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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十二章 真なる約束の子
552/800

552食目 宴

 ◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


 フィリミシア復興の最中、戦士たちを労う宴は開催された。

 時間は日も暮れ暗くなった午後六時。開催地はフィリミシア中央公園だ。

 これだけの規模の戦士たちをもてなすには城では狭すぎる。そのため、このフィリミシア中央公園が抜擢されたのである。


 行燈やら松明やらで会場を明るくし、宴は戦士達やフィリミシア市民、そしてミリタナスの民たちで溢れかえっている。


「らっしゃい、らっしゃい! 遠慮せず食べってっておくれよ!」


「フィリミシア名物、とんこつラーメンだよ!」


「おう、ビール、ビール! 冷えてっかぁ!?」


 この人数を賄うにはお城の料理人たちだけでは到底間に合わない。そこで俺は露店街の料理人たちを掻き集め、フィリミシア中央公園に臨時の店舗を設置したのである。

 久しぶりの仕事と相まって露店街の料理人たちは大張り切りであった。


「うおぉぉぉっ!? なんだこのハンバーガーは! 美味過ぎるっ!」


 露店街に店を構える【がっつりバーガー】の特製ハンバーガーを食べた冒険者の口から怪光線が放たれる。その異様な光景を見た他の冒険者たちは、興味津々の眼差しでハンバーガーに貪り着く冒険者を見守っていた。


「なんという、レベルの高いハンバーガーだ! こんな食べ物があっただなんて!」


 当然だ、そのハンバーガーに使った材料は全て【神級食材】なのだから。

 この神級食材を使えば、なんの変哲もないハンバーガーがドえらい料理と化すのである。


 プルルのために集めた食材たちは、俺の神気で無限に増やすことが可能だ。取り敢えずは完全に復興するまで飢え死に者は出ないということになる。

 こう言っては悪いが、プルルが魔力過多症という病を発症させていなかったら、最悪の結果に至っていた可能性は否定できない。プルルには色々と感謝せねば。


 そのプルルであるが、彼女は非情に不機嫌であった。その理由が……。


「なんで、僕は、クラークたちの合体シーンを見れなかったんだい!?」


 これである。プルルはソウルレイトスの合体シーンを見れなくてご立腹であったのだ。彼女はぷりぷりとむくれながら親子丼をやけ食いする、という不思議な珍技を披露していた。


 もう病気も治ったということもあって、プルルは好きなものを食べれるようになっている。にもかかわらず、殆ど食べるのは親子丼ばかりなのだが。どういうこと?


「しょうがないじゃないか、プルルたちは町の中で戦っていたんだから」


「しょうがない、じゃないよ!〈テレパス〉で呼んでくれればいいじゃないかい!」


 とまぁ、合体シーンを目撃したリックに八つ当たりしている始末である。それもこれも、合体シーンを目撃して、そのあまりの格好良さにテンションが上がりまくって、プルルに自慢話をしたリックが悪いのだが。


 いくら親友が戻ってきたからって浮かれ過ぎだぞ、リック。まったくもう。気持ちは分からないでもないが。


「ところで……リンダのその頭の角はいったいなんなんですかねぇ?」


「ふぉれ? いふぁふぁふぃぼぉふひもふも」


「食べ終わってからでいいんだぜ」


 左の頭から黄金の角を生やしたリンダはハムスターのように頬を膨らませていた。がつがつと詰め込んでいるのは【脚芽瑠躯螺津知きゃめるくらつち】のラウさんがこしらえた【肉餡入りの饅頭】である。


 ふかふかの饅頭を噛みしめると、中から熱々ジューシーな肉汁が洪水のように溢れ出てくる逸品だ。アクセントに細かく刻んだ唐辛子を極少量混ぜ込んでいる。

 その辛みが胃袋にダイレクトアタックを仕掛けて食欲を増進させるという。なんという策士であろうか。


 だが、あまりに肉汁が溢れ出てくるので肉餡を湯葉で巻いて肉汁が染み出ないように改良したらしい。そのお陰で、饅頭なのに小籠包、という矛盾が発生している。

 もちろん、この料理の材料も神級食材である。当然だなぁ?


「ぷはぁ、やっぱりラウさんのおまんじゅうは最高だね!」


 リンダは指に付いた肉汁をぺろぺろと舐めて饅頭を食べ終えた。

 だが、丸い鼻に饅頭の欠片が付着しているのが甘い。すかさず「ふきゅん」と指摘し速やかなる完食を促す。


「えっと……この角のことだよね?」


「そうだぁ、そのきんきらきんの角、興味あります」


 俺は雪希、炎楽、うずめと共にリンダに【ずももも……】と迫った。この圧倒的なプレッシャーに彼女は屈し、素直に謎の角の詳細を語ったのである。


「これは茨木童子の角だよ。生えてきたの」


「そ~なのか~」


 そのあまりに簡潔な答えに、俺は思わず白目痙攣に至った。


「いやなにそれ? 普通、茨木童子の角がにょきっと生えてきたら動揺するでしょう?」


「クスクス、そういう貴女だって桃太郎に至ったんでしょうに。お互いさまよ」


 リンダの代わりに答えたのは、右の頭に黄金の角を生やしたユウユウであった。

 この二人が揃ったところで俺は確信に至る。リンダとユウユウ、二人で一人の茨木童子であることを。


「そっか……で、【茨木童子】はどういう方針なんだ?」


「どうもこうもないわ。私たちが十八歳になったら【宴】が催されるのだから」


「そうそう、絶対に星熊童子が狙ってくるよね!」


「クスクス、楽しみよねぇ」


「ね~」


 いや、仲が良いのは良いことなんだが、内容が物騒極まりない。心なしかリンダも完全に鬼の考え方になってしまっている。やはり、その頭の角をもぎ取ってしまった方がいいのかもしれない。


 俺はリンダの角をぐわしと掴み引っこ抜こうと試みる。ふっきゅん、ふっきゅん!


「だめだよ、エルちゃん。この角はもう取れません」


「そこをなんとか」


「だ~め~」


「ふきゅん」


 俺の決死の行動は無駄に終わった。暫く考えた後、腹が減ったので保留にすることにした。仕方がないね!


 リンダとユウユウの【いばらきーず】に別れを告げ、盛り上がる宴を観察しながら歩く。

 噴水広場には多数のテーブルや椅子が設置されており、思い思いの場に陣取り、酒を煽る冒険者や戦士たちの姿が窺えた。


 手にしたジョッキをガシャンと突き合わせ、何度目になるか分からない乾杯をおこなう。生きているからこそおこなえる乾杯の儀式だ。


 つまみは各々が格露店からチョイスしたものを皆で分け合う方法を取っている。

 ボイルした熱々のソーセージは噛みしめるとパリッとした小気味良い音を立てる。その直後に溢れ出てくる肉汁は舌を焼き喉をも焼く。それを間髪入れずにビールで冷やすのだ。

 なんという洗練された作法であろうか。


「今なら、こっそり混ざってもバレないかもしれない」


「バレるに決まっているでしょう」


「げぇっ!? ルドルフ……さん?」


「うぅ……あまり見ないでください」


 こっそりと酒宴に混ざろうとした俺を戒めたのは、ピンク色の鎧が眩しい自由騎士ルドルフさんであった。

 しかし、今の彼……もとい、彼女はいつもの鎧の姿ではなく、何故か水着姿であったのだ。

 彼女がぷるぷると小刻みに震えているのは寒いからであろうか。今は十二月三十一日、地球でいうところの大晦日である。普通なら雪が降って積もる季節だ。


「チゲ、もう少し温度を上げてくれ」


 俺は上空で燃え上がる炎の紋章にそう告げた。心なしか紋章が大きくなったような気がする。これが、この季節にフィリミシア中央公園で宴を催すことができるカラクリである。

 火の枝となったチゲにがんばってもらい、もりもりと冷気を食べてもらっているのだ。


 チゲは働き者だなぁ。


「あ、いえ、寒いわけではありません」


「ふきゅん、そうなのか? てっきり、その格好が寒いのかと」


「寒いのは心の方です……」


「お~い! お姉ちゃん! ビール追加で!」


「は~い、ただいまっ!」


 超乳の牛娘ルフさんは元気よく返事をして、大きなお尻をフリフリさせながらビールを戦士たちに届けている。

 彼にこの仕事を依頼したのは間違いなくルーカス兄であろう。そして、そのバックには確定であの御方がいるに決まっている。断れるはずもないのだ。


「俺はお姉ちゃんのミルクで!」


「死ね!」


 ぐしゃ。


 強く生きてくれ、ルフさん。そのおこないは当然、写真集の宣伝に繋がることだろう。

 そして昨日、ルーカス兄が光画機を新調していた。間違いなく行動に移るはずだ。


 俺は彼女に【なむなむ】と祈りを捧げて次なる場所へと移動したのだった。

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