565食目 ヒャッハー
夜が明け俺たちはゼグラクトの町を後にする。いもいもベースは戦いにおいて甚大な損傷を受けてしまっており、現在はゴーレムギルドの工場にて修理中だ。よって、聖都リトリルタースへは徒歩で向かうことになる。とほほ。
『さむい』『これはひどい』『まいなす114514てん』
渾身のギャグをチユーズにダメ出しされ「ふきゅん」と凹むハメになるも、彼女らの採点が厳し過ぎると自分に言い聞かせ白目痙攣しつつも足を動かす。
過去を振り返ると随分と体力が付いたものだ、と自画自賛しつつ砂漠を行進するのだが、ここでお約束というかなんというか、小汚い衣服を身に纏うヒャッハーの一団と遭遇した。
その数、およそ二十弱といったところか。
どうでもいいが、何故、こいつらのような小悪党はモヒカンヘアーにしたがるのであろうか? あと、リーゼントのヤツもいるが、まさかアランの影響を……?
「おおっとぉ、待ちなぁ! ここから先は通行止めだぁ!」
「とおりたきゃ、身包み全て置いていってもらおうかぁ?」
お決まりのセリフを炸裂させつつ下卑た笑い声を上げる知能の低そうな男共。何故、三十名を越える騎士団を襲おうと思ったのか、これが分からない。
「くっくっく、俺たちが騎士を恐れるとでも思ってんのかぁ? 騎士なんざぁ砂漠での戦いじゃ足手まといにしかならねぇんだよ」
賊の中でも一際大きな体を持つ、青いバンダナを巻いたおっさんが曲刀を手で弄びながらご丁寧にも騎士の欠点を教えてくれた。
別にこの程度の事なら既に弁えている。よって、今更感が半端ではない。
「ほれほれ、鎧が重くて砂に沈んじまってるじゃねぇか? げひゃひゃ!」
彼らのセリフに騎士たちはただただ、だからどうしたのだ、と思っているに違いない。
圧倒的な死亡フラグを乱立させまくるヒャッハーを哀れむのは、俺がこちらの騎士の事情を知っているからだ。ミリタナス神聖国の貴族が抱える一般的な騎士たちと、大神殿直属の騎士を同じものだと考えているに違いなかった。鬼相手じゃなければ、賊ごときに後れを取ったりするものか。
「お? おお? どえれぇ美人がいるじゃねぇか!? 堪んねぇなぁ!」
「これで女ひでりとも、おサラバできるってもんだぁ!」
これまた小汚い無精ひげを生やす眼帯の男が涎を垂らしながら、桃色の鎧を身に纏うルドルフさんにいやらしい視線を送る。当然、彼は不快感を示した。たぶん、女と間違われていることに対してだろう。
だが、その嫌らしい視線こそが戦いの火蓋を開く切っ掛けになってしまったのだ。昨日、ルドルフさんの後ろにて、もじもじしていた数名の若い騎士が問答無用でヒャッハー共に切り掛かった。
「うおっと! あっぶねぇ! なかなか鋭い踏み込みだが……届きやしねぇよ!」
若い騎士の攻撃は眼帯の男にかわされてしまった。いまだに余裕の態度を崩さないのは相当な場数を踏んでいる証だろう。
だが、その余裕は裏を返せば油断だ。ラングステン英雄戦争を戦い抜いた聖光騎兵団の騎士を舐めてはいけない。
若き騎士は更にもう一歩踏み込んだ。そして、もう片方に持つ分厚い盾を眼帯の男に向かって投げつけたのである。
「なっ……べぶっ!?」
本来、自分の身を護るべき盾を躊躇なく攻撃に使用する、という常識外れな戦法に順応できず、眼帯の男はみぞおちに強烈な一撃を受けて昏倒した。
「き、騎士としての誇りがねぇのか!? おまえら!」
その台詞を言える立場にいないことを理解していない男たちは、若き騎士にそう罵倒する。しかし、若き騎士は答えた。
「誇りで未来が護れるものか!」
その一喝でヒャッハーどもは今、ここで相対している者がどのような存在であるかを、おおよそ把握したようであった。その証拠に、じりじりと間合いを広げ逃走しよう、と隙を窺い始めていたのである。
「おや、私と遊んでくれるのではなかったのですか?」
砂漠を跳躍する非常識な桃色の騎士は巨大なモンキーレンチを振り上げ、着地の勢いのまま逃げ腰の賊へ目掛けて振り下ろした。
まさか、非力な女性騎士と思っていたであろうルドルフさんが、重い鎧を着たまま遥か高く跳躍し襲いかかってくるとは誰が予想したであろうか。
尚。俺たちは全員が予想どおりの行動に出たと納得している。マジで震えてきやがった。
「ほぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ルドルフさんがわざと外した一撃は砂の大地に命中し、とてつもない衝撃波を発生させた。当然、それに巻き込まれてしまった賊たちは無様にふっ飛ばされる形となる。
「ば、化け物だぁ!」
これを皮切りに逃走を開始する情けないヒャッハーども。確かに逃げ足は速いようだ。
でも、そんなんじゃ甘いよ? お仕置きはこれからだぁ。
「ふきゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 今度はマジでバケモンだぁ!」
闇の枝を呼び出し、賊隊の逃走経路を遮断する。ふははは、怖かろう。絶望はこれからだぁ。
「ふっきゅんきゅんきゅん……いつ、この俺から逃げられると錯覚していた?」
ずももももも……と圧倒的な重圧を炸裂させ凄みを入れる。これで賊のほぼ全てが諦めが最強に達することだろう。
「ち、ちくしょう! こんなバケモンがなんだ!」
そう言って賊の一人が無謀にも闇の枝相手に貧相な曲刀で切り付ける。やはり、というか当然の権利のごとく、闇の枝の胴体に命中した曲刀は触れた部分が【むしゃぁ】と食べられてしまったのであった。
その惨状を見て、いよいよ以ってパニックに陥る哀れなヒャッハーども。並の騎士であったなら、彼らの思惑通りに行ったであろう。だが、ここにいる騎士たちは俺を含めて並ではない、というか異常である。
更に天よりとどめと言わんばかりに睨みを利かせるミカエル、メルト、サンフォの天使騎士を見たことにより、賊たちは完全に血の気が引き青を通り越して土気色に顔を染め上げていた。
「おまえら、調子ぶっこき過ぎた結果だよ? 早く謝るべき、そうするべき!」
すい~っ、とエレガントでゴージャスな決めポーズを披露し、全面降伏をするよう通告する。これは暗にデッド・オア・ライブである、と思ってくれて結構だ。
すると、賊たちはお互いの顔を見つめ合い即座に行動に移った。
「すいあせんでした! 許してくだしあ!」
とジャンピングケツプリ土下座を華麗に決め、額を熱い砂に擦りつけたではないか。
「許す」
「もう許された!」
「すごいな~、憧れちゃうな~」
と惜しみもない感動と憧れの眼差しを贈られたので、俺はこう答える。
「それほどでもない」
その俺の謙虚な言葉が通じたのか、賊たちは大人しく御用に付いたのであった。
流石は俺の敬愛する偉大な騎士の必殺ワードだ。効果は物凄く【ばつぎゅん】である。
その後、休憩がてら賊のまとめ役である青いバンダナのおっさんを事情聴取する。聞けば彼らは元々はミリタナス神聖国の貴族お抱えの騎士たちであったそうだ。
鬼の襲撃を受け真っ先に逃げ出した貴族たちに見捨てられ、職を失った彼らは生きるために野盗に身を落とすことになったらしい。どうりで砂漠での戦いに慣れているわけである。
だが、いくら職を失ったからって、いきなり野盗にまで身を落すのはいかがなものかと思われる。とはいえ、彼らはかなりの脳筋であることが会話の随所から窺い知れた。
こいつらダメだ、早くなんとかしないと、という使命感に突き動かされた俺は、彼らに仕事を教え真っ当な人間に戻す計画を考え付いた。
「ふきゅん、話は分かった。おまえら、強制労働の刑だ」
「そ、そんな! ご慈悲をぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「慈悲はない、罪を償うのだぁ」
この珍獣に情けという言葉はない、犯した罪を償わせるのも桃使いのお仕事であるのだから。
ヒャッハーどもに俺たちの素性と聖都リトリルタースに向かう目的を伝えると、彼らは今度は目を丸くして卒倒した。本当に忙しいおっさんたちだ。
「そ、そそそそそ、そんな! まさか聖女様だったなんて!」
「この罪は死んで償います! だから、家族には、家族にはっ!」
俺をなんだと思っているんですかねぇ? 鬼じゃないんだから、そんなことはしないぞ。
色々と勘違いをしているヒャッハーたちを新たに加え、俺たちは聖都リトリルタースへ急ぐのであった。
「ははは、エルも大概だしね」
「おいぃ……エドには言われたくないぞぉ」




