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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十三章 珍獣のミリタナス神聖国復興記
570/800

570食目 残念! 逃げられない!

 今日もいい天気。さぁ、復興作業二日目だ、張り切ってゆこう。


「エルティナ様、ラングステン王国より、ご学友がいらしております」


 朝食を終えた俺が町の設計図を広げ、ボウドスさんとムー王子を交えて意見を交換していると、俺のお付きの従者がそのような報告をしてきた。どうやらクラスメイトたちが様子を窺いに来てくれたようである。


 尚、今日の朝食は温めた豆乳に醤油をひと垂らししたものに、一口サイズのお揚げを漬したものだ。

 豆乳のさっぱりした味で、お揚げのこってり感が引き立つなんとも【へるすぃ~】な朝食である。


「やぁ、食いしん坊、忙しそうだね」


「おはようございます、エルティナさん」


「ふきゅん、プルルにメルシェ委員長。おはようなんだぜ」


 朝早くから様子を窺いにやってきたのは、新人桃使いとなったプルルとクラス委員長のメルシェであった。メルシェは手に分厚い紙の束を抱えている。いったい何に使うのであろうか。


 きゅぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!


 その時、俺に電流走る!


「ふきゅん!」


 彼女の持つ紙の束を見て、それが何であるかを悟った俺は、速やかにこの場からの離脱を試みる。しかし、その自由への逃走は桃色の少女によって阻止されてしまった。なんてこったい。


「ふっふっふ、逃げれませんよぉ? そのためのプルルさんですから」


「くっころ!」


「食いしん坊はたまにその言葉を言うよね。いったい、どんな意味だい?」


「諦めが鬼になった時に自然と出る言葉だから説明はできないんだぜ」


 まぁ、別に説明してもいいのだが、ここは言わないでおくのが大人の醍醐味であろう。


「はい、どうぞ」とメルシェ委員長に、にこやかな表情で手渡された紙の束は、案の定アルのおっさん先生が出した宿題であった。ふぁっきゅん。


「随分と多いんだぜ」


「まぁ、五年分だしね。卒業までに全部やっておけってさ」


「アルのおっさん先生は鬼だった……?」


 情け容赦のない宿題量に俺は白目痙攣状態となる。聖都リトリルタースの復興と宿題を同時にこなせだなんてあんまりでしょう?


 アルのおっさん先生、汚い。流石、アルのおっさん先生、汚い。大事なことなので二回言った。


「しかし、もう瓦礫を撤去したのかい? 早過ぎるだろうに」


「あぁ、闇の枝に食わせたからな」


「また無茶なことを。町の人たちに怖がられなかったのかい?」


「ビビらないとでも思っていたのかぁ?」


「「これは酷い」」


 折角ラングステン王国から来てくれたのだ、フィリミシアの復興具合を彼女たちに訊ねてみることにする。


「うん、良い感じに復興は進んでいるよ。聖女ゼアナ様が誠意的に復興を支援していることも大きいね」


 フィリミシアは住人たちの士気の高さから、極めて早い速度で復興しつつあるとのこと。これは、こちらも負けていられない、と俄然やる気が出てきた。


「お? プルルにメルシェ委員長じゃないか。来てたんだな」


「おはよう、ライオット。はい、ライオットにも宿題だよ」


 プルルがライオットに宿題を手渡そうとした瞬間、彼の姿が掻き消えた。本気で逃げ出した結果、ライオットは残像を残してこの場から離脱したのである。

 そんなに嫌か、宿題。


「ぐえっ」


「ふふん、甘いよ。桃使いとなった僕を舐めてもらっては困るのさ」


 だが、ライオットは僅か百メートルほど先で、プルルの大きな尻に押し潰されていたのである。恐るべきはプルルの【尻力】もとい桃力であろうか。


「ふきゅん……踏み込みで地面が抉れてやがる」


 地面には抉れた後が二つあった。一つはライオットが作った物、もう一つあるのはプルルが作った物であろう。


「御用だよ、ライオット」


「うぐぐ、少し前まで普通の身体能力だったのに、どうしてそこまで能力が上がったんだ?」


「全部桃力の特性を利用した結果だよ。僕の桃力の特性は【集】、ありとあらゆるものを集めることができるのさ」


 で、でたぁぁぁぁぁぁぁっ! トウヤが言っていた、桃力の中でも特に反則レベルの特性!


 特性【集】、その能力はプルルが言っていたように、ありとあらゆるものを自分に集めるとうものだ。


 先ほどのやり取りで彼女の特性を説明するのであれば、彼女はまず利き足に辺りに漂う【力】を集め踏み込んだ。

 更には背に【追い風】を集めて加速したのであろう。そして、ライオットを捕獲した後に【重さ】を集めて押し潰したのである。


 あ、プルルの尻は元々でかいから【重さ】は集めていないのかもしれない。


 この特性はとにかく集めることができるのだ。自分の内にある力はもちろんのこと、外部からの力ですら集めて使用することができるのである。


 ただし、その驚異的な特性ゆえに消費する桃力も規格外となり、それゆえに使用の際には、よく考えて特性を発動させなければ、桃力が枯渇してビクンビクンするハメになる。気を付けろぉ。


「流石はプルルの【尻力】といったところかな?」


「ちょっと、食いしん坊! 尻力じゃなくて桃力だよ! 最近、ますます大きくなってきて気にしているんだから止めておくれよ」


 プルルの桃先輩がトウミ少尉という時点で、尻が大きくなる運命からは逃れることはできないのではないだろうか。

 いや、俺も笑ってはいられないか、明日の我が身とはならない、と言い切れないのだから。


「くそぅ、プルルの尻にやられた」


「ライオットも言わないでおくれ!」


「ふがが!?」


 顔を赤らめたプルルはライオットの両頬をつまんで伸ばした。そのことによってライオットは間抜けな顔を晒すハメになる。ぷ~くすくす。


「まぁまぁ、プルルさんのお尻はそんなに大きくないですよ」


「流石はお尻女王は貫禄が違った」


「うぐっ! さ、最近はグリシーヌさんの方が大きいんですよ! だから私はお尻女王を退きます! えぇ、そうですとも、私のお尻は小さくて可愛いんです!」


 なんと、メルシェ委員長を上回るお尻をグリシーヌが持っていたとは! だが、彼女は亜人であるため、人間よりも肉体の成長速度は遥かに早い。成人である十五歳を目安にして頂点を決めなくては、なんとも言えないであろう。


「ふきゅん、なるほど。暫定お尻女王はグリシーヌか……だが、まだまだ安心はできないぞぉ。ウルジェもかなりのものだし、ユウユウ閣下もデカい。意外に知られていないが、ララァのおケツもデカいんだ」


「あぁ、彼女は大きなおっぱいに目が行きがちですが、お尻も大きいですものねぇ」


「あ、大きいと言えば最近、アカネも大きくなってきたってボヤいていたねぇ」


 やはり、獣人や亜人の女子たちは第二次成長が始まっているようだ。だが、それに負けない速度で大きく成長しているプルルとメルシェ委員長はやはり将来、お尻女王に君臨するのではないだろうか。


「ふきゅん、さて、興味深い話ではあるが、そろそろ仕事に移るとするんだぜ」


「あぁ、時間を取らせて悪かったね」


「今日は私たちも用事はないのでお手伝いしますよ」


 プルルとメルシェ委員長のありがたい申し出に俺は感謝し協力を要請する。二人にはアドバイザーとして意見を出してもらうことにしよう。






 今日は大神殿を再建する予定である。人の手で一から作るとなると何十年掛かるか分かったものではない。そこで例によって土の枝をこき使い一気に建ててしまおうというわけだ。


「んじゃ、一丁やってみっか」


 大神殿は以前のように町の中心に建てる。その方が民には分かり易いという配慮からだ。


 土の枝を大地に突き刺し能力を発動させる。砂の大地は姿を食われ、どんどん硬い石へと姿を変えていった。


「むむ、石の形を整えるのが意外と難しい。大きさが揃わないな」


「ある程度は仕方がないでしょう。調整はこちらでおこないますので、エルティナ様はどんどん石を作ってください」


 ボウドスさんの提案に、それもそうだな、と納得した俺はせっせと巨大な石を作り出してゆく。それを民たちがボウドスさんの指示に従って形を整えてゆくのだ。


 民は日常魔法【アースブレイク】を使用して器用に巨大な石を整えていった。どうやら、本職の職人がいるようでスムーズに作業は進んでゆく。

 そして、皆のがんばりもあってか、昼頃には大神殿再建に必要な石が確保できたのである。


「ふぅ、後の作業は昼飯を食ってからでもいいだろう」


「そうですね、腹が減っては戦はできぬと申しますし」


 上着を脱ぎ、石の調整を手伝っていたムー王子が俺の意見に賛同してくれた。鍛え上げられた肉体が見事である。


 汗が太陽の光を反射してキラキラ輝いているとか……まさに王子か。


「賛成、賛成! 腹へったぁ!」


 獅子の獣人ライオットもまた引き締まった見事な肉体である。見せる筋肉ではなく、実用的な筋肉であるのが彼らしい。


 そんなライオットの鍛え抜かれた肉体を、顔を赤く染めつつ、チラチラ覗き見ているのはプルルだ。


「そんなに筋肉がいいのなら、筋肉兄貴に見せてもらうか?」


「だ、誰のでもいいってわけじゃないよ!? というか、覗き見てたの知ってたのかい……」


 最後の方は尻すぼみになってしまった彼女は恥ずかし気に俯いてしまった。異性が気になるお年頃であるようだ。この、おませさんめぇ。


「あぁ、分かります。この間もフォルテの裸を見たんですが……こう、なんというか、うふふ……」


 顔を赤らめ意味不明な言葉を撒き散らしながら、幼い身体をくねくねさせるメルシェ委員長は紛う事無き変態であった。これは修正が必要である。


「まぁ、程々にな」


 とはいえ、面倒臭くなってきたのでこの話題は素直にぽいっちょすることにした。俺は早く昼飯が食べたいのである。


「えぇっ!? 食いしん坊は何も感じないのかい!?」


 だが、彼女たちは話題を俺に振ってきたではないか。なんてこったい。


「別に……男の裸なんて治療の際に腐るほど見てきたからな」


 ただし、血塗れの肉体が最初に飛び込んでくるがな! じ~ざす!


「あ、そっか。食いしん坊はヒーラーだものね」


 俺の説明に納得してくれたのか、彼女たちはそれ以上の追求をしてこなかった。ただ、白状すれば、たまに男の裸を見た時にドキッとすることはある。そして、そのことにショックを受けてふきゅんと鳴いてしまうのだ。

 何故に元男の俺が、野郎の裸を見てときめかなくてはならないのだ。ふぁっきゅん。


 そんな、悶々とした気持ちを抱えながら、俺は〈フリースペース〉からお弁当を取り出したのであった。

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