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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十三章 珍獣のミリタナス神聖国復興記
572/800

572食目 広大な砂漠

 日の出と共に俺はギュインギュインという効果音と共に成長する。だが、今日は少しばかり視界が低い。


「ふきゅん、せいちょうが、たりないじょ」


 舌足らずの喋り方になる、という事は二~三歳児程度しか身体が成長しなかったということだろう。やはり、昨日の枝三体同時活動が影響しているのかもしれない。これは困ったことになったぞ。


「おはようございます、エルティナ様」


「おはう~、ぼうどちゅさん」


 俺の姿を見て事情を察してくれたボウドスさんは、俺に一日休むように言い残し、復興作業をおこなうために出かけてしまった。

 急にやることがなくなって暇になってしまった俺は、この姿でもできる事はあるのではないだろうか、とあれこれ考えた後に行動を開始する。


 まず最初にやるべきことは腹にエネルギーをぶち込むことであった。当然だなぁ?


 現在地は八階であるため、台所のある四階へ赴くのが最初の目的となる。よって緩やかな螺旋階段を慎重に下ってゆく。身体が小さいと階段を下りるのも一苦労だ。えっちら、おっちら、ふきゅんふきゅん。


「もぐ~」「もぐぐ~」「もっぐ~」


 そんな俺を脇目にもぐもぐたちは階段を軽快に飛び降りてゆく。というか、転がり落ちて行ったの間違いであった。見た目に反してワイルドな連中だぁ。

 勢いよく壁にぶつかって停止するも、モフモフな毛と柔軟な肉体も相まってへっちゃらな表情である。流石の俺も彼らの真似しようとは微塵も思わない。壁にぶつかったら爆発四散するのは目に見えているからだ。

 自慢ではないが、俺は取扱注意なのであ~る。


「おぁよ~」


 時間は掛かったが無事に目的地である四階に辿り着き、とてとてと台所へ進む。次第に良い香りが漂ってきた。これは恐らく【ダール】の匂いであろう。ダールとはインドの豆スープの事であり、日本の味噌汁と同じような感覚で飲まれているらしい。


 ここミリタナス神聖国でも同じような飲み物が存在しており、広くミリタナスの民に慣れ親しまれていた。ダールとは若干作り方は違うが似たようなものと考えていいだろう。

 尚、ミリタナス神聖国での【ダール】は【ドゥアルゥ】と呼ばれ愛されているようだ。


「おはようございます……あら、聖女様。随分と今日はお小さいのですね?」


「うん、これちか、おおきくなりゃなきゃった」


 俺は台所を預かる女性たちに促されテーブルに就く。暫くするとお付きの従者たちが慌ただしく台所に入ってきた。


「せ、聖女様! このような場所におられたのですか!?」


「お部屋におられませんでしたので、まさかの事態に巻き込まれたのかと……!」


 全力で走ってきたのか、肩で息をする黒髪おかっぱの少女たち。彼女は聖女に仕える巫女であり、名をフゥラル・マルナス。もう一人はフゥレル・マルナスといった。


 その瓜二つの顔から分かるように、彼女たちは双子の姉妹だ。年齢は十五歳、中肉中背で褐色の肌が健康的であり、白い巫女服と相まってとても良く映える。


 スタイルの方は……そっとしてやってほしい。まだ目覚めの時ではないんだ。


「ふきゅん、ちょういえびゃ、むきゃえにくりゅのを、わしゅれてた」


「はぁ……ですが、無事でいられて安心しました」


 安堵した彼女たちは、やはり深刻な布不足に陥っている巫女服の胸部分に手を当て深いため息を吐いた。

 彼女たちは巫女になりたてであるため、必要以上にがんばってしまう感がある。もう少し肩の力を抜いてくれてもいいのだが……今暫くは無理であろうと思われる。


 テーブルに運ばれてきた料理を見て、俺のぽんぽんはこれ以上ないほど音を立てる。出来たての上に芳しい香りをこれでもかと撒き散らしているのだ、無理もない話であろう。


 これっ、我がぽんぽんよ、はしたないですよ? もう少し我慢なさい。


 今日の朝食の献立はナンとダール、そして鶏肉のカレーであった。なるほど、俺の提供したスパイスをこのように使用したのか。やはり調理する者によってスパイスの配合は異なり、味もまた大きく変わるのだ。今から食べるのが楽しみでならない。


「いただきまちゅ!」


 俺は小さな手でフォークを握り、それを渾身の力でもって鶏肉へ突き刺す。そして、突き刺さった鶏肉を慎重に持ち上げた。


 ぽろっ。


「ふきゅん!?」


 しかし、鶏肉は喰われてたまるか、と言わんばかりにフォークからぽろりと落ちてしまった。おのれ、この身体さえまともであれば、おまえの暴挙など許さないというのに。


「ちゃらきゅちぇ! こうにゃったら、てぢゅかみだぉ!」


 俺はフォークの使用を断念し右手を使用する原始的な食事を開始した。器用に道具を使えない今の俺では、こうした方が手っ取り早い。

 この場合、左手は使用してはならない鉄の掟があるのだが、それは昔のミリタナス神聖国は左手で……おっと、食事中なのでこの話はカッとだぁ。


「あぁっ!? なんて豪快な!」


「いや、そうじゃないでしょう、フゥラル。聖女様、わたくしたちがお手伝いいたします」


 俺が食事に四苦八苦していると、巫女のフゥラルとフゥレルが食事を口に運んでくれた。至れり尽くせりであるが食事くらいは自分でおこないたいものだ。


 だが、今の俺は子珍獣、年上のお姉さんには逆らえない、逆らい難い! 素直に差し出された料理をもぐもぐする作業を強いられているんだ!


『な』『なんだってぇぇぇぇぇっ』『!?』


 俺のネタに反応したのは、床でまったりしているもぐもぐたちと戯れているチユーズたちだ。

 俺同様に彼女らもちんまりしており、もぐもぐたちの上に乗ってもぐもぐライダーズなるチームを結成していた。


 尚、もぐもぐライダーズは暴走族である。ぶぉん、ぶぉん! ぶぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!


「はい、お上手ですよ、聖女様はぁはぁ可愛い」


「フゥラル、興奮し過ぎよ」


 そうフゥラルを指摘したフゥレルは鼻からダバダバと鼻血を流していた。ダメだこの姉妹、早くなんとかしないと。


 結局、この二人の巫女に気を取られて、料理の味をまったく堪能できなかった。ふぁっきゅん。






 食事を終え八階の自室へと戻った俺は重大なことに気が付いた。最初から月光蝶モードになって空を飛べばよかったことに。気付くのが遅ぇよぉん!


「よち、せっかきゅだかりゃ、たいじゅのてっぺんに、いってくりゅ」


「……へ?」


 俺のフリーダムな発言に紫色の目を点にする双子の姉妹。俺はこの隙に月光蝶の翅を生やしてふわりと宙に舞う。そして天井の空いている隙間を掻い潜って表へと出た。


 実は最上階には屋根がない。よって、部屋の中にリスなどの小動物や小鳥たちが不法侵入してくるのは日常茶飯事となっている。ただ、目撃例が俺の部屋だけなのはどういうことであろうか? 解せぬ。


 ちなみにもぐもぐは各部屋に頻繁に入り込んでベッドの上でゴロゴロしている。もう土の中に戻る気はないらしい。もぐらぇ。


 ミリタナスの民も何故かもぐもぐたちを神聖な獣として扱いつつある。このままではミリタナス神聖国がもぐもぐ神聖国になってしまうのは時間の問題であろう……っは!?


 ま、まさか……これはモグラス帝国の策略の可能性が、微粒子レベルでに存在する……? まさに【微レ存】というヤツである。恐ろしや、恐ろしや。


「……きゃんぎゃえしゅぎきゃ。きにちないでおきょう」


 大樹の頂上を目指し入り組む枝を避けながら上昇を続ける。やがて日の光が見え、枝の迷宮は終わりを見せた。太陽の輝きが目に染みる。


「ふきゅん、こりゃあ、じぇっけいだじぇ」


 大樹の天辺に留まり景色を眺める。目に映るのは広大な砂漠だ。どこまでも砂の大地が広がっており、それを見た俺を圧倒させた。だが、同時にその景色は途方もない虚しさも与えてきたのである。

 その姿は言うなれば、万物の終わりの姿であったのだから。


「みどりいりょが、あっとうてきに、たりないんだじぇ」


 そう、緑色が圧倒的に足りないのだ。これでは雨が降らない、降りにくい! 俺なら、この砂漠地帯にチート能力を遠慮せずに使って緑を生やすだろうな。


 二つ目の目標を掲げた俺は意気揚々に自室へと戻った。そして、部屋で待っていた巫女たちに怒られたとさ。ふきゅん。

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