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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十二章 真なる約束の子
553/800

553食目 宴ー2

 破壊され修復中の噴水の前では半裸のお姉さんが演奏に合わせて情熱的なダンスを披露している。否応無しにヒュリティアを思い出し、俺はふきゅんとため息を吐く。


 現在、ヒュリティアはお空に浮かぶお月様に引き籠っていることが判明している。いもいも坊やを通じてピカチョウに話を聞くことができたので間違いない。

 しかし、彼らの話によるとヒュリティアはヒュリティアであってヒュリティアではない、というわけのわからない状態に陥っていると聞く。やはり、直接お月様に乗り込んで彼女を連れ戻すしか方法はないようだ。


 とはいえ、今の俺にはお月様へ行く手段がないので、手も足も出ない亀さんと化しているのだが。さてさて、とにかく困った難題である。


 そして、もう一つの難題はザインのことであった。彼は【殉ずる者】として使命を果たし、俺との真・身魂融合によって雷の枝として取り込まれることになった。


 彼は枝としては珍しく【自立型の枝】であるようで、ある程度、俺から離れて行動しても問題ないようなのだ。

 真・身魂融合を果たしたことによってエネルギー切れを起こしても消滅する事はなく、俺の魂へと戻るだけなので安心して行動させることが可能なわけである。やったぜ。


 クラスの皆にザインの死を伝えると、やはりショックを隠し切れないようで深い悲しみに包まれてしまった。

 が、子龍姿の彼が俺お腹からぴょこんと飛び出して、自身の身に起こった出来事を説明することにより事態は一変する。


 よちよちと歩きながら舌足らずの喋り方をする彼をクラスの女子は痛くお気に召し、人間であった彼は忘却の彼方にぽいっちょされてしまったのだ。これは酷い。


 同じく、舌足らずの三歳児状態の俺はエドワードに離してもらえない状態に陥り暫くの間、彼のおもちゃと化してしまったのである。

 しかも、彼が終わったと思ったら王様、そしてパパンのコンボとくる。毎回これでは堪ったものではない。がっでむ。


 まぁ、俺の事はどうでもいい。問題なのはザインの姿だ。

 現在、彼は子龍の姿を取っている。その姿がダックスフントみたいで可愛いのであるが、彼はあまりその姿が好ましくないようで、本来の雷龍の姿か人間であった頃の姿にしてほしい、とこっそりお願いしてきたのだ。


 主である俺はザインのささやかな願いに応えようと、神気や桃力やらをこねこねしてザインの器を試作した。流石に雷龍は大き過ぎて色々と不便であるからだ。

 何せ初めての試みであるので、なかなかに難しく試行錯誤の連続であった。しかし、数回にわたって制作したところコツがつかめてきた。

 今度こそ上手くいく事であろう。では、れっつ、ちゃれんじ!


「いでよ、ザイン・ヴォルガー……ふっきゅんしゅっ!」


 神気と桃力の輝きが混じりあい人型を形成、足元から人であるザインが復元されてゆく。最後にくしゃみをしてしまったが上手くいっているのでバレないであろう。たぶん。


「おぉ……これは良い感じだ。いける、いけるぞぉ!」


 じつに見事であるが、悲しいことにこれも失敗であった。彼に在るべきものがないのである。良い手応えであったがゆえに残念な結果だ。


「にゃぁぁぁぁぁっ!? また、女子の姿でござるよっ!」


 そこには白い肌に艶やかな黒髪の少女が爆誕していたのだ。未成熟の肉体がほのかな明かりに照らされ、なんとも幻想的な光景ではないか……とでも言っておけば少しは許してくれるかもしれない。


「ふきゅん、また失敗か……上手くいかないなぁ」


 まぁ、面倒なので言わないのだが。


「勘弁してくだされ、この姿は色々と面倒でござる」


「え~、可愛いからいいじゃないか、ザインちゃん」


 そう、どうしても最終的に【ザインちゃん】になってしまうのだ。それは、俺がぞうさんを上手くイメージできなくなっているからだろう。これは困った、パパンのはぞうさんじゃなくてマンモスだからなぁ。


 噴水前に全裸の美少女が突如出現したことにより、野郎共は超エキサイティングしてしまう。未成熟ではあるが、なまじ美少女であるがゆえにペタン子でもなんら問題ないのだろう。


 このロリコンどもめっ!


「と、ととと、取り敢えず解除してくだされ!」


 とはいえ、思いっきり強力に作り出したので解除ができない不具合が発生している。完璧に成功すると思ったので、こんな結果になるとは予想もしていなかったのだ。


「残念ながら、丸一日はその状態だ。まぁ、これでも着て宴を楽しめ」


 まぁ、死ぬわけでもないのでザインは今日一日その姿で過ごしてもらおう。せっかく作ったのにすぐ分解してしまっては神気と桃力の無駄使いだからな。何事も、もったいないの精神が肝要である。


「ううう、分かり申し……って! これは、いったいなんでござるか!?」


「見れば分かるだろう……バニースーツだ!」


「何故に!?」


「宴ゆえに致し方なし」


 決してルーカス兄に渡された衣装を着たくなかったわけではない。着た姿を写真に収められたくなかったわけではない。そのことを強く主張したかった。

 それに家臣は主君のために身を挺して務める義務があるのだ。だからこれでよい。


「ひぃぃぃぃぃぃっ! 恥ずかしいでござるよっ! あぁっ!? 食い込む、股間に食い込む!」


「にあってる、にあってる。白うさぎの完成だぁ」


 そこには白いバニースーツを身に纏ううさちゃんが完成していた。俺の身体に合わせてあるらしく、少し窮屈そうに見えるが……まぁ、大丈夫だろう。うん、マジに良く似合う。


 もしも、この状況がなければ俺はマフティを生贄にするつもりであった。兎獣人とバニースーツが合わさり最強に見えるからだ。


 俺はふっきゅんきゅんきゅん、と邪悪に笑いザインちゃんをルドルフさんのお手伝いに行かせた。この珍獣、情け容赦などない。

 まぁ、お手伝いが終わったらお蕎麦をたらふく食べさせてやるとしよう。


 蕎麦には温かいもの、冷たいものがあるが、俺はやはり冷たい蕎麦が好みである。

 啜ると【ぞぼぼ】と小気味良い音を鳴らし、するりと喉へと入ってくる。もちろん噛んで蕎麦の風味を堪能するのもありだ。


 だが俺は蕎麦の醍醐味はやはり、歯応えと爽快なのど越しである、と考えている。それゆえに温かい蕎麦は若干ながら歯応えに劣るので僅差で冷たい蕎麦が上になる。


 でも、温かいお蕎麦が出されても喜んでいただくんですがね!


 あぁ、そうそう温かい蕎麦は月見そばが好きだなぁ。冬の寒い中、夜遅くに小腹がすいた時などはちゃちゃっと作って、こたつに入りながら蕎麦をすする。

 窓の外にチラホラと雪が降っていれば、その景色を見ながら温かいおつゆをひと啜りして「ぷはぁ」と一息吐くのだ。


 黄身を崩すタイミングは重要だ。いつまでも放っておけば黄身は不機嫌になり硬く固まってってしまうからな。

 程よいタイミングでツンツンしてやればトロリとその身を崩し、濃厚でコクのある黄金の液体を放出してくれるのだ。

 それを蕎麦に絡めて口に運ぶ喜びと来たら……もうたまらない。

 

 白身は先に食べ尽してしまうことがよくある。黄身を崩すまで我慢できずに食べてしまう俺を許してほしい。


 蕎麦にはもう一つ、蕎麦つゆを皿に盛られた蕎麦に直接かけるという、いわゆる【ぶっかけ】シリーズがある。


 俺は中でも、たくあんなどの漬物を細かく刻んだ物、かつおぶし、海苔、天カス、梅干し、刻みネギ、納豆、大根おろしを載せたぶっかけ蕎麦が大変に好物である。あ、ナメコがあると更に良い。

 さまざまな味が口の中で混然一体となり新しい味を作り出すさまは感動すら覚えるのだ。


 もちろん、蕎麦に付き物の天ぷらも欠かせない。エビやイカ、ナスやカボチャ、大葉の天ぷらなども大変に喜ばしい。

 それらを温かい蕎麦に載せれば、おつゆを吸って豊かな味とコクをもつ衣へと進化。しかも浸っていない部分はサクサクとした歯応えを残すという素敵使用である。


 冷たい蕎麦の場合は蕎麦用の付けたれに天ぷらを浸すのであるが、その過程でたれに油が浮き更なるコクが追加される。

 それに蕎麦を浸して新しい味を堪能するもよし、締めに蕎麦湯を注ぎ蕎麦の豊かな香りとコクを堪能するもよしだ。


 俺はこの蕎麦湯セットに天かすを入れて飲むのが大変に好きである。一度で三度おいしいシステムに俺のボルテージはいつも最高潮に達するのだ。


「蕎麦か……好きかも」


 尚、ザインが口にした物は全て俺の胃袋に届くシステムである。要するにザインは味を楽しめるだけで満腹感は感じない。

 彼が満腹になるためには俺が満腹にならなければいけない、というわけのわからないシステムであるのだ。


「ほぅ……」


 超乳とぺたんこが合わさり最強に見える。今や冒険者たちの熱狂は冬にあって真夏という異常事態に発展していた。よって、俺は見なかったことにする。

 ザインちゃんの可愛らしい悲鳴もどよめきによって掻き消された。それは噴水の前に超ド級のナイスバディ―の美女が二人も現れたからだ。


 松明の明かりに照らされ褐色の肌が艶めかしく輝く。両者とも黒エルフの女性であり知人であった。決して痴人でないことを伝えておく。


 その二人とはきわどい踊り子の衣装に身を包んだフォリティアさんと、だらしなさが天元突破している我らが副担任スティルヴァ先生である。

 あ、スティルヴァ先生は痴人でいいかもしれない。


 やがて、激しい旋律の曲が流れだし、魅惑のボディの所持者たちは情熱的なダンスを披露した。

 そのダンスを観賞している冒険者たちは、各々奇声や口笛を鳴らして興奮のるつぼへと身投げする。


 フォリティアさんは妹であるヒュリティアとよく踊りの練習をしていた。そのせいもあってか本職となんら遜色のない精度の踊りとなっており、エロスよりも美の方が勝る結果となっている。


 対してスティルヴァ先生はというと。踊りの方はそこそこ。しかし、その踊り方はあまりにも情熱的であり蠱惑的過ぎた。

 その熟れた肉体はここぞとばかりに怪しく躍動し、最大限の効果をもって雄どもを誘惑、踊りを見ていた酔っ払いたちを立たせたのだ。色々な意味で。


「あ、これダメなヤツだ。初代様~」


彼女スティルヴァは相変わらずね……」


 今にも襲い掛からんとする酔っ払い共の煩悩を、光の枝たる初代様に食べてもらうことによって騒動を未然に防ぐ。

 だが、酔っ払いのターゲットは全裸姿の初代様に向けられることになってしまった。


「初代様! 服着て、服!」


 迂闊であった、大蛇状態の初代様は煩悩ではなく万物を光の粒子にして食べるだけの存在であるので、特殊な使い方をするにはどうしても人型の姿を取らなくてはならない。

 特に煩悩などの【しょうもないもの】を食べてもらうとなると、完全に人型になっていただかなくてはならないのだ。つまり、現在彼女はあの部分が丸見えである。


 でも、なんで隠さないんですかねぇ……ひょっとして枝になったことで羞恥心が薄れているのかな?


「ええっ? でも、二代目が作ってくれないと着れないわよ。今の私は肉体が無いのだから」


「ふきゅん、そうだった! い、今作る!」


 初代様に指摘を受け、慌てて俺は魂用の衣服を制作する。


「ふっきゅん、ふっきゅん、ふっきゅん!」


 できあがったのは……何故か中々に際どい水着であった。どうやら、魂の衣服を作るには相当のイメージ力が必要になるようだ。要練習ということだろう。今後の課題にすることにした。はふぅん。


 取り敢えずは出来上がった白い水着を初代様に着てもらうことにする。だが、初代様はあまりのも豊か過ぎた。色々とはみ出てはいけない部分が多発、全裸よりもエロい状態に俺は白目痙攣状態となる。

 これ、あかんやつや。どうしてこうなった。


「煩悩が食べきれないわ」


「煩悩処理係が煩悩を生み出させているもんなぁ」


 結局、俺はフォリティアさんとスティルヴァ先生の踊りが終わるまでここで釘付けになってしまった。ふぁっきゅん。


 とまぁ、このようにお祭り騒ぎの中にあって一人で黄昏ている少年の姿を発見した。

 エルタニア領の跡取り息子、クウヤ・エルタニア・ユウギである。


 彼が黄昏ている理由は大方の見当が付いていた。恐らく、フォリティアさんを見てヒュリティアを思い出してしまったのであろう。

 クウヤはヒュリティアに想いを寄せており、さり気なくアピールをおこなっていたのだが、意外に鈍感な彼女はそのアピールの意味を理解していなかったのである。そして、この戦争の最中、彼女は姿を消してしまった。


 現在の彼女の扱いは【MIA】……行方不明兵扱いとなっている。フォリティアさんには伝えてあるが、クウヤにヒュリティアが月にいると教えても信じてもらえないだろう。

 ちなみにフォリティアさんは信じてくれた。


「ままならないもんだぁ」


「そうね……でも、再会できる可能性はゼロではないでしょう?」


「もちのロンなんだぜ、初代様」


 俺たちは黄昏ているクウヤに元気を出せ、とありきたりな言葉を送りこの場を後にした。

 クウヤが初代様の水着姿を見て鼻血を吹き出してぶっ倒れる、というアクシデントもあったが俺は元気です。


 宴はまだまだ始まったばかりだ。皆、思い思いの場所に赴き、生き延びた喜びを分かち合っている。

 とはいえ、やはり散っていった者たちのために祈りを捧げている者も少なくはない。特に冒険者たちはそれが顕著であった。


「ガッサームさん」


「おう、嬢ちゃんか。よくもまぁ、生き残れたもんだ」


 彼らの陣取るテーブルには主のいないビールジョッキが三つほどあった。それは彼らの仲間がその数だけ失われたという事に他ならない。


「これか? まっ、ケジメってヤツさ」


 そういって、ジョッキに入った黄金の液体を一気に飲み干す。同様に野獣の牙のメンバーたちも彼に倣い一気にビールを飲み干した。


 誰だ、ビールじゃなくてバナナを丸飲みしたのはっ!?


「なぁ、嬢ちゃん。俺たちがやったことは……正しかったんだよな?」


 ガッサームさんがポツリと呟いた。俺にその答えを述べることは難しかった。鬼たちにも、自分の信じる者がいて正しいと思った道を突き進んでいた。

 だが、そのために俺たちが犠牲になるわけにはいかない。だからこそ、戦いは起こるわけで……。


「俺たちはやらなければならない事をやった。それだけだよ」


「そっか……そうだよな」


 ガッサームさんは空を見上げた。そこには俺たちを包み込むように展開する炎の紋章が存在している。全ては、あの紋章から始まったのだ。


 ガッサームさんたちに別れを告げて次なる場所へと移動する。これと言って目的地は決めていない。本当にぶらぶらと歩いているだけだ。時折、屋台の食べ物を食べながら宴の中を漂うように移動する。


 宴はいまだに終わりを見せる事はなかった。

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