。ほう、美味い酒じゃ」


 あ、おいおい。そんなにぐいぐい飲んだら酔いが一気に回るぞぉ。キチンと腹に食べ物をいれてから飲むのだぁ。


 だが、彼女はそんな助言を聞き入れることなく、ほのかに甘く薫り高い清酒【美老人】をかっぱかっぱと飲み干してゆく。見ているこっちが酔いそうになるような飲みっぷりだ。大丈夫なのだろうか? 


「うむ、美味い、美味いのう」


 だが、その時、事件は起こった! 誰がこれを予知することができたであろうか! どこぞの節穴の目を持つ軍師様だって見抜けやしないっ!


「うにゃ~ん、姫様ぁ」


 ぶちゅう。


 まさかの絡み酒からの口付けコンボ! 従者が主を寝取る! これもうわっかんねぇな!


「よし、決めたぞ。わらわは景虎と結婚する」


 そして訳の分からない事を言い始める咲爛! いったいなにがどうなってその結論に辿り着くんだ! 教えてくれっ!


「お、落ち着くんだぁ、咲爛。女同士で【ちゅ~】しただけじゃないか。それに、ユウユウ閣下がブランナにしたような【レロレロ】もない。だから、そこまで覚悟を決めなくても……」


「ふっ、わらわには切っ掛けが必要じゃったのじゃ。もう、何も怖くない」


 俺は今の咲爛が怖いです。何覚悟決めちゃってるの? それは死亡フラグですから撤回してください、お願いします。


「さぁ、一つになろうぞ。いざ、いざいざいざ」


「うにゃ~ん、姫様ぁ」


「誰か、そいつらを止めろぉぉぉぉぉっ! 合体シークエンスに入ったぞっ!」


「世話ぁ、焼かせんなぁ! こっちはぁ、リンダで手ぇ一杯なんだぞぉ!?」


 ダメだ、この主従。酒を飲ませたらロクなことにならねぇ。この二人は要注意だな。


 彼女らのドッキングは異変に勘付いたガンズロックの手によって阻止された。流石はガンちゃん、毎度お手数をおかけ致しますん。

 この隙に俺は刺身が盛られた船を手に比較的安全と思われるたぬ子エリアに避難。窮地を脱した。


「ふぃ~……少しはたぬ子を見習って大人しく飲んでほしいものだぁ」


「んぐんぐ……ぷはぁ」


 大人しく酒を飲むプリエナ。しかし、その周囲には死体の山が出来上がっていた。リック、ケイオック、ゲルロイド、クリューテルがビクンビクンしながら倒れている。


 まさか、ここも激戦区だったというのか。いったい、何があったんだぁ?


「お、おいぃ……少し見ない内に何があったんだぁ?」


「んゆ? 普通に皆とお酒を飲んでいただけだよぉ」


 さっきからプリエナがグビグビ飲んでいる酒を見て俺は驚愕した。それは、この店の名物、にごり酒【ドブロクサーティーンシックス】であったからだ。


 このにごり酒はトロリとした自然な甘さと高いアルコール度数で有名であり、実にアルコール度数が五十もある強い酒だ。ドブロさんがドヤ顔で勧めてきたので記憶に残っている。


 それを顔色一つ変えずに飲み進める狸少女を見て、これなら自分も行けるであろう、と踏んだ者たちがプリエナをマネて飲み、ことごとく撃沈したのだろう。合掌。


「しっかし、酒に強いな、たぬ子は。ぐびぐび」


「エルちゃんも顔色がかわってないよぉ。んぐんぐ」


 言われてみれば、酔っている感じがしない。というか、世話ばっかりであまり飲んでいないのが原因だと思われるが。

 ぶっ倒れている連中には、こっそり【クリアランス】でアルコールを除去しているので後には残らないはずだ。少し痛い目に遭わないと飲み過ぎを気を付けないだろうが、今日ばかりは多めに見てやらねば。


「そんな事よりも、たぬ子もお刺身を食べるんだぁ。お米のお酒にはよく合うぞ」


「ほんと? もぐもぐ」


 たぬ子の飲み方は結構危ない。つまみを食べないで飲んでばかりなのだ。これでは悪酔いしてしまう。バランスの良いお酒の飲み方を今の内に教えなくてはなるまい。


「わぁ、生臭くないね」


「だろ? でも生魚はワインとは合わせない方が良いぞ」


「ワインは苦手だよぉ。渋いのが舌に残ると尻尾がぶわってなるの」


「ふきゅん、そいつは大変だな」


 と、ここで俺は異様な気配を察知した。大人になることで感覚が鋭敏になっているのだろうか。


 近い、異様な気配が近付いてくる! そこかっ!?


「おにぃ」


「わぁ、ありがとうだよぉ」


 お盆に、にごり酒のを載せてやってきたのは、まさかの元アラン四天王、風のバリバリクンであった。


 おめぇ、ミリタナス神聖国にいねぇと思ったら、ここでバイトしてたのかよ!?


 ぺこりとお辞儀をして厨房へ戻るバリバリクンを見送る。あいつは完全に自分が小鬼であることを忘れているようだ。野生化した鬼って皆あんなのなのかぁ?


 というか、普通に小鬼を従業員として雇わないでくだしあ! ドブロさん!


 だが、異様な気配は一つではなかった。そちらの方に顔を向けると、そこはカップルの巣窟。いちゃいちゃ、くねくねうっふん、と桃色の絶対不可侵領域バカップルテリトリーを形成していたのだ。


 それを黒き嫉妬の炎で侵食しようと企む男女が数名。オフォール、スラック、キュウトちゃんである。


「ぐぎぎ……嫉妬で殺せるなら……!」


「ロフト……裏切り者めっ!」


「新しい恋なんて……きゅおん!」


 彼らの視線の先にはガイリンクードとレヴィアタン、ロフトとアカネの意外な組み合わせ。そして、定番のダナンとララァのカップルがイチャイチャしていた。

 尚、メルシェとフォルトのカップルは既に熟した夫婦の様相を呈しているので、暗き嫉妬の炎からは除外されている。おまいら、貫禄があり過ぎるだろ。


 ん、アマンダとフォクベルト? 止めておけ、見たら口から砂糖を吐き続けるハメになるぞ?


 ブルトンとグリシーヌのカップルはそっとしておいてください。おなしゃす。


「んふ、ロフトぉ。これ、食べるさね」


「わ、分かったから、口移しで食べさせようとするな」


 積極的なアカネに対してロフトは困惑気味だ。幼馴染、そして親しい友人という枠から抜けることができないで葛藤しているさまが見ていてもどかしく感じる。


 ほれほれ、アカネが酒の力を借りて、今必殺の【口移しからの事故】を狙っているぞぉ。男なら覚悟を決めていっちまえ。


 んで、こっちは悪魔使いと悪魔のいちゃつきか。というか、一方的にレヴィアタンがガイリンクードに甘えてるだけじゃないですかやだー。


 対するガイリンクードはクールにバーボンのロックをチビリチビリとやっているだけ。つまみはソルトピーナッツだけか。チョイスが渋すぎんだろ、本当に飲むのが初めてか、おまえ?


 そして、本命のダナンとララァ。おおっとぉ! 早くもララァの膝枕が炸裂したぁ! ダナンは大ダメージ必至だ!

 ここでララァが仕掛ける! 極上の微笑みからのおでこなでなで! これは必殺だ! ああっとぉ、ダナン撃沈! 勝負あったぁぁぁぁぁぁぁっ!


 おめぇら、居酒屋で何をやってんだ、とツッコみたいが今日の俺は紳士的だ。運がよかったな。


「御屋形様、あまり飲んでおられぬようですが」


 謎のバリアーを形成するカップルたちを生暖かい目で見守る俺の下にザインがやってきた。手には徳利とお猪口を持っている。どうやら別な場所から流れてきたようだ。


「ふきゅん、ザイン。思ったよりもカオスな状況になっていてなぁ」


「た、確かに。静かに飲んでいるとはいえ、プリエナ殿も恐ろしい飲みっぷりでござるし、注意しなくてはなりませぬな」


 そんなザインちゃんは、俺が精魂込めて作った着物を身に纏っている。布面積が少なくて、可愛らしいおへそが「こんにちは」しているのは勘弁な。

 ちなみに、ザインは酒を飲んでも酔わないので嗜む程度しか飲んでいないようだ。こういう時は枝としての使命が可愛そうに思えてならない。ごめんな、ザイン。


「静かといえばマフティとゴードンも静かに飲んでるな」


「左様でござるな。もっと馬鹿騒ぎするかと踏んでおりましたが杞憂でござりましたな」


 ザインの言うとおり、マフティとゴードンの幼馴染は行儀よく静かに酒を飲んでいた。皆も彼らを見習ってどうぞ。


 俺が彼らに感動をしていると、おもむろにマフティがテーブルの上に立って宣言した。


「一番、マフティ・ラビックス! 脱ぎます!」


「ザイン! あの兎を止めろぉぉぉぉぉっ!」


「委細承知!」


 ダメだ、静かだと思ったら機会を窺っていただけのようだ。ゴードンは大爆笑していることから、実はかなり酔っているようである。しかし、酔ったマフティを見て楽しんでいるとか……ダメだこりゃ。


「おごごご……全然、酔えない。というか、飲めない」


 こ、このままではまったく飲めないで宴が終わりかねない。いっそ、俺も混沌の渦へ身を投げ入れるべきか。

 俺は重大な局面を迎え、究極の選択を迫られるのであった。

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