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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十五章 成人
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585食目 再会を喜んで

「ひ、ひさしぶり、な、なんだな! く、薬、完成したんだな、だな!」


「ふきゅん!?」


 今の俺の鳴き声を約すれば「誰だ、おめぇ!?」が最もしっくりとくるだろう。それほどまでに衝撃的な光景が飛び込んできたのだ。


「お~、グリシーヌ。痩せたなぁ」


「み、身軽に動けないと、か、活躍できないんだな、だなっ!」


 ライオットに言われて、ようやく俺は彼女が誰であるか確信に至ったのである。なんと、彼女はぽっちゃりを極めし存在だったオーク族の少女グリシーヌであったのだ!


「ほ、本当にグリシーヌなのかぁ?」


「う、うん! わ、わたしなんだな!」


 なんという圧倒的なボリューム! それでいて引っ込むところは引っ込むという理想の体型を獲得していたのである。

 同じぽっちゃり族のエミール姉は見習ってどうぞ。


「おまっ、この卒業式に、その面白い姿ってなんだよ!?」


「おっす、マフティも女らしくなったな。というか、実物大のてっちゃじゃねぇか」


 兎少女のマフティもすっかり成長し綺麗な姿になっていた。実物大のテスタロッサと思えば早いだろう。すらりとした長い足が艶めかしい。というか、スタイルい良いな。


「で、あれはいったいどうしたんだ?」


「あ~、あれはそっとしておいてやれ」


 俺の耳が差す方角には壊れたラジオのようにケタケタと笑う少女が一人、そして同じ顔の少女がもう一人。まさかと思うが……。


「ひょっとして、ランフェイか?」


「ご名答、もう一人の方はルーフェイのヤツだな」


「にしては、胸があるんですが?」


 ルーフェイは間違いなく男だったはずだが、そのことをマフティに問い質すと、彼女はポリポリと頬を掻き答えた。


「分かり易く言うとだな、ランフェイがやらかした」


「把握」


 マフティの呆れ声で全てを察した俺は白目痙攣でもって彼女たちを生暖かく見つめた。

 ランフェイが遂に事を起こし、その末に失敗したのだろう。兄が女になるという結末で。


 大方、エドワードに性転換薬を飲ませようと仕込んだ物を、ルーフェイが知らずに口にしたといったところか。なんと哀れな。


「邪悪な野望は成就しないって、それ一番言われてっから」


「だろうな。これに懲りたら、まっとうに生きてほしいもんだ」


 しかし、女になってしまったルーフェイは別に困っている様子はない。寧ろ、何かから解放されたかのような安堵した表情すら見せているではないか。


 妹の件で色々悩んでいたもんなぁ。掛け替えのない物を失ったが、それ以上の安心を得た、といったところであろうか。


「というか、クッソ美人だな」


「元が良いからな、ルーフェイのヤツ」


 邪悪は滅びた、その悪しき野望と共に。正気に戻ればランフェイも一少女として、まっとうな人生を歩んでくれることであろう。正気に戻れば……の話だが。


「女ばかりが増えると肩身が狭くなくならぁな」


「華やかになっていいじゃないか」


 そう愚痴ったのはドワーフのガンズロックであった。彼は既に完成された容姿であったため、まったく変わり映えしていない。

 若干、大きくなったことくらいであろうか? だが、大きくなった分、貫禄はバッチリである。


「エルも毎度毎度、いそがしぃなぁ? 今度はなんだぁ、そりゃぁ?」


「珍獣だ」


「誇らしげに言うものじゃないと思いますよ、聖女様」


 カシャカシャと金属音を鳴らしながら歩み寄ってきたのはサイボーグ戦士クラークだ。その隣にはリザードマンのリックもいる。


 クラークは以前よりも大きくなっていることから、ドクター・モモにバージョンアップしてもらったようだ。大きくなった皆に並んでも違和感はない。


 リックはなんか筋肉が付いた感じがする。相変わらず目がクリクリして可愛らしいが、本人に言ったら怒るだろうから言わない。


「なんだ、なんだ? ぶはははは! また、凄い姿になったもんだな」


「……ききき……未確認生物発見……」


 ここでダナンとララァが登場した。ダナンは若干、男前になっただろうか? 性格は変わっていないようだが。

 そして、問題のララァはというと……期待を裏切らない成長であった。


 デカぁぁぁぁい! 説明不要! ルドルフさんに迫るであろう超乳!


「ララァは綺麗になったな」


「……ききき……ありがとう」


「俺は無視かよっ!?」


 もちろん、野郎は無視である。ララァは目の下の隈が取れてゾバカスも治したようであった。やはり恋する乙女は綺麗になるものだ。


「お久しぶりです、エルティナさん。綺麗になった、といえばプリエナさんもですよ」


「やぁ、久し振り」


 ここでメルシェ委員長とフォルテ副委員長の夫婦が揃って登場した。もう半ば公認なので夫婦扱いでいいだろう。

 やはりお尻クイーンはメルシェ委員長で間違いなさそうである。ムッチムチやぞ。ただし、胸は……。


「ふきゅん、そうなのか? あのたぬ子がねぇ」


「ほら、噂をすれば」


 そこには約四十名ほどのSPに護られる美少女の姿が! って、あいつらルバール傭兵団の連中じゃねぇか。まだ、追っかけを続けていたのか。という事はその中心にいる美少女がたぬ子か!?


 わはは、ありえん。女神か何かか? いったい、どういう成長過程を経てあんな姿になるんだよ?


 特徴的な狸耳と尻尾はそのままに、プリエナは美しく成長を果たしていた。出るところは出ているし、引っ込むところは引っ込んでいる。まさにパーフェクトだ。


 そう、俺の中のたぬ子のイメージは死んだ! もういない!


「あっ、エルちゃんだ! わぁい、久しぶりだよぉ!」


 ただし、中身は変わっていないもよう。俺との再会に喜ぶ彼女は、純真な心を持ったまま大人へと成長したようである。やはり女神か。


「ふん、大役を果たしてきたようだな。褒めてやる」


「うおっ、髪を切ったのか、シーマ」


 こちらも雰囲気が一変していた。長かった髪をバッサリと切って凛々しくなったシーマはきっちりとした男物の貴族服を身に纏っている。男装の麗人というヤツだ。


「失恋か?」


「そうだ。私はこれから、剣とお家再興の道へと殉ずる」


 そう堂々と言い切った彼女に迷いはなかった。どうやら、俺がいない間に色々なドラマがあったようだ。詳細は酒でも飲みながら聞くことにしよう。

 もう俺達は成人、酒も解禁だ。これをどれだけ待ったことか。今から楽しみでならない。


「そう、失恋は初恋の味。甘く切ない人生の記憶」


 狼少女アマンダはシーマの肩にそっと手を置き彼女の失恋を悼んだ。彼女も立派に成長して魅力的な女性へと変貌を果たしていた。でも、もっふもふやぞ。


「ふきゅん、アマンダも失恋したのか?」


「いいえ、そんなわけないでしょう? 私は卒業式が終わったら、フォクベルト君と【結婚】します」


 その瞬間、時が止まった。何が起こったかはわからない。ただ、とんでもない事態が起こっていることは間違いなかった。


 これは夢じゃねぇ、ましてや幻聴や幻覚なんかでもねぇ! 本当に恐ろしい何かを体験したってことだぁ!


 やや遅れて時は動き出す、そして大絶叫。どうやら、誰も知らなかったらしい。


「ど、どどどどど、どういうことなんですかねぇ?」


「うふふ、き・せ・い・じ・じ・つ」


 やりやがった。流石は飢えた狼だ、手段を択ばない! フォクベルトは彼女に美味しくいただかれてしまったのだ!


「貴様っ! 私への当てつけか! 死ねっ!」


「い~や~で~す~」


「フォクベルトは犠牲になったのだぁ」


 ……まぁ、別に問題はないか。もふもふのベビーに期待だな。


 そう結論付けてこの問題は終了とした。鬼神と化したシーマは放置する方向で。器量はいいんだし、その内に良い人が見つかるだろう。


「そう、既成事実。それができてりゃ……」


「おっ? キュウトの男の姿は久々に見るな」


 狐獣人のキュウトは久々に男の姿に戻っていた。非常に男前であり凛々しい。だが、その視線の先にはダナンの顔。それでは【ほもぉ】、と思われてしまうので絶対に止めるべきである。


 彼も色々あるのだろうが、ダナンの事は光の速さで忘れて新しい恋を探すべきであろう。

 キュウトは器量が良いから、より取り見取りなのだ。きっと、良い人が見つかるさ。


 俺は優しい眼差しを悩める狐少年に送るのであった。

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