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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十五章 成人
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589食目 酒宴

 卒業式が終わり皆は一旦家へと戻る。当然、俺も実家へと帰宅だ。下校途中の光景も、これで見納めだと思うとなんだか感慨深いものがある。


 ラングステン王国、特にフィリミシアでは桜っぽい木が沢山植えられており、卒業シーズンともなると桃色の花を付けて卒業生の門出を祝ってくれる。

 王様が桜の花が好きだという理由で、数多くの桜の木が植えられたのだそうな。


 ひときわ目立つのは、やはりラングステンのど真ん中に立つ桃先生の大樹であろう。


 フィリミシアを覆うように伸びる枝からは桃色の花がこれでもかと咲き誇り、町から空を見上げると青空ではなくピンク色の空が見える始末。

 町がピンク色に染まってしまうのは世界広しといえどもフィリミシアくらいなものだ。


「エル、午後六時に露店街の居酒屋に集合だったよな」


「おう、居酒屋【どぶろくさんじゅうはち】に集合な。遅れるなよ?」


 交差点にてライオットと別れた俺は北区にある実家を目指した。今日の午後六時から、卒業祝いと称した飲み会を計画している。


 俺たちは成人、法律によって飲酒が解禁されたのである。だったら、飲むでしょ!?


「ただいま!」


「おかえり、エルティナ!」


 家に到着すると家族が総出で俺の到着を待ってくれていたではないか。不覚にも込み上げてくるものがあり、堪えることなくこぼれ落ちてしまう。


「遂にこの日を迎えたわね。感慨深いわ」


 ディアナママンの胸に抱きしめられた俺は、されるがままに母の温もりを堪能した。


 思えば家族には心配を掛けてばかりだった。不良娘と言われても仕方がないレベルで。

 それでも、俺を信じて待っていてくれる家族たちには頭が上がらない想いだ。だから、必ずこの世界を鬼の侵略から護ってみせる。そして、絶対にこの家に帰ってくるんだ。






 時は暫し流れ、午後六時。居酒屋【どぶろくさんじゅうはち】を借り切っておこなわれる卒業祝いという何か。一店舗を借りきっておこなわれるのは、クラスメイトの他にもお世話になった人たちを招いているからだ。


 それに露店街という利点を使わない手はない。店のメニューに食べたいものがなければ、店の外にひとっ走りして購入し、持って帰ってくればいいのである。超便利!


 尚、店の名前【どぶろくさんじゅうはち】は店主である【ドブロ・クゥ】さんが三十八歳の時にこの店を開業したからである。


「取り敢えずそろったか?」


 俺は立ち上がり店舗内を見渡した。店内にはカウンター席、テーブル席、掘りごたつ席の他に囲炉裏席なる場所がある。

 この事から和風寄りの居酒屋であるのだが、何故かメニューは洋風の物ばかりであった。これもうわっかんねぇな?


 ドブロさんは厨房にてせっせと料理を作ってくれている。だが、一人では到底間に合わないとのことで、何か食べたいものがあった場合は好きに厨房を使ってくれても構わないとのことだ。


 俺が腕を振るう確率は非常に高いので予め食材は仕込んでおいた。さっと調理すればあっという間に完成する状態にまで持ってきている。

 やはり【フリースペース】は偉大なんやなって。


「最初は、ビール! ビール! おう、ひえてっか?」


「ばっちぇ、ひえてるっすよ~!」


 完璧なやり取りだ。感動すら覚える。【どぶろくさんじゅうはち】の女性スタッフが両手に大量のビールジョッキを抱えて参上した。その数なんと三十。

 二往復で全員に配り終えることが可能、という驚異の運搬技術の持ち主だ。マジパネェっす。


 続いて運ばれてきたのはボイルされたウィンナーだ。これは俺のリクエストである。

 そう、失われた過去の至福を、もう一度味あわんがために特別に用意してもらったのだ。


 クラスメイトはヒュリティアを除き揃っている。それに近親者も遅れると連絡のあったスラストさんとドゥカンさん以外は揃っているようだ。ならば、始めてしまってもいいだろう。


「よし、んじゃ、おっぱじめようか! 堅苦しい挨拶は……キャンセルだ! 乾杯っ!」


 ここで長々と堅苦しい挨拶をしてはテンションが下がってしまう。初めて口にする酒を前にしては尚更であろう。俺たちはビールジョッキを手に取りぶつけ合う。乾杯の儀式だ。


 ビールジョッキには黄金の液体が今か今かと飲まれるのを待っている。ならば期待に応えてやるのが情けというもの。まぁ、前置きはもういいか。


 ひゃあ、たまんねぇ! 待ちに待ったビールだぁ!


 まずはグイッと一飲み。刺激的な炭酸が渇いた喉を一気に駆け抜ける。


 これこれ! これを味わいたかったんだ!


 一気飲みしたい欲望を抑え込み、おつまみとして注文しておいたボイルウィンナーを一口。パキリという小気味良い音を立てウィンナーは熱々ジューシーな肉汁を惜しみなく溢れさせた。


 熱い、とっても熱い! よろしい、ならばビールだ!


「んぐっ、んぐっ、んぐっ、んぐっ……ぷひゃあ! 堪んねぇ、おかわりだぁ!」


 あぁ……これだ、これこそが、生きていると感じることができる瞬間なのだ。俺はこのためにがんばってきた。今、それが成就したのである。こんなに嬉しい事はない。


 俺が感動に浸っていると、初めてビールを口にした新成人たちが、さまざまな感想を口にし始めた。やはり中でも多いのが、ビールは苦い、というものだ。


「ばぁろぅ。ビールってのはなぁ、喉で味わうんだ。一気に喉に流し込んじめぇ」


 流石はアルコールの王、ガンズロックだ。俺が説明するまでもなくビールの飲み方を適切に指導している。


「なんだこれ、にげぇだけじゃねぇか。俺は酒よりも飯の方が良いや」


 ライオットはどうやら、いまだにお子ちゃま思考であるようだ。運ばれてきた鶏の唐揚げに興味が移っている。


「一応、甘い酒もあるそ?」


「お、マジで? じゃあ、そいつを飲んでみようかな」


 酒を飲まないライオットは、確実に酒のつまみを絶滅させる可能性が大だ。ここはなんとしてもバランスよく酒と料理を楽しんでもらわなければなるまい。


「あ、私も甘いお酒がいいです」


 ここでメルシェ委員長……もう委員長ではないので、メルシェがペロッと小さく舌を出してビールをリタイヤした。どうやらビールは合わない様子である。


「僕も甘いので。このカルアミルクに興味あります」


「あ、じゃあ、私も旦那様と同じ物を」


 ここで超甘党のフォクベルトがカクテルの中でもトップクラスに甘いカルアミルクをチョイスした。初めてカクテルを飲むのに的確に激甘を選択するとかどうなってるの?


 そして、当然の権利のごとくフォクベルトにべったりなのは幼妻のアマンダだ。もう、二人のいちゃつきを見ているだけで口から砂糖を吐きだしそうである。

 フォクベルトは真面目に彼女に対応しているだけなのだが、アマンダの方が……ねぇ。


「滅びよ! リア充!」


「誰かっ! 塩を持ってこい!」


「そんな事より、ビールおかわりさねっ!」


 嫉妬に狂う男二人を差し置いて酒に走るネズミ娘。よくよく顔を見れば真っ赤である。

 どうやら、アカネは酒好きであるようだが、酒に弱い体質の可能性がある。これは飲み過ぎないように見てやらないといけないぞ。


 まぁ、急性アルコール中毒になっても【クリアランス】で一発解決なんだがな。


 こうして、卒業祝いを兼ねた狂気の酒宴は始まったのだった。

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