579食目 その者、カオスにつき。
◆◆◆ トウキチロウ ◆◆◆
ヘロウ、エブリわんわん。トウキチロウ・コノハナだ。
この章は妹の桃姫……もとい、エルティナがミリタナス神聖国を復興させるにあたり、その周辺で暗躍する糞虫どもを、俺たちカオス教団がフルボッコにする話である。よって希望はない。そこのところを承知してご覧になっていただきたい。
何? メタ過ぎる? うむ、そのご意見はもっともだ。だが、俺に常識を求めてはいけない。そんなものは便器の中に突っ込んで綺麗さっぱり流してやったのだから。
次に諸君らは俺に対し「アホか」と言う。
どっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!
くっくっく、聞こえるぞぉ。きみたちの心の声が! ふははは! 怖かろう?
「御子様、いかがなされました?」
「ウィルザームか。いや、なに……少しばかり別次元に干渉していただけだ」
ここはミリタナス神聖国から南にちょっと行って、斜め四十五度に突き進んだ峡谷の中腹辺りに作ったカオス教団本部だ。
今になって、なんでこんなところに本部を作ってしまったのだろうかと後悔している。
「以前も申しましたが、次元の壁を食べてしまうのはおやめになってください。ジュレイデが次元の壁を修復する度にやつれておりますゆえ」
ほんの僅かにウィルザームのこめかみがピクピクと痙攣していた。これは刺激しないに限る。
「うむ、善処しよう」
俺は差し当たりのない無難な答えを返し、この場を丸く収めた。元パートナー、トウヤとの経験が活きたと感心するがどこもおかしくはない。
でもまぁ、食うけどな! 次元の壁って煎餅みたいな歯応えで美味いのよ。たまに無性に食いたくなる。バリバリ。
「時に、マイアス教団どもの動きはどうか?」
「暗部の連中でございますね? 各地に潜んでいるので見つけ次第に潰しております」
「そうか。それでも一向に数が減らないようだな」
「はっ、【マイアス】にとって、信徒はただの捨て駒に過ぎませんゆえ、いくらでも補充が可能なところが厄介でございます」
「やはり、元を断たねばな。【神の欠片】の集まりはどうなっている?」
「はっ、残すところ後、八つとなりました。悲願成就までもう少しでございます」
「うむ、引き続き収集をおこなうよう八司祭に伝えよ」
「ははっ!」
大司祭ウィルザームが音も無く姿を消し、部屋には静寂が戻ってきた。威厳を保つのもそろそろ面倒臭くなってきた今日この頃。あの時、格好を付けなければよかったと後悔している。
でもまぁ、まさか妹が桃使いに覚醒した上に、真なる約束の子に選ばれてしまうとは思っていなかったから、一応はこれでキャラ分けできているので良しとしなければなるまい。
「ふぅ……屁が出そう」
「キャラが崩壊するので控えてください」
俺の呟きに呆れた声を出したのは八司祭の一人、獄炎のモーベンであった。その手には三時のおやつである【大学芋】が入った皿を持っている。俺が彼に作り方を教えて作ってもらったのだ。美味しそう。
「いや、だってさ~、俺って元々こうよ? 確かにシリアスな場面ではキリッとするけど、何もない時ぐらいは緩んでいいじゃん?」
「緩むのは構いませんが、尻の方はしめていただきたいです」
ぶおっ。
「ちょっ!? 言った傍から放屁しないで下さいよ!? というか臭っ!」
「うむ、確かに臭いな。正直、すまんかった」
独特の雰囲気を持つ彼には、本当の俺の事を伝えていた。それは彼が信用に値する人物である、というわけではなく、ただ単に俺に固定概念を持っていなかったからである。あとは勘。
「いや、これは流石に堪らん」
解き放たれた屁は常識を逸脱する臭さであった。変な物を食った記憶はないのだが。
仕方がないので、臭い屁を、全て喰らう者に食わせることにした。これで消臭できるだろう。
「……!?」
ちらっ。
おい、嫌な顔すんじゃねぇ、早く食え。何、臭い? おめぇ、鼻ねぇだろうが?「はっ!?」じゃない、まさか自覚していなかったのか、おまえ……。
「これでよい」
「全てを喰らう者が、これほど哀れに見えたのは初めてでございます」
俺は気にするなとモーベンに伝え、早速【大学芋】を摘まむ。蜂蜜のまろやかな甘みとサツマイモのホクホク感、そしてゴマの芳ばしさが堪らない逸品だ。次から次へと手が伸びてしまう。
「そんなに急いで食べると喉を詰まらせますよ?」
「……」
すまない、実はもう詰まっているんだ。へるぷ・み~!
俺はプルプルと痙攣する右手を差し出した。すると、モーベンは飲みやすくしてくれた、ぬるいお茶を渡してくれたのである。それを一気に飲み、のどに詰まった芋を胃へと流し込む。ぶはぁ、死ぬかと思った!
「助かったよ、もうダメかと思った」
「カオス神の御子が喉に芋を詰まらせて死んだ、だなんて末代までの恥じですよ」
「さーせん」
最近は三時のおやつをモーベンに作ってもらっている。それは彼と情報交換を兼ねてのことであった。
ラングステン王国での活動は【神の欠片】を回収したことによってほぼ終了しているので、もうモーベンを常駐させる意味はない。
それに、あの国のマイアス教団の監視は、深淵のジュレイデに任せておけばいいだろう。なによりも、ラングステン王国には彼女の娘がいるそうだ。たまには親子水入らずもよかろう。
「さて、エルティナの様子はどうだ?」
「はい、土木作業員に成りすまして様子を窺っておりましたが、上手く枝を活用して復興に励んでいるもようでございます」
「そうか、となると土の枝だな。あれは扱いが難しいのだが……流石は俺の妹だ」
これで御子の面子がなければ、すぐさま赴いてペロペロしてやりたい。だが、監視の目が厳しいので不可能だ。ちくせう。
「これでミリタナス神聖国の復興は成し得るだろうなエルティナ可愛いはぁはぁ」
「心の声がだだ漏れです。御子様」
「禁断症状であるな。妹成分を補充せよ、とのサインであろう」
「真面目な顔で不真面目なことを仰らないでいただきたい」
切れのあるモーベンのツッコミに満足した俺は、いよいよ本題に移ることにした。
「モーベン、ミリタナスで暗部の連中が動いていることは掴んでいるか?」
「はい、調査に出していたアーノルドから報告を受けておりますゆえ」
「ふむ、またその冒険者か。使えるのか?」
「はい、少しばかり心を病んでおりましたが、カオス神復活の際に【願い】を聞き入れることを条件に入信いたしました。真面目な男です」
「おまえがそう言うなら問題はなさそうだな」
「ありがとうございます」
ミリタナス神聖国は暗部の連中にとって良い隠れみのであった。戦争による混乱、国の統治は無いに等しくなりやりたい放題だったのだろう。多くの者たちが行方不明となり、その後の捜索も難航しているのが現状だ。
「マイアスめ……これほどまでに【運】を搾取しようとは。いったい何を企てているのか」
「御子様、その件でございますが……ベルンゼより気になる報告が」
「言ってみよ」
「はっ、吸運の儀によって運を吸い尽された者を【死兵】とし、暗部の連中が使役しているとのことです」
カーンテヒルの【死兵】とは殉教を望む兵のことではなく、吸運によって運を全て奪われ死に至った者をアンデッド化した兵士の事を差す。邪法中の邪法だ。
死兵は通常のゾンビよりも腐敗の進行が遅く、脳のリミッターも解除された状態であるので異常な身体能力を発揮する面倒臭いヤツである。しかも主の命令は絶対服従というのだから性質が悪い。
「勿体ない精神だというのか? 胸くそ悪い連中だ」
「お怒りになられるのは御もっともです。問題は発見した場所が聖都リトリルタースの東に位置する【ベードル村】近くだということです」
「何? リトリルタースと目と鼻の先ではないか」
「はい、万が一のことがあっては遅いかと」
こうしてはいられない、俺のかわゆい妹に万が一のことがあったら、勢い余って全次元の世界を食ってしまうかもしれない。早急に手を打たなければ。
「よし、リトリルタースから東の大地の全てを食って一網打尽にしてしまおう」
確か、あそこの村の連中は事なかれ主義者たちばかりで、リトリルタースから逃げてきた者たちを受けいれずに追い出した罪があるはず。
だから、これが一番早いと思います!
「いやいや、ダメでしょう? そんな事をしたら兄妹喧嘩に発展しますよ」
「むむむ、そんな事になったら、俺はもう生きてはいけない」
「なら別の手を講じましょうよ」
くっ! ナイスな方法だと思ったのだが、そんな欠点があっただなんて!
だが、確かにモーベンの言うとおりだ。エルティナであれば「罪を憎んで人はお仕置き」とでも言いそうだからな。
「ここは地道にアジトを探し出して潰した方がいいかと」
「だよなぁ……チマチマ潰すのめんどいぜ」
「御子様は派手に暴れるのが好きですものね」
「花火と喧嘩は派手なほどいいからな」
結局はモーベンの案を採用し、しらみつぶしにアジトを探すこととなった。超絶面倒臭いが、これも妹に嫌われないようにするためだ。まったく……兄はつらいよ。




