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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十三章 珍獣のミリタナス神聖国復興記
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569食目 ミリタナスの聖女

 次の日のお昼頃、ボウドスさんたちが大神殿跡から発掘してきたというミリタナスの聖衣を身に纏い、俺は聖女の就任式に臨んだ。

 よくもまぁ、あれだけの破壊行為の最中にあって無事だったものだ。


「……ふきゅん」


 だが、いったいなんだ、この聖衣の布面積の少なさは。これがミリタナスの聖女が着る服だというのか?

いや、これは断じて服とは言えない、下着か水着の間違いであろう。どうか、そうであってほしい。


「よくお似合いですよ、エルティナ様」


「ボウドスさん、マジでこれが聖女の服なのか? 深刻な布不足に俺のハートがふきゅん、ふきゅん、言っているんですわ」


 マジでこれはヤヴァイ。まさか最初の試練が、無事に就任式を終わらせる、ではなくミリタナスの聖衣を堂々と着こなす、だなんて聞いてないよ~。


 しかも、こんなちんちくりんがハレンチ極まりない姿をしようものなら、犯罪行為としてポリスにとっ捕まれてしまう。

 これでは聖女として活動できない、活動しにくい! な、なんとかしなければ!


「ほ、本当はこれの上に何か羽織るんですね分かります」


 俺はちらっ、ちらっとボウドスさんを見た。しかし彼は満面の笑みを浮かべ、こう言ってきたではないか!


「いえ、それで全てでございます。初代聖女様はそもそも衣服を……おっと、これはタブーでございました。どうかお忘れを」


「あっはい、そうですか」


 俺はこれ以上の詮索を断念することにした。ただでさえ少ない布地を減らされては堪ったものではない。命に関わる重大な事案である。


「はっ!?」


 いや待て、今の話に重要なファクターを見落としているのではないか? そう考えた俺はボウドスさんとの会話を思い出す。

 そう、なんてことはない、初代聖女様は裸族であった可能性が高いのである。この俺とて元裸族、この程度のことで恥ずかしがるなど裸族の風上にも置けぬ。


「ふきゅん! さぁ、儀式に臨もうじゃないか!」


 俺は意気揚々と儀式に臨んだ。なんという晴れ晴れとした気分だ、もう怖いものなんてない。


「うおっ!? エル、その格好は流石に凄いな」


「どうだ?」


 途中でライオットと鉢合わせた。どうだね、この俺の晴れ姿は。

 だが彼は、スタイリッシュなポーズをズキュ~ンと決めた俺に対し、こう言った。


「ふんどし……いや、紐か。なんというか……圧倒的に足りない。主に胸」


「むむ、ライオットも色をほっする年頃か」


 友の意外な一面を垣間見た俺は、本格的に身体の成長を阻害することを検討し始める。

 実母が圧倒的なボインボインであるため、高確率で爆裂的な肉体に育つ可能性があるからだ。なので被害は最小限に抑えておきたいところである。





 聖女就任の儀式は厳かに始まった。燦々と輝く太陽がハッスルする青空の下、俺は多くのミリタナスの民に見守られながら、ミリタナスの聖女の証たる黄金のサークレットを大神官長のボウドスさんに授与された。


 本来はミレニア様が授与する立場であるのだが、現在彼女は「ばぶー!」が仕事の赤ちゃんである。よって、大神官長であるボウドスさんが代理をおこなったというわけだ。


 そして、聖杯でもある杖を預かり受ける。この中にはいまだにミレニア様の魂が囚われているに違いなかった。だからいつの日か、彼女の魂が解放されるまで俺が大切に預かり受けるのである。


「おぉ……ご立派な姿でございます、聖女エルティナ様」


 ボウドスさんは俺の姿を眩し気に見つめた後に感無量のため息を漏らした。


 ミリタナスの聖衣、黄金のサークレット、ミリタナスの証に聖杯でもある【ロッド・オブ・ミリタナス】を身に付けた俺は正しく【ミリタナスの聖女】となったのである。


「ありがとう、皆で力を合わせミリタナス神聖国を復興させよう」


 俺はミリタナスの民たちに手を振る。すると大歓声が沸き起こりミリタナス神聖国の名を、そして俺の名を褒め称えた。

 その顔には不安はない、皆が皆、希望に満ち溢れている。


「凄い信頼感ですね。貴女に不満を持つ者はミリタナスの民にはいないようです」


 ムー王子が声援を送る民を見渡し感嘆の意を示す。こんなことで結束の力が強くなるのなら安いものである。だが、その期待に応えなくてはならないのが聖女の辛いところでもあるのだが。






 俺が聖女に就任したことにより本格的に聖都リトリルタースの復興は開始された。まずは皆で聖都を埋め尽くす瓦礫の撤去作業となるのだが……カットだ!


「来たれ、闇の枝!」


「ふきゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!」


 市民の全てを大樹にて待機させ安全を確認した後に、俺は闇の枝を呼び出し聖都を覆い尽くす瓦礫をむしゃむしゃさせたのだ。

 町を覆い尽くす瓦礫が綺麗さっぱり消滅するまでの時間は僅か十五分、これが闇の枝の食べっぷりである。


 この【ミリタナスの聖女エルティナ】に自重という文字は既にない。利用できるものは全て使う覚悟だ。


「ふきゅおん、げふぅ」


「そうかそうか、満足したかぁ」


 仕事……もとい食事を終えた闇の枝は満足して魂内へと戻っていった。尚、瓦礫は歴史の味がしたらしい。


「よし、これで作業しやすくなったぞ」


 だが、俺から飛び出してきた全てを喰らう者・闇の枝を目撃した民から説明を求める声が相次いだ。そういえば、彼らに闇の枝を見せるのは初めてだったような気がする。この事をうっかり失念していたのは内緒だ。

 しきりに、聖女様は無事か、という声が後を絶たない。やっぱり、僅かばかりの自重は必要のようだった。反省。


「いかがいたしましょう」


 ボウドスさんがこの事態を収拾すべく俺に対応を迫る。これに俺は正直に、俺が何者であるか、を民に説明することにした。


「せ、聖女様が全てを喰らう者ですって?」


「でも、鬼を退治した英雄で……!?」


「始祖竜の子!? 始祖竜って……?」


「わ、わけがわからないよ……」


 やはり、というか民たちは大混乱した。だが、これは想定内である。なので、最後に俺は簡潔に説明を付け加える。


「全てを喰らう者はミリタナスの聖女エルティナの支配下にある。民よ、どうか安心してほしい」


 その俺の言葉に、民たちはよく分かっていない様子であったが落ち着きを取り戻したのである。考えることを放棄した可能性もあるが……気にするな!


「さて、民の方は落ち着いたし作業を再開させるんだぜ」


「かなり強引な説明でしたが、なんとかなりましたな。これで難題の一つを解決できました」


「ばぶー!」


 難題の一つを気が付かないうちにクリアーした俺はミレニア様のお褒めの「ばぶー!」をいただいて復興作業を再開させる。


「まずは道路の整備からだな。道がなくては町を作れない、作りにくい!」


 民に全てを喰らう者について説明したので、もうやりたい放題やってくれる。


 ふきゅん? 自重? 何それ、美味しいの?


 やはり呼び出すのは土の枝だ。土の枝は大地に関することであればできない事はない。見せてやろう、チート能力というものを!


「まずは石畳をこう……ずみょわぁぁぁぁっ、と敷いて」


 土の枝を大地に突き刺し砂の大地の【姿】を喰らう。姿を失った砂はその姿を石へと変化させ、瞬く間に石の道とあいなった。どやっ?


 土の枝に姿を食われたものはその姿を失うが、即座に別の姿を与えられるのである。ただし、何にでも変えれるわけではない、大地に関するもの以外は無理だ。


 だから、男から女へは無理なのである。分かったかね、ザインちゃん?


『無念でござる』


 あれから何度も練習してはいるが必ず最後にはザインちゃんになってしまう。ひょっとしたら、性別変換きのこセクスリバースの呪いかもしれない。

 俺は毒は無効にできるが呪いは完全には無効化できないからな。暇な時間ができたらディレ姉に相談してみよう。彼女は呪いに詳しいから。


「おぉ、なんという奇跡! ですが……エルティナ様、これでは道が広過ぎて不便になりますぞ」


「あるぇ? 本当だ、少しやり過ぎちゃったか」


 どうやら力を籠め過ぎて道幅を過剰に広げ過ぎてしまったようだ。慣れるまで少し時間が掛かりそうである。

 微調整を施すも、この微調整が厄介であった。桃力だけでなく、神気もモリモリと使用するハメになる。


「ここを、もうちょっと……ふきゅん!? は、はみ出たっ!」


「聖女様! もう少し左の方を削ってください!」


「慎重に、慎重に! はい、結構でございます!」


 ここからは民と協力して道を作り上げてゆく。新たな聖都リトリルタースは管理をしやすいように【碁盤】を参考にして作り上げてゆくことにしたのだ。だから最初に道を造ってゆくことにしたのである。

 最初に住居を作ったのも理由の一つである事は言うまでもないだろう。


「聖女様、次はあちらの区画を」


「任せろ~」


 これはボウドスさんの意見を取り入れている内に自然とこうなった。やはり、大きな町を管理するにはきちっと区画が整理されている方がやり易いとのこと。

 反対する理由などないので彼の意見は積極的に取り入れる。将来的にはミレニア様と彼に国の運営を任せることになるので当然であろう。


「こ、これは凄まじい。わずか半日で道を作り上げてしまうだなんて」


 日が傾き、七色に輝く鳥たちが夕日に染まる空を翔け、我が子が待つ巣に帰ってゆく。そんな光景をぼ~っと眺めていた俺は、白いもこもこの巻き毛を夕日の赤で染め上げたムー王子の呟きを耳にした。


 そう、彼が言うように、聖都リトリルタースの主要な道は、僅か半日で完成を見たのである。


「ふきゅん!」


「うー!」


 その代償が、俺の赤ちゃん化である。まただよ。


 理由は簡単、神気を多用しまくったせいである。土の枝の能力の微調整に手こずり、神気をじわじわ消費していった結果、俺は道の完成と共に縮んでしまったというわけだ。


「いやはや、エルティナ様のお力は凄まじいですが、その反動もまた凄まじい」


 ボウドスさんが二人の赤ちゃんを抱きかかえ困ったような、それでいて嬉しそうな表情を見せる。傍から見れば孫を二人も授かったお祖父ちゃんといったところだろうか。

 

 こうして、聖都リトリルタース復興の一日目は幕を閉じた。尚、次の日には赤ちゃん状態は治っているハズなので心配しないでいただきたい。ばぶ~!


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