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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十三章 珍獣のミリタナス神聖国復興記
574/800

574食目 やらかした

 いやぁ、たまげるなぁ。


 本日の第一声がそれであった。ケツァルコアトル様の交渉術で雨雲と契約をかわし雨を降らせてもらうことになったのだが、その雨が降ってもう三日経つのだ。

 そして四日目の朝、外を見て見ると未曽有の大洪水になっていましたとさ。どうしてくれるのこれ?


「おいぃ……! 雨が降っていきなり大洪水とか卑怯でしょ! 責任者を呼べぇ!」


「残念ながらエルティナ様でございます」


 俺はこの理不尽さに耐え兼ね、大樹の中心でクレームを叫んだ。しかし、ボウドスさんによって、その責任者は自分である、という不具合が暴かれたのである。じ~ざす。


「エルティナ様、このままでは折角敷いた道と大神殿がダメになってしまいます。早急に対策を練るべきでしょう」


「ふきゅん、そうだな。幸いなことに全ての民は大樹に避難できているし、対策に専念できるだろう。主だった面々をそろえてくれ」


 ボウドスさんに復興の主要メンバーを集めてもらい、三階に作られた多目的室にて会議を始める。

 ここまで順調だった復興作業に突如として暗雲が立ち込めてしまったこともあり、皆の表情は硬いものであった。


「よし、皆集まったな。それでは会議を始める」


 会議に出席する者は俺、ミレニア様、ボウドスさん、白神官長のノイッシュさん、ミカエル、ムー王子、ライオットにクリューテル、そして、雨のせいで帰れなくなったリンダとユウユウ閣下である。


「さて、議題はこの未曽有の大洪水をどうにかする、というものだが意見のあるものはいるか?」


 俺の提案した議題にいち早く手を上げたのはミレニア様であった。


「ばぶ~! うっう~! だう~!」


 ぷぅ。


 だが、彼女は喋れない上に、どうやら【うんうん先生】をもよおしただけだったようだ。彼女を抱きかかえ、そそくさと離席するボウドスさんを見送り会議を再開させる。


「では、意見のある者は挙手してくれい」


 次に挙手したものは意外なことにリンダであった。その表情は自信に満ち満ちている。もしかすると農家の知恵を伝授してくれるのかもしれない。これは期待が持てそうだ。


「全部破壊すればいいんだよ! そうすれば、もう何も怖くない!」


「却下だぁ」


 どうして、その発想に行き着いた? 鬼だって別の方法を考えるぞぉ。


 俺は白目痙攣状態に陥りながらも辛うじて彼女の意見を却下した。どうやら、リンダは当てにはできないようだ、ここは残った面子に期待するしかない。


「はい」


 次に挙手したものは意外や意外、獅子の獣人ライオットであった。


「却下」


 しかし、俺は電光石火の却下を言い渡す。


「えぇ? まだ何も言ってねぇよ」


「腹が減ったんだろう? お上にも情けはあるんだぞぉ?」


「……腹が……空きました」


 こうしてライオットは逮捕された。悲しい事件であったと後の世には伝えられている。


「誰かまともな案を持っているヤツはいないのかぁ!?」


 いまだにまともな意見が出てこず、俺の怒りは有頂天に達しようとしている。そんな俺を見兼ねたのかムー王子が挙手をして意見を述べてくれた。


「エルティナ様、こうして町に水が溜まる、という事は、水の逃げ場がない、ということです。貴女の全てを喰らう者を使役して、水の逃げ場を作ってはどうでしょうか?」


「ふきゅん、それだ!」


 ようやく提示されたまともな案に、俺の怒りスッと収まりを見せたのである。

 この案を軸にして意見を膨らませる方針を取る。すると、ノイッシュさんが挙手し自分の意見を示した。


「ただ水の逃げ道を作るよりもその逃げ道の先に水が溜まるような設備を設けてみてはいかがでしょうか?」


「ふきゅん、貯水湖というヤツだな?〈フリースペース〉の技術を応用すればいけそうだな。ナイスアイディアだぁ」


「お褒め頂き、恐悦至極っ!」


 俺に褒めてもらったことがそんなに嬉しかったのか、彼は安心と信頼の三段階笑いを披露した後、とても静かに着席した。なんだこの落差は? とても不安になる。


「さてさて、他に意見はないかぁ? 遠慮せずに、どんどん意見を述べてくれい」


 続けて挙手した者は聖光騎兵団の団長ミカエルであった。


「町の外だけではなく町中にも貯水庫を設けてはいかがでしょうか? 確かに大樹から水が湧き出ておりますが、将来的に町が大きくなったらとても賄いきれないかと」


「ふきゅん、確かに。これ以上【リ・ミリタナス】クラスの樹を生やしたら邪魔になる可能性があるもんな」


 貯水施設はミリタナス神聖国に何個あってもいいだろう。交渉によって雨が降るようになったのだから、溜めれる雨は溜めておいた方がいいに決まっている。それにわざわざ町の外まで言って水を汲んでくるというのも面倒な話だ。


 ミカエルの案を採用した俺は引き続き案を募集する。すると、ユウユウが挙手したではないか。果たしてどんな意見が飛び出すのやら、まったくもって戦々恐々である。


「この国は草木がなくてつまらないわ。エルティナの能力で生やせないのかしら?」


「いやいや、ユウユウ閣下。今は洪水をどうにかする話なんだぜ」


「エル様、ユウユウさんの案は洪水対策、ひいては貯水に繋がる話ですわ」


 ユウユウの唐突な案を肯定したのはクリューテルであった。彼女に諭され冷静に考えてみればなるほどという思いに至る。草木は水を蓄えることができることを、すっかり失念していたのだ。


「ふむ、ちょっとした雨くらいなら、草木に働いてもらえばなんとでもなりそうだな。ユウユウ閣下の案も採用なんだぜ」


「クスクス……当然よね」


 高圧的にドヤ顔するユウユウ閣下、マジせくすぅい~。十代前半とは思えぬ色香にミカエルもたじたじである。

 そういえば、ユウユウ閣下はミカエルともバトりたい、とか言っていたなぁ。でも、今のミカエルでは正直な話、彼女の足下にも及ばないであろう。どちらかといえばミカエルは指揮官タイプであるからだ。それならばメルトかサンフォの方が遥かに戦闘能力は上である。


 メルトは堅物であるがゆえに手堅い戦い方をして厄介だし、サンフォはその軽い性格から適当な戦いをすると思われがちであるが、実のところ異様に計算高い戦いをおこなう。

 それゆえに一時的にサンフォが劣勢だとしても、最終的には全てをひっくり返されて地べたに這いつくばる敵対者を幾度となく見ている。その時の彼の笑みといったら……うおぉ、震えてきやがった。


「さて、これでボウドスさん以外の意見は出たな。まぁ、これだけ意見が出れば大丈夫だろう。細かい部分は洪水をなんとかしてからやるとして、まずは町を埋め尽くす水をなんとかする」


 俺の結論に誰も意見を述べない事を以って会議を終了とする。


「じゃ、行ってくるんだぜ」


「はい、お気を付けて、エル様」


 リトリルタースを埋め尽くす水をなんとかすべく俺は月光蝶モードとなって雨が降りしきる町へと飛び立った。手を振って見送ってくれたクリューテルたちの期待に応えるためにも、必ずなんとかしてみせるぞ。


「こりゃ酷いな」


『いもぉ』


 月光蝶のコントロールはいもいも坊やに任せれば大丈夫だろう。眼下に広がる町を覆い尽くす水、それは大神殿の半分の高さまで及んでいた。大樹の高さにして二階部分に匹敵するであろうか?


 ちなみに大樹の中には水が殆ど侵入していない。流石に完全には無理であるが、一階部分が少しばかり浸水している程度に被害は抑えられている。これは俺が水の枝で浸水してくる水を食べているからである。


 本来ならばこの溢れかえった水を一気に水の枝で喰らい尽せば簡単に事は済むのであるが、それをおこなうと雨雲まで喰らい尽してしまうので実行できないでいたのだ。


「ふきゅん、きゅんきゅ~ん?」


 雨雲とコンタクトを取る。すると、今回雨を降らせているのは若い雨雲だったようで、どうにも加減が分からないでいる様子だった。どおりで降らせ過ぎているわけだ。


 最初からコンタクトを取っていればよかったのでは? そう思った者も多いことであろう。だが、これには深い理由があったのだ!


 わ・す・れ・て・い・た! ふっきゅんきゅんきゅん!


 あぁ、なんという深い理由であろうか! この理由であるならば、あのお堅い頭の持ち主であるトウヤも許してくれるに違いない!


 ……お願い許して! なんでもしますから!


『えるちん、えるちん! おみずをなんとかしようよ! しようよ!』


「お、おう、そうだな!」


 いもいも坊やの声で我に返った俺は闇の枝を呼び出し、水の逃げ道を作り出すことにした。貯水庫は町の南側でいいだろう。カサレイムから来る旅人の渇きを癒す湖を作るのが目的だ。

 よし、闇の枝、モリモリと土を喰らうんだ。


「ふきゅおん!」


 ざぶんっ、ごぼごぼごぼ……。


 闇の枝が水に飛び込んで数分後、いまだに水が引いてゆく様子がない。いったい、どうしたというのだろうか。そんなことを思っていると事態は急変した。


 ぷか~。


「ふ……ふきゅ……おん……」


 がくっ。


「や、闇の枝ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


『いもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?』


 なんと、闇の枝が溺れて浮かび上がってきたのである。おまえ金槌だったのか!?


 予想だにもしない闇の枝の弱点が発覚し暗雲が立ち込めてきた。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。すぐさま、次の手段を講じなくては。


『何をやっているのよ、二代目。水の枝じゃないのだから溺れるに決まっているでしょうに』


「ふきゅん、それは盲点だったんだぜ、初代様」


 初代様は水の上に力無く浮かぶ闇の枝を抱きかかえ、俺の魂内へと連れ帰った。しかし、こうしてみると全てを喰らう者は万能ではない事が分かる。やはり枝分かれすると万能ではなくなるということか。


『そうね、枝は能力に特化して宿主の負担を軽減する役目を負っているの。だから、闇の枝のように水の中で溺れてしまう枝もいるのよ』


 再び姿を現した光の枝こと初代様は、何故か頭に安全ヘルメットを被り、手には鈍く輝くシャベルを持っていた。


「初代様? もしかしなくても?」


『まぁ見ていなさい、冒険者時代に土方のバイトもしていたんだから』


 そう言って彼女はシャベルを大地に突き刺し足を掛けた。このシャベルや安全ヘルメットは俺の記憶を本に桃力や神気を拝借して作った物だという。


『それそれっ』


 現在の彼女の大きさは、二十八メートルにも及ぶ。最早、彼女は巨人であると言えよう。そんな彼女のひと掘りひと掘りはとてつもない面積を容易く掘ることが可能だ。


「ヴォォォォォォォォォォッ! スゲェ!」


 そのあまりの凄さに俺は思わず咆えた。その凄さとは仕事っぷりではない、彼女の姿にだ。確かに初代様は安全ヘルメットを被っている。それはいい。

 だが、それ以外は何も身に付けていない。つまり、安全ヘルメットだけを被った全裸の女巨人なのである。

 腰を低くして力を籠めれば見せてはいけない部分が否応なしに見えてしまう。あら、綺麗。きちんとお手入れしているんだぜ。

 そして、なんでそんな場所にキスマークが? こ、これは聞いてはいけない気がする。


『ふぅ、こんなものかしらね?』


 紛う事無き変態……もとい初代様が土方仕事を開始して一時間ほど経った頃、リトリルタースに溜まっていた水は町の郊外へと移動し終えていた。きちんと丁寧に貯水湖を作ってくれているのは高評価だ。


「ありがとう、初代様。それと……」


 俺は小声であの部分のキスマークの件を彼女に伝えた。すると初代様の顔は見る見るうちに赤く染まり「シグルドさんっ!?」と叫びながら魂内へと帰っていった。彼女の言うシグルドとは初代シグルドの事であろう。


「ふきゅん、ようやく【いちゃいちゃ】できるようになったからってなぁ」


 自重という言葉がでかでかと浮かび上がってくる。まぁ、暫くすれば落ち着くことであろう、この雨雲のように。


 工事が終わると同時に雨雲も雨を降らせることを終えたようだった。これで、万事解決である。

 そそくさと退散してゆく若い雨雲、彼が去った後、真っ青な空が久々に顔を見せてくれたのであった。

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