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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十三章 珍獣のミリタナス神聖国復興記
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567食目 復興のシンボル

 休むことなく再び聖都リトリルタースへレッツテレポートした俺は、現地の聖光騎兵団とヒャッハーどもと合流、ミレニア様たちが来るまでに仮説の居住区やら何やらを立てることにした。

 ハッキリ言ってしまえば、ここからが俺の能力の見せ所である。


 お見せしよう、全ての枝を従えた真なる約束の子のチート力を。


「来たれ土の枝!」


 さっそく、新たに加わった土の枝を発現させる。俺の足からメリメリと音を立て、勢いよく生えてくる木の枝、これこそが土の枝の姿である。枝なのに根とはこれいかに? だが、気にするな!


「よぉし、いいぞぉ」


 本来、全てを喰らう者は奪う立場にあり、他者に何かを与える事はない。しかし、この土の枝だけは例外であるのだ。


 確かに土の枝も他者から力を奪う機能を備えている。しかし、土の枝はそれに加えて他者に恩恵を与える能力を備えており、それは大地に関係する物であれば、ありとあらゆる物を瞬時に生成し、分け与えることが可能であるのだ。


 つまり、あっという間に新鮮なお野菜を作り出すことが可能ということである。土の枝、マジ半端ねぇっす。


 だが、忘れてはいけない。土の枝もあくまで【全てを喰らう者】であることを。

 土の枝の役割は【上げて下げる状態】を作り出すことにある。つまり、希望を与えた後に他の枝で全てを奪い、絶望して力尽きた者をその根で喰らい尽すのである。

 ある意味で最も残酷な全てを喰らう者が土の枝なのだ。マジで震えてきやがった。


 だが、主である俺がしっかりしていれば、土の枝はあっという間に天使のような良い子ちゃんになる。さぁ、見とけよ見とけよ?


 俺はじゃき~ん! とスタイリッシュなポージングを決め〈フリースペース〉から、おんぼろ傘を取り出す。ところどころに穴が開いており傘本来の機能を果たすことができない哀れな傘だ。

 しかし、この傘は雨を凌ぐために取り出したものではない。これから行う儀式のために取り出したのである。


 そう、この傘こそ桃先生の大樹を生み出すきっかけになった、ヒーラー協会の裏の空き地に寂しく放置されていた傘であるのだ。

 ご利益たっぷりだぞぉ。


「ん~……っば!」


 俺は渾身の力を籠め傘を天に突き出した。すると大地に潜り込んでいた土の枝がビョクッとその身体を振るわせたではないか。


「ん~~~~っば!」


 再び俺はおんぼろ傘を天に突き上げる。それに合わせ巨大な木の根は胎動を始めた。奇跡が起こる時はもう間近だ。


「んばば!」


 んん~? 間違えたかな? ま、ええわ。


 俺の裂帛の気合いと共に、大地から緑色が眩しい小さな芽がぴょこぴょこと生え出し、ものすごい勢いで成長してゆく。その成長は留まることを知らず、三分も経たずして巨大な樹へと成長を遂げてしまったのである。

 それを土の枝でもって形を変えてゆく。どうやって変えているかといえば、生えてきた大樹に土の枝を突き刺し【元の姿】を喰らう方法で変えてゆくのだ。


 元の姿を失った大樹は徐々にその姿を変化させていった。桃先生の大樹よりは小ぶりであるが、内部構造はそれとほぼ同じだ。

 流石に大樹の内部にはヒーラー協会はないが、それに近しい物を木の枝を使用して作り上げている。

 木の枝から生えている小さな葉っぱはライトの役目を果たしており、人が近付くと自動で光り出すという仕組みになっている。その内、魔力に反応して光り出す苔やキノコも生えてきそうだ。


「よし、こんなものか」


 俺の無茶苦茶な能力に仲間たちも、ぽかーんと口を開けたままお間抜けな顔を晒している。ただし、ライオットは以前にこれと似たような体験をしているので、それほど驚いていない様子であった。


 取り敢えず大樹の内部に入ってきちんとイメージどおりに出来上がっているかをチェックする。広さ、耐久性、葉っぱの明るさ、全てにおいて問題がなかった。やったぜ。


「こりゃまた、随分とでっかく建てたな、エル。まだ上があるのか」


 木の根でできた緩やかな螺旋階段を登りつつ、ライオットは感嘆を漏らした。


「ふっきゅんきゅんきゅん、ライ、ここはもう何もないような状態だからな。取り敢えずは、八階建てで収容人数は五百名を想定して作ったぞ」


 俺は五百名と言ったが詰め込めば八百名はいける。その際はかなり窮屈な生活になるが。


「それにこの大樹の役目が終わったとしても、闇の枝を呼び出せばあっという間に片付けることができるからな」


「これを食べさせてしまうだなんて、とんでもない。ミリタナス神聖国の復興のシンボルとして扱うべきです」


 ミカエルはこの仮説住居を【復興のシンボル】として扱うべきだと主張した。なるほど、確かにこの木は復興の際の拠点になるし、復興の際に作り上げた記念すべき最初の建物である。

 断る理由もないし、彼の意見を採用してもいいのかもしれない。


「私もミカエル殿の意見に賛成です。これほどまでの神秘……いや奇跡を見せ付けられては」


 ムー王子は呆れを通り越して感動の域に達していたようだ。突如として出現した大樹、しかも内部が住居になっていることを自分の目で確かめ、なんとも珍妙な笑みを浮かべている。もう自分でも、どのような表情をすればいいのか分からなくなっているようだった。


 だが、俺の能力は全てにおいて万能というわけではない。良いことがあれば悪いことが起こる。それは陰と陽が存在することで帳尻が付くように定められた宿命であった。


「もぐ~!」


「な、なにぃ……!? おまえらはぁ!」


 枝で作られた階段を登った先に異形の存在が俺たちを待ち受けていたではないか。灰色の体毛に覆われ、巨大な爪を備える獰猛な獣たちが俺たちの行く手を遮ったのである。


「た、たいへんだぁ……! 建てたばかりの大樹内にもう不法侵入者がっ!」


「いやいや、どうやって入り込んだんだよ」


 ライオットの貴重なツッコミをいただいた俺は冷静さを取り戻し、無数に蠢く獣たちに対し圧倒的な威嚇ポーズを取る。

 だが獣たちはこれに対抗。あろうことか己のぽんぽんを曝け出し、いつでもかかって来い、と挑発してきたではないか!


「こいつら……できる! 油断するな!」


「油断も何も降参しているじゃないか」


 ライオットの言い分も分かるが、これは俺たちの油断を誘う狡猾な罠だ! 断じて油断するわけにはいかない!


 俺に気付かれることもなく大樹内に侵入してきた凶悪な獣たちなのだ、どのような行動を起こしてくるか分かったものではない。

 よって、最大級の迎撃態勢を整えなければ滅ぼされるのはこちらの方である。さぁ、来るなら来い。


「エル様……この子たちは普通のモグラですわよ」


「もぐ~」


「なん……だと……」


 クリューテルに抱かれた一匹の小さなもぐもぐは、うんうんと頷いた。

 信じられない、普通のもぐもぐたちが生まれたばかりの大樹にどうしているというのだ。


「もぐ~もっも、もぐ~」


「ふきゅん、そういうことだったのかぁ……」


 もぐもぐたちの話によると、土の枝が大樹を一気に成長させた際に地中でエサ取りに夢中になっていた彼らを巻き込んでしまったらしい。

 そして、九死に一生を得たもぐもぐたちは自分のいる場所がどこか分からず混乱していた。そこに俺たちが現れ更に混乱の色を深めてしまったらしいのだ。


「何はともあれ、凶暴な獣でなくてよかったぜ。俺はてっきり【モグラス帝国】の連中が……おっと、これはモルティーナに口止めされていたんだった。忘れろぉ」


「「「!?」」」


 危惧していた地底人の侵攻でないことが分かった俺は気を取り直して大樹内を進む。やはり、ところどころにもぐもぐたちが転がっていた。

 どうやら、彼らにとっては過ごしやすい環境であるようで、極めてだらしない恰好で寝ていたのである。野生動物の誇りはどこへ行ったのだろうか。


「もぐ~、もぐぐぅ」


「ふっきゅんきゅんきゅん……!」


 戒めとして一匹のもぐもぐの腹をわしわしと撫でて凌辱することに成功。気を良くした俺は暗黒微笑を浮かべながら更に奥へと進んでゆく。


 やがて、俺たちは四階の中央部分に到着した。そこには木の枝で作られた大きな噴水が設置されており、そこから湧き出る水が溜まるようにプールが設置されている。


「ここが生活水の湧き出る場所だな……む、少し大雑把に作り過ぎたか。噴水が歪んでいやがる」


 俺は何気なく説明したつもりであったのだが、これを見て聖光騎兵団の面々は目が点になっている。そして、もぐもぐたちがそのプールの中でぷかぷかと浮かんでいた。気持ちよさそうである。


 というか、おまいら、そこで泳ぐんじゃぬぇ。ちょっと自由すぐるでしょう?


「ちょ、ちょっと待ってください! この水はどこから汲み上げているのですか!?」


「そうです! 聖都リトリルタースの殆どの水源は枯渇しており、大神殿の真下からのみ水が湧き出ている状態だったのですよ!?」


「ここって、テレポーター施設のすぐ隣、大神殿跡からかなり離れていますよね!?」


 まてまて、矢継ぎ早に話されては答えれない、答えにくい!


「落ち着きたまえ」


「落ち着いた、凄く落ち着いた」


「もぐ~」


 俺の魔法の言葉によって聖光騎兵団の騎士たちは落ち着きを取り戻した。よって、俺は説明を再開させる。人の話は最後まで聞けってそれ一番言われてっから!


「この水は大樹が地下千六百メートルにある地下水脈から吸い上げてここまで運んでいるんだぁ。浅い場所にある水源は軒並み枯れているからな」


「ち、地下千六百……それは人の手では無理です」


「それに地下水脈といっても実は海水だ。大樹が塩分を取り除いてくれているんだよ」


 こんこんと湧き出る水のカラクリを説明した俺は、噴水の脇にある大きな窪みを皆に見せる。そこには少し茶色がかったこぶし大の塊が数個ほど転がっていた。

 そう、これが大樹が海水をろ過した後に残る塩分。つまりは、お塩である。


「これは……塩ですか?」


「そぅ、塩だぁ。もちろん、食べれるぞ」


 俺は小まめに窪みの様子を窺い、塩の塊を取り除いて揚げるよう聖光騎兵団の騎士に指示する。たったこれだけのことで飲み水が確保できる、とあって騎士たちは大いに喜んだ。

 いずれは水道管を設置して各部屋に蛇口を設けたいが、流石にそれは贅沢というものであろうか。


 そもそも、そんな技術は持っていないのでフウタに依頼をしなくてはならない。ふははは、そんな金があると思っているのかぁ!? この企画は早くも終了ですね分かります。


「んで、ここがトイレな。個室が五つ、男用が三つ」


 トイレは各階に設置してある。安心と信頼のぼっとん便所だ。爆誕したうんうんは大樹が肥料として処理してくれる。自然のサイクルというヤツだ。

 大樹はバカでかいので根腐れの心配など不要である。だから安心して放出してほしい。


 今は穴だけが開いている簡素なものだが、早い段階で陶器製の便座を取りつけたいものである。

 流石にトイレ周りだけは充実させたい。男なら気にしないであろうが、女性はいろいろと大変であるから。


 本来なら男女を分けたかったのだが、各階にトイレを設けたら神気の残量がヤヴァイことになってきたので泣く泣く断念した。残念。


「もぐ~」


「おいぃ……穴の中に落っこちても知らねぇぞ、もぐもぐども」


 当然の権利と言わんばかりに、もぐもぐどもがトイレでまったりしていた。まだ未使用だからいいものを、その内ここは【くさぷ~ん地帯】と化すのだから、今の内に退散してくれ。


「ん~、流石にトイレには水道がほしいな。ここだけフウタに依頼しようか」


「それは後々でよろしいでしょう。ラングステン王国の水準を基本にしては、お金がいくらあっても足りませんよ?」


 俺が悩んでいるとルドルフさんがそっと声を掛けてくれた。確かに俺の基準は超高水準のラングステン王国であった。よくよく思い返せば、ミリタナス神聖国は中世ヨーロッパの生活水準とそうかわらない。よってラングステン王国が異常であるということを思い出した。

 あそこを基準にしたら復興に何年掛かるか分からない。


「ふきゅん、それもそうだな。今は必要最低限の物を急いで作ってゆこう」


「それがよろしいかと」


 微笑むルドルフさんマジ妖艶。彼に諭された俺は必要最低限の物をさくさくっと製作してゆく方針に切り替えた。


 最後に案内をしたのは各階に設置されている台所だ。ここは部屋を構成する枝に多くの水分が含まれている特別製であり、火を扱うことが唯一許されている部屋である。

 桃先生の大樹とは違い、火が燃え広がっても自力で消火できないため、このような処置を取った。とはいえ、小さな火ごときでは大樹を燃やすことなどできないのであるが、念のためというヤツである。


「ここが台所なんだが……見事になんにもないな。当然なんだが」


 メルトは何もない部屋を見渡し目を細めて告げる。だが、当然の事のようにもぐもぐの集団はいる。


「必要な魔導器具はラングステン王国頼みになりますね、エルティナ様」


 そう考えると早急に魔導器具を作る工場も設立する必要があるのか。復興というのも一筋縄ではいかないようである。


「お、思ったよりも考えなきゃならない事が多いな」


「それはもう、完全に一からのやり直しですから。ま、エルティナ様なら大丈夫でしょ」


 気楽な返事を返してくれるのは頭の天辺で手を組むサンフォだ。彼は生粋の楽観主義者である。


 取り敢えずは拠点を設けたことによって復興への第一歩とした。これでミレニア様を迎え入れても大丈夫であろう。

 俺はフィリミシアにいるボウドスさんに〈テレパス〉を送り、受け入れ準備が完了したことを告げたのであった。

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