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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十五章 成人
587/800

587食目 激変のクラスメイトたち

「エルティナさんが~いると~やっぱり~賑やかですね~」


「おあ~、そうっすねぇ」


「プルプル、それが彼女の能力なんでしょう」


「斬新な能力だな、それ」


 ウルジェ、モルティーナ、ゲルロイド、オフォールが揃ってクラスの皆が勢ぞろいした。しかし、やはりヒュリティアの姿はない。揃って卒業したかったのだが、やはり叶わぬ願いであったか。


 今、彼女は月で何を想っているのだろうか。一人で寂しい想いをしているのではないだろうか。


 あぁ、大気圏突破能力があれば、今すぐにでも会いに行きたい、というのに俺には残念ながら大気圏を突破することができない。


 全てを喰らう者をこき使って大気圏を食ってしまうことはできるが、そんなことしたら宇宙そら隕石メテオが「落ちちゃっていいのかな?」とウキウキしながら作戦オペレーションをおこなうのでできない、できにくい!

 

 なので俺は仕方なく地上で大人しくしているのである。珍獣はつらいよ。


「ひさしぶ……ふきゅん!?」


 気を取り直して、大人になった彼らに挨拶をしようとしたところで、俺のつるつるのブレインは機能不全に陥ってしまった。

 最後に合流した彼らは、それほどまでにツッコミどころが満載で、どこからツッコんだらいいか分からないため、脳は考えることをぽいっちょしてしまったのだ。


 だが、そのままでは珍獣の沽券にかかわるので、なんとかリアクションを取らねばなるまい。

 取り敢えずは比較的ツッコめるモルティーナから行ってみよう。


「モ、モルティーナで合っているよな?」


「おあ~、そうっすよ」


「おまえの逞しい腕はどこにいったんだ? それじゃあ、仕事にならないだろ」


 そう、どういうわけか、モグラ獣人の誇り、とも言える逞しい腕がほっそりとした人間の腕へと退化……いや、この場合は進化? 分からん。とにかく彼女の腕は人間のものへ変わっていたのである。


 これじゃあ、ただの人間じゃないですかやだ~。


「あ~、大丈夫っすよ。獣化の応用っす。ほい、ご覧のとおりっすよ」


 彼女がおもむろに腕に力を籠めると、わさわさと腕中に毛が生えた後に筋肉が膨張し、にょっきりとぶっとい爪が伸びてきた。そして僅かな時間で見慣れた逞しいモグラの腕へと変化したではないか。


「どうすっか~? これ、自分にしかできないんすよ~」


 そう言って再び人間に腕へと戻すモグラ要素がほぼないモルティーナ。そこへ多数の蠢くものが集まってきたではないか! こいつらはいったい……!?


「もぐ~」「もぐ~」「もぐ~」「もぐ~」「もぐ~」「もぐ~」「もぐ~」


 ですよね~!


 モルティーナを取り囲み平伏していたのは、ミリタナス神聖国よりやってきたもぐもぐたちであった。

 彼らは一堂に「女神が降臨した」と言ってモルティーナに祈りを捧げている。これは大規模な反乱と見なさねばならないようだ。


「浮気者めぇ、貴様らは全員【ウイグるんるん監獄】行きだぁ!」


「「「「も、もぐ~!?」」」」


【ウイグるんるん監獄】とは、初代獄長をユウユウ閣下が務めた矯正施設、という何かである。

 そこはもっぱら、お国に盾突く悪党ふぁっきゅんどもを容赦なくぶち込み、心優しい獄長様の再教育によって貧弱一般市民くににつごうのいいたみへと矯正する施設である。


 二代目獄長の選考は難航したが、兄に相談したところ【バルドル】という金髪碧眼の男の娘を紹介された。

 素質、素養、何よりも残ぎゃ……げふんげふん、情熱が素晴らしかったので即採用となった。


 今ではボンデージ姿で愛のムチをビシバーシする彼女……もとい、彼の勇士を見ることができる。その性格からユウユウ閣下とは気が合いそうだ。今度紹介しようかな。


 あ、ダメだ。会せたら監者ふぁっきゅんどもが死ぬ。こんな危険じょうねつてきな獄長が二人とか絶望しかない。

 あそこは一応、矯正施設なのだから、蜘蛛の糸のレベルで希望を与えなくては。


 ふっきゅんきゅんきゅん! 俺は優しいなぁ!


「さて、お次はおまえだ、オフォール。いったい、その姿はなんの冗談だ」


「エルティナに言われたくねぇよ。おまえの姿もなんの冗談だ」


 俺とオフォールは二人揃って冗談のような姿になっていた。俺は黄金のお饅頭のような獣姿。そして、彼は見事にニワトリであった。ウルジェの肩に乗っていることから体重はかなり軽いと見受けられる。


 絶対にこいつだけ進化じゃなくて退化してるだろ。正直に白状しろぉ。


「断っておくが、これは獣化であって退化じゃないからな?」


「俺の目を見て、同じことが言えるのかぁ?」


「……さーせん」


 遂に彼は白状した、やはり退化で間違いないようだ。こうして事件は多くの悲しみを生み出し解決へ向かったのである。


「オフォールは無理をし過ぎたせいで、暫く動けなくなっていた時期があったのさ。そうしたら、いつの間にかニワトリになっていたんだとよ」


 マフティが腹を抱え爆笑しながら経緯を説明してくれた。俺がミリタナス神聖国へ出立した後も彼は空を飛ぶことを諦めなかったそうで毎日、毎日、猛特訓を繰り返していたそうだ。


 そのようなことをすれば無理が生じてしまうのは明白。ある日、腕に激痛が走りまともに動かせなくなってしまったそうだ。ヒーラーに見てもらっても原因は不明、身体的に問題はなかったそうだ。


「身体的には問題はない。だが、〈メディカルステート〉を使用すると見慣れない文面が表示された。それが【過剰筋肉成長】というものだ」


 怒りが収まったシーマがマフティの説明を引き継いだ。アマンダは彼女の制裁を受け顔面から床に突っ伏している。大きなお尻から生えるもふもふ尻尾が力無く垂れ下がっているのが印象的だ。アマンダぇ。


「ふきゅん、つまり、肉体の急激な成長で激痛が走るようになった、というわけか。そりゃあ、治癒魔法で治せないわな」


「あぁ、オフォールは、身体を苛め過ぎたせいで反乱を起こされた、というわけだ。で、その痛みが治まった、と思ったら既にニワトリになっていたと」


 これにはシーマも呆れ顔であった。要するにオフォールの肉体は防衛反応を示し、これ以上痛めつけられないように身体を退化させてしまったということになる。なんだ、俺と理由はそう変わらないな。


「こ、この状態なら空を飛べるから……飛べるから!」


「鳥人で飛ばないと意味ないだるるぉ?」


「ぬふぅ」


 オフォールの最終的な目標はあくまで人型での飛行だ。よってニワトリ形体での飛行は飛行成功にカウントされない。というか、ニワトリが空を飛ぶな。


 そして、オフォールを肩に載せているウルジェだ。俺の記憶が確かなら、当時の彼女はユウユウよりも背が低かったはず。それでも大柄な体のせいもあって背が高く感じたが、今となっては本当にデカい。ありとあらゆるものがデカい。


 ミランダさんもかなりデカかったが、彼女はそれを上回るのだ。ブルトンやスラックとならんでもなんら遜色がないって……どういうこと? 二メートル越えとか震えてきやがった。


「うふふ~、大きくなったでしょう?」


「デカ過ぎなんだぜ。少し身長を分けてくれい」


 そんな彼女は見慣れぬ小手を身に付けていた。興味が湧いた俺はプリエナの腕の中からウルジェの特大の胸に飛び移り着地の衝撃を緩和。ちょこまかと小手まで移動し、ぴすぴすと匂いを嗅いだ。


「ふきゅん、これは機械油のにおい。そういうことか」


「わかり~ますか~? 私の~太い指じゃ~、部品の~組み立てが~進まないんですよ~」


「んふふ、そこで僕が開発した万能ツール内蔵の小手の出番というわけさ」


「ふきゅん、プルルが作ったのか」


 ドヤ顔でウルジェの小手の性能を説明しだすプルル。よくよく見れば、彼女もとんでもない格好だという事に気が付く。身体のラインがはっきりと分かるピッチピチのボディスーツを着込んでいるのだ。


 見た感じGD用のボディスーツのようだが、普通に着こなしているように感じる、という事は常にこの姿で過ごしてきた証明であろう。エロい。


「……というわけさ」


「そ~なのか~」


 すまん、説明を聞いてなかった。ゆるしてくだしあ。


 取り敢えずは、ウルジェの指はぶっといので作業に向かないから作業アーム内蔵の小手が彼女の意思を読み取って代わりに作業してくれる、という認識でいいだろう。たぶん、それで合っていると思われる。


 そして、これが本命だ。彼は声でゲルロイドだということが分かる。だが、その原型はまったく残っていないのだ。


 目の前にいるスライム族の彼は以前のような、ぷよぷよのボディではなく、すらりとした長い足を持った人型の少年の姿をしていたのである。しかも、青髪の美少年。


「ゲルっち、いったい何がどうなってそうなった!? 白状しろぉっ!」


「やっぱり、エルも驚いたか。俺も初めて見た時はビックリしたぜ」


 道着姿を卒業したライオットは何度見ても慣れない。まぁ、あれは卒業というか【封印】に近いのだが。


 ライオットの道着の臭いを嗅いだもぐもぐが、白目痙攣状態になって三日間寝込むってどんなレベルだ。化学兵器か細菌兵器の類だろが。ふぁっきゅん。


 この危機的状況に際して防護服を着込んだ聖光騎兵団が出動し、激戦の末にライオットのくっさい道着の封印に成功したのである。辛く厳しい戦いであったと聞く。倒れた者は三十名に上るとかなんとか。


 ちなみに、ライオットも最近はお洒落に目覚めつつあるらしい。ただし、小遣いは買い食いで消える。


「そうですわね、わたくしも驚きましたわ。肌の色だって自然ですし感触だって……あらやだ、わたくしったらはしたないわ」


「ぷるぷる、構いませんよ、クリューテルさん」


 赤いドレスが眩しいクリューテルは、相変わらず銀のドリルを頭部に標準装備しているが、それ以外は順当に成長をしている。随分と美人になったものだ。ただし、ドリルは六つから八つに増え、その凶悪性を更に増していた。


 たまにドリルの中にもぐもぐが収まっている時があるのは内緒だ。クリューテルも気が付いていないしな。

 それ以前に、体重の軽いもぐもぐが収まった程度では気が付かない、という首の強靭さに驚愕である。


「ぷるぷる、お久しぶりです、エルティナさん。いろいろ工夫をして人に化けれるようになりました。これで色々とお役に立てることでしょう」


「あ、そうか。姿を自由に変えれるから変装なんかも簡単にできるもんな」


「そのとおりです。大きさは水を飲めばある程度は調節できますしね、ぷるぷる」


 相変わらず、口癖のぷるぷるは直っていないようだが、それはそれで安心感を覚える。急に全部変わったら、どう接すればいいか分からないからな。


 こうして、勢ぞろいした俺達は再会を喜び合い、卒業式へ臨むのであった。

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