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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十三章 珍獣のミリタナス神聖国復興記
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571食目 大神殿を作ろう

 楽しい、楽しい、昼食の時間だ。今日の献立はシンプルに【お餅】である。というのも、大樹の葉を料理に使用することを考えたからだ。


「上手くできてるかな?」


〈フリースペース〉から取り出した大樹の葉に巻かれたお餅に噛り付く。この際に葉は取らない。また、具は何も入れていない。純粋にお餅を楽しむ調理方法を敢えて取った。


 この大樹の葉は一度、お湯で茹で、しんなりさせてからお餅に巻くのだが、大樹は海水を引き上げ塩分をろ過して俺たちに水を与えてくれていることもあり、その際に塩分は大樹の葉に一時的に蓄積されることが判明したのだ。よって、【リ・ミリタナス】の葉は齧るとしょっぱい。

 これに気が付いた俺は即座に、この料理を制作する決断を下したのである。


「いただきむぁす、はむっ」


 噛みしめるとお餅の官能的な柔らかさが歯を楽しませ、続いて大樹の葉の僅かな苦みと程よい塩味が口の中に広がってゆく。そして、お餅自体のほのかな甘さと合わさり、心をほっとさせてくれるのである。


 うむ、やはり、お湯で茹でて葉の塩分を抜くと丁度良い塩梅になるようだ。


「ふきゅん!?」


 だが、ここで予想外の出来事が起こった、アクシデントというヤツである。お餅を食べ進めてゆくと何故か辛みを感じ始めたのである。


「これはまさか……大樹の葉はもともと辛みを備えていた?」


 これはなかなかに興味深い葉である。味見した際は数回噛んで、すぐに飲み込んでしまたったが、どうやらしっかりと咀嚼することによって辛みが発生する不思議な食材であることが分かった。それに辛みもマイルドなので、これならば子供でも大丈夫であろう。


「これは面白い。俄然、やる気が湧いてきたぞぉ」


 この葉の特性を活かせば、さまざまな料理に使えそうである。確か〈フリースペース〉にお餅がまだ残っていたはずだ、それに常備菜として作ってある【フレイベクス肉のそぼろ】を詰め込んで蒸かす。

 これだけだとパサつく可能性があるので、フレイベクス肉の脂身を細かくした物を混ぜ込む。これでジューシーな仕上がりになるだろう。


「中華鍋は万能だってそれ一番言われてっから」


 フェザーライト鉱石で作った中華鍋の中に水を張り、その上に蒸籠を置いて蒸す。温まればいいので時間を掛けなくてもいいだろう。蒸したお餅にしんなりとした大樹の葉を巻けば完成だ。


「おやおや、面白いものを作っているねぇ」


「やはりエルティナさんは、お料理を作っている時が一番楽しそうですね」


 そこにタイミング良くプルルとメルシェ委員長がやってきた。二人はサンドイッチを片手に抱えながらコップに入っている牛乳をストローにて飲んでいた。

 このサンドイッチはメルシェ委員長が作ったそうで、中の具はスクランブルエッグをレタスで包んだ物を挟んでいるようだ。こうすると食べた時にスクランブルエッグがこぼれないのでポイントは高い。


 ミルクが入ったコップはジェフト商店のポイ捨て可能なコップとストローである。そこら辺に捨ててもやがて大地に帰るというエコな使い捨ての容器だ。

 これにクーラントビシソワーズをいれて販売していた頃が懐かしい。熱さが厳しい季節になったら、再び作って皆に振る舞うのもいいのかもしれない。


「ふきゅん、丁度良い。まだ食べれるなら味見をしていくんだぁ」


 出来上がったばかりの肉そぼろ入りの大樹の葉巻き餅を二人に手渡す。彼女たちは「あち、あち」とお餅を手の中で転がしながら熱を冷ますと、餅をその小さな口へ慎重に運んだ。


「ふぁ……これ美味しいねぇ! お餅の弾力が丁度良いし、巻かれた葉の塩っ気も最高だよ!」


「中のそぼろもジューシーで、淡泊な味のお餅によく合いますよ」


 どうやら二人もこのお餅を気に入ってくれたようだ。そして、味の方も想像どおりとなってくれていたようで一安心である。


「二人とも、よぉく噛んで味わうのだぁ」


 俺は暗黒微笑を浮かべて二人にそう勧める。二人はなんの疑いもなく俺の指示に従って咀嚼した。

やがて「あっ!?」という驚きの声を可愛らしい口から発する事となったのである。


「ふっきゅんきゅんきゅん……計画どおり」


 二人の驚きの声を聞いた俺は満足した。これにより、俺の舌がおかしくなっていなかったことが実証されたのである。


「ちょっと、食いしん坊。これに辛子でも入れたのかい?」


「最初は辛さがなかったのに、急に辛くなって驚きましたよ」


 やはり、説明を要求されたのでネタばらしをおこなう。すると、二人は不思議な大樹の葉に興味を持ったようだった。


「へぇ、この葉が辛みをねぇ……親子丼の三つ葉の代わりにしたら面白そうだねぇ」


「細かく刻んだ大樹の葉を、ソテーした鶏もも肉に散らしたらフォルテが喜びそうです」


 この未知なる食材に興味を持った少女たちは妄想の世界へと飛び込んでしまった。プルルはただ単に好物の進化形に涎を垂らしているだけなのだが、メルシェ委員長はその先にへと突入しているらしく「いやん、いやん」と呟きながら身体をくねくねさせている。


 この異様な状況に、二人は大変に危険な状態にある、と判断した俺は伝家の宝刀【斜め四十五度チョップ】を炸裂させ二人を正気へ戻した。


「いいところだったのに」


「酷いですぅ。もう少しで……」


「ふきゅん、もう少しで?」


「あ、いえ! なななななな、なんでもないです」


 ぷりぷりと怒るプルルと、顔を真っ赤にして俯くメルシェ委員長。メルシェ委員長のほうはかなり危険な領域へと突入していた模様である。


 二人を正気に戻した俺はむしゃむしゃとお餅を食べ進め、食後の緑茶で昼食をしめると再び復興作業へと戻った。






「闇の枝、そいつはそこに置くんだぁ」


「ふきゅおん」


「だから、飲み込むんじゃない。ぺっしなさい、ぺっ!」


 出来上がった石材は闇の枝に咥えさせ積み上げてゆく。だが案の定、闇の枝は石材を飲み込んでしまうことが多く仕事がはかどらない。やはり、日常魔法〈ゼログラビティ〉を用いて積み上げていった方が早いだろうか。

 しかし、〈ゼログラビティ〉は単体で使用しても意味がない、複数の魔法を組み合わせないと効果を発揮できないのだ。それに魔法の効果が切れての事故も多いと聞く。やはり、ここは俺と闇の枝ががんばった方がいいだろう。


「エルティナさん、もっと右です、右!」


「あぁもう、ずれてるよ、食いしん坊!」


 メルシェ委員長とプルルに手伝ってもらいながら作業を進めるが、どうにも上手くゆかない。頭では分かっているつもりでも、実際にやってみると位置がずれることずれること。


「ふきゅん」


「ふきゅおん」


 問題は上手く石材を配置できるかどうかだ。闇の枝は結構大雑把であるので細かい作業は苦手である。そこで俺は月光蝶にて上空から配置を確認し、ゼログラビティを使用して位置調整をおこなっている。

 月光蝶はいもいも坊やに制御してもらえばいいので、俺は魔法を使うことに専念できるのだ。


 あ、やべっ、またずれた。空から見ても大して結果が変わらん。ふぁっきゅん。


「これは闇の枝だけじゃ時間が掛かり過ぎるな。仕方がない」


 俺は水の枝、火の枝も呼び出し作業に当たらせることにした。戦いは数だよ。


 雷の枝、そして風の枝は実体を持たないので石材を持ち上げることができない。よって、お留守番だ。

 また、土の枝は制御に不安が残るので使用は控えている。せめてグレオノーム様が目覚めてくれれば話は変わるのだが、今はまだお休み中だ。また、とんぺーもいまだ微睡の中にいる。


 尚、初代様は人型であるので最も作業に適しているのだが、おっぱいが丸出しという理由で自制している。あんなんじゃ、青少年たちが若さに任せて暴走してしまうだろう。


「ふきゅん、いいぞぉ。チゲは器用だな」


 火の枝を制御するチゲは器用に石材を積み上げていった。たまに石材が焦げているのはご愛敬だ。


 しかし、水の枝を制御するヤドカリ君は丁寧であるのだが作業がすこぶる遅い。そして、たまに石材をチョキンと切断してしまい凹んでいた。

 水の枝自体がヤドカリのハサミの姿を模しているので、仕方がないと言えば仕方がない。


「ヤドカリ君、大丈夫だぞぉ。ちょん切れても土の枝に直させるから、がんがん積み上げて行ってくれ」


「ふきゅおん」


「だから、食べるんじゃぬぇ」


『いもぉ……』


 闇の枝は半分くらい自我が目覚めているのか、制御主であるいもいも坊やの言うことをあまり聞かない状態にあった。

 こればかりはいもいも坊やの成長に期待するしかないが、いっそ闇の枝はザインみたいに完全に自我を得てもらった方が手っ取り早いのかもしれない、と考え始めている。


 この闇の枝だけは俺の食欲の影響をもろに受けているらしく、本当にどのような成長を見せるか予断を許さない。果たして、最終的にどんなヤツになるのやら。


「ふきゅおん?」


「わかった、わかった、でも俺は石材は食べられないからなぁ」


 闇の枝は「おいしいよ?」と石材を勧めてきたが、流石にそれを食べることはできない。闇の枝の好意だけを受け取っておく。


 といっても、食っていいわけじゃないからな!? くるるぁ! どさくさに紛れて食べるなし!


 こんなやり取りで作業を進めてゆき、日が傾く頃には大神殿がだいたい完成した。しかし、出来上がった大神殿は幼児が積み木で作った家のごとく歪な形に出来上がっていたのである。壊れるなぁ大神殿。


「……圧倒的に歪なんだぜ」


「ふきゅおん」


「ひえ~、地震が来たら崩れちゃいますよ」


「うむむ……仮組のつもりだったけど、思ったよりも酷いね」


 この出来栄えに俺とメルシェ委員長、プルルは揃って白目痙攣状態となった。そして、闇の枝は隙あらば食おうとしていた。


 半日の時間と枝三匹を呼び出した結果がご覧の有様だよ! どうしてくれるのこれ?


「ここまでやっていただければ、後は我々で調整できます。本当に見事な仕事でございました。本来なら何十年と掛かる作業を僅か半日でやってのけたのです。ご自身のやってのけた偉業を誇ってください」


 そうボウドスさんに褒められてしまたら「うん」と頷くしかない。そして、その日の仕事の終了と共に【てぃうん、てぃうん】という効果音と共に縮む我が身体。またしても珍獣赤ちゃんが爆誕したのである。


「わわっ!? エルティナさんがまた赤ちゃんに!」


「本当に食いしん坊の身体はどうなっているんだい?」


 俺のありさまに呆れ顔のクラスメイトに対し、俺は「ばぶ~!」と返事を返すことしかできなかった。

 そこへミレニア様を抱いたボウドスさんがやってきた。どうやら、大神殿を彼女に見せていたらしい。


「う~!」


「はっはっは、お疲れさまでございました、エルティナ様。ミレニア様とともにミルクの時間といたしましょう。ささ、ご学友たちもささやかではありますが夕食を用意しております。食べていってください」


 メルシェ委員長とプルルにそう告げたボウドスさんは、地面にて短い手足を意味もなく動かす俺を抱き上げ穏やかに微笑むのであった。

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