586食目 紛う事無き変態
「キュウトも失恋か……大人になるって大切な何かを失うということなんだな」
「そう、大人になる、とは大切な何かを失うことなのです! エル様っ!」
そこにはフルプレートアーマーを外したブランナの姿があった。大人になった彼女の姿は極めて妖艶であり、とても同い年には見えない。
というか、女子は色々と実り過ぎだ。リンダを見習え、リンダを。
「……なんだか、貶された気がする。破壊していい? いや、寧ろ破壊だ!」
「落ち着きなさいな」
ぼにゅん。
その鋭過ぎる察知能力は陰の力を極めし鬼ゆえであろうか。極度の興奮状態に陥ったリンダを見かねたユウユウ閣下は、その実り過ぎた乳房にリンダの顔を引き寄せ、がっちりとホールドしたではないか。
「ん~!? んんん~、んほぅ……」
ユウユウ閣下のマシュマロおっぱいに埋まったリンダは、その幼児体形を何度かビクンビクンと痙攣させた後に動かなくなった。彼女はイッたのだ。
その光景をロフトが血の涙を流してガン見していたのは言うまでもない。
「お、おいぃ……ブランナ。お日様はまだハッスルしているんだぞぉ?」
さり気なく【いばらきーず】のやり取りをスルーした俺は、軽装のブランナを案じた。
何故なら、お日様の光は燦々と体育館に差し込んでおり、その光はあろうことか吸血鬼である彼女に直撃している。このままでは彼女は灰になって消滅してしまうではないか。
だが、彼女は新調した真新しい紫色のドレスを見せ付けるかのように軽いステップを踏んで余裕を見せた。
「うふふ、わたくしも大人になる事により、日光に弱い、という特徴を失いましたわ! これで、ずぅっとエル様の御傍で仕えられます! あぁ、長かった忍従の日々ともお別れですわ!」
ブランナの笑顔が眩しい。ミリタナス神聖国は別名【太陽の国】。吸血鬼では、度し難い直射日光の洗礼には耐えられないとあって、ラングステン王国での待機を言い渡していた。その悔しさをバネにして遂に日光への耐性を身に付けたのであろう。
「そっか、よくがんばったな。これから、よろしく頼む」
「はいっ! お任せください!」
だが、ここで我慢できなくなった忠臣が俺の魂内から飛び出てきた。言わずもがな、ザイン・ヴォルガーである。
「またれよっ! 御屋形様は拙者がお守りするで候! ブランナ殿は……」
俺は長い耳で顔を覆った。俺を抱きかかえているプリエナもキョトンとしている。
「む、いかがいたした、皆のもの」
白い顔を真っ赤にしたブランナに指で指された位置をみるザインは己の過ちに気が付いた。見る見るうちに顔がリンゴのように赤く染まって行き、声にならない悲鳴を上げることになる。
「ザイン……まだ男にはなれないって、それ一番言われてっから」
そう、飛び出してきたザインは女の姿、しかも全裸だ。ちゃっかり、年相応に成長しているものだから、出るところはしっかりと出ている。控えめではあるが。
「お、御屋形様ぁ」
「わかった、わかった、そんな顔をするな。すぐに服を作るから」
プルプルと震えるザインは完全に乙女である。どうにもこうにも我がクラスは女体化率が高いようだ。女神に呪われているんじゃないだろうか?
「ザイン、残念なお知らせがある」
「なんでございましょう」
「神気と桃力が足りなくて布面積が少ない服しか作れん」
「こ、これはあんまりでござるよ」
そう、その二大力の枯渇状態が、この珍獣形態なのだから仕方のない事なのだ。
結局、ザインちゃんは下着なんだか水着なんだか分からない服で卒業式に臨むことになりそうだ。
でもまぁ、俺なんか全裸なんだから気にするな。もふもふではあるがな。
「ほほほ、可愛らしくなったのう、ザイン」
「えぇ、もっと着飾れば、どこぞの姫である、と言っても疑われないでしょう」
「慰めの言葉になっていないでござる」
こちらは本物のお姫様、織田咲爛姫と、その従者である忍者景虎である。この二名は順当な成長の仕方であり、そのまま大きくなった感じがする。言い換えれば、既に完成していたということだろう。
「うう……すっかり忘れていたでござる。やはり、雷龍の姿で出るべきでござった」
ただし、相変わらずダックスフントのような姿である。そもそも、人と龍では成長速度が違うので数年程度では容姿は変わらないのだ。
「ケケケ、んでザインはその姿で固定なのか?」
「……男でも女でも、戦えれば問題はない」
しょんぼりと項垂れるザインの声を掛けたのはゴードンとブルトンの二人だ。ブルトンはともかく、ゴブリンのゴードンは小鬼族なのに背が伸びたな。百七十センチメートルはあるか? 規格外にもほどがあるだろ。
そして、ブルトンは男前過ぎる。もうあれだ、むせる。激烈マッソォでむせる。まさに【動く筋肉の山】と言った感じだ。その筋肉を少し分けてくれ。
「聖女、今度は獣に転職か? 忙しいことだ」
せっせとザインちゃんの服を作る俺に、キザったらしく声を掛けてきたのは、それが腹立たしいほど似合う二枚目に成長を遂げたガイリンクードであった。ブルトンとは対照的な細マッチョだ。
クールな二枚目、という言葉がこれほど似合う男はいないだろう。だが、いまだに彼は独特の世界観に浸っているようだ。壊れるなぁ、二枚目。
「ひひひ、面白れぇやつだな。どうやったら、そんな間抜けな姿になるんだぁ?」
そんな彼の隣に立つ妖艶な青髪の熟女が一人。その髪は日の光の受ける角度でさまざまな色へと変化する珍しい物だ。
見慣れぬ女性ではあるが彼女の声は聞いたことがある、というかガイリンクードに馴れ馴れしくする者など一人しかいない。
「まさか、レヴィアタンか?」
「ほう、脳ミソまでは獣になっていなかったようだな。そうさ、俺だよ」
「この悪魔、俺の魔力を食って実体化しやがったんだ。鬱陶しいったらありゃしねぇ」
「けっけっけ、虫が寄り付かねぇようにしてやってんだ、ありがたく思いな」
エロい、半裸の熟女が二枚目細マッチョにしな垂れる姿はあまりに官能的だ。というか、レヴィアタンって、本当に女だったのか。その姿はまさに悪魔的、一目見れば男なら虜に、女なら嫉妬の眼差しを送るであろう。
というか、口では憎まれ口を叩いているのに行動はガイリンクードにベタ惚れ状態です。本当にありがとうございました。
「滅びよ! リア充、ガイリンクード!」
「滅せよ! リア充、ガイリンクード!」
「なんでもいいから、レヴィのケツに顔を突っ込みたいさね! 寧ろ、突っ込む!」
ダカダカダカダカ……ヴゥン!
「アカネはこっちにくんな……ぎゃぁぁぁぁっ!? 瞬間移動すんなっ!! い、いやぁぁぁぁぁん!!」
ずぼっ!
「い、いったぁぁぁぁぁっ! 俺達にできないことを平然とやってのける! そこに痺れないし、あこがれもしない! 少しは自重しるるぉっ!?」
そこにはレヴィアタンのむっちりとした尻の割れ目に顔を突っ込む変態の姿があった。いくら同性だからといって、これはあんまりだ。
いやいや、顔をぐりぐりすんなし。
「ら、らめぇっ! そこは、そこはっ!」
「う、うおぉぉぉぉぉっ! スラック、俺たちもアカネに続けっ! おっぱいが俺を呼んでいる!」
「おうよ、ロフト! くびれと太ももが俺たちに愛と勇気を与えてくれる!」
どぐしっ、めこぉ、めめたぁ。
恐ろしいほど変態的な言動を繰り返す無駄に強化された変態トリオは、その場にいた女子たちの手によって速やかに沈黙させられた。
そして、どうやらアカネは越えてはならない領域を越えてしまったようだ。最早、行動になんの迷いもない。悪魔を怯えさせる変態って、おまえ……。
そして、思ったよりもレヴィアタンが乙女であった件について。外見とのギャップが凄まじい。
「はぁはぁ、うう……もうお嫁にいけない」
床にへたり込み涙目ながらに訴えるレヴィアタンの悪魔らしからぬ言動は果たして何かの策略であろうか。相手は悪魔だ、決して油断はできない。
そんな彼女に対してガイリンクードは無言で彼女の頭を撫でてやるのみだ。
「ちくしょう、そこは抱きしめるか、プロポーズだろうが」
そんな彼女は文句を言いつつもされるがままであった。まるで猫のように目を細めてうっとりとしている。
なんだ、ただ甘えたいだけだったのか。おまえは悪魔を引退しろぉ。
まったくもって、うちのクラスはカップルが多くて何よりである。そう、愛は世界を救うのだ。ただし、ダナンは爆ぜろ。慈悲はない。
「なんか、爆破される未来が見えた」
「気のせい」
両腕を擦り己の未来を案じるダナンに気にするなと諭す。そこに残りの面子が合流してきたのであった。




