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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十一章 The・Hero
542/800

542食目


 ◆◆◆ トウヤ ◆◆◆


 遂にエルティナがやった。奪われた能力を取り戻し、桃使いとして復活を遂げたのだ。


「エルティナちゃんがやったんですね!? よかった、よかったよう」


 これにトウミ少尉も涙を流して安堵する様子を窺わせた。今尚、彼女は新しく誕生した桃使い、プルル・デュランダのサポートを継続中だ。


 現在、プルルはGDデュランダを失っており、初級桃仙術を行使しての援護を主とした戦闘をおこなっていた。

 それでも十を超える魔導装甲兵を退治しているのだから彼女の秘めたるポテンシャルは計り知れない。


「しっかりなさい、プルルはまだ桃使いになりたてなのよ」


「は、はいっ!」


 気が緩んだトウミ少尉をマトシャ大尉が窘める。現在、彼女は桃力によって瀕死の状態に陥ったムセルの延命をおこなっている。

 彼女の桃力の特性は【遅】、ありとあらゆる現象を遅らせることが可能という能力だ。これにより、ムセルの死を【遅らせている】のである。


「トウヤ少佐、ムセルはもって二十五分……いえ、二十分です」


 マトシャ大尉からムセルに残されている時間を報告された。とても長いとは言えない。早急に行動に移らなくてはならないだろう。


「了解した。聞こえるか、エルティナ」


 俺はムセルの容体をエルティナに報告し、彼が死に至るまでの時間を伝える。


『二十分か……十分だ。作戦の変更はなし、先にアランを退治する。マトシャさんによろしく伝えてくれ』


 俺は彼女のその言葉に、これまでにはない戦士としての責任と覚悟を感じ取ることができた。

 そして思い出す、木花桃吉郎と駆け抜けた激動の日々を。ヤツの笑顔を、覚悟を。

 まるで、その思い出した記憶に呼応するように、ある【システム】が強制的に起動した。


 それはありえない現象。エルティナはその【システム】を起動させるための儀式をおこなっていないはず。では、どうして【システム】が起動したのか?


「考えるまでもない……!」


 エルティナは、あの男の生まれ変わり。そして、木花桃吉郎は【システム】の儀式を終わらせている。更には時を越えて集った彼のしもべたちの存在。

 条件は既に揃っていたのだ。


 己の魂を団子状にして取り出し、忠誠を誓いし獣に分け与える【吉備団護】の儀式。それを経ている桃吉郎の【獣臣】の生まれ変わりである雪希、炎楽、うずめ、三匹の獣たち。

 そして、力を取り戻し莫大な桃力を得て、新たなるステージへと登ったエルティナ。これに【システム】が反応しないわけがない。


 条件は全て整った……あとは俺だけだ。いいだろう? 桃吉郎。


 俺は……俺はっ! エルティナの【パートナー】になる!


「【吉備津システム】を更新する」


「トウヤ少佐っ!?」


 マトシャ大尉がギョッとした表情を見せた。鉄仮面と呼ばれるほど表情が変わらない彼女。俺はその表情を崩すほどの行為を、これからおこなうのだ。


「それは、貴方と桃吉郎を結ぶ絆でしょうに!」


「いいんだ、いいんだよ」


「でもっ!」


「桃吉郎は死んだ。もういない」


 彼女の引き留めにも屈せず、俺はタイピングし続ける。このシステムは桃使いが最終的に至る到達点のためのアシストシステム。桃使いと桃先輩を真に強固な絆で結び付ける誓いのようなものだ。


 基本的に更新は一回のみ。もし、誤ってシステムを更新してしまえば二度と同じ桃使いとはコンビになれない。それほどまでに重たい【誓約】のようなものなのだ。


「それに……ここで俺が躊躇するようであれば、桃吉郎が殴りに来るだろうさ」


「トウヤ、貴方……いえ、そうね。彼ならそうするでしょうね」


 マトシャ大尉の目には光るものがあった。彼女にとても桃吉郎の存在は大きなものであったのだから。


 俺のタイピングはいよいよもって最終段階へと移り、あとはこのエンターキーを押せば終了となる。

 それはすなわち、俺と桃吉郎との永遠の別れを意味していた。あいつとの絆を俺の手で解消する、という事に他ならないのだ。


「桃吉郎、俺はおまえに出会えて良かった。この絆が失われても、俺はおまえを決して忘れはしない。【吉備津システム】更新」


 俺がエンターキーを押すとシステムは速やかに更新され、木花桃吉郎からエルティナ・ランフォーリ・エティルへとパートナー名が変更された。

 ここに、俺とエルティナは【真のコンビ】となったのである。


 魂と魂が真に繋がり、お互いの気持ちが手に取るように分かる。通常のソウル・フュージョン・リンクシステムとは雲泥の差だ。

 久々に感じる魂のやり取りに、俺はかつての感情の高鳴りを思い出していた。


「エルティナ、俺はおまえに伝えなくてはならないことがある」


『あぁ、言わなくても伝わるよ。魂で感じ取った。今、俺は桃先輩と……いや、トウヤと本当の意味で一つになったんだから』


 俺にも伝わってくる彼女の感謝の気持ち、それは俺とエルティナが本当の意味でパートナーとなった証。

 口で伝えなくとも魂で分かり合える。隠し事など、もう無意味だ。俺の全ては彼女に、彼女の全ては俺に伝わる。


 ここまでに至れる桃使いのなんと少ないことか。桃使いといえどもパートナーを信じきれる者がなんと少ないことか。

 エルティナはその稀有な存在の一人、相手を思いやり信じ切る強い心の持ち主。桃力はこの強い心を遂に認めたのだ。


『これからもよろしく、トウヤ!』


「あぁ……よろしく、エルティナ!」


 俺は【吉備津システム】の本当の役目である機能を作動させる。条件は全て揃った。

 喜びで指が震える。俺はきっと、心のどこかで、この日が来ることを強く望んでいたのだろう。


「エルティナ!【吉備津システム】起動!」


 大丈夫、これだけで彼女は全てを理解している。迷うことなどない。


「応!【吉備津システム】起動! 雪希、炎楽、うずめ!」


 エルティナが五本の枝を魂に呼び戻し、【吉備津システム】を起動させた。それと同時に彼女の桃魂が高速で回転し莫大な桃力を生産し始める。その規格外の桃力の量に、俺はただただ驚嘆するしかない。


 そして、同時に彼女に必要な知識が、彼女の脳内にダウンロードされ始めた。かなり膨大な量の情報だが耐え抜いてくれるだろう。

 白目痙攣状態なのは、いつものことなのだから。


「ひゃんひゃん!」「うっきー!」「ちゅんちゅん!」


 エルティナの呼び掛けに三匹の【獣臣】が応えた。その身を光の粒子へと変え、エルティナの周囲を飛び回ったのである。

 その光の粒子に導かれるようにエルティナの身体はふわりと宙に浮く。


 この光景を見た俺は感無量であった。何故ならば、この【獣臣合体】は失われし日々に見た光景そのものなのだから。


『来たれ、魂で結ばれし獣臣よ!【獣臣合体】!』


 輝ける三匹の獣臣が、その姿を変えてゆく。彼らの育ててきた努力、勇気、愛は全てこの時のために。

 俺は失われた日々を取り戻すように、声高々に【獣臣合体】の音頭を取る。


「努力の鉢巻き引き締めて!」


 炎楽が白き鉢巻きへと姿を変えてエルティナの額に装着された。その白い鉢巻きには桃の姿があしらわれている。

 これこそ、彼の弛まぬ努力が具現化した【努力の鉢巻き】なり。


「勇気の鎧に身を包み!」


 雪希が赤い武者鎧に姿を変えエルティナに装着される。これによってエルティナは見事な若武者へと変貌した。

 彼女の尽きぬ勇気が形になりしは【勇気の鎧】。たとえ、その身が小さくとも内に秘めたる勇気は大いなるものなり。


「愛の羽織はおりを纏いしは!」


 うずめが白銀に輝く羽織へと変異しエルティナに装着された。

 彼女の無限ともいえる愛情は穢れなき白銀となりてエルティナを温かく包み込む。それは、あらゆる困難から大切な者を護る【愛の羽織】なり。


 この獣臣たちを身に着けし者こそ、桃使いの到達点たる偉大な戦士。その名も……。





 542食目      「日本一の! 桃太郎っ!!」





 たとえ、ここが異世界カーンテヒルであっても関係ない。おまえは、エルティナは日本一の桃太郎なのだから。

 ここに愛と勇気と努力の戦士、桃太郎が降臨したのである。


『百代目【桃太郎】、エルティナ・ランフォーリ・エティル見参っ! 我らが桃使いの神【吉備津彦命】よ! 新たなる桃太郎の戦いを、とくと御照覧あれ!!』


 彼女は万感の思いを込めて名乗りを上げた。桃使いの到達点、鬼の天敵たる存在にエルティナは遂に至ったのだ。


 誰しもがなれるわけではない、誰しもが目指すわけではない。なるには険しき試練を経て、尚も精進し続けなければ即座に鬼に堕するハイリスクな存在。誰が好き好んでここに至ろうか?

 だが、彼女はなった。桃使いの到達点【桃太郎】に。


 ……これでいいのだろう? 九十九代目【桃太郎】、木花桃吉郎。我が友よ。


『輝夜っ!』


 彼女の呼び声に、神桃の枝たる輝夜が引き寄せられるように手の中に納まる。そして、両手でしっかりと彼女を握ったエルティナは膨大な桃力を輝夜に注ぎ込む。

 それに応える輝夜は喜びに打ち震えた。その身から桃色の輝ける刀身を発生、桃太郎のための刃となる。


 更には星が見える夜空より一筋の輝きがエルティナに降りてきた。それは月の光、優しき夜の支配者が新たなる桃太郎を、そして我が子を祝福しているのだ。


 エルティナが手にする輝夜が一際激しく鼓動した。それは覚醒の時。


『神桃剣【月光輝夜】降臨!』


 俺は神器【八尺瓊勾玉やさかにのまがたま】を身に纏う輝夜の姿に酷く驚いた。よもや、彼女がここまで期待を掛けられているとは。


 いくら己の子とはいえ、良いのであろうか? 他の二柱が黙っていないと思うのだが……。

 まぁいい、考えても無駄だろう。鬼退治の準備は整った、あとは行くのみ。


 ここに宿敵アラン・ズラクティとエルティナの最後の戦いが始まろうとしていた。

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